夢作り
どうもー、本当はバレンタインに投稿するつもりでした、でもどうも書く気に慣れなくて結局一日すぎるという醜態を晒しました。
腹の虫がなるのと同じタイミングで学校中をチャイムが鳴り響く、それと同時に教卓にたった年配の教師がSRMを終わらせて教卓に座り何事か書類を書き始める。
その動作を意味もなく眺めて、平然を装いながら胸の中で渦巻く感情を必死に抑えながら白色が主体のエナメル質のバックに授業のために持ってきていた教科書や筆記用具を静かに、普段よりも時間をかけてしまい終えると少年は席から立ち上がる前に注意深く周りを見回す。
人から見たら何気ない動作に見えるように心がけ見回すが自分に近寄る生徒の姿は無く、教室に残っている生徒も殆ど何時ものお決まりの面子でそのほとんどが男子である事を確認すると少年は小さくため息を吐いて力無く立ち上がり椅子を机の中に綺麗にしまう。
(クソッ、夢のなかだと今日貰ったのに…)
そう心のなかで一人愚痴りながら綺麗に光る白っぽいクリーム色の床を若干力を込めて一歩ずつ歩き夢の内容を思い浮かべる。
夕方の陽が窓から入り少女の顔を照らす、夕日のせいか赤みがかった頬で忙しなく瞳を左右に移動させ、手を握らないように意識しているのがまるわかりなほどに指先を力強く伸ばして下ろしている。
窓の隙間から入る隙間風に煽られ優雅に落ちる綺麗な黒髪が汗ばんだ額に張り付くと少女は頬を引きつらせて窓を力強く閉める。
「あっ! ごめんなさい!!! その………思ったより力が入ってて」
力強く閉められた際に出た音に自分で驚きながら上ずった声で謝罪し始める少女に少年は現実ではまず出来るはずがない程に温かい完璧な微笑みを浮かべて首を左右にゆっくりと振る。
その微笑みを見て緊張が和らいだ少女は緊張したほほ笑みから自然な微笑みに戻しポケットに入っていたピンク色の箱を取り出し少年に差し出す。
赤く外側が黄色で出来た細いりぼんで結んである箱でその箱一つにしても高級感が溢れる箱を少年と少女は見て二人共笑み浮かべる。
「あ、あのずっと好きでした! 付き合って下さい!!!」
そう言うと少女は頭を下げて両手でそのピンク色の箱を少年に向ける、左右の手で大事そうに向けられたその箱を汗ばむ両手から取ると取られたことを悟った少女が一瞬体を震わせる。
その箱を裏返して材料などが書かれた文字を見ていると不意に企業名が目に留まる、異物が入ったようなその文字を目にして鳴り響く金属音が頭の中を鳴り響かせて瞳を開けた。
「………せめて食べさせてよ、大体企業名が薬品ってなんだよおかしいだろ…」
今朝の夢を思い出し下駄箱に上履きを右手で取り左手で入っていた黒光りする革靴を取り出し高い位置から地面に落とす。
落とされた革靴は左右ともに離れて右は横を向き左の靴は上下が逆になり少年は額に筋を作ってからしゃがみこんで革靴を整える。
「というかあの夢は完成度が低いんだよ…岸辺さんが俺にそんなこと言うわけないし、どうせあの後が想像できないからあそこで終わったんだ」
少年はそう愚痴をいいながら正門から出て夕日が照らす薄暗いアスファルトに足を踏み入れて、その夕日を見て夢の事を思い出してますます少年は不愉快な気持ちになりながら家に向かい足を向ける、普段よりも早足で出来る限り速く今日という日と関わらないように帰宅を心がける。
何時も見かける光景の通りを照らす夕日が妙に腹が立ち、通り過ぎる男女にも意識が何時もの三倍は気になり始める、オレンジ色に染まる中赤が光る信号機を見ると妙に虚しくなり少年は独り言から心の中で呟くことにし、浮かび上がる言葉の内容もより一層醜さが増す。
(薬品って何だよ我ながらセンスなさすぎだろ………無い、我ながら虚しくなってくるよこのセンスの無さは…将来結婚して子供が生まれても名前は奥さんに決めてもらわないと行けないレベルで酷い)
