6話 勇者と街をぶらり旅生活
「ヨッシャア、出来たぜ! 名付けてパワー肉ッ! 今日は俺のおごりだからよォ、たっぷり喰ってってくれ!」
店内に入ってしばらく待つとパワーさんが料理を作って持ってきてくれた。
豚バラ肉を炙り焼きにしたものらしい。
簡素な料理だが肉汁がじゅわぁっと染み溢れ、振りかけた塩と焼けた脂の匂いがとても食欲をそそる。
「じゃあ、いただきまぁす」
手を合わせていただきますしたあと、お箸が無いのでフォークでお肉を突き刺して口に運ぶ。
「んん~っ……!?」
はい、正解、はい、美味しい。
現代の豚は品種改良してエサにも肉の処理にも気を使って美味しくなってるワケだから、異世界の豚ってワイルドな味かも? と若干不安だったけどクッソ旨かったです!
特に私の場合、かれこれ3週間くらい肉を食べてなかったからね。
乾ききった喉に冷たい水が染み込むが如く、餓えた舌にじゅわわぁ~っと肉汁が染み込んでいってパネェですわ。
「うまっ、うまいッス! はぐもぐ!」
アルサも餓死寸前のブタみたいに豚肉を食べる食べる。
豚肉好きで言葉遣いも似ているからウチのオーク君たちと気が合うかも知れないね。
いや、でも勇者とオークって仲良く出来るのかなぁ。
「へへっ、いい食べっぷりだな! おかわりジャンジャン焼いてくるぜ!」
「待ってください。そんなお肉ばかり焼いて来られても栄養が偏ります。他のメニューは無いんですか、クソが」
マリアが冷ややかな表情でパワーさんを引き止める。
「マリア……ただでご馳走になってるんだから、そんな事言ったらあつかましいよ……」
「なっ、なんでかばうんですか!? こっ、この男が好きだからですか!? わぁあああああ悔しいいいいいっ!」
魔王マリアが熱い表情で頭がおかしくなった。
「なにっ、ネェチャンが俺の事を? やったぜ! 今日はツイてるな!」
「いや、違うから。マリアと軽い言葉のキャッチボールをしたつもりが殺人デッドボールになってしまっただけだから」
私、このお笑い芸人わりと好き~って感じのノリでパワーさんを評価しただけなのにこの有り様である。
テーブルに突っ伏していじけているマリアの頭を優しくなでながら流れを変えるべくパワーさんに注文しよう!
「それよりマリアの言うことも一理あるかな~。お代はちゃんと払うからパワーさんの別のパワー料理も食べてみたいね!」
「ワリィな、そんなモンは無ぇ」
「えっ?」
「ウチみたいなちっせぇ店は色んなモンごちゃごちゃ出すより、肉一品に絞って安く大量に仕入れる方が得だからな! 客も俺も!」
あ~、言われてみればそういうものか。
パワー食堂なりにやりくりしているんだね。
「まぁクソッタレ領主がクソ高い税金かけなきゃ色々とやりようはあんだろうがよ」
「ハァ……結局どこの村でも街でも、裕福なのは一部の上流階級の人だけなんスねぇ……」
おや。
元々アルサを元気づけるために食事に来たのに世知辛い現実を思い出してしまったようだ。
マリアの次は彼女の様子を気にしなきゃね。
なんか合コンを盛り上げる幹事になったみたい。
「あ、でもさ、でもさ! 肉と一緒に食べて合うものを二品、三品出した方が結果的には儲かるってことは無いの? まぁ素人意見なんだけど」
「おう、それがよ。俺もサラダくらい出せねぇもんかと野原を探し回ってキュウリの苗を見つけて畑で育てることにしたのよ」
「あっ。キュウリかぁ……。みずみずしいし、口の中はさっぱりする、かな?」
特別、焼き肉と合うってイメージはないけどね。
でもサラダ代わりに無いよりマシかも。
肉を食べる前に野菜を食べておくと脂肪の吸収を抑えられるとかネットで見たことあるし、女性や中年男性には嬉しい計らいだろう。
もっともキュウリがどこまで脂肪吸収の仕事をするかは知らないけど。
「じゃあ今はキュウリの成長待ちッスね!」
「いや、成長はした。しかしなぁ……なんか分っかンねぇけどバケモンみたいなキュウリしかならなくってな。俺の気合いを注入し過ぎたのがマズかったのかも知れねぇ」
そんな事あるの?
まぁファンタジー世界だし何が起こっても不思議じゃないけど……。
ベランダで育ててみたミニトマトがバケモノみたいなミニトマトになったら泣いちゃうな……。
「おっ、そうだ! せっかくだしネェチャンたちにも見せてやるよ!」
「面白そうッスね! ヒナさん見に行きましょッス!」
「ええええ……襲って来ないだろうね、そのオバケキュウリ」
なんか不気味なので気は進まなかったけど、アルサのテンションが上がってたので付き合う事にした。
「ほら、マリア。楽しくて不気味なキュウリツアーに行こう」
「……」
マリアはまだ不機嫌そうな顔をしている。
彼女なりに私と街に来るのを楽しみにしてたらしいが今のところ、あまり楽しむ要素がなくてさすがに申し訳ない気もしてきた。
「……ヒナさん、10回クイズをしましょう」
「えっ」
マリアが唐突に提案してきた。
いきなり何を言い出すかと思えば懐かしの10回クイズ?
魔族の間でも流行っていたんだろうか。
マリアは真剣な顔をしているようだけど……。
「いいよ。受けてたとう」
「ありがとうございます、では……」
ここはわざと間違えた方がいいんだろうか。
それとも本気で正解を狙う?
マリアの狙いが分からない……!
「『愛してる』って10回言ってください」
「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる、愛してるっ!」
「女子に二言は無いですね?」
「いや、あるけど」
女子は武士ではないからね。
「やったあああ! ヒナさんが私を愛してるって! テンション上がってキマシタワーーーーーーッ!!」
聞けよ。
まぁそれでキミが幸せなら私は何も言うまい。
彼女の行く末が心配でならないけど楽しそうだからいいか。
パワーさんの案内で街はずれにある畑地帯に到着した。
「おらよ、アレが俺のパワー畑だ」
相変わらず世界一、知性の無さそうな畑の名前だ。
そこで収穫した作物を食べると筋力がつく代わりに脳細胞が腐っていくかも知れない。
「げぇっ! なんスか、あのキュウリ!? いや、本当にキュウリなんスか!? ボコボコしてすげぇキショいッス!」
「なっ! なっ! バケモンみたいだろ!」
「確かに……想像していたよりちゃんとバケモノみたいなキュウリですね。まるでドラゴンの尾のようです」
三者三様な反応でオバケキュウリにドン引きしたり興味をもって観察したりしている。
そして……私はというと実はそのボコボコした姿には見覚えがあった。
「ねぇ、これで料理作っちゃダメかな?」
「えええええ!? こんなの食べてお腹ブッ壊さないッスか!?」
「そりゃいいけどよ。ネェチャン、悪ぃ事は言わねーからやめとけって。一か八かカジってみたがこの世のモンとも思えねー苦さだ。こりゃ幽世の食いもんだぜ」
「まぁいいからいいから。お姉さんに任せなさい」
「はい! ヒナさんの手作り料理を食べて腹痛を起こしたら出産の痛みだと思って興奮する事にしますね!」
私はパワー畑にたんまりと実っていたゴーヤをもいで、ついでに調味料を買って店へと戻ったのだった。




