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4話 魔界の神様に会いに行く生活

 エッチさんが用意するというゴミみたいなお土産、略してゴミヤゲで本当に喜んでくれたらいいんだけど……

 相手はヤバそうな神様。粗相があってはならないし、軽くリサーチはしとこう。

 というワケで魔王城でもっとも食に詳しそうな者がいる調理場へと向かった。


「あら、ヒナじゃない。調子はどう?」


「気分は上々だよ。セーレさんこそ今どんな気持ち?」


「気分は爽快よ。イキのいい気色悪い魚が手に入ってね」


 そういって目玉が飛び出した深海魚みたいなグロテスクな魚を見せつけてくれたのは魔族的には一流シェフのセーレさん。

 見た目は人間っぽいがデーモン族っていう種族で耳が少し尖っている女性魔族だ。

 美人でクールな仕事人といった感じで第一印象は好印象だったがゲテモノ好きなのが残念でならない。


「そんな目玉があべし状態な魚が本当に美味しいの?」


「もちろんよ。目玉が飛び出るほど美味い! ってよく言うでしょ?」


 目玉が飛び出てる食材ほど美味しいって意味では決してないと思うけどなぁ。

 まぁでも魔王城では実際、人気があるシェフだしほっとこう。


「ところでセーレさん、魔界の神様の味の好みって知らないかな」


「神様の好み? そうね……以前、お供え物に魚料理を持っていった事があったけど、なんか激怒してたわね。ものすごく」


 私は思わずグロテスクな魚に目をやった。

 すると魚はまだ生きてたらしくゲボォッっとドロドロした体液を内臓ごと口からブチまけてピクピクしている。

 こんなもの出されたら私も激怒すると思うけどな。


「たぶん、神様は魚が嫌いなのよ」


キリッとした顔でセーレさんは言い切った。


「魚、というかセーレさんのチョイスした食材が嫌いだった可能性はないかな」


「それはないわね。だってあの時の魚は魔界で最強にグロいとされるゾンビマグロの大ヘドロの盛り合わせだったのよ?」


「大トロじゃなくて大ヘドロ?」


「グロいからすごく美味しいわよぉ?あっ、今度特別に食べさせ……」


「いらない」


グロいから美味しい、ってワケが分からないよ。


「まぁアレよ。神様にお供え物ならバナナでも持っていきなさいよ」


「そんなチンパンジーじゃないんだから……」


「いや本当に。魚料理以外にも色々試したけれど結局フルーツをそのまま持ってくのが一番という結論に至った実体験からくるアドバイスよ」


 ほうほう。

 フルーツは食べる。グロい料理は食べない。

 となれば何かスイーツでも作って持ってくと案外お喜びになるかも知れない。

 私の世界のスイーツなんてコッチの住人には珍しいだろうし。

 とはいえコッチの世界はウチの世界ほど食材や調味料が揃ってないし、私のつたない女子力で明日までに作れるものは限られそうだ。

 スイーツに使えそうなものはパン、ミルク、卵にバター、あと蜂蜜もあるのか……


「よし、とりあえずフレンチトーストでも作ってみよっかな」


「フレん家ゴースト? 私の友達で家がオバケ屋敷の者がいるけど役に立ちそう?」


「セーレさんありがと~!ちょっと黙っててくれる?」


「ええ、任せて!」


セーレさんはとびっきりの笑顔で黙った。


 私はまず卵を二つ割ってミルク、砂糖を入れてカシャカシャかき混ぜた。そしてパンを手頃な大きさにカットしたのち溶き卵に浸す。フライパンでバターを熱して溶かしたら、黄身が染み込んだパンを並べて焼く。

 ジュウゥゥゥゥっとパンが溶けたバターとともに香ばしい音を立てて焼けるとひっくり返し、両面ふんわり焼けたらフレンチトーストの出来上がり!

 家で結構作ってたのでいい感じにふかふか。魔法を使った火の調理器具も良い仕事してくれた。

 本当はふわっふわなパンケーキが作りたかったけど色々足りないものがあったのでこれでよしとしよう。


「ヒナ、完成したの?」


「あ、ちょっと待って。最後に仕上げが……」


 バナナを薄くスライスしてパンにのっけてハチミツをかける。

 そしてついに完成した。

 ハチミツがけバナナのせフレンチトーストが!


「本当はリコッタパンケーキでも作りたかったけど限られた食材でよくやった方だよね私」


「理想とは違うの?」


「まぁね。せめてもうちょっとトッピング出来れば見た目の華やかさでスイーツ感が増すんだけど」


 フレンチトーストではパンケーキの食感に個人的には劣る気がする。

 なので生クリームやフルーツソースでものっけたいところだが無いものは仕方ない。


「物足りないならお腹に蜜を貯めた蜜蟻をうじゃうじゃトッピングしたらどうかしら。数十匹の蟻がたかるパンってなかなか幻想的じゃない?」


「セーレさんありがと~! ちょっと両手を頭の後ろで組んで地面に膝をついてくれる?」


「ええ、任せて!」


 セーレさんはとびっきりの笑顔で両手を頭の後ろで組んで地面に膝をついた。まるで捕虜みたい。

 そんな彼女を無視してさっそく一切れ、フォークで刺してパンをバナナごと口に運ぶ。

 すると口の中いっぱいにジュワァッとバターの香ばしさとバナナとハチミツの芳醇な甘味がハーモニーとなって……ええぃ、とにかく美味かった!

 特にここに来てから二週間ぶりのまともな食事でもあるからね。これからはたまに何か作りに来ようかな。


「はい、セーレさん。あーんして」


 魔族のゲテモノ好きカリスマシェフがスイーツにどんな反応を示すか興味あるよね。

 両手を頭の後ろで組んだままの彼女の口の前にフレンチトーストを差し出す。


「フッ。ヒナ、悪いけど私もプロよ? そんな不気味さの欠片も無い惰弱な食べ物なんてハグッ……もぐもぐ……うんまああああああああああああああいっ♪」


 いつもクールな彼女が目をキラキラさせてスイーツを頬張る姿はただの女子っぽくてなんか可愛らしかった。


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