死が見える少女
どうも、お久しぶりです、ちゃんと生きてます、ただ書くのをサボっていただけです、すいません
雲と青空から顔を覗かせる太陽の熱で大量の汗を額に浮かべて男性は右手を黒いスーツの右ポケットから青色のハンカチを取り出して素早く拭う。
銀色のアナログ式で出来た腕時計を苛ついたように眉をおもいっきり顰めて親の敵のように睨みつける、腕時計のガラスに反射された自分の顔があまりにも酷く一度瞳を閉じて深く息を吸い、ゆっくりと息を吐くと瞳を開けて自分を中心に男性は周りを見渡す。
日陰ではあるが夏の猛威が振るわれている暑さ、その中を約束の10分近く送れているという事に男性は社会人としての常識が相手に欠けていると思い苛立たしげに足で地面を踏みつける。
タバコを懐から取り出そうと右手を上げるが、とっさに今日会う相手が女性であることを思い出してタバコの残り香で期限を損ねかねないと思いその右手を力無く下ろす。
「少しよろしいでしょうか」
「はい?」
突然隣から尋ねられて男性は怪訝そうにそちらに顔を向けて相手に目を向ける、顔つきに良くも悪くも味がなく、来ている服装も無難な物で揃えた女性が目に入り訝しみ、一瞬取引先の相手かと思うが服装がどう見ても私服の類なのでその線を切って捨てると男性はその女性に対し億劫だと言いたげな反応で言葉を投げかける。
「何かご用でも?」
「いえこれと言って無いんですけど………」
自分から声を投げかけておいて用事が無いと言った女性に対し男性は先程までの片手間な対応をやめて女性の方に体を向けて会話をする体制を整える。
表情を見ても女性が何かを話したいという事が伺えて何かを言いよどんでいるのを見て、自分の股間に目が行くがチャックも閉まっていて特に自分に問題があるようには思えず安堵し、今度は目の前の女性がふつうじゃないのかと思い観察するが何処か様子がおかしいがそこには知性と余裕が見受けられて突然暴れたりという奇行を行う人物には見受けられず男性はその女性が口を開くのを待つ。
「その、来ませんよ?」
「来ない? 一体誰が?」
「えっと………その、貴方が待ってる人…です」
「………もしやグラーフ社の人でしょうか?」
今回行う取引会社の相手だろうかと疑うが自分の知っている女性とは違い何らかの用事で急遽人が変わったのかと思ったが女性は勢い良く首を左右に振って声色と言葉遣いを変えた自分が恥ずかしく思うと同時に目の前の女性がいたずらで話しかけてきたのかと思い睨みつける。
それに対し怯えたように後ずさるのを見て少なくともこういった行為をされるのに慣れているわけではないと男性は思い女性に対し柔らかい声色と言葉遣いを意識して問う。
「………それじゃあ何で貴女は私がこれから会う相手が来ないと解るんですか?」
「聞かれても上手く答えられないんですけど………ええっと、とにかく来ないので帰ったほうが良いと思うんですけど…」
「………何だやっぱりいらずらか、良く解らないがそういったことをするのは関心しないな」
「いたずらじゃなくて………信じてもらえないのは解ってます、でもいくら待っても来ませんよ、その人もう死んでますから」
最後の一言を聞いて女性を男性は睨みつけてその形相を見て女性は小さく悲鳴を漏らすと早足に逃げるようにその場を立ち去る、立ち去る茶色いスカートを見ながらいたずらだったかと男性は思い近くのコンビニに行こうと思い立った時に突然軽快な音楽が自分から発せられ勢い良くズボンの右ポケットに手を入れる、夏らしい熱を感じ携帯を開くと会社の上司の名前が浮かび上がったので素早く電話に出て耳元に運ぶ。
「もしもし! 箱田ですが」
『………すまないが箱田君、今回の打ち合わせは無くなったら一度帰ってきてくれ、先方が言うにはまた後日折り入って日程を決めるとの事だ』
妙に渋い声をそこまで聞いて箱田は夏の暑さからではなく極度の緊張感から喉が乾いていくのを感じた、今しがた頭がおかしいとしか思えない女性に絡まれてからこの電話、何か仕組まれているとしか思えないタイミングに汗が一瞬で引いて、背中と額に冷や汗を大量に浮かび上がる。
視界に映る物がねじ曲がる様な思いをしながらなんとか自分が今一番聞かなければいけないことを電話越しに上司に確認する。
「………何故無くなったのでしょうか」
『…君が今日会う予定だった…えーと、確か平本さんだったかな、亡くなったそうだよ、交通事故で即死だったそうだ』
「…すいません佐藤先輩、帰るのに少し時間がかかります」
電話越しに気遣った様な声色で了承を受け取った所で箱田は一目散にあの見た目だけは目立たない女性を探しまわる、聞きたいことが山程あり、会って良い相手なのか考える暇もなしに走り回る、通り過ぎる通行人の様々な目線を無視してスーツを汗で濡らしながら走っているとあまりの暑さで何時も通り走れずに数十秒と持たずに立ち止まってしまう。
