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青黒い水族館

 特に言うことはありません、しいて言えば誤字など、ここはこうした方がいいんじゃないかと思ったら修正するので日にちが経って見直したら内容が変わってることもあると思います。

 青黒い光に満たされる中少年は力なく目を半開きにしながら天井を見上げる、海の底、深海を思わせる綺麗な色が少年の視界を満たす。時折天井の青黒い海の中を黒い魚が一匹、二匹と通り過ぎるのをただただ力尽きた老人の様に見送るだけ。


 「全く、もう少し子供らしくしたらどうだい? まぁここを気に入ってもらってるのは嬉しいけど」


 そう相変わらず性別が判断できない声色を聞き力なくそちらに顔を傾ける。30センチ程の青いクマのぬいぐるみがお盆にオレンジジュースを二杯を乗せて音もなく近づく、すぐに興味を失い天井を見上げる事を再開させるのをみてテディーベアは小さな笑い声を出して少年の前にオレンジジュースを置く。


 それを一瞥もせずに掴み白いストローを口に含ませて少しずつ吸い上げる、水の音だけが辺りを反響し静なそこで少年は天井から顔を下ろして眼の前の水槽を見つめる。水族館の様に大きなその中を名前を知っているものから知らないものまで幾多の魚が泳ぐ、銀色の光が反射し少年が思わず片目を瞑る。

 数秒して瞳を静かに開けると丁度クジラが眼の前を横切る。その周りの魚との大きさの違いに呆けるとテディーベアが声を掛ける。


 「君は初めてここに来た時もそうだったね、子供らしく走り回ったり大声を出さずただ座って見てるだけ」


 そういうテディーベアに少年は数秒視線を移すがすぐに水槽に戻す、話す気がない意思表示だと感じテディーベアは静に首を左右に振る。

 実際に走り回られても問題は無いが静かに泳ぐ魚に見とれてもらえるのも嬉しいものだと思うと照れくさそうに青い毛糸に覆われている腕を上げて白色の布が縫われている手のひらで顔を掻くように撫でる。


 眼の前の少年を例えるなら廃人のようだとテディーベアは想像して見つめる、何時も突然現れて気づいたら水槽を見渡せる様な位置にこしを下ろしてあぐらをかく姿を見つける、そうしたら当然のようにジュースを持ってくるのは何時からだろうか、そう思っていると不意に冷たい何かを押し付けられた。

 小さく悲鳴のような声を上げて体を硬直する、落ち着いて顔を向けると少年が水槽を見ながらコップを差し出しているのを見て怒りながらコップを乱暴に取りお盆の上に乗せて青黒い中を歩いて行く、その青色の背中が青黒い優しい闇に溶け込む姿を少年は力なく見つめ、視線を切って辺りを見回す。


 前と左右の離れた場所には大きな水槽が見える、壁という物をここで感じたことがないが、天井は見えるのできっとあるのだろうと後ろの青黒い場所を見つめる。

 あの先に行くのを不思議と怖いと思わないが少年はそちらに行くこともしない、体の体制を直して眼の前の水槽の中を視線で弄る。

 そこにある砂の上にいる色とりどりのサンゴの中を小魚が行き来する、ヒレが動き魚が前に動くたびに砂が舞い上がるのを観察していると音を急に物を叩きつけるような音が横から飛び出る。


 体を反対の方向に逸らしながらそちらを見るとテディーベアがオレンジジュースが入ったグラスから手を離す所が伺えて不機嫌そうにテディーベアを見つめるとどことなく勝ち誇ったような雰囲気を出す。

 それを見て再度力の抜けた顔をした少年が後ろの方を指さす、釣られてテディーベアもそちらを見るが特に変わった様子は見えない、何が言いたいのか解らず少年の顔を見つめていると何が言いたいのか理解し自身の顔の前に手を置き左右に力なく振る。


