残る影
「つまり…その人物が怪しい。ということですな?」
翌日、再び社長室に集まった一行の前で昨日の成果と推論を発表した。今日も雅臣は事務所で待機である。永野刑事の確認に、友則は頷く。
「ええ。現段階で、最も疑いが深い人物だと言えるでしょう。むしろ、それ以外に見当たらない、というのが現状です。」
友則の言葉を受けた永野刑事は再び内容を咀嚼している。
「しかし、根拠ははっきりしていない、と。」
「残念ながらそこは我々の領分ではありません。埃を立てて真実を暴き立てていただくのは警察の仕事、ということでここはひとつ、どうかお願いできませんか?」
軽く警察の仕事を揶揄するような物言いに永野刑事は少し顔をしかめたが、すぐに真顔に戻った。
「わかりました。貴重な情報です。参考にさせていただきます。」
礼を言って踵を返した永野刑事を見送ると、副社長が声を上げた。
「流石です、支倉先生。まさかたったの二日で犯人を暴き立てるなんて。想像以上でした。本当にありがとうございました。」
「いえいえ。まだ犯人と決まったわけでは無いですから。」
謙遜を見せた友則に副社長はお褒めの言葉を浴びせる。そんな時、耳の中の通信機に声が入った。
『…友則、副社長に当日何をしたか聞いてみてくれないか?』
直後、ちょっとした隙間に指示されたことを滑り込ませる。
「ついでにお聞きしたいのですが、副社長は当日何をなさっていたので?」
「あぁ…あの日は本当に忙しくて、ずっと部屋にこもって執務を。お昼時に一度トイレに行った以外は例の騒ぎがあるまでずっとでした。」
友則は愛想よく笑みをこぼしながら副社長との会話に乗っていた。
晴乃は葉山さんと話をしていた。
「本当に、まさかたったの二日でなんて。本当にありがとうございました。」
「いえ、私は何も…それに、まだ犯人だと決まってはいませんから。事件はまだこれからです。」
「そうですよね。すみません…」
軽く涙ぐんでいる葉山さんを見ながら晴乃ももらい泣きしそうになっていた。
社長室が一段落着いた団欒に沸いていた頃、支倉事務所では雅臣が一人、険しい顔で爪を噛んでいたことを知る者はいなかった。




