1話 魔王軍にスカウトされる生活
「それでいつまで私は全裸なのかな」
「ああ、では最後に種族を決めましょうね」
「種族?」
「今の姿は暫定的な仮の姿で、それを決めたら正式に魔神として行動できるようになります」
なんかネトゲの初期設定みたいだな。まぁあんまり詳しくは知らないけど……
「ちなみに種族ってどんなのがあるの?」
「魔族チックならなんでもです。ダークエルフとかサキュバスとか……あっ、ケットシーなら全身がネコそのものになれちゃいますよ」
「なにそれ、かわいい! あ、でもそれなら私アルパカの方がいいな。アルパカにはなれないの?」
「なれますよ~」
なれるんだ!
ムチャ振りしたつもりだったのに魔族ってすげぇ!
「でもアルパカは首が長くて人体との構造上の違いが大きいから違和感を感じるかもです」
ははぁ、そういう感じなんだ。
う~ん、じゃあネコになったら全身の体毛が鬱陶しいかも知れないし、ダークエルフなんかも耳が気になって一日中かきむしりたくなるかもなぁ……サキュバスはどんなのかよく分からんけど。
一日だけそういうコスプレをして過ごすならいいけど、ず~っとってのはツラいかもね。
「それって途中で違う種族に変更できないの?」
「変更したら最初から作り直しになっちゃいますね。レベル1からやり直しです」
「だったら私、人間のままがいいな。耳が長いとか牙や尻尾が生えてるとかそういうの一切無しで」
「牙もダメなんですか? ん~、でも人間そのものってワケには……」
うーん、と魔王は少し考え
「あっ、ヴァルキリーとかどうですかね。闇堕ちした戦乙女ヴァルキリー!」
良いこと思い付いた! って感じで提案してきた。
「いくさおとめ……なんか聞いたことはあるけど詳しくはどんなのだっけ」
「え!? えっと、なんだっけ……えっと……あの、アレですよ。戦を……する、乙女……です……」
「それ、情報が何も増えてないけど大丈夫?」
「大丈夫です!」
何が大丈夫か分からないけどとにかくすごい自信だ!
「じゃあいいよ。それにする」
「えっ、そんなノリで決めちゃっていいんですか? 私が言うのもアレですけど」
「うん。まあ少なくとも名前はカッコいいしね。戦乙女ヴァルキリー」
「了解です!」
パンパン。
魔王が手を叩くと私の体はモヤモヤに包まれ、次の瞬間には漆黒の鎧や兜を身につけていた。
騎士みたいな頭のてっぺんから足の爪先までガチガチに覆われた鎧ではなく腰から下はスカートだし二の腕も出ててところどころ女性らしいのは嬉しいところだね!
兜の羽根もキレイで可愛くてカッコいい。
「では、改めて正式に人類侵略のお手伝い、よろしくお願いしますね!えっと……」
「ん?」
「そう言えばお名前ってイベリコ豚子さんで良いんでしたっけ」
「まったく違うよ。泉ヒナだよ」
「あ、あれっ? じゃあイベリコさんって誰だったかな……まぁいいや。ではでは成長する鳥のヒナの如く、これから立派にレベルアップしていって下さいね!」
「やかましいわ」
とにかくこうしてしがない派遣社員だった私は人類を侵略する魔王軍の手先として新たなスタートを切ったのだった。