新たな手掛かり
翌日、友則と十津川は再びオフィスを訪れていた。否、訪れさせられていた。雅臣は事務所のお守りをしながらも、小型の通信機を使って友則に指示を出す形になっている。
昨日の時点で、調査のためにオフィスを自由出入りできるよう取り計らってもらっている。2人がここに訪れたのは、密室の謎の手がかりを得るためだった。
昨日、あの後事務所で意見をまとめた。今回の事件が他殺であると主張する以上、あの密室を解く必要がある。そのためにはやはりまず、社長室のセキュリティシステムについて知る必要があるだろう。というわけで、早速管理人に話を聞いてみよう、という次第である。
管理室は一階にあったようだ。事前に連絡をしておいたからか、そこには秘書が待っていたらしい。
『鍵の管理人に話を聞けばいいんだっけ?』
友則は通信機越しに小声で話しかけてくる。
「…ああ、確認すべきことは開錠の履歴の有無と、カードキーの具体的なシステム。当日、誰が鍵を開けることができたのか、ということだ。」
『了解。』
雅臣は事務所のデスクでヘッドホンをかぶり、話し声に聞き耳をたてる。これが本来の支倉探偵事務所スタイルであり、昨日のように総出で出かける方が例外なのだ。
事務の書類に判を押しながら友則の問答を聞き流していると、ようやく聞きたい音声が入ってきた。PCのメモ帳を開き、情報を打ち込んでいく。
『残念ながら開錠の履歴は確認できません。………いえ、その日だけではなく、元からの仕様です。………ええ………鍵を開けることができる人ですか。そうですねぇ、社長と秘書さんと私の3人ですかね。他にも、清掃業者や修理業者が来るときは指定された時間のみ有効なカードキーを発行できますね。』
雅臣は目を見張り、キーボードを素早く叩く。これは大切な情報だ。葉山さんは昨日、自分の意志で開錠できる者はいないと言っていたが、こちらの筋はどうなのだろうか。新たな質問の指示を出す。
「…当日その時間指定カードキーを借りた人物はいるか?」
『…………あぁ、それなら確か、カドタクリーニングの清掃員が14時〜16時のカードキーを借りていました。…………ええ、名前は控えてあります。こちらですね。』
雅臣はホッと息をついた。これは大きな足がかりになるだろう。片頰を吊り上げながら、検索エンジンにカドタクリーニングと打ち込む。めぼしいサイトに片っ端からチェックを入れていく。
『雅臣ー、手がかりGET☆』
緊張感のない声に思わず肩の力が抜けてしまいそうになるが、これくらいで面食らっては、支倉友則の相手はできない。彼はそういう男だ。
「…でかした友則。引き上げろ。そのままカドタクリーニング本社へ直行。当日の担当者とコンタクトをとれ。」
『りょーかい♪』
手がかりを掴んだからか、鼻歌を歌いそうな上機嫌で答える。おそらく向こうではスキップでもしているかもしれない。十津川の制止と鈍いゲンコツの音も耳に入り、自分の予想が当たっていたことを知ると、雅臣は思わず眉間を指で押さえた。