道の端に寄り幾分か冷静を取り戻すと箱田はこの人通りの激しい都会で目立たない女性を探すのは困難だと思い直し駅に向かって歩き出す。
急激な情報が一気に入ったのと暑さから箱田は意識を朦朧とさせ気付いた時には切符を手に握って立ち尽くしていた状況で、それを理解するのに数秒掛かってから箱田は自分が疲れていて白昼夢を見ていたんじゃないかと無理矢理納得させて携帯を取り出し履歴を調べる。
上司の電話番号が乗っていて時間と照らしあわせてもあっていて戻らなければいけないのは事実と思って気を持ち直した所で電車が箱田の目の前に止まりゆっくりとドアを開ける。
周りが入る中自分が悠長な事をするわけにも行かないと黄色い線を乗り越えた所で箱田の目の前に見覚えのある茶色い長髪が目に留まる。
先程までの億劫な動作が嘘だと思えるような素早い動作でその女性の腕を掴み振り向かせる。その振り向いた顔が知らない顔で、赤の他人だと認識してから箱田は要約自分が何をしたのか理解し腕を掴まれた女性が叫び声を上げる所で女性と箱田の間に件の女性が割って入り相手の女性に声をかける。
「すいません、この人そそっかしい人で私と間違えたみたいなんです、許してあげて下さい…お願いします」
そう言って丁寧にゆっくりとした動作で頭を下げる彼女に女性は怒りを沈めて、箱谷の顔を睨みつけてから舌打ちを鳴らすと別の車両に移動した、その一連の流れを見ていた他の乗客も安堵のため息を漏らしたり物珍しい視線を二人に送るのを感じて居た堪れない気持ちになっていた箱田の左手を掴んだ彼女は先程の女性が行った方向とは逆の車両に移動を始める。
車両を移動し丁度近くに空いた椅子があったのでそこに二人で座った所で女性は箱田から手を離して箱田の顔を伺い、納得がいったように柔らかい笑顔を浮かべると小さな声で語りかける。
「………私を探してたんですよね? 信じてもらえるとは思いませんでした」
「…正直言って信じてなかったよ、でも上司から電話があってね………幾らか君に聞かないといけないことが出来た」
「………ハァ…声をかけなきゃ良かった」
そう小声で、しかし箱田に聞こえる音量で呟くと女性は力無く箱田に視線を向けて無言で言葉を足すように告げる。
「まず1つ、君は何で私の相手が来れないことを知っていたのか」
「…上手く説明できないし信じてもらえるか解らないんですけど、見えるんですよ私、人の命が」
「………それが本当だとしてもだ、あの場には私しか居なかった、何故死んでいたと解ったんだ」
「見た人との関わり具合で見なくても人の命も見えるというか………昔からなんです、その人がどうやって死ぬのか、3日以内なら死ぬ人が解るんです」
女性が静かに語り出す話の内容に箱田は気が遠くなる様な気分になり頭を抱える、これが今しがた出会ったばかりなら関わらないように席を立って移動するがあいにくとこの女性がそれを行ったのを先程体験させられたばかり、笑い飛ばす気力もなく静かに頭から手をどかせて今の内容を自分が理解するように頭の中で噛み砕いていく。
暑い町中から急に冷房が効いた電車に乗った急激な温度差の性ではない変な汗が流れるのを箱田は感じタバコを出そうとすると女性が右手で箱田の右手を抑える、それを見た箱田は驚いたように女性を見るとまた柔らかい笑み浮かべて口元を開く。
「電車の中は禁煙ですよ………混乱する気持ちも解りますけど落ち着いて下さい」
「………何で解ったか聞いてもいいか」
「貴方の様にタバコを吸おうとする人って珍しく無いんですよ、私には解りませんけど落ち着くって聞きますし」
そう言うと女性は柔らかい笑みのまま箱田の顔を見つめて、箱田が不意に視線を外した所で言葉を発する。
「それで………次に私に聞きたい話はなんですか?」
「…君は何で私に声を? 面倒な事になるし最悪警察沙汰になると思うんだけど」
「…今日暑いじゃないですか、最高気温知っていますか? 34渡だそうですよ」
「………なるほど、君はどうやら優しい人のようだ」
女性が小さく右手を左右に振ったのを見て吹き出すと箱田はあらかた聞きたいことを聞いたのでこれ以上女性と一緒にいる事もないと思いどこか気まずさを感じて女性に視線を戻す。
箱田の気持ちを感じ取った上でか知らずか女性は柔らかい笑みを向けるのみ、本来人と話すのは上手い方ではなく、また女性とのかかわり合いなど皆無な為箱田は落ち着きなく視線を左右に送り、意味もなく椅子の柄を細かくまで分析しようとすると不意に女性が柔らかい声で諭したように言葉を紬ぐ。
「私は会話というのは居やすさというのが大事だと思ってるんです、無理にどうしようって考えると相手にも緊張感が伝わってしまいますよ? それに相手がそもそもあまり気にしていないというケースもあったりします」
「………参ったな、自分より10歳ぐらい若そうな女の子に諭されるとは」
「………あの、私これでも17なんですけど」
「えっ!? あっ、いやなんというか………大人びてるね」
