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8話 魔術師にドン引きする生活


「何してくれちゃってンですかラヒルダ様ァ……? 俺は貴女をかばってやったのに、アンタはソイツらをかばうなんて……俺よりそのゴミどもの方が大事なのかよ……?」


 さっきまでの笑顔はどこへやら。

 忌々しげに歯ぎしりする。


「私の為に誰かが取り返しのつかない傷を負うとか後味悪過ぎでしょ。それで今後、私が笑ってご飯が食べられると思ってるの? キミ、魔術師なんて頭良さそうな仕事してるのにそういうコトが分からない糞バカなのかな?」


「ァガッ……!? 俺のラヒルダ様はそんな事ァ言わねェ……。ラヒルダ様は……俺だけに優しくしろォオオ!!」


 リジッドは拳を振りかざすと、その手に何かしらのエネルギーが集まってるのを感じた。


 もういい加減分かってきたぞ。

 これって魔法を使う時の感じだ!


「無慈悲なる黒雷(くろいかずち)よ……!」


「言わせるもんかっ!」


 振り上げた拳に意識を集中させるあまり、無防備になってる彼の足元めがけて私は前のめりに走って詰め寄った。


 ガシッ!


「なにっ……?」


 彼の左右の細い足首をしっかり掴んで一気に引き起こす!


 すると彼はたまらずひっくり返って床に背中を打った。



「ぐァッ……クソがッ……! この女、調教してやるッ」


 ラヒルダ様はキミにとって理想の聖女であり最愛の女性じゃなかったの?

 女が思い通りにならないからって調教するとか、コッチこそブチ殺すぞ!


 などと心の中で強めに罵倒するとわりとスッキリしてしまうタイプの私は足首を掴んだこの状態でどうしよっかな~と一瞬、悩んだ。

 あんまり酷い事もしたくないしなぁ。



「鋭利なる風よ……!」


 するとそのスキにリジッドがまた何かの呪文を唱え出すので私は咄嗟に小学校の頃、この体勢から男子同士がやってた技を思い出して、


 やった。



「あ……? あ、ああ、あああアアアァアアァァアぁあああああアアアなアアアあァアアあほあぁあぁアあアぁアあああああはああォアアアォオオオおおんおんおんんんぐッ……!?」



 リジッドの足首を掴んで左右にパカッと股をおっぴろげさせて、股間を軽く踏みつけて



 ぐりぐりぐりぐりぐりゅんっ! 



 と足裏でリズミカルに踏みにじってやりましたよ。


 するとヤツはくすぐったいのか痛いのか全身をグネグネとよじり出して、気持ち悪い悲鳴を上げる。


 よく見ると股間を踏みつける足の部分がまたもや白く光っているので戦乙女の聖属性パワーも上乗せされ、効果倍増なのかも。



「う……うぎゅぅ……」


「どう、降参する?」


「はぁ……はぁ……ラ、ラヒルダ様ァ……ラヒッ、ルダ……さ……」


 リジッドはグッタリして(とろ)けるような表情でコチラを見ている。


「さ、ま……ま……ママァ……」


「ん?」



「ママァ……もっと、もっとォ! ……してェ!」



「うわぁあああああ!?」


 マザコンのマゾヒストとか、前世でどんな悪行を背負ったらそんな業の深い危険生物に生まれ変わるんだ!?

 キラキラと期待に満ちた瞳で懇願するリジッドが気色悪すぎたので思わず全力でグリグリしちゃった!


 ちなみに現代では「電気あんま」という名で子供に親しまれているこの技ですが江戸時代には「土手責め」と言われた拷問だったらしいですよ、えへっ。



 リジッドはピクッ、ピクッと痙攣したのち動かなくなった。


「あの……大丈夫?」


 さすがに心配して顔をのぞきこむとカッと眼を見開いてバッと起き上がった。


 こいつ……!?


