7話 領主さまにご飯を作ってあげる生活
結局、領主からの依頼を引き受ける事にした。
パワーさんは気が進まないなら、と気を使ってくれたが私から是非にと頼んだのだ。
これで領主の館に堂々と侵入してネムリタケの胞子を仕込むことが出来る。
図らずも人類侵略計画は着々と進行するのであった。
そして翌日。
適当に宿をとって昼過ぎまでゆっくり休み、私たちは領主の館で晩餐を作るべく、いったんパワーさんの店に集合した。
なんでも馬車で迎えに来てくれるそうなので、準備をしてしばし待機する。
「ハァ~、まさかこんなカタチで謁見しに行くことになるとは思わなかったッス」
アルサも領主の館に用事があったんだよね。
ただ、勇者としてではなく料理のお手伝いさんとして行くワケだから、嬉しそうという感じでもなく微妙なテンションである。
「まぁまぁ。料理を気に入ったらご褒美くれるかもって使いの人も言ってたし、それを旅の支度金にしたらいいじゃん」
「そうッスねえ……。よっし、やるッス! オバケキュウリの処理は任せるッス!」
そんな話をしていると馬車がパカパカとお店の前にやって来た。
おお~、お馬さんって目の前で見ると結構デッカイ生き物だな。
などと思っていると杖を持った髪の長いイケメンが馬車から降りてきた。
「お待たせしました。私はアルティエラ卿に仕える魔術師リジッド。館まであなた方をご案内いたしましょう」
魔術師……!
若いのに杖なんかついちゃってどうしたの? って思ったが魔法使いと言えば杖だよね。
ゲームにおいて魔法使いは通常攻撃に杖で殴ったりするけど先っぽに包丁とかくくりつけておくワケにはいかないんだろうか。
いや、そんなヤツが街を歩いてたら怖いな……。
「どうされました? 私の顔に何か?」
私の熱い視線に気付いて声をかけてくるイケメン魔術師。
「あっ、すいません。えっと……」
魔術師を初めて見たから珍しくって!
と、正直に言おうとしたけど魔術師がこの世界に腐るほどいたとしたら不自然な発言になっちゃうしな。
ここは無難に……。
「あなたがすごくカッコいいので見とれてしまいました」
「でしょう? よく言われます。さぁどうぞ、遠慮せずよく見てください」
「は、はぁ」
リジッド氏は私から斜め45度の角度でクールにキメ顔をした。
魔術師ってみんなアタマがヘンなのかな?
私はすぐに偏見を抱くことにした。
「う、うぅ……」
すると後ろにいたマリアがうめき声をあげる。
私がイケメンとおしゃべりしてたからまたもや嫉妬芸を炸裂させるつもりだろうか。
そろそろバリエーションを増やした方がいいよと忠告しようとしたが彼女はお腹を抑えてしゃがみこむ。
「あっ、ちょっとマリア、大丈夫!?」
「す、すいません。急にお腹の調子が……」
苦しそうにお腹をさする。
「もしかしたらヒナさんとの赤ちゃんがお腹を蹴っているのかも、えへっ」
「それは良くないね。お腹をパンチして躾よう今すぐ」
「赤ちゃんにヒドイ事しないでください!」
「え? え? 冗談なんスか? それとも本当にお二人の……?」
「本当なワケあるか! どうせウンコが詰まってるだけだよ!」
「お、大きな声を出さないで下さい……。すいません、本当にちょっと宿で休んでていいですか?」
冗談ばかり言ってるが本当に苦しそうではある。
急にどうしたんだろう。
魔王でもお腹を壊すことってあるんだろうか。
「うーむ、まぁ嬢チャンは特に料理担当ってワケじゃないしなァ。無理する事はねェ。どうせなら俺の店で留守番しながら休んでてくれ」
「じゃあマリアを店の中に連れてくから。リジッドさん、すいませんけどちょっとお待ちを……」
「ええ。晩餐までまだ時間は充分ありますから、慌てなくて大丈夫ですよ」
私はよろめくマリアを支えながら店の奥へと連れていった。
壁際の長椅子に横になれるよう毛布でも敷こうか……などと思っていると。
「ふぅ、というのはウソっぱちでした。ちょっと事情がありまして」
「えっ?」
みんなの姿が見えなくなった途端、マリアはシャキッと背筋を伸ばす。
「あの魔術師、ああ見えてかなり鋭い魔力を感じますね。おそらく馬車に乗っている間に館へ向かう者をチェックする役割があるんでしょう。でなければわざわざ魔術師がいちいち客人を迎えに来るのも妙ですし」
「そういうことだったんだ。マリアの正体も見破られるってこと?」
「狭い馬車の中でじっくり調べられるとマズいと判断してとっさに演技をしました。あ、ヒナさんの赤ちゃんを孕みたいというのは演技では……」
「それじゃ私も見破られるのかな?」
「ヒナさんはほとんど人間なのでよほど怪しまれない限り大丈夫でしょう。それとヒナさんの赤ちゃんを孕みたいというのは演技では……」
「分かったよ、そっちはもういいよ! ああ……と言うことは私一人で胞子をばらまくしかない、と。つまり、そういうこと?」
コクリとマリアがうなづく。
「おおい、ネェチャン、嬢チャン! 大丈夫かー?」
「あっ、はーい。今行くよー」
外でパワーさんが催促してる。
まぁ元々、私一人でやる予定だったしな。
仕方ない、やるだけやってみるか!
「あの、ヒナさん。危ないと感じたら大声で私を呼んでくださいね。計画とかどうだっていいのですぐに駆けつけますから」
「分かった。ありがとうね」
「……本当にごめんなさい。大事な仕事を結局ヒナさん一人に押し付けてしまって」
マリアが深々と頭を下げる。
私はその頭を優しくなでてから外へと出た。
馬車には既に食材もアルサたちも乗り込んで待っている。
「彼女は大丈夫でしたか? さあ、どうぞ!」
魔術師が手を差し出してエスコートする。
穏やかな顔をしているが私が領主に仇なす敵ではないかと内心では魔力を使って探っているというワケか。
もう出たトコ勝負だな。
私は覚悟を決めて馬車に乗り込む。
コッチの世界に来てからブネさんのお腹の中に猛スピードで突入させられたり、野盗にとり囲まれたり、色々ヒドイ目に遭ってきたせいか思ったほど緊張しない自分にちょっと驚いた。
精神的に少しはレベルアップしてるってことかしら?




