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1話 魔王軍にスカウトされる生活

「このいやしい私めを魔王軍で働かせてください」


 ノリで魔王を泣かせてしまった私はいきなり土下座してみた。


「グスッ……え、いいんですか?」


「魔王さまを試すような真似をしてすみませんでした。謝るから命だけは助けてくださいね」


 どうしよう、彼女の靴とかも舐めた方がいいのかな。

 あっ、ていうかコイツ、部屋に土足で……!


「そんな……! 頭を上げてください。魔王としての威厳が足りない私が悪いんですから……」


「だよね」


 土足で部屋を蹂躙する彼女への怒りで、私の土下座モードが一瞬で解除されました。


「というか、あなた服装と角以外はその辺の女子と変わらないんだもん。魔王ってもっと怖そうなのをイメージしてたんだけど」


「すみません、こんな情けない魔王で……私もまさか自分が魔王になるだなんて思ってもみなかったです」


 魔王は申し訳なさそうにうつむいてしまった。

 何やら複雑な事情がありそう。

 呪われた血の宿命とかそんな感じの重いやつ。

 魔王というわりには礼儀正しいし色々苦労と苦悩を重ねてきたのかも知れない。



「実は友達が勝手に私の事を魔王オーディションに応募してしまって……」



 ん?


「そのうえ先日のMAO総選挙で私が見事1位になっちゃいまして、えへへっ」


 えむえーおー総選挙?


 エム、エー、オー。


 エム……エー……ま?


「あっ、はい! はい! 分かった! 魔王総選挙だ!」


「はいっ、そうなんですぅ!」


 ほっぺたを桜色に染めて嬉しそうに手をポンっと叩く魔王ちゃん!


「私たちの歌が封入された魔石を買うと投票券がついてきてですね、それを買った魔族の信者さんが好きな魔王候補生に投票するんですよー」


 そんな秋葉原のアイドルみたいな方法で魔族の王を決めちゃっていいのかしらん。


「もしかして魔族って全員、バカ野郎なの?」


「はぅっ……魔界の神様にもそう言われて怒られました……」


 よかった。さすがに神様はバカじゃなかった。


 私は安心した。


「魔界はここ500年ほど平和だったから最近の魔族はたるんでるって……だから、たまには人類侵略とかしろ! って。さもなくば魔界の神様が魔族を全員ぶっ殺すぞって……」


 魔界の神様チョー怖え。全然安心できないよ!


「なるほど、事情はなんとなく分かったよ」


「分かっていただけましたか」


 魔王はホッと胸をなでおろす。


「でもそれならなんで私に声をかけるの?私も人類のはずだよね一応は。いくらなんでも人類の敵になるのはヤバいかな~って」


「あっ。それは二つの理由で大丈夫です」


 ほう、聞こうじゃないか。


「一つ目の理由は侵略するといっても私たちの世界の人類……あなたから見れば異世界の人類が対象です」


「異世界……! そういうの本当にあるんだ」


「はい。だからあなたが異世界で猟奇殺人を犯しても、あなたの世界で罪に問われることはないので安心ですね♪」


「はたしてそうかなぁ」


 たとえ無罪確定でも猟奇殺人とか嫌なんですけどー。


「あと二つ目の理由は私たち魔族も正直、人殺しとか嫌です」


「あっ、そうなんだ。生きたまま食う人間の心臓はうまいぜーとかそんな感じじゃないの?」


「嫌ああああっ!? なんでそんな怖い事考えられるんですか!」


 魔王は耳をふさいでブルブル震え始めた。

 そっちだって猟奇殺人なんて不謹慎ワードを口走ってたくせに。

 納得いかなかったが私は魔王の頭を再びなでなでしてあげた。


「よしよし」


「ふわぁ……私あたま撫でられるの結構好きみたいです……」


 う~ん、こういうなでやすい小動物飼いたいな……


「それで? 魔族も人殺しとか嫌だからどうだって?」


「あ、はい。だからなるべく殺生は避ける方向で侵略したいなぁってみんな思ってます」


 それ賛成。


「でも、侵略ってつまりは戦争だよね。命を奪わずに戦争なんてできるの?」


 私だって異世界の人間相手とはいえ殺生は嫌だ。

 だけど戦争映画とかドキュメント番組とか見る限り、そんな甘い話では無いように思える。



「えっと……人類全員を口ゲンカで泣かすとか。あと、街にたくさんのウンコをまき散らして降参させるぞ! とか魔族の将軍さんたちが連日寝ないで検討中です!」



 いったん寝ろよ。そしてシャキッとした頭でよく考え直せ。



 魔族って悪い奴らだと思ってたけど、心というか頭が悪い奴らなのかな。今時の小学生の方がよっぽど極悪非道なのでは。


「まぁというワケであなたの仕事も口ゲンカ将軍とかウンコ大元帥とかそういう感じなので人類の敵といっても気が楽じゃないですか?」


「はたしてそうかなぁ」


「もう! つれないですね。モンスターを殺して楽しくレベルアップしたいなんて恐ろしい事を呟いてたあなたにとってはかなり良い条件じゃないですか!」


 ウンコ大元帥になれと言われて良い条件と思える人類はいるのかな。



「あぁ、でも肝心のレベルアップについて聞いてなかったや。具体的には何をしたら私がどうなるの?」


「う~ん、口で説明するだけでは伝わりにくいかも知れませんね。さっきから反応が微妙ですし……」


 魔王はどうしよっかなーと考えるような顔をして


「ちょっと触れてもいいですか?」


「えっ」


 スッと私の腕に触れたと思うと魔王と私の足元からさっきと同じ光がパァ~っと溢れだし、目の前が真っ白になって何も見えなくなってしまった……!



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