3話 豚さんと草むしりする生活
「じゃあ、ライ君のグループはとにかく雑草を抜いて、メン君のグループは抜かれた雑草を一ヶ所に集めて、それからそれから……」
「うぃーす」
「へぃーす」
オーク君たちに指示を出し、私はいったん休憩することにした。
体力的には疲れてないが一時間近く黙々と草むしりしてたワケだから精神的には一服したい気分。
一服といってもタバコのニオイは苦手なので喫煙したいワケではないよ。お茶の一杯でも飲みたいな。
「ヒナ様、よろしかったらどうぞ!」
エッチさんが真っ白な清潔な布を渡してくれた。
「うん、ありがとね」
そして私が汗を拭く間に、用意してあった水差しからグラスに飲み物を注いでくれる。
彼女からグラスを受けとるとヒンヤリとした飲み物の冷たさを手のひらに感じた。
この世界にも冷蔵庫的なものがあるのだろうか。
「ゴクリゴクリ、はぁ~美味しい。これハチミツと果物ぽいね」
「あの、ヒナ様……さっきは申し訳ありませんでした」
「あんまし気にしないでよ~。私もわりと適当なんだから……それより私の配下だか部下だかって彼らで全部なの?」
「はい。ヒナ様は現在、幹部ランク1なのであれくらいの数、質が妥当かと」
「幹部ランクなんてあるんだ」
「レベルとは別に設定されてます。強さや活躍ぶりも影響しますが、なんといっても魔王様に信頼されてるかどうかが重要ですね」
重要ですね、ったって私は自分がレベルアップすることが一番の目的だからね。別に魔王軍の中でビッグな存在に成り上がりたいワケではない。
「しかし私、魔王サマにはわりと気に入られてるかなと思ってたけど自惚れてたみたいだね。ランク1って事は全然信頼されてないって事だし」
まぁ入社1日で信頼もクソもないか。
「そんな事ないですよ。幹部は気難しい方が多いのでヒナ様みたいに気軽に接することができる幹部がいればマリア様も心安らぐはずです」
「そんなもんなんだ」
「ただ魔族ってそれぞれ我が強いので、配下と言っても統率をとることは難しいみたいです。万の軍勢を率いていても配下の心はバラバラという大幹部がほとんどで……」
チラリと向こうで働いているオーク君たちの方を見るエッチさん。
「なのでヒナ様にはまずあのオークたちをキチンと統率して、命令に忠実な軍勢を少しずつ確実に拡大していって欲しいとマリア様は望まれているのかと」
「軍勢、ねぇ……」
すいません。
昨日まで食品卸売り会社でヨーグルトや加工肉食品をメーカー発注して各店に出荷したり、店に届いたトマトが大根の箱の下敷きになって世紀末みたいにグチャグチャに潰れてたとかってクレームを処理してた私に「軍勢」とか言われてもまったくピンと来ないんだけど……
異世界にワープした物語の主人公って、平和な日本でゲームとネットばっかりやって育ったくせにモンスターとの殺し合いや国家間の争いとかにいきなり巻き込まれてよく適応できるよねぇ。
まぁいいや。私は私のやれる事を出来る範囲でやろう。
とりあえずはお城の草むしりを終わらせてレベルアップだ!
休憩を終えてオーク君たちの様子を見に行く。
進捗状況はまずまずで、背の高い雑草がかなりの範囲で除去されて結構、見通しがよくなってる。
と、思われたが……
「ああぁぁ……そうきたか」
私はブチブチと雑草を引きちぎるライ君の肩をぽんぽんと叩いた。