プロローグ
目を覚まし、身を起こすとそこは放課後の教室だった。小物の様子からおそらくは高校、少なくとも小学校のように青空とか希望とか覇道とかそんなかんじの習字課題が飾られている事はない。
「ようやくドンキホーテがお目覚めね、自分の名前は覚えている?」
振り向くと教壇に少女が一人座って挑発的な視線と、スカートの隙間から白いパンツをこちらに向けていた。姿勢を見るに恐らくはギリギリを狙って居るのだろうが床に座った状態のこちらからは結構しっかり確認できる。無言で視線を上に向ければ絵に描いたようなドヤ顔で、気づいていないのかそれとも仮に見えても問題無いと思っているのかは分からない。
「なんだよ、そりゃ名前くらいしっかり覚えているに――」
次の瞬間、頭に痛みが走った。鋭いというよりは曇天が長時間続いた後の脳みそが真綿でしめられるようなそれを百倍にしたような。頭痛というよりは万力で脳味噌をプレスされるような感覚に身をよじり、周囲の椅子と机を蹴飛ばし倒れたそれが腹に落ちて更に悶える事となる。
「おおっとしっかり、貴方ってさっきまで死にかけていたというよりも現在進行形で死にかけているんだから。まったく子供を庇ってトラックにはねられるなんてベタな光景だけど案外見た事がないシーンナンバーワンを体験するなんて幸運なのか不運なのか分からないわね」
それを聞いた瞬間、脳裏にフラッシュバックする光景。まるで教習所で見せられる交通事故モデルケースのような流れで突っ込んで来るトラックと道端で遊ぶ少女。一気に粗くなる視界、学生鞄を投げ捨てて走り込む自分、雑な血のりのような赤で染められる視界と濡れていく学ラン。
本当にテンプレートな流れが極まっておりため息すら出てこないし、ついでに自分の名前すら出てこないのが笑えなかった。
「それで、あんたは何で俺にどうして欲しいんだ?」
「私は神で、貴方に生き返って欲しい。理由は暇つぶしを兼ねたボランティアよ」
黒髪ツインテールのセーラー服で美少女な自称神は教壇から跳び下り彼に向かって歩いてくる。夕暮れの教室と、彼女自身の美しさで、日本全国探さなくともありそうな光景はギリギリ神秘的と、もしかしたら本当に彼女が超常の存在なのかとほんの少しだけ彼に思わせる位は雰囲気があった。しかし彼女の表情と幼げな雰囲気のせいで、神と言うより小悪魔めいていた。
「その代わり、なにかやれって展開か?」
「転生って知ってる? 最近メジャーを通り越して王道なアレ」
ふふんと鼻を鳴らす自称神。しかし王道と呼ぶには特異な展開である事には変わりなく他の物を見たいという読者と、新しい展開を用意出来ない作者の狭間で今だ拡大再生産が恐らくは他の新しい流行が起こるまで続けられるのだろう。小説から漫画に、そしてアニメに無秩序に広がっていく使い古されたモチーフが実写に届くのもそう遠い話ではないだろう。
「それで転生して勇者になって魔王を倒せと?」
「流石にそんなベタな展開じゃ楽しくないし、目的に沿わないわ」
芝居っぽい動作でくるっと回る自称神、練習無しならそれこそターンに失敗してこけて机に頭をぶつけたり、そのまま倒れて顎を打ったり、上手く回れず横向きになったり、果てには綺麗に回り過ぎて一周してしまったりするのだろうがちゃんと180度回って後ろ向きになりそのまま黒板の方に歩を進めながら言葉を続ける。
「六道ってわかるでしょ? 神の世界を現す天道、人の世界を現す人道、そしてその下に修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道と続く訳で。簡単に表すと魂の階級。そして今の貴方は死んだことで畜生道に落ちていて、このままではそこから単純に無限のやり直しを経て修羅道を通り、人道に戻らなければ蘇れない」
「分かりやすく説明してくれ、正直意味が分からない」
普通の人は仏教用語を聞いてポンポン先の展開がわかるような事は無い。これで次の展開を予測できるのは恐らく特殊な訓練を受けたオタク位のものだろう。少なくとも今ここにいる交通事故で死亡した男子高校生には分からない。
「つまり畜生、人以外の化物になってカルマ―― 経験値を貯めてレベルアップ! そんで人道まで戻ってこよう! 今なら既読スキップモード採用により経験値を稼ぐ場面をこなすだけでOK! その上で貯まった経験値を消費して今の人生にそのまま接続されるサービスも完備してるよやったね!」
「なぁそれ結構ガチで仏教的な意味での転生を重ねてね? って事なんじゃ?」
「だ、大丈夫。ちゃんと神様チートも付けるからね?」
はぁとため息をついて自称神の顔を見る。ちょっと断ろうかという空気を込めて放った言葉に対し、表情を変えながらいやいや異形転生流行りだし普通に乗ってくるのがテンプレじゃないのさぁーと混乱している様子を見るのは溜飲が下がる部分もあるがこのままでは話が進まない。
「それで畜生に転生して何をすれば? 兎になって火の中に飛び込めと?」
「まぁ一般的には経験値もといカルマの稼ぎ方って ――けど違う」
ニヤリと先ほどまで慌てていた顔を笑みで歪める自称神、その落差に背筋に怖気を感じる。これまで普通の少女みたいに振る舞っていたからこそまるで邪悪な存在であるかのように彼にとっては感じられ、そして次の瞬間想像もしていなかった言葉がその唇から紡がれる。
「畜生として、人を殺して頂戴。その身を犠牲に徳を成すのではなく、悪徳を行うモノを狩る結果としてカルマを貯めるのよ」
その言葉は本当に軽く、笑いながら飛びだして、男子高校生の耳と心に突き刺さったのだった。
ねぇ、本当にこの流れでいくのかい?
当たり前です先輩! 設定も結構いけると思うし、映像もいい感じですよ!
君ターン十回位リテイクしましたよね?
せ、先輩だってスカートの中を見て顔を赤くしてたじゃない!
そりゃ男だからね、その下がスク水だって興奮しますよ!
うわぁ…… ちょっとドン引きです先輩。
そこでマジな顔にならないで、心折れそう。




