問題
どうも、昨日書いた話がどうも納得できずに書いてしまいました、今回は結構納得出来てます、多分読める文章にはなってます。
机の上に汗ばんだ長い黒髪を垂らしながら前のめりになって板書している少女を視界の端に置いて少年は呆けながら手に持っている白くまだ黒ずんだ箇所がない消しゴムを手で弄りながら視線を空中に彷徨わせる。
自身の机の上に置かれている白いノートに目をやり消しゴムで擦り白いカスを生み出しては手で払って机の下に落としていく、ふと視線を感じて顔を上げると先程まで一心不乱にシャーペンをノートに走らせていた少女が少年を呆れたように冷たい視線で見つめ、呆れたように洋画に出て来る登場人物のような動作で微笑を浮かべて首を左右に振る。
汗ばんでいる黒髪を日光が反射させて綺麗に光り輝かせる光景に見とれながらも少年は少女が首が振り終えたのを見終わり顔を小馬鹿にした笑みで見つめる少女から視線を切って再度ノートを消しゴムで擦っていく。
「…ふむ、山崎君頭の良い人物とバカな人物の決定的な違いは何だと思う?」
「無駄な質問をしないことではないでしょうか」
少女に目もくれずにノートを消しゴムで擦る少年に対し一瞬少女は頬を引きつらせて、会話を一旦区切る為に意味もなくわざとらしい咳払いをしてから改めて予め用意していた言葉を口元から紡ぎとってい行く。
「良いかい? 森崎君、君は先程から意味もなく消しカスを作っているけどばんしょうをした方が有意義だと僕は思うんだけどね」
「先輩それを言うなら板書です、それに板書をしろと言ってもですね………」
一旦消しゴムを止めてノートから黒板に視線を戻す、少年にとっては意味の解らない問題が書かれている黒板を見て気だるそうにまた虚空を視線で泳がせ、少年は先程から語りかけてきていた少女がふてくされてノートに板書をしている姿を再度見つめる。
耳の裏が赤く声をかけても無視される事が解っている為何も言わずに再度消しゴムでノートを擦る。
窓の隙間から微かに流れる風が少年を包み込んで通り過ぎる、その刹那の間だけとても涼しいのと冷房の聞いていない室内に対し恨みがましく思い、その後に考えても仕方が無いと苦笑して意味もなく黒板に書かれている問題を眺める。
何度見ても少年に解けるような問題ではなく、視界の端で必死に解いている少女を他人事のように見つめてから消しゴムを白くエナメル質で出来た筆箱の上に置いてから一呼吸付くと椅子を引いて立ち上がる。
その音を聞いて少女が板書をしていた手を止めて少年に視線を向け、何を語りかけようか考えて少年が白い扉に手をかけた所でまとまっていない頭の中の文面を投げかける。
「待ってくれ、何も途中で投げ出さなくても良いじゃないか、もう少し頑張れば出来るかもしれない、河崎君と僕の二人でこの難問を解き明かそう」
「…無理です、僕には一生掛かっても解けませんよあんな数式…大体僕は先輩と違って文系なんです、足し算や割り算ならともかくあそこまで難解な問題は無理です」
「………足し算や割り算とはまた極端な…とにかくもう少し頑張ってくれ、僕としても共に頑張ってくれる人がいると心強い」
力のない瞳で少女を見つめて、頭の中でどうせながら最後までやってみるのも良いかと思い直すと気だるげに扉を開けようとしていた右手を降ろして自身が座っていた椅子に戻りだし、その姿を見て少女は安堵したような表情をして再度ノートに目を向けて板書する。
ゆっくりと老人の様な動作で茶色い椅子に腰をかけてから消しゴムに伸びそうになる右手を止めて黒板に目をやる、何度見ても数式は変わることはなく室内の温度も合わさって頭が熱を発していると感じて右手を額に置く。
手をやったのは良いものの置いた右手のほうが熱く参考にならないと思い少女の方に顔を向けて声をかけようか迷い、必死に頑張っている少女の足を引っ張るのは心が引けて少年は諦めて筆箱に右手を入れてシャーペンを取り出し真っ白なノートに書き出していく。
水面が透き通った海の表面を思わせる水色のシャーペンを見て一回はそんな海に旅行してみたかったと思い知識でしか知らない水面を思い浮かべて問題を解くのを止めて1ページの真ん中に線を引き下半分に想像しながら海を書き足していく、色ペンが筆箱に入っていない事に苛立ちを感じ、それを押し殺したように集中し想像に想像を重ねていく。
風が体を通り過ぎる感覚を絵に表そうと思い瞳を閉じた所で少年の肩に生暖かい温度と妙に柔らかい感触を感じ驚いたようにそちらに顔を向ける。
