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10話 人類侵略する生活

 

 ドッガァアアアンッ!!


「ライ君ッ!?」


 謁見室の外まで飛んでったライ君の元に慌てて駆け寄る。

 

「う……ぐッ……」


 地べたに転がったまま、呻き声をあげるライ君。


 槍でお腹を刺されたんだ! 大変だ!


 そう思って傷口を確認しようとするも、金属の鎧がベコッとひしゃげてはいるものの貫通はしていない。


 あ、あれっ?

 確か槍の刃の部分がライ君のメタボ気味なお腹に食い込んでたように見えたけど……?



「うーん、やっぱり脆いッスね。儀礼用の武器っていうのは見た目はカッコいいんスけど」


 アルサがブンッと槍を振るってみる。


 その槍の先端の綺羅(きら)びやかな刃の部分がごっそりなくなっていた。



 ……もしかして刃の部分は超スピードで鎧に当たった瞬間、砕けちゃったって事かな?



 それを、刃がお腹の奥深くに突き刺さったように見えただけってワケだ。

 落ち着いてみると、床に砕けた金属片がちょこちょこ散らばっているのが確認できた。

 

 ふぅ、とりあえず致命傷にならなくて良かったけど……。


「はっ……はっ……グフッ……」


「あっ、ライ君じっとしてて!」


 意識はあるけど体を動かす事もままならないようだ。

 刃は砕けたものの棒の先端で腹部を突かれた事で内臓を傷めたのかも。

 私は彼がムチャしないよう、起きようとしてる体をぐっと押さえる。



「ヒナさん、そんな化け物の身を案じるなんて……本当に魔王軍の一味なんスね」


 アルサが険しい顔で、そして軽蔑の眼差しを向けてくる。


 化け物か……。


 確かに私も初めてエッチさんに紹介された時は、そりゃ面喰らったよ。


 だけど、ライ君とは2週間も一緒に雑草をむしりながらヒマつぶしにしりとりしたり、恋愛の価値観を暴露したり、この世に生きる喜びと悲しみについて語り合った仲間なんだ、お友達なんだ!


 見た目が人間じゃないからって、化け物なんて呼ぶな!

 


 と、言ってやりたいトコだけど、まぁアルサの側から見ればアレが自然な反応なんだろうね~。


 身勝手に侵略する側としてはあまりデカイ口を叩く気にはなれない。


 今はそれよりも、それこそバケモンみたいに強いアルサをなんとかしなくては。



「く、こいつ……よくもアニキを!」


 一撃でライ君を倒す破壊力に唖然としていたオーク君たちだったが、そのうちの一人のポル君が意を決してアルサに棍棒で襲い掛かる!


 ッパァン!


 しかし、アルサが目にも止まらぬ速さで刃の無くなった槍……もはや鉄の棒キレをしならせて飛び出したポル君のアタマを一撃で叩き伏せた!


 彼は悲鳴をあげる間もなくピクピク痙攣して地面に横たわる。


 あとに続こうとしたオーク君たちもその威力に二の足を踏みマゴマゴしている。


「来ないんスか? 仲間がやられたっていうのに情けないッス。所詮は魔物……結局、自分の身が一番かわいいッスか!!」


 アルサが棒を振り上げ、怯えるオーク君たちの方へ突っ込んでいく。


 もう黙ってみてられないぞ!


「えーいっ!」


 私はしまらない声を張り上げて、やぶれかぶれでアルサに体当たりをしかける。


 それに気付いたアルサはオーク君たちへの攻撃をキャンセルして、向かってくる私に合わせて棒をビュンッと振り抜いてくる。


「っと!」


 かなりの速さだったけど、戦乙女パワーのおかげか烈風のような棒の軌道がしっかり見えたので慌てて上半身を屈めて、攻撃をよける華麗なる私。


 でも急に上体のバランスを崩したので、やっぱり無様につんのめって転びそうになった。


 しかし、そこをでんぐり返しでクルンッと回ってなんとか転倒を回避。

 あっぶねぇ~!


 と、アルサに背を向けた状態だったのでバッと離れて距離をとる。


 今、追撃を受けたらヤバかったと思うけど……。


 オーク君たちに仕掛けた時と比べるとアルサの表情が曇っているように見える。

 さっきまで仲良しだった私には本気で攻撃するのをためらっているのかも。



「ヒナ様!」


 場の空気が滞った隙に、エッチさんが壁にかかっていた槍を私の方に投げてよこした。


 うわっ、取れるかな!?


「ほっ!」


 パシッ。


 キャッチボールとか苦手な私は焦ったけど、戦乙女パワーで難なくキャッチできた。


 戦乙女パワー便利だな!


 今なら飛んできたマシュマロを口でキャッチすることも夢ではない。



「ヒナさん、降参してほしいッス」


「んぇ?」


 一瞬、戦乙女の鎧姿でマシュマロキャッチする妄想をしていた私にアルサがなんか提案してきた。



「正直、ヒナさんとは戦いたくないッス。だけどソッチが武器を手にした以上は自分も手加減できないッス」


 スチャッと武術の達人みたいに格好よく棒を構え直すアルサ。



「このまま戦えば……殺してしまうかも知れないッス」



「うわぁ! だったら、武器いらないよ!」


 殺すとか聞いてビビったのでポイッとエッチさんに槍を返却した。


「え、いやいやいや! 持ってて下さいってば!」


 またもエッチさんが槍を投げつけてきたので仕方なくキャッチする。


「エッチさん、話聞いてた? これ持ってたら私、殺害されちゃうんだけど……」



「あ、貴女はなんなんスか。自分にはヒナさんがさっきまでの、ちょっとヌケているけど優しいヒナさんと変わりなく見えるッス。なにか事情があって魔王軍に使役させられてるんスか? そうなんスよね?」


 ちょっとヌケてるとかアルサに言われたくないような気もするけど……。


「事情か。もちろん事情はあるよ。でも基本的には凄く個人的で自分勝手な事情だからね。気にしないでブチのめしていいよ」


 コッチの世界でレベルアップする事で、元の世界でもレベルアップして良い暮らしをしたい。


 そんな私利私欲な事情で街を侵略するワケだし、ブチのめされたって仕方ない。


 ま、勝てばあんまり街の人に迷惑がかからないように支配するよう神様にお願いするとして、負けた時の事は負けた時に考えよう!


 と、覚悟を決めた私だけど自分から殴りかかるのはなんか嫌なのでとりあえずアルサの出方を待つ。


 アルサはまだ迷っているのか沈んだ表情のまま動きを見せない。



「ヒナさん……。ぬ、ぐ……うぉおおおおおッスッ!」


 やはり私に危害を加える事に抵抗を感じていたようだけど、アルサは雑念を吐き出すように咆哮した。



「必殺、稲妻突きィィイイイッ!!」


 パリパリパリッとアルサの体から静電気みたいな光の筋が放たれたかと思うと目の前が真っ白になった。



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