3話 豚さんと草むしりする生活
案内された場所はなんというか密林だった。
ジャングルだった。見渡す限りの木、木、木。あと雑草。
あちこちからギャア! ギャア! とけたたましい鳥の鳴き声が響き渡り、その辺の木に足が30本くらいある手の平サイズの気色悪い虫たちも蠢いていた。
「私のイメージしてた庭園じゃないよ?」
「ではイメージ通りの庭園にして下さい」
「こいつぅ~ッ」
澄ました表情がなんとなく気に入らなかったのでガッと腹いせにエッチさんの頭の羽を引っ張ってやった。
「ひぎぃっ! 羽はやめてくだしあぇ!」
「ふぅ……」
少しスッキリした私は覚悟を決めて草むしりを開始した。
「というか魔王城ご自慢の庭園がなんで雑草生え放題なんだろう。庭師的な存在っていないの?」
「草むしりなどと真面目な行為、魔族の風上にもおけない! ……という風潮がありまして」
「魔族って教室の掃除を真面目にする事をカッコ悪いと思ってる男子中学生並の精神構造なのかね」
まぁ掃除がカッコ悪いというより先生の言う事に大人しく従うのが嫌って感じなんだろうけど。
魔族がそんな社会不適合者ばかりだと付き合ってくのが大変そう。
なんて事を考えながら魔神のパワーと体力でブチブチブチブチ根っこごと雑草を引き抜いていく。
さすがにほっとけないのかエッチさんも何も言わずに手伝い始めてくれた。
抜いても抜いてもキリがない、と思いつつも一時間くらい無心で引き抜きまくり続けると多少、人が通りやすい道らしきスペースも出来てきた。
やったね!
ただし、まだ東京ドーム30個分くらいの範囲に雑草が残ってるように見えるけど。
「庭園広すぎ! 雑草多すぎ!」
「まぁ誰かから命令を受けたワケではないですし、嫌なら辞めても問題はありません」
「えーっと、途中で辞めた場合って草むしりクエストの経験値はどうなるの? 少しはもらえる?」
「草をむしった分の経験値は微量ながら稼げるでしょうけどクエスト経験値は全く加算されません」
そういうもんだろうね。
まぁ、草むしりを投げ出しても、これより簡単で楽勝なクエストなんか無い気がする。
だったら少なくとも一時間分は進行させたこのクエストを続行した方が良さそうだ。
「とはいえコレは……草むしりだけで一か月かかりそうだよ」
一か月、という事は毎日、東京ドーム一個分の雑草を抜くのがノルマか。へへっ! 吐きそう。
「では配下の者に手伝わせては?」
「え? エッチさん以外にもそういうのいるんだ。呼んで呼んで!」
了解しました、と言ってエッチさんは配下とやらを呼びにいったん城の中へ姿を消した。
しかし、現実世界では部下とかいた時ないのにいきなり配下を従えるなんて上手くやっていけるのかしら。
多少、アホのコであっても素直な性格ならば上司初心者の私でも扱いやすいのだが。可愛げって大事だよね。
ああ、でもナマイキでクールでいいニオイのイケメン魔族だったらどうしたらいいのかな。
彼ったら最初はイジワルで素直に私の言うこと聞いてくれないんだけど、だんだんドジでお茶目で明け透けな私の魅力にハマって壁ドンされてデートに誘われて魔族と人間の禁断の愛の劇場が近日公開予定!
などと楽しい妄想で身をクネクネさせながら草をむしりまくってると城の方からエッチさんが大勢の豚たちを引き連れて歩いて来るのが見えた。
……豚だと?
いや、豚といっても人間みたいな手足があって服を着て二足歩行で体は人間よりちょっと大きいという程度で頭だけがとにかく豚。
それが30人(匹?)ほど。
「ヒナ様ぁ、配下の者どもを連れてまいりました!」
「へぇ」
すでに私はどうでもよくなっていた。