先程まで板書をしていた少女が冷ややかな目線で少年を見下ろしてそのまま右手の人差し指を少年の額に優しく突き刺してからあの小馬鹿にした表情で少年を見下ろす。
「………はぁ、正直君には失望したよ海崎君、いや絵は凄いと思うよ? 実は君には画家としての才能があるんじゃないかと疑ってしまうほどに…だけどね? だけどこれは美術の授業じゃ無いんだよ?」
「先輩ってあれですよね、無駄に長ったらしい言い方しますよね」
「うん今その話関係ないよね?」
「すいません」
一瞬で表情を消した少女に少年はあんな顔も作れるのかと思い暑さからではなく悪寒から汗を流してこの場で初めて謝罪の言葉を口にし、同時にこの手の話題は地雷だと学習して二度と少女を相手に振らない様にしようと少年は思って少女から目線を切ってノートに目を落とす。
下半分の微妙に形になってきた白黒で出来た海を無視して上半分に書いた問題だけを見つめる、いくら見つめてもそれを解き明かす式が思い浮かばずに少年は未だに左隣で立っている少女に目配せをして答えをそれとなく視線で促す。
見られた少女は一瞬気後れ足したように重心を後ろに傾け、思い直したように目尻を下げて表情で悲しみを作り上げたのを見て隣にいる少女にも解けていないと理解してシャーペンを手に取り問題を睨む。
「…すまない、実を言うと僕にもまるでわからないんだ、どうやったら解けるか等考えてはいるんだが………」
「アレほど熱心に書き出していたのに最初に何処を触れば良いのかも解らないんですか?」
「………君はあれだな、もう少し女の子には優しくしたほうが良いよ…確かに解いてたんだ、でも必ず後々になって綻びが生じるんだよ…最初が違うのか、それとも途中の式が違うのかすらわからないんだ」
「正直お手上げさ」と言って肩を下げる動作がいやに目につくが発言すると面倒なことになると少年は解っていたので無視してノートに目を落とす。
うねりだす少年を見て少女は席の方に戻ろうと歩き出し、その背中に少年が低い声で呼びかける。
「………もう諦めませんか先輩、やっぱり僕達には無理だったんですよ」
「…そうか、無理を言ったようで悪かったな相崎君」
「…では僕はこれで、僕が言うのも何ですけど―」
「ん? 待て待て何故君は別れの挨拶をしようとしているんだ?」
少年が胸に渦巻く黒い感情を押し殺して腰をあげようとした所で少女がそう呼び止める、声色からして本当に何を言っているのかわからないという意思が伝わってきて少年は訝しげに少女を見る、少女も少年と同じような表情で、先に少女が食い違いに気付き慌てたように少年に駆け寄り肩を強く押して椅子に座り直させる。
「何をしようとしているんだ君は!!! 諦めろと言ったわけじゃないぞ僕は! 僕が必ずこの問題を解いてみせる!!! …だから君はそこに座っていたまえ、解ったね?」
「でももう時間が………」
そう少年が言って顔を少女から黒板の真ん中付近の真上にある白く丸い時計に目をやる、後3分程で12時であり、その時刻になったら何も意味が無い事を知っていた少女は少年を強く睨みつけてから勢い良く自分の椅子に座り直す。
必死に揺れ動く白いシャーペンを見て素直に少女らしいと思って自然と笑みが溢れる、味もなく変な模様も無いが、その分飾り気のない真っ白がとても美しく思えた。
少女から感じる熱気が教室の熱量を上回った様な気迫を感じ、何故この少女はここまで感情が豊かなのかと疑問に思いながら消しゴムに手を伸ばそうと思った所で部屋中に甲高い音が響き渡る、その直後に扉が開き数人の大柄な男性が入ってきて少年と少女を半々で別れて取り囲む。
少女はそれを悟ると必死にノートにシャーペンを走らせるがその途中で男性が少女を脇に抱え込む、少年はその姿を他人事の様に力無く見つめる。
「待ってくれ! 後もう少しだけ………5分、いや1分で良いから時間をくれ! もうすぐそこに答えがあるって解ってるんだ!!!」
「なら答えを教えてくれ、合っていたら君達の処分は取りやめよう」
扉の奥から白衣を着た老人が重い動作で室内に入る、すでに室内は先程までの物と違い黒板も時計、窓すら消えて白い床と壁に天井しか認識することが出来ない。
重苦しい空気が流れ誰も言葉を出さずにいると少女が怯えたように視線を彷徨わせすがるように少年に目配りする、その視線を受けて少年はただ少女の瞳を見つめて、それから老人の方に視線を流して瞳と瞳を合わせる。
「………何か?」