そう自虐を強めていき自然と歩く速度も早足からゆったりとした老人の様な速度に変わるが少年はそれに気づかずに歩く。
その心の内の内容を強めていき家まで後数分、目で見えるまで来た所になると少年の一人相撲の内容は増々毒が強まり自嘲気味に頬を釣り上げた所で不意に背中を力強く叩かれ体を前のめりにさせる。
なんとかこらえて勢い良く後ろを振り向くと自分と同い年ほどの少女が少年を力強くにらみ付く姿を認識するとその少女は少年に近寄り勢い良く両手を少年の胸元に向けて伸ばし襟首を掴むと両手を上に持って行き少年の顔を見上げながら勢い良く口角泡を飛ばす。
「こっちだって必死に働いてんのよ!!! それを知らずに好き勝手に批判してくれちゃって…バイトしたことない癖に偉そうに言わないで!」
話している最中も強まる握力に少女のか細い腕のどこからそれほどまでに強力な力が出て来るのか息苦しくなる中少年は思い、話している内容の意味が解らず反論しようにも口を開いたらその瞬間にその力強い腕から頬に向かい拳が飛んで来ることは用意に想像出来るため何もせずに少女が落ち着くまで少年は待つことを選択した。
「大体このバイト一時間800円の癖に忙しすぎ! 一人につき一人って担当決まってんのよ!!! 夢だってアンタが覚えてるのはほんのちょっとよ! それこそ氷山の一角なの! 少しでも目を離したら滅茶苦茶大変な事になるし気が休まない仕事なのよ!!!」
落ち着く処か余計に熱くなる少女は少年を前に後ろに力強く押したり引いたりをして少年の頭の中をシェイクし始める、気持ち悪くなりながらも少年はバーテンダーにシェイクされるカクテルの気分を知りながら突然現れた奇想天外な少女の言葉を右から左に受け流す。
少年が自分の話を聞いていないと察した少女は右手だけで襟首を掴むと大きく振りかぶって前方に少年を投げる、足がついていかずに少年が尻もちを付くのを見て少女の般若の面を被ったような表情が幾らか和らいで少年を見下ろしながら指をさす。
「大体アンタ今朝あのタイミングで起きないと遅刻してたじゃない! 何が続きを想像できないから終わらせたよ箱開けてチョコが入ってますって誰でも解かるわ!!!」
そう力強く宣言すると少女は胸に右手を置いて呼吸を整え始める、その姿を呆けながら見ていて要約気付いたが少女の髪が夕日のようにオレンジ色に染まっているのが目につく、綺麗なオレンジ色で染めたと言うよりはもともとその色をしていたというほどに自然な髪色を見て少年はつい口に出した。
「………それ地毛?」
「はあぁ!? なにアンタ喧嘩売ってんの? どこからどう見ても地毛でしょうが!」
カツラかどうかという意味にとらえた少女に向かい少年は慌てて両手を前につきだして少女に向かって左右に振る、その動作を見て顔をしかめる少女に少年は左手をアスファルトに付けて立ち上がると少女に向かいゆっくりと言葉を選びながら口にする。
「いや、なんていうかその………オレンジ色だったから」
「オレンジ色で何が悪いのよ」
「染めて無いよねそれ、なんていうか綺麗なオレンジ色だからさ」
そう言われて少女は相変わらず睨みつけながら少年の顔を見つめる、何かを観察しているような雰囲気が醸しだされて数秒でそれをやめると少女は少年に対して静かに首を左右に振り、意味ありげにジト目で粘着質な視線を向けながら口を開く。
「…アンタ今ギャルゲの主人公みたいなクサい台詞言った自覚ある?」
「ちがっ、そんな―」
「良いわよ喋らなくて、そんな事意識して出来るタイプじゃ無いだろうし」
そう言うと少女は自分で聞いておきながら自分で話を切るという荒業を少年と同じように無意識で行う、視線を少年から切ってスカートのポケットから小さく折りたたんだ紙を取り出し広げ始める少女を眺めて少年は要約今自分が非常識な目にあっていると自覚し少女を弱々しく睨む。