 油断した……! 慌てて身構えるとリジッドはバッと、おじぎした。



「愛してます。結婚してください」



「え……嫌ですけど。ものすごく……」


「ァアアオオアアアア!? オョワァアアアオアア!? どうしたら結婚してくれるんですか!?」


 頭を振り乱しながら半狂乱でピョーン、ピョーンと跳び跳ねるイケメンを見た事はあるかい?

 そして人生初プロポーズをこんなカタチで炸裂された私の身にもなってほしい。


 とりあえず私は彼の両肩をガシッと掴んで跳び跳ねさせるのを中止させた。



「あ……まずはキスから?」


 リジッドはそっと眼を閉じ、唇をツンと突き出す。


「違う、リジッド。そうじゃない」


 犬を躾るようなトーンで間違いを指摘し、私がすかさず彼の鼻をつまむと、そのうち窒息死しそうになって彼はキスの唇をやめた。


「プハァーっ、はぁ……っ。で、では私めは一体どうすれば……?」


「とりあえず衛兵さんたちの眼をちゃんと元に戻してあげて。じゃないと嫌いになっちゃうぞっ」


「はぁわぁーっ!? ハァッ……ハァ、わわ、分かりましゅたッ!」


 変態リジッドさんがムニャムニャと呪文を唱えると、床に転がっていた眼球が宙に浮いた。


 空中に水の塊がちゃぷちゃぷと集まって、そこに眼球が とぷんっ! と飛び込んで……コレはオメメをキレイに洗っているのかな?


 そののち、地面にへたりこんでいた衛兵さんの空っぽになった眼の穴に ちゅぽっ、と戻っていった。


「お、おぉ……?」

「み、見える……見えるぞ! しかも俺、近眼だったのになんか前より視力が上がった気がする! よく見える! ラッキー!」


 衛兵さんが安心してる姿を見て私も安心した。

 よかったよかった。


「ラヒルダ様! 疑って申し訳ありませんでした!」

「我々は貴女の事を疑ったにも関わらず、助けてくださるなんてまさに聖女であります!」


 うーん、私がいなきゃこんな騒動も起きなかったんだからプラマイゼロな気もするけど。

 まぁでも、ここは素直に感謝されておこうか。面倒だし。


「いや、いえ、私の方こそお騒がせしてごめんね」



「オイッ、お前たちそこで何を騒いでいる!」


「あっ、兵士長!」


 ようやく一段落ついたと思ったら、騒ぎを聞き付けたのかガチャガチャと鎧を鳴らして数人の兵士たちが集まってきた。


 兵士長と呼ばれたちょっと良い鎧を纏った男が眼球ポロリした衛兵さんたちに事情を軽く聴取する。


「なんと、戦乙女ラヒルダだと……?」


「どうもです♪」


 私は精一杯、聖女らしく清らかに微笑んだ。

 聖女っていうかアイドルチックになってしまった気もする。


「うーむ、にわかには信じられないが……しかしエルシアド最高の魔術師リジッドを手玉にとるその強さ。そして衛兵を助けた慈愛に満ちた行動。貴女がラヒルダであろうとなかろうと敬意を払うに値する者のようだ」


 おっ、なんか好感触!


「良ろしければコチラをお持ちください」



 兵士長さんは何か文字が刻まれた銀のプレートをくれた。



「来客用の通行許可証です。館に祝福の粉というのを撒いて歩いているのであれば、これを見せれば何処へでも立ち入る事が出来るでしょう」


「わぁ! ありがとうございます! 助かります!」


 これされあればミッションは達成したも同然だ!

 私は嬉しくて思わず兵士長の手をギュッと握った。


「いえいえ、このリジッドには以前から眼に余る部分があったので罰を与えてくれた礼も兼ねて……」 


「なァがッ!? 兵士長だけズルい! ラヒルダ様、私にも握手を! 握手を!」


 するとリジッドが鼻息荒く転げ回るので仕方なく握手してあげた。


「はい」


「はぁあああ……ではこの手に貴女のナマ温かい余韻が残っているうちに私は失礼します」


 そう言うと彼は私と握手した手をニタニタと見つめながら立ち去っていった。



「ヤツめ……。ラヒルダ様と握手した手で良からぬ事をする気ではないだろうな」


 兵士長さんが険しい顔でリジッドが消えていった通路を見据える。


 良からぬ事……?


