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10話 人類侵略する生活


 全身から発光して発狂するマリアはなんか怖かったし見なかった事にして、私はオーク部隊に召集をかけた。


「おーい、みんな戻っておいで~」


 わりと大きな声で呼び掛けると10人くらいのオーク君が戻ってきた。

 残りあと20人か。


 ここからさらに離れた民家へ向かったオーク君たちを呼ぶのは大変そうだなぁ。

 あまりにもバカでかい叫び声を出して街の人が起きちゃうのもマズい。


 ライ君の、遠くにいる仲間を呼び寄せる鳴き声スキルなら上手く召集出来そうだけど、彼はここにはいないようだ。


「ねぇ、ライ君見なかった?」


 集まってくれた黒毛豚オーク君に尋ねると「アッチの方からアニキの匂いがします」と教えてくれた。


 ふむ。

 そんな彼を見て、少し気になる事があった。


「ところでコボルトさんたちは語尾にワンをつけるけど、キミたちはブヒとか言わないの?」


「え、ぶひ? なんの話ですか?」


 黒毛豚オーク君は穢れを知らぬつぶらな瞳で私を見つめ返してきた。

 見た目はブタ顔でSM好きだけど、語尾にブヒをつけるほど堕ちぶれるつもりはないようだ。


「ごめんね、なんでもないよ。教えてくれてありがと!」


 

 彼が指差した方に向かい、手当たり次第、民家の中をのぞいていくと早速ライ君を発見!


「あ。ヒナ様。うっす」


 その民家の中では両親と小さな女の子が床に倒れ伏していた。

 一瞬、一家殺人事件現場みたいでドキッとする光景であるが、ネムリタケの胞子にやられてその場で眠りこけてしまったんだろうね。


 お父さんはすでにライ君によって手足を軽く縛られていた。


「ライ君、ご苦労様! 今からオーク君たちと私で領主の館に行く事になったからオークだよ全員集合! スキルをお願いするよ」


「うす。でも、ちょっとだけ待ってほしいッス」


 ライ君は床でスヤスヤ寝てる少女をお姫さま抱っこして、奥にあるベッドにゆったりと寝かしつけてあげた。

 しかもシーツまでかけてあげたよ、これで風邪ひかないね!


「ライ君、紳士だね。やっさしい!」


「ぶ、ぶひひ。照れるッス」


 えっ。

 キミはブヒって言うんだ……。


 まぁなんでもいいや。



「ブォオオオオオオオンッ」



 ライ君が人間のノドでは出せないような唸り声を上げると残りのオーク君たちも全員集合した。


「じゃあ今からみんなで領主の館に向かうけど、起きてる人たちがいるかもだから、充分に気をつけるように」


「「「うーっす!」」」


 よし、みんなやる気マンマンだ。

 いや、やる気マンマンで殺しあいを始められても困るけど。

 

「ではヒナ様、まいりましょう」


 復活したエッチさんを傍らに従えて戦乙女ヒナ、オーク部隊進軍開始!


 ついでに少し離れた距離を保って暗殺少女がついてくるのも見えた。

 なんだかあぶなっかしいから、すぐ側にいてほしい気もするけど暗殺者として一歩ひいた立ち位置みたいなのがあるのかな。


 そんな一団を引き連れて、領主の館へとずんずん進む。


 昨日の昼、歩いた時に何気なく見ていた活気あふれて平和そうだった大通り。


 今は家々の扉が無造作に開かれ、コボルトさんたちが勝手に出入りして中の住民を拘束したり、剣や槍などの物騒なモノを取り上げて広場にカシャカシャ積み上げてる。


 コッチには傷つけるつもりは毛頭ないけれど、それでもやっぱり怖い事をしているんだ、って実感が湧いてきた。



「……ヒナ様、どうされました?」


 エッチさんが心配そうに私の顔を覗きこんできた。


「いやー、なんかショッキング映像だなーって。エッチさんは街がこんな風になってるのを見てどんな感じ?」


「えっ」


 エッチさんは私によくしてくれるけど、実際、魔族として人間の街が侵略される様子はその目にどう映っているのか気になった。


「うーん………どうなんでしょう。正直、彼らが突然目を覚まして戦いが始まるかも! という警戒心でいっぱいで、目の前で起こっている事を深く考える余裕がないです。申し訳ないです」


「あー……そうだね。いや、私の方こそごめん、変な事聞いて!」


 エッチさんはペコリと会釈した。



 考えてみれば私はこの体がヤラれても元の世界に戻るだけらしいからちょっと余裕あるけど、エッチさんもオーク君たちも死んだらオシマイだ。


 寝ている兵士たちを起こさないように、そーっと縄で縛ってるコボルトさんや鳥人間さんたちもさぞ緊張しているだろう。


 人間の街が侵犯されてかわいそうとか感じてる場合じゃないよね。


 うん、そうだそうだ。

 こんな戦いはさっさと終わらせなきゃ!




 さっきまではビビって足取りが重かったが……いや、今でも重いんだけど、私は気を奮い起たせてちょっぴり歩くスピードを速めて、そして領主の館へとたどり着いたのだった。


 領主の館も壁から屋根から戦乙女ラヒルダ像までピンク色のネムリタケまみれ。


 そう言えばこのキノコ、いったい誰が全部とるんだろう……。



「ヒナ様ヒナ様」


「うぇ?」


「確認ですが、もしも起きている兵士たちと遭遇したらどうしますか?」


 館の正面玄関の扉を開ける前に、エッチさんがみんなにも聞かせるように尋ねてきた。


 事前の打ち合わせでは「誰も死なないように、殺さないようにしようね!」と言い含めてあるが、まぁザックリとした指示だよね。



「えーっと。逆に聞くけど、何人くらいが相手なら双方ケガなく取り押さえられそう?」


「相手の力量にもよりますが……一人を相手にするなら普通の騎士クラスまでなら私は確実に無力化できますよ」


 エッチさんはニョキニョキっと爪を伸ばす。

 背中にもコウモリ系の大きな黒い翼がバサッと飛び出してきた。

 おおっ、なんか本気モードだね。



「俺も騎士一人なら余裕っす。二人以上だと手加減が難しいっす」


 以前、草むしり中にライ君が棍棒の一撃で腐りかけた大木をヘシ折ったのを見た事がある。

 確かにあの規格外の剛力なら並の人間をあしらう事は出来るだろうね。


 でも他のオーク君たちは数人がかりでもライ君に太刀打ちできなかったからね。

 同じオークでも彼らの戦力はライ君とは別に考えないと。


「うーん、じゃあ同時に二人、起きてる人に遭遇したらエッチさんとライ君で無力化しちゃって。それ以上の時は様子見しながらみんなで戦いつつ指示を出す、20人とかと遭遇したら即撤退って感じでどうかな」


「了解です!」


 エッチさんが応え、オーク君たちも持っている棍棒を握り直して気合いを入れる。


 コッチは30人いるのに相手が20人で撤退ってヌルいのかな。

 その辺は戦闘シロウトなので大目に見てくださいっ。



 ああああああ緊張してきたあああと私が心臓をバクつかせる中、エッチさんが館の扉をギィイイと開いた……。



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