冬か春か解らない季節の夕日より色鮮やかな短髪を左手で掻きむしる少女の栗色の瞳を力強く少年は睨むがそれに気付いた少女が一瞥する、少女に睨んだつもりは無いが目つきが鋭いのと先程の少女の態度から怯えを持つ少年はそれを見てすぐに視線を地面に落とす。
その対応を見て目つきを鋭くさせ、しかしすぐに目尻を幾分か下げると少女は少年に対し先程よりも柔らかい声色を意識して書類に書いてある内容を語る。
「…名前は市村久元、何か苗字みたいな名前ね…えぇと? 無趣味で特技もこれといって無し、成績は下の方で就職希望、好きな女の子は岸辺さゆ」
「待って待って! 言いたいことがありすぎて上手く言えないけどちょっと待って!!!」
そう言うと市村は少女からその紙を取ろうと勢い良く駆け寄り何歩目かで左足を左足で引っ掛けられ地面に勢い良く転ぶ。
痛みからか足を体で抱え込み悶絶する市村に少女は顔を引きつらせて、一度瞳を閉じて一呼吸置いてから目を開けると市村に近寄り腰を曲げて右手を差し伸べる。
赤い顔で勢い良く少女を睨む少年に対し若干唇を尖らせて目を市村に合わせずに左端に寄せてより一層少年の方に向けて右手を伸ばす。
「…速く掴みなさいよ」
「お、お前が伸ばす手は右手じゃなくて左手だろ」
細かい折り目が深く付いている紙を見ながらそう言うと少女は苛立たしげに視線を左端から市村の目に移しす。
市村が怯えて体を膠着させた所を少女は右腕を掴み無理矢理起き上がらせると紙を綺麗に折り目通りに折りたたんだ後白と黒の市松模様の長いスカートのポケットに戻して少年に向かい鋭い目線を向ける。
「何で俺のこと色々知ってるの………お前色々おかしいよ」
「さっき言ったことより細かいことも知ってるけど? 今月のアンタの担当は私だから色々上司から渡されてんの」
そうどこか苛立たしげに言う彼女に市村は訝しげな視線を送る、その目線に気付いた少女は露骨に舌打ちをすると独りでに口を開く。
「………何よ言っとくけど私アンタのストーカーとかそういうのじゃ無いから勘違いはしないで、ただ仕事で寝てるアンタの夢や起きるタイミングとかを調節してるのよ」
「………病院行ってきたら? その紙渡してくれたら今日のことは水に流してあげるから」
そう市村がぶっきらぼうに言うと少女はこめかみに青筋を一本作り上げると少年に向かい教科書に書いてあるような綺麗な作り笑顔を向けて口を開く。
「…よぉし解った、一名様ご案な~い」
接客業特有の明るい声でそう言うや否や少女は右足に力を込めて市村に接近する、瞬時に市村の眼の前に止まった瞬間に市村に向かい風が強く浴びせられ少女の移動の速さを悠然と物語る。
少女は腹部に拳を叩きこみその衝撃から体をくの字に曲げて地面に倒れこむ、体全体に瞬時に電撃が走りその次の瞬間には体中から脂汗が湧き出て服を濡らす、その苦痛に歪んだ市村の顔を少女は勢い良く蹴りあげると市村の意識は飛び夢の世界に入り込んだ。
頬を優しく叩かれるのを感じて市村は薄く目を開ける、視界に一番最初に飛び込んできた少女の顔を見て目を見開かせて顔を驚愕の表情に固める、眠気は一気に吹き飛び体を起こして少女から遠ざかる。
はかなげな表情から目を見開き、そして呆れたように少年を見つめる少女の頭を大きな黒い手が掴み無理矢理頭を降ろされる。
「いやスマンな兄ちゃん…こいつ兄ちゃんが初めての客で緊張しててな、今回が初仕事だったんだよ許してやってくれ」
肌が黒く焼けた季節外れの男性に市村は見た目の印象が強すぎて言葉が耳に入らなかったが謝っているという事は理解しなんとかそれを悟らせずに男性に向かい口を開く。
「だ、大丈夫です」
「そうか! いやぁ良かった良かった俺達が干渉したことがバレたらクビが飛ぶって言うもんだ………なぁマレア君?」
気のいい感じから豹変し重圧をマレアに向ける男性に対し体を一瞬震わせて小声で返事をするマレアに市村は戸惑いを感じたが二人が部下と上司の関係だと会話から推測できたのでこれが社会というものなのだろうと一人納得して二人を見守る。