 あっ、まさか握手した相手に呪いをかけるとかそういう陰湿な魔法があるんじゃなかろうね!?


「あの、良からぬ事ってなんでしょう……?」


 おそるおそる兵士長さんに聞いてみる。


「えっ!? それは、あの」


「兵士長! 聖女様になんて事を吹き込んでんですか!?」

「というか兵士長こそラヒルダ様に握手された手で良からぬ事をする気じゃないでしょうね!? ちょっとニヤニヤしてたし!」


「す、するか! バカッ!」


 顔を真っ赤にして否定する兵士長さんを見て、集まった衛兵さんたちがドッと笑う。


 なんだろう?

 そんな心配するような事でもないのだろうか。

 なんとなく男子同士の間でだけ伝わるネタっぽい感じもするけど、深く考えるのはやめとこうね。


「では、私はこれにて失礼します。これ、ありがとうございました」


 と、銀のプレートを見せて、その場をあとにする。



「あ、ラヒルダ様! アレクサンドラ様に貴女の事を今すぐお伝えしなくてよろしいのですか?」


 えっ、お伝えしてもらってもコッチからは用はないよ。

 会ってもせいぜい「元気?」くらいしか話題がない。


「ああ、えーと、お構い無く。あのコも領主として日々がんばっているでしょうから、今夜はゆっくり休ませてあげてください」


「了解しました!」


 ビシッ!


 と兵士一同に敬礼されて見送られた私は早速、館の一階から四階までくまなく胞子を撒き散らした。

 

 多少、道に迷ったり、たまに話を聞きつけたミーハーな衛兵さんと握手したりしながら学校くらいの広さな館を歩きまわるのに結局、二時間くらいかかった。


 あー、疲れた。

 だけど、これにて準備完了!


 これで合図をすれば館中にネムリタケが繁殖して衛兵たちを眠りに誘うだろう。



 あ、でも中はもう良いけど館の周りにも胞子を撒いた方がいいんだっけ?


 館に結界が貼られている、って建物の中だけの事なのか塀の中も結界の中なのかちゃんと聞いてなかったな……。


 塀の周りにも結構、兵士がいるから念のため、ソッチの方にも胞子を撒いておこうか。




 私は玄関から一旦、外に出る。



『……ナさん? ヒナさん? 聞こえますか?』


 えっ?


 マリアの声だ。

 この頭の中に響く感じはテレパシー的なヤツだな。


「どしたのマリア? なにかあっ……」


『ヒナさぁぁぁん!? 館の方から戦乙女の力を感じて何事かあったのかと心配してたんですよっ』


 頭の中に彼女の可愛い声がキンキン響く。


「ああ、そういうの分かるんだ。大丈夫大丈夫。色々あったけど無事だし胞子も館中に撒けたよ」


『あぁ……よかった……! 大きな魔力の乱れは感じなかったので様子を見てましたけど、本当に不安だったんですから!』


「ごめんごめん。でもまぁコッチの世界で死んでも本当に死ぬワケじゃないんだから」



『ヒナさんがそんな死ぬような怖い目に遭うのは私的にダメなんですッ!』



 おおっ、元の世界で誰かにこんな風に言われた事なかったな。

 不覚にもグッと来たよ。



「マリア、私たちズッ友だよ☆」


『えっ、それっていかがわしい関係に発展する可能性を秘めしお友だちですか?』


「ずっといいお友だちでいましょうねって事だよ」


『うわぁあああああんっ』


 嬉し泣きかな?


 気を取り直して、館の中で起きた一部始終をマリアに伝えた。

 

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