3話 豚さんと草むしりする生活
「……なんスか?」
ライ君が豚なりに怪訝な表情をして私の方を見る。
なかなかムカつく顔してるがここは穏便に。
「草を千切っちゃダメ。それじゃ一週間後には元通りだよ。根こそぎ引っこ抜かなきゃ」
私は大根のように雑草を根っこごとズボボッと引き抜いて見せた。
一方、オーク君たちが作業した後の地面には草の根本がビッシリ残っている。柔らかい草の部分を千切ってただけみたいだ。
「えぇ……だけど戦乙女様。この草、結構頑丈なんスわ。根こそぎ抜こうとすると手が痛くなるス。面倒っス。嫌っス。お断りっス」
っスっスっスっスっうるさいな。
「だけどだけど、伸びてきたらまた草をむしり直す事になるんだよ? 面倒でも二度と生えないようにしとけば後々の事を考えると結局それが一番ラクでしょ」
「俺、後先の事は考えないっス。今だけを見据えて閃光のようにまぶしく生きるっス」
こ、こいつ……!!
カッコいい言い訳を!?
「さすがラインハルトさんだ! しびれるッス!」
「俺がメス豚だったら抱かれてもいいっス!」
他のオーク君たちが豚だけにブーブー! とライ君を称えて盛り上がってるのかブーイングなのかよく分からない雄叫びをブーブー上げた。
「俺たちは死んでも草を根こそぎ引っこ抜かねぇぞォ!」
「何故なら手が痛くなっちゃうからなァ!」
「うぉぉおぉラインハルト! ラインハルト! ラインハルト!」
ライくんの音頭で他のオークくんたちも活気づく。
すごい……! 豚肉どもの心が一つになっている……!!
私は面倒くさくなって全員ブッ殺したくなった。
ので、エッチさんに小声で相談した。
「ねぇねぇ、私の体って凄いパワーの魔神なんだよね? 今すぐあのクソ豚どもを挽き肉にする事って出来るかな?」
「えっ、えっ? ええぇええっ!?」
エッチさんがドン引きした。
「ヒナ様ぁ……カッコ良すぎて濡れますぅ……んっ」
今度は私がエッチさんにドン引きした。
いけないいけない、深呼吸深呼吸。スーハースーハー。
普段は温厚な私だがヤンキーとか暴走族とか嫌い過ぎて街中で迷惑行為を見かけるとよく頭の中で血祭りにあげる傾向がある。
もちろん面と向かってガツンという度胸は一ミクロンも持ち合わせていないヘタレだけどね!
騒ぎ立てるオーク君たちが少し落ち着いたのを見計らって静かな声で話しかけた。
「コホン。キミたちの主張に正当性があるなら私も聞き入れるけど、ラクしたい一心で言い訳するのは良くないゾ」
私はツンッとライ君の豚鼻をつついた。
ライ君はムスッっとして鼻からフゴルフゥ~ッと不機嫌そうに息を噴く。
「ライ君。上司に注意された場合はムカついても『ありがとうございます!』の精神で受け入れてみて。それを続ければ結果的にはキミたちのレベルアップにつながるのだから」
「……」
なおもライ君はむくれ続けているので両手でガシッと彼の顔を挟んで真正面から目と目を合わせる。
「むぐ……」
「ほら、じゃあ言って。ありがとうございます。さん、ハイ」
「……あ、りがとうございます……っス」
逃げられないと悟ったか、不服そうに感謝の言葉をのべるライ君。
いかにも不満タラタラといった態度で草の根っこを引き抜き始める。
とりあえず注意に成功して内心ホッとするが……
う~ん、しかし、そんなに自分のやり方を否定されるのは嫌かね。
私も基本はグータラだけど仕事である以上は真面目にやるし、注意されて改善点があるようなら素直に受け入れるけどな。それで仕事スキルが上達すれば自分自身のためになるからね。
どうも彼らは働く心構えがなってない。
仕事と人生をなめくさり、挙げ句の果てにはバイト先のアイスケースに入ってSNSを大炎上させる学生アルバイトと同レベルだ。
しばらく魔王軍ライフを送る上で色々、厄介事にも巻き込まれる事もあるかも知れない。そんな時、彼らの力を借りたい所だが、今のうちに意識改革をしておかないとあとあと支障をきたすかも。
「ま、これは上司である私が率先してお手本にならなきゃダメか」
正論だけ押し付けて、自身は何もしない上司の言うことなんか誰も聞きたかないだろう。
私はオークたちの倍の速度で草を引き抜き続ける。