「………良いんですよ、老けてるってよく言われますから」
言われて驚いてしまい公共の場だというのに大声を上げてしまった箱田は羞恥から顔を赤く染めるが確かに注意深く見ると顔つきにあどけなさを感じそのぐらいの年に見える、ただまとっている雰囲気と言葉遣いが完璧にできている、その上で服装が地味で若々しさが感じ取れないし背が高い所から23か4に見えた事を恥じて謝罪しようか迷うが、ここで誤ると帰って逆効果になると思い反省していると1つのことを思い出す。
自分は高校生に痴漢の冤罪を救ってもらい会話の仕方を伝授してもらったことを急に恥ずかしく思い男性は白髪が生え始めた頭を乱雑に掻きむしり、その姿を微笑ましそうに少女は見つめていると目的の駅に着いたので男性が降りる為に駅から出ると少女も静かに降りたのを見て目的地が同じ立ったのかと思い幾つもある白と黒の正方形が1つずつずれている床を静かに歩いて外に出ると丁度タクシーがあったので目の前のタクシーに乗り込もうとすると左手が掴まれたのを感じ勢い良く女性に振り返る。
真剣な瞳で首を左右に振る少女を見て男性はあらかた察してそのタクシーを通り過ぎる、乗ろうとしていた癖に通りすぎた男性に冷やかしなのかと目配りしているのを通りすぎてから箱田は少女に歩きながら語りかける。
「………今のは何で止めたんだ?」
「………今のタクシー乗ってたら運転手さんが死んでました、貴方が乗らなかったからもう助かったみたいですけど」
「…俺は今日死ぬのか?」
「少なくとも今日から3日以内には死にませんよ?」
箱田はそう言われると腰が抜けたように力が抜け、それを事前に察していた少女は箱田の腕を掴み姿勢をなんとか立った状態にとどまらせる。
情けない思いと同時にそのまま自然な動作で腕を組む少女に幾分か警戒心が足りないんじゃ無いかと若い胸の感触を感じながら箱田は顔を引きつらせて、このままでは不味いと思い腕を外して少女と距離を取る。
「もう大丈夫だ、ありがとう」
「良かった………急だったからビックリしましたよ…痛くありませんでしたか? 急に腕を持ったから変に捻ったりとか…」
「大丈夫、大丈夫だから」
そう箱田が言うと少女は天使のような微笑みを箱谷向けて、見た目は地味だが心はとても清らかな少女なのだと思うと同時にこの子の親がどんな教育をしてきたのか気になり親の話題を出そうとした所で気づく、この少女の命が解るというのはもしや家庭環境から来るのではないかと思うと箱田は少女にさとられないように気になったことを口にする。
「私は死なないんだろ? じゃあ何故あの運転手は死ぬことになるんだ」
「…私のこの力には応用が聞かない所があります、まずタクシーに乗った場合貴方が無傷か、また重症を負ったかも解りません………それと私が解るのはあくまで3日以内です、4日目になった場合私には見えませんよ」
「………つまり、私の手足が潰れようと、植物人間になろうと君にはわからないという事か」
「その通りです、ですから頼りになるんですけど頼りにならないんですよこの力…」
そう静かに愚痴をこぼした少女は今までの雰囲気が無くなり一瞬だけ歳相応の何処にでもいる少女になった、だがすぐに立ち直るとその少女は力を感じさせない笑顔で少女は箱田を若干見下ろして口を開く。
「では私はこの辺で、少なくとも貴方は死にませんから大丈夫ですよ」
「それはもう気にしてないよ………このまま別れるのが寂しいよ、これで私が20歳程若ければナンパしてるんだけどね」
「私みたいな地味子で遊ばないでください、これでも女の子として魅力がない事は自覚してるんですから」
いたずらっぽく怒った振りをする少女に箱田はこの子の周りには見る目のない男子生徒ばかりなのかと訝しむが箱田自身その年齢の頃は見た目重視だったのも事実なため二の句が告げずに苦笑を漏らす、その苦笑を肯定と受け取り少女は見てる者が落ち着く笑みを浮かべて男性に一礼してから離れる。
その背中を見ながら奇妙な出会いに面白さを感じていると突然右側から軽自動車が走りだし少女に当たり勢い良く吹き飛び反対車線の車に当たりそのまま倒れたのを見て箱田は視界が真っ白になり少女に駆け寄る。
「おい大丈夫か! しっかりしろ!!!」
「あ………れ、おかし…いな………出かける時…はな…に………も」
見ないと解らないのかと男性は思うと同時にふと思う、この少女を殺してしまったのは自分なのではないかと、少女だけならば先程の立って話している時間がそのまま無くなり間一髪セーフだっただろうと箱田は気づく。
体温が急激に無くなり冷たくなる体を両手で抱きながら男性は通りすぎた軽自動車のナンバープレートを潤む視界の中睨みつけた。
話を書き始めた時はホラーかな? と思ってましたがここまで酷くなるとは思ってませんでした、連続で救いがない話だったので次はなんとか温かい話にしようかなと思っています、ほんと載せるかどうか迷いましたよこれ…