未完という名のエピローグ
「あああっ! 恥ずかしいです! 先輩むっちゃ恥ずかしいです!」
「まぁうん、自分が演技している姿を映像で見るのは恥ずかしいよね?」
「演技より台詞が恥ずかしいです先輩! なんで止めてくれなかったんですか!」
ノートパソコンの中で神を自称している少女は己の迸る厨2的脚本によって心を砕かれる寸前になりながら頭を抱えて震えていた。それを横目で見ながら動画の中で死んだ少年を演じていた男子学生はほほえましい物を見る様な視線を後輩である女子学生に向けている。
場所は先ほどの教室ではなく、その半分程度の広さしかない文化系の部室。大量のライトやカメラやフフィルムが積まれた間の狭いスペースに並べられた長机ので行われた黒歴史の上映会は序盤の序盤。プロローグが終わる前に幕を閉じる事となった。
「だから何度も言ったじゃん、もうちょっと普通の脚本でいこうって」
「書いた直後は神った脚本だと思ってたんですよ。最近流行りの神様転生だけど異世界じゃないしここからB級映画的モンスターに転生する主人公を自称神がおちょくりつつ最終的に普通の高校生としての人生を二人で歩み始めました的ハッピーエンド!」
「ああまぁ、色々やれて楽しくはあったけどね」
男子学生はここ一カ月にやらかした事を思い出す。フリーのサメ動画を集めて編集しそれっぽくまとめたり、水を張った透明なプラスチック製のタライに食紅を流して海に血が流れるシーンを撮影したり。エキストラ不足から自分と後輩の二人でメインキャストを演じる羽目になったり。カエル男に転生した主人公を演じる為に黄色い雨合羽を緑のペンキで塗り直したり。食人キノコを演じる為不要になったカーテンを服飾部の皆と縫い合わせている時には変な笑いが止まらなかった。
どれもこれもくだらなく、それでいて腹を抱えて笑えるようなエピソードではないけれど、暫くたてば懐かしい思い出に変わる事だけは確信している。
「せんぱーい、高校生映画大会の締め切りまであと3日しかないんですよー? 撮れてるシーンって予定の半分ですしもう無理です。私が演技出来ないですしそもそも時間が間に合いませんし!」
「大丈夫、今までうちの部活で撮った映像を切り貼りしたらそれなりに形になるし。ほら最終シーンはこの前撮ったから、終わりよければすべてよしって感じで纏めるだけならどうにでもなると思うよ?」
無慈悲な先輩からの宣告にギャーと女の子らしからぬ悲鳴を上げて逃げていく女子学生。その背中をはははと笑いながら見つめた後、男子学生は編集作業に取り掛かる。まぁ別に売りものではないのだ。出来が良ければ嬉しいが、そうでなくとも楽しみながら作ったのなら意味があるし、いつも生意気な後輩をぎゃふんと言わせることが出来るのなら3日程パソコンの前に座って編集する程度のことは苦労の内に入らない。
季節は6月が過ぎ去って完全に夏がやってくる直前。クーラーのない部室に外の風を届ける為に開け放しになった窓からやってくる風を感じつつ男子生徒は少しでも彼女の処女作が形になるように動画を繋ぎ世界を作り自分なりにその物語の結末を固めていくのであった。




