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9話 憧れの関所破りをする生活


「えーっと」


 暗殺者の姐さんを縛りあげたものの、少女の方はどうしたらいいんだろう。

 衛兵たちも警戒しながら私と少女を交互に見ている。


「あの」


 すると暗殺少女はスッ……と私のそばに忍び寄り、チョイチョイと脇腹をつついてきた。

 私は反射的にバッと彼女から離れた。


「ちょっと! 乙女の脇腹をうかつにつつかないで!」


「ごめん。それは失礼した」


 暗殺少女はペコリと頭を下げる。

 その素直な態度を見て、私も冷静になった。


「あ。いや、私こそ大きな声を上げちゃって。ごめんごめん」


 そうだ、落ち着くんだ私。

 キミは異世界に来てから毎日、大して食事もとらずにスキを見てはセッセと腹筋しまくったんじゃないか。

 ならば、少しはポッコリお腹も引き締まったはず!


 油断した乙女心を傷つける脇腹チョイチョイアタックなど恐れる事はないのだ。

 フフン。


「それで何かな?」


 私は心に平穏を取り戻し、余裕しゃくしゃくで彼女に尋ねた。


「私は姐さんの組織に無理やり暗殺者に育てられただけで私自身が暗殺者になりたいと願っているワケじゃない」


「そっか」


「出来ればケーキ屋さんになって毎日ケーキを食べて暮らしたい」


「太るよ?」


「大丈夫。私はいくら食べても太らない体質だから」


「太れよクソが」


「それで相談。あなたに従うから私を保護してほしい」


 ん?


 またおかしな事を言い出したな。


「保護って……それ、どういう話?」


「このままだと私もあそこの番兵に捕まえられて牢屋行き。ケーキどころか刑期を喰らうハメになる」


「うまいことを言うね、ケーキだけに!」


「……」


 少女がいたたまれない顔をした。

 今の、私が悪いの?


「まぁ、あの、でも、メチャ強いあなたが身元引受人になってくれるなら大丈夫な感じ」


 はぁ……。

 いきなりそんな事を言われましてもねぇ。


「こんな事言ってるけどどうなの?」


 と、コチラの様子を見ていた番兵に聞いてみる。


「えっ、あ、いや、しかし。その少女は身体検査した際に怪しげな液体が入った瓶とナイフを隠し持っていて……。今から誰かに危害を加えにいく可能性がある……ので」


 番兵は濃い紫色のドロリとした液体の入った瓶を掲げて見せた。

 なるほど、ありゃ怪しいや。


 しかし、身体検査ねぇ。

 こんな少女にハレンチな事をしようとしたロリコンセクハラ野郎のクセに。


 でも、そのスケベ心のおかげで暗殺者の正体を見抜けたんだから結果オーライなのか。

 ちょっとフクザツ。


「ところで、あの、壁を破壊するパワー……。ただ者では無さそうだがアンタは一体、どこの誰なんだ……?」


 番兵が警戒しつつおそるおそる私に尋ねてくる。


 そうか。

 ギコちない話し方してくると思ったが、私が腕っぷしに自信のあるただの荒くれ者か、名のある立派な女戦士か計りあぐねているワケか。


 だったら……。


「あなた、この街の領主の館で(まつ)られてる戦乙女ラヒルダって知ってる?」


「え? ああ……そりゃこの街の人間で知らない者はいないだろう」


「それ」


「え?」


「その戦乙女ラヒルダなの。私が」


「ええええええ!?」


 面倒なのでそういう事にしておいた。



 いきなり詰め所に押し入って、そのような寝言を呟いても信じてもらえないだろうけど、暗殺者を颯爽と撃退したので(私が倒したワケじゃないけど)いくらか信憑性が増したようだ。



「はぁ、そうなんですか。子孫であるアレクサンドラ様の様子を見に……。」


「そうです。そうしたらコチラから暗殺者っぽい気配を感じたのでちょっと様子を見に来たというワケです」


「そうでしたか! いやはや助かりました。ありがとうございます!」


 日本でならリズカミカルに警察と病院に通報されそうな話だが、ファンタジー世界ではよくある話なのかわりとアッサリ信じてもらえちゃった。


 とはいえ。


 今は私の事を信用してイイ感じで会話しているが、さっきの困っている母娘にセクハラしようとしたゲスっぷりな印象は拭えない。


 となると、このゲス番兵よりちょっとヘンな暗殺少女の味方をしてやりたいな。と、思った。


「では、そんなワケでこの少女の身柄は私が預かりますね」


「あっ……それは構いませんが、どこの誰を襲うつもりだったのかだけ聞かせてもらえませんか」


 ふむ。

 それはごもっとも。


「ねぇ。あなた、どこの誰を襲うつもりだったの?」


「私はもう暗殺者じゃないからなんでも喋る。標的はこの街の領主。アレクサンドラ・バウス・アルティエラ」


 え!?

 私の子孫を!?


 いや、ホントは子孫でもなんでもないけど。

 

「な、なにっ! き、貴様、領主様を!?」


「うん。あんな素晴らしい領主を殺すのは私もよくないと思った。だから暗殺する前にスキを見て姐さんを止めようと思ってた」


「そ、そうだったのか……!」


 彼女の弁明に大いに納得&感心した番兵の判断で、暗殺少女は無罪放免となった。


 ただ「じゃあ街で自由にショッピングでも楽しんでいってくださいネ!」などというワケにもいかないようで、しばらく私の監視下に置くことが放免の条件だが。



「じゃあ私、街の外に用事があるからいったん、外に出ようか」


「了解」



 こうして私は少女を連れて、堂々とエルシアドの街から出る事が出来た。


 いや~、どうやって関所破りしようかとワタワタしたけど、結果的には番兵たちにお見送りまでされちゃったよ。


 あ~疲れた。


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