1話 魔王軍にスカウトされる生活
「モシャモシャモシャ」
「あっ、何故このタイミングで食事を!?」
「冷めるから」
「納得です♪」
納得してくれた。
案外この魔王マリアとやらは話の分かる魔王なのかも知れない。
「それで? その魔王さまがここへ何しに来られたのかな」
「あ、はい。実は今、魔王軍の派遣社員を探してましてぇ」
魔王軍に派遣?
「あの、あなたレベルアップしたいんですよね?」
「ん、レベル……?」
またまた何言ってるんだと思ったが、確かに資格をとって、出来る仕事の幅を広げる事はレベルアップと言えなくもないか。
「まあ、そうだね。レベルアップしたいかも」
すると魔王マリアは壁に手をついてるので顔は見えないが嬉しそうな声をあげる。
「でしたら、魔王軍で働きませんか? うん、働きましょう! 決まり決まり!」
「ちょ、待って待ちやがれ」
「はい?」
「私の理解がちっとも追いつかないよ」
「でしょうね! ではではイチから説明しますね。ちょっと長くなりますが絶対によろしいですよね」
「強気だなあ。でもレベルアップなんて気になるワードが飛び出した以上は一応、聞くよ」
「やった! じゃあ一旦そちらを向いてもよろしいですか?」
「だめ」
魔王はシュンっとうなだれた。
あの体勢も疲れるんだろうな。
でも面白いからもうちょっとこのままにしておこう!
日頃の疲れからか隙あらばストレス解消したい体質の私はちょっといじわるモードに移行していた。ごめんね。
「それで? レベルアップって私は何をさせられるの?」
「はい。えーっと、ようはアレです。私が造り出した魔神の肉体に一時的に乗り移って人類を侵略するお仕事です」
……?
ゴクゴク。
「うーん、これはいよいよアレだね」
私はタンっと水を飲み干したコップをちゃぶ台に強めに置いて魔王マリアの話の流れを断ち切る。
「魔神に乗り移れとか人類侵略とかさぁ……ハッキリさせたいんだけど、あなた、冗談を言ってるの?それともその、ファンタジーとかに出てくる本物の魔王なの? 魔法とか使えちゃう系女子?」
「本物の魔王ですし魔法もお手のものですよ~、エヘッ♪」
「エヘッ♪ て言われてもねぇ……それじゃ証拠を見せてくれるかな? 今ここで実際に魔法を使ってみせるとか」
さっきの凄まじい光の柱の事を思えば多少、信憑性はある。
だけど長々と説明を受けた挙げ句、全て私をバカにするための嘘っぱちだったらたまったもんじゃない。
「望むところです! けど壁に手をついたまま手の平から炎とか出したらこの建物が燃えちゃいますので~」
「むむ、一休さんみたいに上手く言い逃れるね」
「別に言い逃れるつもりは……ただ、ソチラの方を向かせていただければなぁ~って」
隙あらばコッチを向きたがるね。
「だったらコチラに向けてるあなたのお尻からオナラみたいに小さな火を吹くなら安全じゃない? プォーッと」
「ひっ!? お、お尻からなんてそんな恥ずかしい事できません!」
「ふーん。じゃあ、この話は無かったということで……」
「う、うぅぅ……わ、わかりました……」
心なしか魔王の壁についた手がぷるぷる震えている。
「ハァっ……! ん……くっ……うっ!」
ドキドキしながらしばらく見守っていると
プゥポッ!
とコチラに突きだしたお尻から小さな火が出た。
「おぉ、すごいかも! 屁みたいな火が出たよ!」
大道芸レベルではあるが仕込みも無しにあんな事できないだろう。
魔王かどうかは知らないが少なくとも魔法みたいなものを扱えるのは確かなようだ。
「う、うぅぅ……グスッ……ヒック……」
「あっ」
泣いてる。お尻から火を出す行為がよっぽど恥ずかしかったのかな?
これ、もしもこのコが本当に魔王だったら私の命運も終わりだね。やっべぇぞ!
「よしよし泣かないで。ちょっとイジワルし過ぎたね。ごめんね。本当は私、あなたみたいに素直なコ、大好きなんだよ」
「えっ」
あること無いこと詰め合わせて魔王の頭を優しくなでなでしてあげる。
「はぅぅ……」
すると魔王は気持ち良さそうに目を閉じて私のされるがままに身を委ねてきた。
へへっ、このあと一体どうすれば私は無事でいられるのかな?
勝手に追い詰められた私は不敵に笑った。