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9話 憧れの関所破りをする生活


 肩からタックルするカタチで壁をぶち破って(全身が超痛い!)詰め所に突入した。


 石造りの壁がガラガラと崩れ、詰め所の中にいた人達が何事かとコチラの様子を伺い、動きが止まる。


 よし、このスキにまず少女の身柄を確保するぞ!


 と、部屋を見回すと怯えていていた少女がセクハラ番兵の背後にまわってナイフを首筋に押し当てていた。


 ん?


 一瞬、どういう状況か分からず母親の方を見ると彼女、例のおっぱいを揉んだ変態番兵の頭をひっつかんでアゴに膝蹴りをブチかましている真っ最中じゃないすか。


 ガコッ!


「ぶはぁッ」


 唇を派手に切ったのか、膝を入れられた番兵の口からブシュッと血が噴き出す。


 そして昔、流行った格闘技の試合で見たみたいに、番兵の全身から力が抜けて足からグニャリと崩れ落ちた。



「えーっと、うん? これは、あの、どういう状況かな?」


「なんだい、コイツは!? その格好……騎士が詰め所にいるなんて聞いてないよ!」


 膝蹴りで沈めた番兵の頭を踏みつけながら、お母さんが悪役女子プロレスラーみたいな感じで私を睨み付けてくる。


「あ、いや、私は別に騎士ではなくてですね……」


「アンタ、何者だ!? コイツらの仲間か!?」


 今度はまだ無事な番兵が私に問いかけてくる。


「え? あのー、えーっと、わ、私は誰の仲間なのかな?」


「な、何を言ってるんだこの女は……」


 番兵も混乱してるようだが私も混乱するよ!


 まいったなぁ、イベっちに押されて走り出した時、詰め所の中から視線を外しちゃったからなぁ。

 でも、たった数秒間の間に何があったんだ!?


「うわっ!? 血が動いてるぞ!?」


 今度は何よ!?


 番兵が何かを見て驚いてるのでソチラに視線をやると、倒れた番兵の口から流れ出てる血が生き物みたいにウネウネと床を這いまわり出した。


「なっ、一体どうなってるんだい!? これもお前の仕業かい!?」


 お母さんも不気味に思ったか、踏みつけていた番兵から離れて距離をとる。


 むむ、だけどあの血の動き、何かヘンだぞ……


 ……いや、そうか、分かった。これは文字だ。


 日本語だ!


 イベっちが念動力で何かを伝えようとしてるんだ!


 ピーンときた私は詰め所にいる全ての人物を警戒しつつ、文字の動きを追う。



『オンナタチ』 



『タブン』 



『アンサツシャ』



 おんなたちたぶんあんさつしゃ。



 女たち、たぶん、暗殺者!?




 理解した瞬間、番兵に刃物を突きつけていた少女が番兵ごと突然、ドーンッ! と見えない力に押されるように壁まで突き飛ばされた。


「な、なに?」


 さっきまで押し黙っていた少女がたまらず動揺の声を上げる。

 イベっちが念動力を使ったのか。


 体勢を崩した拍子に逃れた番兵を再び拘束しようと、少女が彼の喉に手を伸ばす。


 えぇい、セクハラ野郎なんか助けたくはないけど、まずは人命第一!


