5話 死霊と作戦会議する生活
翌日。
神様の祠を訪れて早速、キノコのこのこ大作戦を手伝ってくれるよう交渉すると神様はあっさりオーケーしてくれた。
「よいぞ。正直、魔族たちにカツを入れるというのはもののついで。街を占拠する方がワシには重要だからの」
「やった! ありがとうございます!」
一緒についてきたエッチさんが深々とおじぎをする。
「でも頼んでおいてなんですが、五万本ものキノコの成長を一斉にコントロールするって出来るものなんですか?」
おみやげに持ってきたクッキーをサクサク食べながら神様は指をクイクイっと動かした。
一瞬、手招きしてるのかな? と思ったけどそうではなく神様の指の動きに呼応するように湖のほとりの草花がニョキニョキと成長を始める。
「ふふん、こんなモンかの」
「うわあ……すっごい! すごいドヤ顔」
「ド、ドヤ顔で何が悪い! ワシがんばったじゃろ!?」
いや、私の性格はねじれてるのでつい軽口を叩いてしまったが実際、神様はすごかった。
湖周辺の草原がものの数秒でお花畑になってしまったのだ。
それもそこらの公園にあるような猫の額ほどの花壇程度ではなく北海道のラベンダー畑みたいに四方八方見渡す限り花、花、花ァ! で埋め尽くされている。
「これならヒナ様の作戦もパーフェクトに炸裂しそうですね!」
「いや~まぁ私の作戦って言っても細かいトコはイベっちが組み立ててくれたんだけどね~」
「いやいや、大したものじゃ」
「ふふん」
「うむ、誠に大したドヤ顔よのう」
「ド、ドヤ顔でもいいでしょ! 私なりにがんばったんだから!」
ゴーストたちにネムリタケの胞子を街に仕込んでもらって、神様が一気にキノコを成長させる。
そしたら街中の兵士たちをみんなに拘束してもらって街を統治している領主に降参させる、という手筈だ。
ちなみにライオン頭のマルバス君と鷲頭のイポスさんも部下たちを率いて協力してくれるそうで人手はバッチリ!
私の部下のオーク君たちだけじゃさすがに人手が、いや豚手? 豚足? が足りないので助かったよ。
「しかしエルシアドに限らず、領主がおるような建物には高位の魔術師が結界を張っとるであろうな」
魔術師! 結界!
中二病が好きそうなワードが続々と入場してまいりました。
味方ならいいけど相手側にそういうヘンなのがいるのは不安だなぁ。
「結界が張ってある以上、眠りの魔力がこもった胞子は弾かれるしゴーストたちも入り込めん。となると精鋭の騎士たちが守りを固める一番面倒な領主の館だけはネムリタケ無しの力づくで占拠せねばならん」
「ええ~……それって魔族のみんなで館を取り囲んだら諦めないかな?」
「そなたの家がもし恐ろしい魔族に取り囲まれたら大人しく投降するか?」
「ああ……家中の窓にバリケード設置します……」
コッチとしては命を奪うつもりはないけど、向こうはそんなの知る由もないんだからそりゃあ死に物狂いで抵抗するよね。
ここまで来たんなら敵味方一人の犠牲者も出さずに終わらせられないものか。
「たまたまその日に限って領主さんや騎士たちが一人残らず寝落ちしてる偶然とかないかなぁ」
「ヒナ様、それはいくらなんでも……」
「無いこともない」
「「えっ?」」
エッチさんと思わず声が重なる。
「戦乙女は種族としてはほぼ人間。つまりゴーストと違って結界は反応しない。魔力封じの小瓶にでも胞子を隠し持ち、事前に人間として堂々と領主の館に入り、内から胞子をこっそり仕込んでおけば当日はみんなグッスリというワケじゃ」
「なるほど! でもエッチさん、魔王軍に私以外の戦乙女っているの?」
「いませんね」
「じゃあ誰が行くの?」
「そなたじゃろ」
「嫌だああああああああ」
私は水辺でちゃぷちゃぷ漂ってた巨大ドラゴンのブネさんに飛びうつってすがりついた。
「助けて! ブネさん助けて!」
「グルォ……?」
「ああ、こらっ! ブネを困らせるな……! ん? ブネよ、何をまんざらでもない顔をしておるのじゃ。ワシというものがありながら……!」
神様から尋常ではない殺気を感じたので私は悪ふざけをすぐにやめた。
ブネさんも心なしかシュンとしているように見える。
以前カッコいいと褒めたら神様も喜んでたのにスキンシップはダメなのか。
難しいコっ!
「あの、領主の館って敵の中心部分ですよね? そんなキケン地帯にかよわい私が乗り込むなんて……」
「領主たちに殺されるのと領主たちが死ぬのと今ここでワシに殺されるのとどれが良いかよく考えるのじゃな」
「全部バッドエンドかよ!」
こうなったら一縷の望みに賭けて、領主の館に乗り込むしかないのか……
簿記とかの資格が欲しくて敵陣の真っ只中に飛び込むイカれたヤツ、私以外にいるのだろうか。
どうしてこうなった!




