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5話 死霊と作戦会議する生活


「どうだろう皆の衆。作戦が一向に決まらぬ現状を打破するために聡明なる戦乙女ヒナにさらなる意見を求めては」


「えっ」


 会議が始まって二時間ほど経過した頃、マルバス君が余計な事を言い出した。

 ウンコ大作戦は却下されたものの「死ぬ気で一斉に突撃しよう作戦」とか「人間に斬られても気合いで死なないぞ作戦」とかヤバい企画しか持ち上がらない。

 私はこのポンコツ会議に対してボケ芸人だらけのお笑い番組を観てるような感覚で内心楽しんでいたのだが、どうやらこれまでのようである。残念!


「どうでしょうかヒナさん」


 ほら、魔王まで私に振ってきたよ。

 しかし、そう言われてもねぇ。

 食品会社派遣社員の私に戦略アドバイザーなんか務まるワケがないっちゅーの!

 とはいえ、他の魔族も何故か注目してるしなぁ……。

 作戦なんか立てられないけど、せめて状況の整理くらいはしてみようか。


「え~っと、とりあえず双方の戦力差を把握しておきたいんですけど、どなたかお答えいただけますか?」


「確かイポスさんが空からエルシアドを偵察していましたね。答えてあげてください」


「了解しました」


 魔王に指名されて鷲頭のたくましい肉体をした魔族が起立した。

 その背中には立派な翼が生え、猛禽類を彷彿とさせる眼光は鋭く、一目見ただけで切れ者と予感させる。

 さっき私が鷹に例えられたが、この人はリアルに鷲視点で大空から状況を確認してきたというワケか。


「ではイポスさん、よろしくお願いします。早速ですが攻略対象の街、エルシアドの人口を大体でいいので教えていただけますか」


「いっぱい」


「ではエルシアドに常駐する兵の数は?」


「たくさん」


「対する魔王軍の兵の数は?」


「山盛り」


「山盛りとたくさんはどっちが強いんですか」


「わからない」


「あなたは何なら分かるのですか」


「わからない」


 イポスさんはギラリと眼光鋭く席に座った。

 鋭い眼光の持ち腐れだった。


「ヒナさん。イポスさんは三歩歩いたら何もかも忘れるトリ頭なのであまり難しいことは聞かないであげてくださいね」


 そんなヤツに偵察させちゃダメだろ!

 そして何故そんなトリ頭に答えさせたんだ!?


「なんというか、とりあえずこれが魔王軍の現状で~す」


 魔王が美しい唇に微笑をたたえたままテヘペロした。

 

「いや、あのー、さすがに自分のとこの戦力くらいは把握しておきましょーよ。あとちゃんと偵察して街の戦力もある程度は把握しとかないと」


「やっぱりそういうものですよねぇ」


 困った感じで頬に手を当てる魔王。


「う~ん。まぁ~そういうもんじゃないの、かな?」


 私もぶっちゃけ分かんないけど。

 大河ドラマとかで敵の兵の数は二万!とか急いで報告しに来る係の人とかよく見た気がする。

 でもアレ、二万人とかどうやって数えてるんだろうね。

 野鳥の会みたいな人が遠くから高速で数えているんだろうか。


「ふん、敵の数を調べようなどと惰弱なことを。マルバス殿もこんな者を頼るなど目が曇ったものよ」


「なにぃ、ではモラクス殿にはさぞ素晴らしい案があるのだろうな!?」


「フハハ! そんなものガッと攻め込んでワッと勝てばいいのだ」


 モラクスとかいう結構偉いらしい魔族がガッと発言した。

 他の魔族も「うむ」「モラクス伯爵の言う通りだ」などと激しく同意し始める。

 さっきからこういう高い役職っぽい魔族が力押し上等な作戦をごり押ししてくるので一向に話がまとまらない。

 もっとも私としては人類侵略なんてしたくないから、このまま無限ループでも構わないんだけどね。


「わぁ、すっごくカッコいいと思いますぅ。じゃあモラクス様のやり方でレッツゴーです」


「モハハ! 分かればよいのだ!」


 面倒になった私は会社で研ぎ澄ませた、とても爽やかな作り笑いをしてなめらかに着席した。

 

