霧がかった夢 後編
どうもー、昨日の今日で作りました、正直自身無かったんですけど結構いい出来かな―と自分では思います。
高音の音を聞いて沈んでいた意識が浮かび上がり瞼を開く、何時もならここまで寝起きは良くないが自然と綺麗に起きることが出来たことに満足していると未だに続く一本調子の高い音を耳にしそちらに左目を瞑りながら目線を向ける。
まだぼやけている視線にテレビが捉えると灰村は眠気を吹き飛ばして両目を開けてテレビを見つめる、映っている映像は赤や青に黒と言った棒のようなものもあれば正方形の真四角もあって一日の放送を終えたテレビ局が流すお決まりの映像。
問題は映像ではなく、灰村の住んでいる部屋にはテレビが置いてないという事に他ならない。大学を卒業して就職するときに実家を抜け出してからは飲食店ぐらいでしかテレビを見たことが無い。
そこでようやく周りに視線を向けるが懐かしい実家ではなく彼女が借りているアパートの寝室であり狭い部屋の中無理に置いてあるような印象を受ける様に古き懐かしいブラウン管のテレビが映っている。
寝起きの頭に急激な情報が入ったので処理しきれずにいると自分が病院で睡眠薬を投与して貰ったことを思い出してこれが夢のなかだと再確認した。
妙に勘に触る音を出し続けるテレビの電源を切って寝室から移動しようと赤色のスマホに手をかける、電源を付けて真っ黒な液晶に明かりが灯り時間が表示されるが数字が六桁並んでいるのを見て時間は当てにならないと思い直した所で気づく。
液晶の右上に充電をしている表示が浮かんでいるのを見てテレビに再度視線を向ける、コンセントが刺さってなくこの世界が夢なのだと認識できていても気味が悪く思い足速にその部屋を出て台所に付くと身だしなみを確認するため鏡の前に立つ。
鏡に写る自分の姿を確認するが病院に出かけた姿のままだったのを確認すると何故か急に自分のことを滑稽に思えて灰村は薄く笑い玄関に向かう。
何時もなら左右の薄い壁から聞こえる住民の生活音がしないのも彼女の機嫌を良くさせる原因の一つであり、それよりも大きいのはあの気味が悪い夢の感覚を起きた時に感じなかったのが大半の理由だ。
鼻歌を歌いながらにこやかな笑顔で微笑みドアノブを回して扉を押す、外に出た時に何をしようか考えてドアを閉めていると自分の横から何者かがぶつかり灰村は鍵を右手に持ったままその場に転倒して肘を強く地面にぶつける。
現実なら鈍く強烈な痛むだろう腕を見て先程までの笑みを消してきつく睨みながら相手の顔を見上げると見覚えのないセーラー服を着た少女が灰村を静かに見下ろしているのを確認する、その少女の黒く澄んだ瞳が癇に障り大声で怒鳴り散らす。
「ぶつかったなら謝りなさい!」
少女は何も言わず灰村を静かに見下ろす、何を考えているのか目線一つ動かさずに何を見ているのかと少女の目線を辿り脇腹を見ると白と灰色の辺りの色が赤く染まっている事に気付くと同時に灰村の頭は思考停止状態に入る。
「………ぇ」
よく見ると少女の一般的なセーラー服には何も異常は無いがその足元である靴には赤色が付着しており、少女の右手に持っている包丁からは新鮮な赤い液体が滴り落ちて廊下の面白みのない灰色を赤に染め上げていく。
その光景を見て不意に小学生の頃絵の具で絵を描いた時水を入ればバケツで筆についた色を取る時一番最初はああいった感じだったなと思うと同時に意識を手放す。
瞳を開けると体を急激に起き上がらせて体を両手で力強く触る、両手は赤く濡れてなく、また脇腹を見ても綺麗な白と灰色で異物が入ったような赤色は見えない。
額に浮かぶ大粒の脂汗を左手で拭い辺りを勢い良く見渡すが自分のアパートでまだ夢の続きだと理解すると薄汚れた茶色いソファーを蹴るようにその場から駆け出し台所の机の上においてある鍵を持って玄関に向かう。
何時ものハイヒールには見向きもせずに何時かダイエットをするために買った白色の運動靴の入った箱を恐怖から震える手で開ける、白い包装用紙を勢い良く取り後ろに放り投げて運動靴を降ろして勢い良く足を入れようとするが新しい靴のため足に馴染んでおらず中々入ろうとしない。
「なんで入らないのよ…! 足のサイズあってるはずなのに!!!」
無理矢理入れるため足に痛みが走るが今の灰村にそれを気にするほどの余裕など無く一心不乱に両足を力づくで入れると扉を開けてそのままマンションの廊下を全力で駆け抜ける。
階段を駆け下り三階から二階に付く頃上の方から自分とは違う駆け下りる音を聞いて顔を引きつらせながら階段を降りる、若さゆえかその降りる音が自分よりも速いことを灰村は悟ると転げ落ちる勢いで階段を降りる、昔やった一段や二段飛ばしで降りようやく一階という所で足元を崩して勢い良く転げ落ちる。
転んだ拍子に挫いて腫れてると解かるほど歩きにくい左足を無視して勢い良く立ち上がると車の方へ向かい走り抜けると鍵でドアを開けてそのままドアが壊れそうなほど勢い良くドアを閉め鍵をかけると追いついた少女が運転席の窓に向かい包丁を振り下ろす。
今まで聞いたこともない音を聞き顔色を青から白色にすると灰村は大きく震える右手でエンジンを掛ける。