 私はダッシュで駆け寄って、少女の刃物を持っている腕をガシリと掴む。


「うぐっ!?」


 まだ小学生くらいの少女は細い腕をギリギリと締め付けられ、小さく呻き声をあげた。


 むむ、ヤバいな。


 戦乙女パワーが凄すぎて、力を入れすぎたらこのコの腕をキュウリみたいにポッキリもぎとってしまいそうだ。


「くっ、離せ! 離せっ!」


「ええ~……でも離したらアナタ、私を殺そうとするでしょ? じゃあ離すワケないじゃん。いい加減、卒業しようよ。意味のないテンプレ台詞を吐く三流悪役ライフをさ」


 私は自分自身を落ち着かせたくて軽口を叩いてみた。



「うぅ……じゃあどうしたら離してくれる?」


 なにっ? まさか素直に質問してくるなんて。


「うーん、そうだね……じゃあ、なんか……暗殺者あるあるを教えてくれたら離すよ」


「あ、暗殺者あるある……? う、えぇと……」


「10、9、8、7、6……」


「ま、待ってて! 今、考えてるから……!」


「わくわく」


「あ、分かった! 暗殺者あるある! いく!」


「どうぞ」


「訓練のため、気配を殺してアジトの中を音も立てずに移動していたら……」


「していたら?」


(あね)さんが、片想いしている頭領の使用したコップのフチをべろべろ舐めまわしてるシーンを目撃してすごく気まずい」


「なぁっ!?」


「えっ、姐さんってもしかしてあのお母さんの人?」


 壁に背中をくっつけて周囲を警戒していたお母さん、いや、姐さんの方を見ると目を見開き、歯をギリギリ喰いしばって焦ってた(笑)。



「うわ~、コップ舐めるとか女子の縦笛を舐める男子小学生みたい。いや、子供なら大目に見るけどいい大人が……。控え目にいってキモいっすよ姐さん」


「そう、姐さんは控え目にいって変質者。他人様を殺める前にまず己れを殺すべき」


「おっ、うまい事言ったね! これで三流の悪役から卒業だ!」


 私は右手で刃物を抑えつつ、左手で頭をなでてあげた。


「……えへ。ちょっと嬉しい」


 無表情気味だった少女がニッコリ笑った。



「お、お前ら、殺すッ!」


 一方、姐さんは倒れた番兵の腰から抜き取った短剣を拾い上げ、逆手に構えて襲いかかってくる。


 うっ、ヤバいな!


 少女の腕を掴んでるので自由が利くのは脚だけだ。


 とりあえず鋼鉄の戦乙女靴で姐さんに向かって蹴りを放つ!

 戦乙女パワーで稲妻みたいにシュバッと素早く力強く脚を振り抜いた。


 しかし、所詮、私はシロートなんだよね。

 彼女は不恰好な蹴りをヒラリと交わして距離をとったのち、再び斬りかかってくる。

 

 私は蹴りをシュッシュッと一生懸命繰り出して耐えしのぐカタチだ。


 いや、冷静に実況してるけど、すっげえ怖いんですけど!

 ってか番兵もボサッとしてないで誰かお助けしてよ!

 私、ここにいる誰よりもかよわい乙女なんだぞ!

 


「あの。私、卒業じゃないの?」


 と、このクソ忙しい時に少女が呟いてきた。

 ああ、暗殺者あるあるを言ったら手を離すって約束したんだっけ。


 どうするかな。

 手を離した途端、襲ってくるかも知れないけど両手が自由な状態で二人を相手にした方が戦いやすいかも?


「手を離しても私を絶対に殺さないって約束できる?」


「約束する。暗殺者は法律は守らないけど約束は守る」


「カッコいいね! じゃあ、ご卒業おめでとうございます!」



 私はパッと手を離した。



「しめた! ルィン、アレをやるよッ!」


 姐さんが短剣を振り回して牽制するスキに、少女は素早く姐さんの元へ戻る。


 くっ、アレって何をする気だ!?



 ガァンッ!



 次の瞬間、少女の脚が姐さんの膝小僧を正面から蹴っ飛ばした!


 って、え?


「イッ!? ぐぁあああああ!?」


 逆間接に膝を撃ち抜かれた姐さんが苦痛でつんのめり、頭の位置が下がった所に


 スパァンッ!


 と少女の華麗な上段回し蹴りがコメカミを直撃。


「ぐ……はっ……」


 姐さんは白目を剥いてパタンと倒れちゃった。



「えーっと、アレ?」


 これはどういう状況?



「ねぇねぇ、アナタの姐さんがアレをやるとか言ってたけどコレで合ってるの?」


「心配ない。私は姐さんが大っキライだからコレで合ってる」


「そっか。じゃあスッキリしたね」


「うん!」


 満足げな顔をしている。

 少女はもう闘うつもりはないようだ。

 自由なコだな……。


 

 とりあえず詰め所にあったロープで姐さんを縛って騒ぎは収まった、かな?


 ちなみに番兵たちは終止、壁際で震えてました。



 兵士というからには、ちゃんと厳しい戦闘訓練を受けてるハズなのに、だらしないなぁ。


 そんなんだから異世界から来たたかが男子高校生風情にいいように世界を救われちゃうんだぞ!


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