「はぁ……ではモラクス君、具体的には誰がどう攻め込むかもう決めちゃってもらえますか」


 心なしか魔王の笑顔が曇ってるような気がする……。

 私にちゃんとしたアイディアを出してほしかったんだろうか。

 漫画とかで偉い人が主人公にあえて真意を伝えず泳がせたりするが、やってほしい事があるなら最初からハッキリ言ってほしいものだ。

 まぁ言われたからってやるとは限らないけど。


「我輩が思うに最初の街はスライムに襲わせるのが基本である」


 スライム……。

 私がやったことあるゲームには出てこないんだけど、どんなヤツだっけと思っているとモラクス伯爵が黒板にチョークでスライムっぽいのを描いてくれた。

 大福みたいに丸っこいけど、やる気満々の目をしててわりと可愛い絵柄じゃないか。

 伯爵自体は迫力があって怖そうな牛なのに。


「スライムですか? だけどあのコたちは無知能生物ですから命令とか効いてくれないですよ」


「いやいや、マリア様。スライムというのはあくまで弱者の比喩。つまりレベルの低い兵士から突撃させてその身を犠牲にして道を切り拓き、徐々に兵士のレベルを上げて敵の中枢に刃をドシュッと突き立てるのですな」


「なるほど~ドシュッと! さすがですね!」


「ムハハ! さすがでしょう!」


 魔王が花のように可愛い笑顔を向けると伯爵はデレッと鼻の下を伸ばした。

 牛にまで人気があるなんてさすがに選挙で一位になってしまっただけの事はあるね。

 しっかし、弱いモンスターからぶつけて、やがて強いモンスターにしていくってゲームだと勇者を順調にレベルアップさせてしまう手法なんだけど大丈夫なんだろうか。

 勇者なんて者が存在するのかは知らないけど。


 まぁ知った事じゃないや、と窓の外を眺めようとすると私の席の前にツカツカと魔王が歩いてきた。

 

「ではではスライムと言えばヒナさんなので頑張ってくださいね」


「はぇ? がんばるってなにを……?」


「人類侵略」


 ハァアアアア!?


「おぉ、そうか。確かに新米魔族の小娘が魔王軍最弱部隊。栄光のスライムからだんだん強くしていくぞ大作戦の初手は任せたぞ」


「いや、いやいや! 私みたいなケツに卵の殻がついたヒヨッコが街にピヨピヨ攻め込んだら人間たちにナメられちゃいますって!」


「ふむ、確かに戦乙女ヒナは見た目は頼りないが抜け目がない。敵を油断させるには最高かも知れぬな」


 マルバス君も大賛成だ。

 アンタ、ウンコの件でどんだけ私の事を買ってるんだ!

 先陣切って最前線で戦うなんてあらゆる意味でまっぴらゴメンだぞ!


「みなさんも私みたいな新参者に先陣を任せるなんて嫌ですよね? ね? ね?」


 イポスさんと目があった。


「いっぱい がんばれ」


 イポスさんの言葉が何故か引き金になってオオオオォ~っと拍手が起きた。

 なんというか、もうなんでもいいから決定しようぜという確固たる意思と団結力がその場にいる者たちからヒシヒシと伝わってきた。

 くそっ、負けるもんか!


「あの、あの、私、やっぱりみんなで街にウンコをバラまくのも素敵かな~って。それもただのウンコじゃないですよ! 食生活の乱れたヘドロのように臭いウンコを……!」


「みんなぁ~! 今日は集まってくれて本当にありがと~!」


「うおおおおマリア様ぁ~!」

「マ・リ・ア! マ・リ・ア!」


「ではそろそろお開きということで、解散!」


 私の素晴らしいアイディアをかき消すように無情にも魔王がアイドルみたいにキラッ☆と終了の合図を出して作戦会議は幕を閉じた。

 席を立ち、ぞろぞろと本部から魔族たちが帰っていく。

 私はというと「アンコール! アンコール! アンコール! アンコール!」と一人いつまでも虚しく叫び続けていたのだった……。






「よぉよぉ。なんだか面白い事になっちまったなぁ!」


「へ?」


 振り向くと黒いゴスロリ服を来た小柄な女のコがニヤニヤとナマイキそうな笑みを浮かべて宙に浮いている。

 確か幹部の一人だっけ。

 会議中、部屋の中にはいたものの終始退屈そうに机に突っ伏していただけなので名前や性格はまったく分からない。


「私にはまったく面白くないんですけど……。何かご用ですか?」


「ああ、そうだ。大いにご用があるのさ。とりあえずアタシはイベリコ豚子。アンタのゴキゲンな相棒の名前だからよーく覚えときな」


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