 「駄目だよ向こうに行ったら、きっと迷子になって戻れなくなるから」


 そう子供のような声を出すがそこには子供を心配する親のような優しさが込められていた、それを悟ると再度テディーベアの目を見つめる、表情の変わりに目が良く変わるのを見て吹き出すように笑い声を上げると少年が呆れたような目線になったので慌てて謝る。


 「ごめんごめん心配されるとは思わなくて…大丈夫だよ僕は道を知ってるからね」


 自分がこの小さなクマにどう思われてるのか少年は気になったが聞くのも面倒に思い天井を見上げる。

 前と左右の水槽から浮かび上がる影が交差するのを力の抜けた表情で見つめる少年を見てテディーベアは顔を天井に向ける。


 影がいくつも交差し、青黒いそれは田舎の真冬の空に浮かぶ星空よりも幻想的で何物にも例えられない力強い美しさがあり、時折波の加減で変わる光に影は二度と同じ形では再現されない。見慣れているが見飽きることのないそれを普段独り占めに出来ているテディーベアは密かに優越感を感じ少年を一瞥する。

 先程と表情に姿が変わらない少年にテディーベアはふと思いながら声をかける。


 「そう言えば何時も一人で来るけど友達を呼んでも良いんだよ? 見ての通りここは人の出入りが少ないからね、―――というよりここに来るのは君ぐらいだし」


 そう声をかけられた少年は驚いたようにテディベアを見つめると、どこか悲しそうに視線を地面に伏せる。床も天井のように魚の影が行き来するのをみて心を奪われそうになる、その少年の振る舞いを見てテディーベアはあらかた察し勢い良く立ち上がると手や足を意味もなく動かし上ずった声を出す。


 「あ、あー大丈夫だよ! ほら僕なんて友達一人もいないし、というか知り合いが一人もいないし………」


 勝手に自滅するとテディーベアは力なく頭を下ろす、それに少年は優しい笑みを浮かべながら肩に手を乗せ顔を数回上下させる、それを見ながらただ下を向いていると少年は思いついたように水色の単ズボンのポケットに手を入れて百円玉を出す。

 テディーベアの肩を数回優しく叩き、それでも顔をあげようとしないテディーベアの顔の位置に両手をやり勢い良く叩く、顔を上げ抗議しようとするテディーベアに微笑みながら左手の手のひらに右手で百円玉を乗せる、それを不思議そうに見つめるテディーベアを笑みを深めながら見つめ右手と左手を交互に握りったり開く作業を続ける。

 両手を握り手のひらと甲の方を数回見せるように回すと両手の手のひらを上になるようにし左手を開く、その手のひらに百円玉があり優しく左手を閉じる、そしてもう一度開くと百円玉が左手から姿を無くしたのを見てテディーベアは驚き固まっていると少年は意地の悪い笑みを浮かべながら右手を開く、するとそこには百円玉がありテディーベアは狼狽したように少年に向かい声を荒げる。


 「ど、どうして百円玉が消えたり現れたりしたの!? 君には不思議な力でもあるの?」


 少年の両手を掴み揺らすテディーベアに勝ち誇ったような笑みを浮かべながらなんにも語らない少年にテディーベアは少年を揺らす力をより強めると不意に少年がテディーベアの頭に手を乗せて撫でる。


 「あー………うんありがとうね、そしてごめんね僕には友達がいたようだよ」


 そう顔を伏せながら恥ずかしそうに言うテディーベアの頭を撫でる手に力を込めるとテディーベアはくすぐったそうに少年の手を振り払う、勢い良く振り払われたので少年は少し驚くが、また力の抜けた表情をするとテディベアを見つめる、何を言いたいのか察したテディーベアは少年の右手に自身の左手を置き少年の顔を見上げる。


 「また来てね、僕はいつでも待ってるから…」


 そういうと少年は瞳をゆっくりと閉じる、テディーベアはそんな少年に優しい視線を送りながら今度少年が訪れた時はジュースと一緒に茶請け菓子の一つや二つは用意しようと心に決めて水槽を眺める。


 静かに泳ぐ魚は相も変わらず優雅で見るものを取り込む魅力を放っていた。

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