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1話 魔王軍にスカウトされる生活

 ふわっ


 と一瞬、体が宙に浮いたような浮遊感を感じて「うわっ、なにコレ怖い」と思った次の瞬間にはまぶしい光が薄らいで、私は自分の部屋ではない、どこか別の場所にいることに気が付いた。


「な……にが起きたの……?」


 古いヨーロッパ風の城だか宮殿だかのベランダっぽいところ……ベランダっていうかバルコニーかな。

そんな場所に私は突っ立ってた。そして、そのすぐ隣には魔王の姿も。


 バルコニーから見渡す外の景色は少し薄暗いが地平線の彼方まで森が広がっていて雄大だ。まだよく分からないが、もしかしてここが異世界なのだろうか。


あと、そんなことより私は全裸だった。


なん……だと!?


「キャアアアアアアアアアっ! 裸!? 凌辱するなら夏まで待って!!」


私はマジで焦って腕で体を隠してしゃがみこんだ。


「キャーだなんて可愛い悲鳴、さっきまでとギャップがあってちょっと萌えますねぇ」


「ありがとうございます」


 私はお礼を述べた。


「ちなみに夏まで待つと何があるんですか?」


「夏までに5キロ痩せるつもりだから」


「えっ、全然痩せてるじゃないですか。むしろ栄養失調気味な細さで……」


「いや、私もそう思って腹持ちのいい半額コロッケばっかり毎日食べてたらなんかお腹だけ微妙にぽっこり……」


 ダイエットするって言いながら今日もコロッケ買っちゃったけどさ!

 揚げ物最高!


「あの、でも、パンダのお腹みたいで可愛いですよ?」


 そんな褒められ方してゴキゲンになる女子はいないよ!

 というかパンダって魔族から見ても可愛いんだ、さすがだね!


「というかなんなのコレ? いきなり異世界に連れて来られたって事はなんとなく察したけど何故、服を剥ぐのか」


「ああ、えっと、大丈夫ですよ。あなたは今、魔神の体に入ってます。こちらの世界にはあなたの精神しか連れて来れないので」


「はぁ」


「なので一見、裸に見えてもそれはあなたそっくりの裸の着ぐるみを来てるようなものなのでセーフです」


 それ本当にセーフか?

 さっきからこのコの言う「大丈夫」「安心」「セーフ」は何一つ私の心に安らぎをもたらさないんですけど。

 まぁ魔王に安らぎを求めるのもどうかしてるか……


「それは私が魔術儀式で造り出した『空の魔神』です」


 カラの魔神……?

 私の都合などお構い無しでズビズバ説明が続く。


「人類侵略に向けて頼れる戦力が欲しい欲しい欲しい!って思って強力なパワーの魔神を造ったんですけど、その魔神、魂が空っぽなんですよね。ちなみに姿も空っぽであなたがインしたから肉体もあなたの姿に変形してまして……」


「待って……あの、なんか羽織るものを……裸だと説明に集中できニャい」


「ウフフッフ、しおらしくなってて可愛いなぁ」


 ニコニコしながら魔王がパチンと指を鳴らすと黒いモヤみたいなのが空中で集まって一枚の布となり私にファサッと覆い被さった。

 このサラッサラな肌触り、シルクみたいだな。

 魔法って便利!


 コホンっと仕切り直すように魔王が咳払いをした。


「それでですね。魔神を動かすには人間の精神とか魂みたいなものが必要なのですが、コチラの世界の人間に『人類侵略しようぜ!』って誘っても怒られそうなので異世界の人間に声をかけてた次第で」


 ふ~む。

 まぁ確かに異世界の人類侵略ならちょっと他人事感はあるけど。


「なるほど……じゃあ異世界人なら誰でもよくて、私がスカウトされたのはたまたま?」


「それはまあ、あまりにも頭が悪そうなヤンキーは除外したり、あと結婚したばかりで幸せいっぱい! とかって人もなんとなく人類侵略なんか手伝ってくれない気がしたので、ある程度いい感じにやさぐれてる人に絞りはしました」


「いい感じにやさぐれてるってなんなんだ」


「まぁまぁ、いいじゃないですか。魔神の体で経験値を稼いでレベルアップすれば魔神としてさらに能力がアップするだけじゃなく、現実のあなたもそれに応じてレベルアップできるんですから。やさぐれ生活からの脱却ですよ」


 あっ、核心キタ───────!!


「それってこっちの世界でドラゴンをワンパンで殺せるくらい強くなったら元の世界に戻ってもゾウをワンパンで殺せるくらい強くなってるとかそういうこと?」


「ゾ、ゾウさんに恨みでもあるんですか?あんなに優しい目をしてるのにかわいそう……」


「確かに」


 いや、でも実際そんなに強くなってどうするんだ。

 ゾウさんにヒドい事は私もしたくないとして、例え人類最強の女になってもプロ格闘家とかになりたくないな~。

 痛そうだし怖そうだし、あの、その、モテなさそうだし。


「えっと、魔神としてレベルマックスになれば、あなたの世界の常識を外れたパワーは身に付かないまでも一日中働いても疲れにくくなるし、クイズでアメリカ横断できるくらいウルトラ物覚えが良くなります」


 このコ、魔王なのにあの伝説のクイズ番組を知ってるのか?



 しかし、なるほど。

 ようやく話に具体性が見えてきたね。

 クイズでアメリカ横断しなくていいけど、それだけ頭が良くなれば資格試験の勉強に役立つだろう。

 疲れにくいなら仕事のあとに勉強する体力も残ってるはずだし。


「あっ、でもコッチで人類侵略をしてる間、元の世界の私の扱いはどうなってるの? 行方不明? 謎の失踪事件発生とか困るんですけど」


「時の流れ方が違うから大丈夫ですよ。コチラで一ヶ月ほど過ごしたら魔神の体をメンテナンスするので一度、元の体に戻ってもらいます。その際、あなたが異世界に来た夜の翌朝になっていて……つまりコチラでの一ヶ月があなたの世界での一晩、という感じです」


 ふむふむ。

 それなら問題ない、のかな?

 こういうのは実際やってみないと分からないけど、聞いた感じではそれほど悪くない話かも。


 あっ。


「いや、大事なことがあった! この世界で私が死んだらどうなるの?」


 ウンコ作戦とかふざけた感じで聞き流していたが人類侵略なんてするなら当然、命を危険にさらすこともあるだろう。


「あっ、そうですね。それだけはお気を付けポイントです。魔神の肉体が滅びるとあなたの魂は元の世界に強制送還されます。その際、今まで積み上げた経験値がゼロになり全ては水の泡チックな結末に」


「ん? それだけ? 私の魂が傷ついて大変なことになったりとかってのはないの?」


「そういうのは無いです。まぁセーブしないでゲームし続けて死んだら最初の街からレベル1でやり直しくらいに思ってください」


 さっきから私の世界の文化に詳しいな。

 コッチの世界にもゲームとかあるんだろうか。


 うーん、でもそういう事ならやってみてもいいのかな。

 どうやらドン引きするほどのリスクは無さそうだし、正直、魔王軍として人類侵略するのはちょっとだけ面白そうだ。

 その上、現実でもレベルアップ出来るならお得だものね。


「じゃあ私やるよ、魔王軍」


「えっ、さっき既にやるって言ってませんでしたっけ」


 そう言えば土下座しながら言ってたな。ノリで。


「いや、まあ、あの、改めてヨロシクね⭐ って感じで!」


「わあ! ヨロシクお願いしますぅ!」


 魔王は満面の笑みを浮かべてハグしてきた。



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