「…あの数式は意味が有るんですか? 僕にはとても意味があるようには思えないんですが」
そう言うと老人が訝しげに少年を見つめて2人が時間稼ぎを目論んでいると悟るが老人はそれで少女が答えを思い浮かぶも良し、思い浮かばなくても良しと考えその案に乗るように少年に語りかける、と言っても目の前の少女には解けないと高をくくっていたが。
「………2060年後半の頃に地球の人口が急激に倍増、その結果政府が宇宙の開発に乗り出したというのは知っているね?」
「常識ですが………それとこの数字が一体なんの関係があるんですか、僕とせ…彼女は専門的な学問を習ったこと等ありませんよ」
「人口が増えたことにより教育を受けられるものは高所得者か何かしらの才能を持っている者達だけだからね………1つ訂正しておこう、君は確かに小卒で何も学んでいないだろうが彼女は別だ、海外の高校に入学と同時に成績トップの優等生だよ」
そう言われて今にも死にそうな気配を出していた少年の雰囲気が一変し少女の方を見つめる、バツの悪そうな顔をするもそちらに気を取られないように思い直し独り言を呟きながら空中に指で何らかの文字を書き足していく。
お互いに気まずさや恐怖から先輩と呼んだり名前を一々変えるなどして遊んでいた少女から目線を切り嫌らしい笑みを浮かべている老人に睨みつけながら少年は言葉を勧める。
「…なら何でそんな彼女がここにいるんですか、ここは何も役に立たない子供を集めてまとめて処刑する施設でしょうに」
「人聞きが悪いな…初めに我々が解けない問題を出して解けたものがいたら同僚に付け加えているんだがね………解けた者は見たことがないが」
「………質問に答えて下さい」
「おっと話がそれてしまった、彼女は両親の会社が倒産し高校退学を迫られ、その後体が弱い彼女は社会不適合者として此処にやってきたという事さ、利用価値はあるが…何分彼女は我が強すぎる」
「そこは同意します」と少年が呟いた瞬間少年の頭に筆箱が打つかる、一瞬ふらつくが長く肉体労働をしていた頑丈な体にか弱い少女の投擲は威力が低くあまり大した威力にはならずにすんだ。
そんな2人に意外にも余裕を垣間見て驚いた表情で老人が顎を撫でながら発言を続ける。
「…あの問題についてだったね、あれはね………私達人類の希望そのものだ」
「希望? 数式が?」
「………ああそんな事もわからないのか、嘆かわしいな…良いかねあれは数式ではなく化学式で化学式と数式は―」
「博士、話しが長くなるのでその辺で………」
老人の長話を遮るよう少年を取り囲んでいた1人の青年がそう咎めて軌道修正を計る、老人はその青年を疎ましそうに睨みつけ、その後その青年の発言が正しいとわかると咳払いをして少年に言葉を向ける。
「簡潔に言うとだね、あの化学式さえ解ければ地球とほぼ同じ星までロケットを飛ばせる用になるんだ、勿論あの式だけじゃ無理だがね、星の位置は幸い割り出せている、どのような環境かも把握してる、ただ地球とは離れすぎていて今の科学力では到底行ける距離じゃない」
「狂ってる………そんな問題を僕達みたいな子供が解けるはず無いじゃないか」
「おや? 問題は解けたのかい?」
「………解ってるくせに一々聞くなんて性根が腐りすぎてて反吐が出そうで仕方が無いよ、後一歩まで行けるんだけどね、どうしてもその一歩が届かない」
「…やはり君は天才だ、その一歩に辿り着くのがどれほどの偉業か君には解っていない」
老人は素直にそう少女を称賛した、老人自身一歩までは行けて入る、ただそれは老人1人の力ではなく同等、もしくはそれ以上の能力を持った者達が集まり合ってようやく行けた段階だ。
それを自分の二回り以上若い少女が1時間で一歩まで上り詰めたというのには素直に称賛の念が湧くが、問題が解けていないという時点で少女と少年の運命は無残にも決まっている。
この場にいるのが老人1人ならまだごまかしが聞くが老人の周りにいるのは科学者とは無縁の施設の従業員であり政府の一員だ、買収等の誤魔化しは出来ずこの少女を無残にも殺すしか無いと思うと老人は怒りに飲まれそうになるが年齢からくる経験でなんとか押さえつけて後ろを振り向き扉をくぐる。
突き刺さる4つの視線を感じながら扉を閉めて白く明るい廊下を渡る、一定の空間を開けた所で老人が入ったような白い扉が幾つもありその中から怒号や何かを壊すような物音が静かな廊下に響き渡る中老人はその大きな雑音を聞きながら腹の中の怒りを増幅させる。
疲れました、頭使って書くとやっぱり疲れます…