8話 魔術師にドン引きする生活
身体が……熱いっ……!?
なんか異常な熱さを感じたのでふと自分の身体を見ると全身が白く発光している!?
なんだコレ?
「くぁっ!? 一体なんだ……!?」
そりゃコッチが聞きたいよ。
とにかく私を壁に押し付けて指を切り落とそうとしていた鬼畜DVリジッドさんがバッと手を放して素早く後ろに飛び退いた。
私の右腕を掴んでいた手の平が痛いのか熱いのか、スリスリと苦しそうにさすっている。
私の前世が実はホタルイカや電気ウナギだった、って事でもないならたぶんこれは私の、戦乙女の力が勝手に発動しちゃったのかも。
そういえば幽霊っ娘のイベリコ豚子ちゃんを殴っちゃった時の聖属性の光に似てる気がするもんね。
おや?
さっきまでと違って全身にエネルギーがみなぎってるのを感じるぞ。
なんとなくリジッドさんくらいのヒョロ男くらい簡単にブッ飛ばせるような……そういう感覚がある。
でも倒したところで大騒ぎになるだろうしどうしよう! どうしよう! とパパのクラリネットをうっかり破壊したボウズのごとく悩んでいるとリジッドさんがムニャムニャと小言を呟く。
あっ、ヤバい!
アレたぶん魔法の呪文だ!
と思った時にはすでに遅し。
「姿を偽りし不届き者よ、精霊の審判を受け、真実の姿を白日の下に晒け出せ!」
気色悪い中二病みたいな寝言とともに辺りが
カッ!
と、まばゆい光に包まれた。
私は反射的に目を細め、強烈な光から両腕で顔をかばう。
光はすぐにおさまったので、目を開いてみるといつのまにか私はいつもの戦乙女の鎧を身に纏った姿になっていた。
呪文の内容から察するに本当の姿を暴く魔法のようだね。
もっとも私の正体は戦乙女じゃなくて、しがない派遣OLなんスけど!
「な……なに? その姿は……?」
「えと、水戸黄門だぞっ。頭が高い! 控えおろう!」
私は自暴自棄になって一度は言ってみたい台詞を言ってみた。
「ははーっ!」
しかし意外とノリがいいのかリジッドさんは地面に手をついてひれ伏してくれた。
「身体の奥から溢れ出る人ならざる魔力の奔流……そして、その飾り羽根のついた鎧兜姿。貴女はまさしく伝説の聖女、戦乙女ラヒルダ様では……!」
えっ。
そういうパターンかよ!
リジッドさんの顔を見ると目を真っ赤に潤ませている。
唇もぶるぶる震えていた。
うーん……。
これはどうも演技ではなさそうだね。
「あの、そうですよ。私はラヒルダですよ。突然こんばんわ!」
「こ、こんばんわーっ!」
なんかオレオレ詐欺みたいで気がひけるがイケるところまで行ってみよう。
「しかし、神の国に仕えし貴女様がなにゆえ人の世界に降臨されたのでしょうか……ハッ!? もしや私の告白に応えるために……?」
「あの、アレですよ。私の子孫の様子を見に来たのです」
「な、なるほど。アレクサンドラ様の様子を……」
「そうそう。ただこの姿で来ると大騒ぎになるのでお忍びで来たのです」
「そうだったのですか……アアッ!? オワァアアーッ!! アアアワアアアーッ!?」
え、なに!?
リジッドさんは手を床についたままピョンピョンと脚を跳び跳ねさせたか思うと今度は頭をゴンゴンと地面に叩きつけた。
「な、なにをしているのですか?」
「ウウゥッ……し、知らぬ事とはいえ私はあろう事か高貴なるラヒルダ様を拘束してあまつさえ指まで切り落とそうとして……ハゥアアッ……ゥグッ……ひぐっ……なんて罪深いことを……」
「まぁまぁ、過ぎた事ですしドンマイ」
いや、ホント怖かったッスけどね。
「あぐぅ……なんと優しいお言葉……! し、しかし私はこんな聖女のようなラヒルダ様に非道な事をしてしまったという事実に後悔するとともに興奮を感じてしまっているおぞましい男なのです……」
「えっ、そ、それはさすがにドン引きですね……。まぁ色んな性癖はあるでしょうけど、そういう事は思っちゃっても口に出さない方がいいですよ?」
「はい! いえ! しかし懺悔せずにはいられないのです! ラヒルダ様には私の全てを晒け出したぃのですぅ……うッ……」
こいつガチで狂人だな!
ウチのメルティちゃんはお前にはやれん。
さて、この変質者をうまいこと手なづけて、館の中を自由に歩き回れるよう便宜を図ってもらえたら良いのだけど。
ブランドもののバッグをおねだりするキャバクラ嬢になったつもりで聖女を演じてみよう。
罪深い私をお許しくださいねラヒルダ様。