口を再度男性が開こうとするが市村と目が合ってその口を閉じると市村に微笑みを向けてからゆっくりと市村に背を向けてから銀色のドアノブを押して黒色のドアから出て行く。
ドアが閉まる音を聞いてからマレアは後ろを亀のようなゆっくりとした動作で振り向き、男性の姿が見えないと解かると勢い良く体を起き上がらさせて黒いドアに向かい小声で怒鳴り散らす。
「ガタイがでかい癖に小言が多すぎるのよこのゴリラ! アンタがクビになったら腹の底から大声で笑ってやるわ!!!」
マレアが口汚く罵る姿を見て市村は自分の独り言も傍からみたらこう見えるのかと思い独り言を今後使わないように心のなかで誓いながらも辺りを見回す。
白を基準として整えられている部屋で壁から背中を離して自分が寝ていた場所を見下ろしてベットで寝かされていたと解り少なからず安堵して近くのパソコンに目を向ける。
画面には今朝の夢の出来事が再生されていて視線が釘付けになり見つめる、未だに続くマレアの罵りにうんざりとしながらも足音を立てずにベットから降りてパソコンに近づき黒いヘッドフォンをすると丁度自分が起きた所から続いていた。
物語としては夢の続きだが連続して様々な形をしたアイコンが浮かび上がっては消えるので映像を上手く見れず眉を潜めて眺めているとヘッドフォンを取り上げられ後ろを振り向く。
「勝手に人の商売道具触らないでくれる? 言っておくけど変に弄って泣きを見るのはアンタなのよ?」
「このアイコン少しだけ消してくれない? 夢の続きが見られないんだ」
そう市村が言うとマレアは顔をしかめて市村をどかすとマウスを右クリックして設定を弄りアイコンを消してからパソコンの前からどいて市村の方を面倒くさそうに振り向いて顎で合図を出す。
ヘッドフォンをして画面を見ると丁度チョコを指でつまんで口の中に入れた所で客観的に自分が経験したことがない光景にいる自分を見る事に気持ち悪さを感じたが夢だと割りきってその光景を見守る。
嬉しそうに頬を赤く染めたり変に慌て始める岸辺に見とれていると机の上に水色の音符が描かれているコップを置かれてそちらに目線を送るとマレアが笑みを隠そうとして変に固くなった表情で佇んでいる。
流れとして終わって家に帰った所で今度は見たこともない部屋の中で知らない男女に囲まれてご飯に箸をつけている所でマレアが画面の電源を消す。
「はいここまで、この夢は今日のだから見ちゃ駄目」
「………ねぇ夢ってどうやって作るの?」
「え? そうねぇまずアンタが消してって言ってたアイコンあるでしょあれで風とか匂いに光とか人に物を設定して作ってー、それから人なら表情に声に動きをつけて風なら方向とかを微調整して最後に話としておかしくないかどうか担当者、つまり私が確認して客、つまりアンタに見せる形かな」
夢を作るというのは前提でそこまで細かく作業をしてるのかと市村は思い眼の前の少女に対し感謝の念を送る。
白い机の右下には大きめの淡萌黄色のゴミ箱の中には数十本の空の栄養ドリンクが入っていて少なくとも一時間や二時間で出来る作業ではないということは聞かずとも理解出来た。
両手を上にあげて体を伸ばしながらマレアは市村に対してあくびをしながら問いかける。
「ああそうそう、こういう夢が見たいとかあるなら聞くわよ? そっちのほうが一々考えなくて私も楽だし」
「………えぇと、普段マレアがしてるような夢を作るような夢が見たいなぁ…なんて駄目かな?」
「えっ、アンタマゾなの?」
唐突にそう発言したマレアは市村の顔を眉間にシワを寄せながら覗きこむ、その表情からいかに夢を作ることが難しいのかが解り金銭を貰わずにやるなどあり得ないと言いたげな反応を見せた。
