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7話 領主さまにご飯を作ってあげる生活


「ネェチャンよォ。パワーゴーヤチャンプルーっていくらなんでも長ぇからパワーチャンプルーに改名していいか?」


「えっ」


 厨房で調理をしていると、パワーさんが眼を開きながら寝言を言ってきた。

 彼の故郷では料理名の頭に自分の名前をつけないと処刑されるシキタリでもあるのかしら。


「パワーチャンプルーッスか……なんか魔物とか倒せそうな必殺技みたいッスね! イイんじゃないッスか!?」


「だろ!?」


 こうしてパワーチャンプルーに改名されてしまった気の毒な沖縄料理が完成し、美しい紋様の入ったお皿に盛り付けられる。

 沖縄の海のような蒼いお皿に盛られた黄と緑の彩りは海と砂浜とヤシの樹を彷彿とさせ、まるで南国にいるかのような気分にさせてくれる。

 ……ハズだけど、コッチの世界の人にはゴーヤが沖縄の特産物って概念ないだろうから伝わらないんだろ~な~。


「おおっ、今日も美味しそうに出来たッスね。コッチのサンドイッチとサラダにスープも色鮮やかで期待大ッス!」


「うーむ、コレらも店に出してェくらいだな。ホント、ネェチャン大したモンだぜ」


 そうそう、そうなんですよー。

 領主様の晩餐となるとゴーヤチャンプルーを一品だけ出して「ホレ食え」ってワケにはいかないらしい。

 まぁ一人暮しの貧乏OL じゃないんだしね。

 クソが。

 おっと、コホン、失礼。そういうワケでさらに数品出さなければいけないけどパワーさんとアルサは料理に関しては食材を切るか燃やすかしか出来ないとのこと。


 そこで異世界の限られた食材と私の持てる女子力を結集させ、クラブハウスサンド、温泉卵のせシーザーサラダ、ミネストローネを作ってみたよ。

 この世界ではトマトを煮込むって発想が無いみたいだったのでクラブハウスサンドにはミートソースを挟み込んで濃厚に味付けした。

 また温泉卵もクルトンも粉チーズも見たこと無いそうなのでサラダも結構珍しいものに仕上がってるハズ……だよね。


 調理が完了した事を確認してメイドさんたちがいよいよお食事の()にいる領主の元へと料理を運び出す。

 そして私たちは控え室でしばらく待機。

 このあと、領主サマが「ほほう! 今日の料理は上手いでおじゃる。シェフを呼ぶでおじゃる!」となれば晴れてご対面というワケでおじゃる。


「でも、ぶっちゃけ家庭料理レベルのものばかりなんだよねぇ。普段、いいモノ食べてる領主様の舌に合えばいいんだけど」


「ああっ、ヒナさんが謙遜してるッス! こんな凄い料理作れるのに調子にのらないってズルいッス。自分だったら目玉焼きを焦がさずに焼けただけで村中に言いふらすッス!」


 キミの趣味は調子に乗る事かな?

 波乗りサーファーみたいでカッコいいね!


「……でも私から見たらアルサも充分凄いよ。その若さで勇者になる! って決めて故郷を出てさ。私がアルサくらいの年齢の時って将来のことなんかなんにも考えずにテキトーに暮らしてたもの」


「ええっ!? ちょ、急になんスか」


「もしかしたらアルサ、頑張ってるのにあまり褒められた事ないのかなーって。褒められる事をしてる人は誰か気付いた人がちゃんと褒めてあげないとね」


「ヒ、ヒナさん……」


 アルサの眼を見て真剣に話すと、彼女は恥ずかしそうにうつむいた。

 さっきの門番さんとのやりとりを見るに、自慢したがりのワリに素直に褒められるのは苦手らしい。


「まぁ私なんかに褒められても仕方ないかもだけど、でもならず者に襲われてた時も助けてくれたし、本当に凄いと思ってるよ」


「えへぇ~っ、いやあ、それほどでもあるッスけど……。うへへ。うへへへへへへっ!」


 などとヒマなのでアルサを調子に乗せて遊んでいると昨日、パワーさんの店に晩餐の事を依頼しに来た使いの人が部屋にやって来た。

 良い身なりだと思ったら、この人は執事長なんだって。


「皆さま、アレクサンドラ様がお呼びです。どうぞ、こちらへ」


「わかりました。行こう、パワーさん。代表者なんだから先頭よろしく」


「オウ! 任せとけッて!」


 魔族サイドの偉い人に会うのは魔王マリアのコネもあるからもうあんまり緊張しなくなったけど、人間サイドの偉い人はシャレが通じなさそうでドキドキしちゃうよ。

 面倒な挨拶なんかはなるべくパワーさんに押し付けてしまいたいところだ。

 実際、パワー食堂に依頼が来たのにヨソ者の私がしゃしゃり出るのも妙だしね。


「あの、ヒナさん……!」


「んっ?」


 執事長さんを追って控えの間を出ようとするとアルサがチョイチョイと私の服の裾を引っ張った。


「どしたのアルサ?」


「えと、自分……あんな風にマトモに認めてもらえたのって生まれて初めてかもッス。チョー元気出たッス」


 うんうん、そうかそうか。

 どれだけ調子に乗るのか遊び心で褒めてみたけど、褒めた内容にウソは無いからね。


「私ごときでよければいつでも褒めてあげるさ」


 ふわりと優しくアルサの頭をなでてあげる。

 なんか異世界に来てよく他人の頭をなでてるな私。

 頭なでるのって、なでる側もなんだか心地いいんだよね。

 私がオッサンだったらセクハラだけど女子だからちょっとナデナデするくらい許されるだろ、たぶん。


「……! はいッス! また褒めてもらえるように頑張るッス!」


 嬉しそうにアルサは微笑んだ。


「まあ次からは一回褒める度に金貨一枚ね」


「お金とるんスか!? しかも高っ!」


 ちなみに金貨一枚で福沢諭吉先生一人分の価値があるらしいですよ。

 

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