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影の探偵  作者: 猫平
13/15

吉佐雅臣の確信



雅臣は耳から入ってくる音声などそっちのけで頭を懸命に動かしていた。これは今朝、友則達を見送った後から突然現れた。


何かが引っかかる。何かがおかしい。


てっきり例の映像を見てから、犯人は清掃員の片割れだと思い込んでいた。初めての殺人事件で舞い上がっていたのだろうか、いくら何でも短絡的過ぎる。


「友則のことは言えないな…。」


そんな呟きも無意識の内に溢れたものだった。


疑問を感じたのはもう一度映像を見た後だった。清掃員は帰りの姿もバッチリカメラに収まっていた。二人で清掃用具を持ってオフィスを出て行った。それだけ見ると特に違和感はないように見える。しかし、雅臣はそこに確かに不可解な点を見出した。


凶器には指紋が残っていなかった。ということは手袋をはめていたのは間違いない。また、刺した時の返り血が服につくはずだ。彼らの服は薄い緑色、赤とは補色関係だから目立って仕方ないはず。その服を着て出ることはないだろう。しかし彼らはゴミ袋も持っていない。ゴミ箱には怪しいものは入っていなかった。


ー…わからない。


雅臣は苛立ちを隠そうともせず、頭をかきむしった。






雅臣が、思わず上機嫌になっていた二人が帰って来たのに気付いたのは、友則に顔を覗き込まれた時だった。


「ま〜さ〜お〜み〜?どしたの?」


唖然として友則を見つめる。


「…悪い。気づかなかった。」


友則の後ろでは十津川が心配そうに見つめている。


「ど、どうしたんですか雅臣先輩?顔色がすごく悪いですよ?」


雅臣は机の上に置いてあったコーヒーの残りを口に流し込み、意識を落ち着かせた。深呼吸をして顔を二人に向けた。


「…申し訳ない。少し頭が混濁しててな。考え事をしていたんだ。」


友則は不思議そうに首を傾げる。


「考え事?せっかく事件を解決した雅臣が考え事かい?」


面白そうに聞いてくる友則に対して、雅臣の顔はあくまで真剣だ。


「…違う。彼は犯人ではない…違う。おかしい。」


雅臣の尋常じゃない様子を見て、二人の顔に驚きと戸惑いが浮かぶ。


「お、おいおい雅臣。どうしたんだよ。」


「雅臣先輩きっと疲れてるんですよ。少し休んでください。」


理由を説明しようとしても言葉に出来ないもどかしさで結局頭が混乱してしまった雅臣は言葉に甘えることにした。


近くのソファに横になると、十津川が薄いタオルケットを持ってきてくれたので、素直に礼を言って体にかける。雅臣はそれほど気にしていなかったが、一昨日からほぼ徹夜で、ずっと頭を動かしていたのだ。疲れが出てもおかしくはなかった。


やってくる眠気に抗わず、雅臣はまどろんで夢の中へと落ちた。






意識が覚醒すると、側の机では友則と十津川が隣合って座っていた。おそらく客が来たのだろう。時計を確認すると、意識があった時から丁度、長針が1周していて、窓の外の空は既に赤味がかっている。


「人探し、ですか?」


二人の隙間から見えるのは初老の男性だった。男は言葉を(つむ)ぐ。


「ああ、そうなんだよ。こないだ河川敷を散歩していた時にな、誰かが焚き火をしておったのだよ。」


「焚き火?あそこの河川敷は火遊び禁止ではなかったんですか?」


十津川が(いぶか)しげに呟く。雅臣もまだ朦朧(もうろう)としている意識で河川敷に立ててある看板を思い出すと、確かに火遊びを禁止する(むね)の条項があったはずだ。


「その通りじゃ。普段はそんなことをしでかす(やから)はおらんのだ。しかしの、その日だけは輩がおった。随分ときちんとした身なりだったのだが、人は見かけによらんものだな。」


最後の言葉には友則も深く頷いている。隣で十津川は、なおも訝しげに聞き返した。


「それで、なぜその人を探す必要があるのですか?」


「それがの、わしがそやつを注意しようと思って近づいたら、そやつは離れていってしもうたんじゃ。その時に、こんなものを落としていきおってな。」


差し出された物品をつまみ上げ、友則はしげしげと見つめる。それに同調して十津川もそれを見つめている。


「これは…ブレスレットか何かですかね?千切れているが、随分と綺麗な朱色だ。」


友則の呟きを聞いた雅臣の頭の中で何かが崩れる音がした。今まで悩んでいた塊が、少しずつ剥がれていく。


次の瞬間、雅臣は急に起き上がり、机の中を(あさ)ると友則の持っているブレスレットもどきに組み付いた。


「ど、どうしたんだ雅臣!?」


あまりに急な出来事に、友則も十津川も依頼人も目をまん丸にしている。


雅臣は口元に獰猛(どうもう)な笑みを浮かべると、依頼人に向けて(ささや)いた。


「落とした人物が分かりました。明日にでもお届けいたします。駄賃は必要ありません。」


後ろでは、唖然とした顔で友則と十津川が立ち尽くしていた。


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