「言っとくけどアンタの世界の労働基準法? とか言うのはこっちには無いわよ? 私はバイトだからまだ自由はあるけどさっきのゴリラなんてもう三週間は缶詰状態なんだから」
「………何でそこまでしてこの仕事してるの?」
「ここだとまだいい方なのよこの仕事、言っておくけど誰にでも出来る仕事じゃないのよ? たかがバイトだけど資格もいるんだから」
そう言いながらどこか誇らしげな顔を見せるマレアに対し市村は目の前にいる少女は短気な所とすぐに手が出る所さえ無ければ優秀な部類なのかもしれないと思いながら視線を送るが送られた方のマレアはその視線を見て瞳を少し見開いて体の動きを止めて、次に市村に対し面倒そうに睨みつけ始める。
そのマレアの動作を見てこの会話の流れがヤブヘビだったことを市村は自覚し顔をマレアからそむけて地面に落とす。
「解った今度私の仕事をアンタに手伝わせてあげる、感謝しなさいよたかが雑用でも普通は絶対出来ないんだから」
「………あー、俺が仕事を手伝うのは良いの?」
明らかに選択を誤った事を自覚してそう市村が顔を引きつらせて言うとマレアは左目を瞑って右目の綺麗な栗色の瞳で市村を見抜く。
上機嫌で今から鼻歌でも歌いそうな素振りが伺えて体のいい使いっ走りが出来たと思っているのだろうと市村は思いながら少女のオレンジ色のチューリップの様な笑顔を見つめる。
「フッフッフ………アンタは仕事を手伝うんじゃ無い、夢を作る仕事を手伝う夢を見て貰うだけよ」
「原則一人なんじゃあ」
「一人よ? アンタは言わば備品扱いだからそこの所勘違いしないで」
そう笑いながら言うマレアの笑顔を見て市村は覚悟を決める、と言うよりは諦めの域に入りその発言を正したりせず受け入れて胸の中に落とす。
そう諦めて顔を地面に落としている市村に対しマレアはスカートのポケットから小さめのチョコを何粒か手に取り自分の胸のあたりに持って行き左手を開けてチョコの種類を確認し始める。
アーモンドが入った物を選び他はポケットの中に戻しながら市村の右隣まで移動し市村の右腕を掴み右手でこじ開けると同時にその手の平の中にチョコを落とす。
「ほらお給料代わりよ、感謝しなさいよね私のおやつを恵んであげたんだから」
「俺まだ何もやってないんだけど…」
そう市村が言うとマレアは先程の明るい笑顔ではなく嫌らしく、そしてどこか砕けた笑顔をしながら口を開く。
「良いのよ、これから嫌というほど働いてもらうんだから、言っておくけどお給料上げたし弱音は許さないから覚悟しなさいよ」
「………じゃあ先輩って呼んだ方が良いのかな? 俺一応マレアから教わる形になるだろうし」
そう市村が言うと不意にその厭味ったらしい笑顔がマレアから遠のいて、頬を赤くして市村から数歩後ずさり距離を取る、頬がだらし無くつり上がっているのを本人も自覚できているのか市村に背中を向けて声を上ずらせながら市村に向けて発言する。
「せ、先輩なんて言わなくて良いわよ! 私はほらその…っていうかアンタは備品! 私の部下でもないんだから普通にマレアで良いのよ!」
そう言うと勢い良く市村の方を体ごと振り向き睨みつける、先程まで怖かったその睨んだ栗色の光も今の市村にはあまり意味はなく、返って微笑ましさからか口元から空気を少量吐き出してしまう。
その表情を見て赤い頬をリンゴのように赤くするマレアに対し以外にとっつきやすい人なのかもしれないと予想をする。
(先輩呼び憧れてるんだろうなぁ…)
「ッシ!」
そう言うとマレアは先程のように、しかし威力は上がったその拳を勢い良く市村の腹部に当てる、踏み込みから体重移動まで意識させなおかつ速度もある一撃を無意識な腹部に受けて市村は簡単にその意識を手放す。
その手放す間際に最後に目にした光景は至近距離から離れていく赤い顔をしたマレアだった。
今回は個人的にツンデレを意識しました、ツンデレって難しいんですね、もっと簡単に出来ると思ってました。