ホラー映画でお決まりのエンジンがかからない状態にならないで良かったと思いながらブレーキを思いっきり踏み込むと同時に窓が割れて灰村の喉に包丁が突き刺さる。
「あぁ……ッ…」
自分でも何が言いたいのか解らないがとっさに出た掠れた声で何か言うと灰村は自分の喉元から勢い良く噴き出る赤色に自分で怯えながら意識を朦朧とさせてぼやける視界の中ブレーキを踏み込んだまま走るアクアはフェンスを突き破り民家の壁に激突しフロントガラスがひび割れた状態になり停車した。
意識が浮かび上がり灰村は先程のように上半身を起き上がらさせて、まだマンションの中にいることを確認すると体を震わせながら体育座りをし膝の間に顔を押しこむ。
「何で私がこんな目に合わないと行けないの………! 後何回私は死ねばいいの…?」
そう震える声で怯えながら静かに呟く、そこには普段の勝気で目上の者に対しても意見を押し通らせる物怖じしない姿は欠片も見受けられない。
体を盛大に震わせていると部屋のドアを叩かれる音が聞こえる、ノックと言うような生易しい言葉では表現出来ず、ヤミ金の借金取りの様な力強さがあった。
数分間続いたその音はいきなり止んで何時もより静かな部屋に落ち着くと灰村は一瞬もう殺されずに済むのかと恐怖心を精一杯押し殺して震えながら玄関の方に近づき壁に隠れながらドアの方に顔を出す。
ドアから何も音を聞くことがなく安堵し灰村の胸の中から恐怖が薄れるが何故少女が消えたのか解らず考えていると右隣の部屋から物音が聞こえて体を固まらせる。
何かが弾けるような音が聞こえるが一体何なのか解らずにいると今度は左の部屋から同じような音が聞こえる、壁を壊しているという考えが浮かぶが音の種類が明らかに違うためその線を消すと藁をも掴む気持ちでスマホを取り出し警察に電話をする。
震える指先のせいで番号を何度か打ち間違えるがようやく打ち終えて緊張した面持ちで耳にスマホを向けるが一向に繋がる気配がないので顔を恐怖に歪ませると妙に煙たいと思い鼻を鳴らす。
煙たく咽るが少女に聞かれたくないので口元を左手で抑えなんとか声を少量にとどませるとその弾ける音が何かが燃えている音だと悟り戻りかけた灰村の顔色がまた青ざめた。
「もしかして燻り出すつもりなんじゃ…」
そう思うと同時にドアの方に駆け寄るが丁度見計らったようにドアが叩きだされて灰村は動きを止め静かに後ろに後退してベランダの窓を開けて外に出るが左右のベランダからは炎が舞い上がっていてとてもではないがそちらに渡れる状態では無いと一目で判断すると瞳から光が消えてベランダから身を乗り出して下を見下ろす。
何時もなら忙しなく道を歩いている人だかりが無く人っ子一人いないその光景を目にして灰村は自分とあの殺人鬼以外はいないんだと静かに悟ると空を見上げて呼吸を整える。
後ろから聞こえるドアを叩く音と両隣からの熱気を感じ焼かれて死んだり少女に殺されるよりは自分で死んだほうがマシかと思い身を乗り出す。
下を見ると吸い込まれそうな程地面は遠く一瞬で死ねる距離だと理解し、同時に死にたくないと思って嗚咽漏らしながら崩れ落ちる。
「死にたくない………! なんで死なないといけないのよ…」
そう思い灰村の頭の中を恐怖が支配する、思い出すのは小さい頃の楽しい記憶でこういったものを走馬灯と言うのだろうかと考えながら意を決して泣きながら飛び降りる。
風を切る音を聞いて以外に浮遊感が気持ち悪いなと思うと同時にアスファルトに激突して頭が割れて辺りを赤色の物体が転がる。
そして四回目に意識を取り戻すと灰村は光を失った瞳でゆっくりと立ち上がり台所に向かう、台所に付くとまな板に置いてある包丁を手に取りシンクの左奥に置いてある小さな可愛らしいピンク色の小物いれからあまり使っていない黒く長い綺麗なハサミを左手に持ち幽鬼のように静かで存在感が薄く、光が死んだ瞳で歩くとお気に入りのベージュ色のハイヒールを履いてドアを開け辺りを見渡す。
丁度階段から降りてくる足音が聞こえて灰村は無表情でそちらに足音を立てずに近寄り右手で持った包丁を振り上げる。
少女が顔を出した瞬間にそれを少女の頭に振り下ろす。そのまま少女が勢い良く包丁で押し倒されると灰村は項にハサミを連続して突き立てる、一度目と二度目は体が痙攣していたが数回と続くと反応しなくなり血が吹き出て灰村の顔や服を赤く染めるだけで終わるようになった。
そんな姿を気にもせずに灰村は安堵感から狂ったように笑い出す、その顔は狂気に満ちていてまともな人間ではないと判断するには十分すぎる表情だ。
笑い終えて腹を抱えていた手を下ろし笑顔で少女を蹴り飛ばしてその姿のまま階段を降りようとしたら突然視界が黒くなり目を開けると見慣れた天井が視野に入った。
体を起こして周りを見ると自分のアパートのソファーでそれを確認すると灰村は静かに夢がまだ終わっていないことを悟り、相原が言っていた事を思い出して力無く右手でズボンのポケットに手を入れてスマホの電源を付けて時計を確認する。
相変わらず六桁の数字で出鱈目な時間が表示されているが灰村が寝室で時刻を確認してから二十分程経過していた。
ホラーって難しいですね、怖いって思わせるのは難しい事です。