1話 魔王軍にスカウトされる生活
「ウフフっ。こんばん……うわぁあああああああ!?」
コスプレ女子が眼を開けると私が包丁の刃を私の首筋に押し当てているショッキング映像を目の当たりにした。
「えっ、え?」
よし、驚いてる驚いてる。ざまあみろ!
「へへっ、死ぬぜ~! わ、私が死ぬぜ~!?」
「ちょ、え、待って! 今どういう状況なんですか!?」
「それはコッチのセリフだよ! いきなり怪しいヤツが光の中からパパラパ~ってカッコよく登場して一般人が正気を保てるとでも思ったの!?」
「す、すいませんゴメンなさい! 正直ちょっと調子に乗ってました! あ、謝るから刃物をおろして……命を大切にしてください……」
コスプレ女子はちゃぶ台の上ですっかりオロオロしている。
どうやらこの場を支配したのは私のようだね。
さてさて、気が動転してとっさに自分の命を人質にとってみたものの、これからどうしたものか。
というかこのコなんなの?
あの光の柱(もう消えているが)はドッキリ的なテレビ番組の仕掛けかとも一瞬思ったが、今の科学技術で出来るレベルの事ではなかったような……。
私があれこれ考えてるとコスプレ女子がおずおずと話しかけてくる。
「あの~、ちょっとは落ち着きました? よかったら自己紹介をさせてほしいな~、って」
「あ~、ごめん。まだちょっと怖いかな……。話したい事があるなら悪いけどアッチ向きで壁に両手をついてからにしてくれる?」
「えぇ……あ、はい……」
黒いドレスの彼女は大人しく私に背を向け、壁に両手をついた。若々しくて張りのあるお尻のカタチが布の上からでもハッキリ見てとれる。
へっへっへ。いい眺めだね!
って、一体これはなんの時間なのだと思いながら首に押しあてていた包丁をそーっと降ろす私。
「じゃあ自己紹介どうぞ」
「あ、ハイ。えっとですね、こんなポーズで名乗ると説得力ないんですけど、私は魔王マリアと言いましてですね」
「うん……うん?」
まおうまりあ。
マオウマリア?
「姓がマオウで名がマリア?」
「いえいえ~職業が魔王で名前がマリアです♪」
なに言ってんだコイツ。
魔王ってアレかい?
ゲームとかに出てくる、あの、なんかバカみたいにやたら世界征服したがってる頭がアレなヤツなのかい?
うーむ。
少し考える時間が欲しかった私は冷めないうちにモヤシとニラの炒め物を食べてしまう事にした。