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ミニ竜の正体、過保護な保護者

ヒメナ「このミニ竜って、さっきヒメナさん達を襲っていた黒い鳥達を追い払ってくれたミニ竜デスよね?」

イサ「まあ、そうだろうな」

ヒメナ「ミニ竜はミニ竜じゃあないんデスか? 正体ってなんデスか?」

イサ「俺に訊くな」

ヒメナ「じゃあ、過保護な保護者というのは?」

イサ「だから、俺に訊くな」

 数秒間、ヒメナが消えていった茂みを呆然と眺めていたが、諦めてため息をついた。


 ――まあ、5分で戻ると言っていたし、しばらく待つか。


 そして、視線を地面へと落とす。

 そこにはヒメナが書いたであろう童話の一節が並んでいた。

 その傍らには、無造作に開かれた童話が置かれたままになっている。

 おそらく、黒い鳥に襲われて片づけている時間もなかったのだろう。


「仕方がないな」


 独りごちると、俺は童話に手を伸ばした。

 その時、茂みがガサガサと揺れたため、俺は手を止めて音のする方へと顔を向けた。


「ヒメナか? ずいぶん早かったな」


 そう声を掛けたが、茂みから出て来たものは緑の鱗に覆われた小さな竜だった。

 ミニ竜は緩慢な動作で俺に近づいて来ると、口に咥えていた葉っぱをそっと俺の足元に添える。


「なんだ?」


 俺が怪訝な顔をすると、ミニ竜が爬虫類独特の光彩のない目でじっと俺を見上げて、何かを訴えかけてくる。

 その目に突き動かされるように、俺はそのギザギザに尖った羽状の葉を手に取った。

 よく見ると、裏面は白く毛のようなものが生えている。


 ――この葉は傷に効く薬草だ。


 葉っぱを手にしながら、俺をじっと見上げているミニ竜へと視線を落とす。

 その目には、たしかに俺を心配する温もりがあった。


 ――もしかして、先程黒い鳥達を炎で追い払ったのは、俺が傷を負ったせいか?


 しかし何故、このミニ竜はそこまで俺に肩入れするのかがわからない。

 基本的に竜は人間に対して友好的ではないが、特にミニ竜は気難しいことで知られている。

 そんなミニ竜がまったく関係のない人間を気紛れでも助けるはずがない。


 俺が薬草を手にしたまま突っ立っているのが気になるのか、ミニ竜がチラチラと俺の様子を窺う。

 それでも薬草を使う気配のない俺に辛抱たまらなかったのか何故かミニ竜がそわそわと謎の8の字走を始める。


 ――なんだか人間臭いな。このミニ竜。


 赤緑の医療団にいる翼竜達も人間と共に長く暮らしているせいか酷く人間臭い。


 このミニ竜も長年人間と共に在ったのだろうか?


 その時、ふと気づいた。

 長年人間と共に暮らし、俺に肩入れしてもおかしくない魔物達の存在を。


「お前、リクか?」


 思ったままを口にする。


「それとも、カイか? クウか?」


 俺の言葉にミニ竜の動きがピタッと止まる。

 爬虫類は汗をかくことなどないはずだが、今にも冷や汗をかきそうなほど激しく狼狽(ろうばい)している。

 その態度がすべてを物語っている気はするが、更なる確信を得るために腰を屈めた俺は、硬直したままのミニ竜にそっと手を伸ばした。

 竜には逆鱗(げきりん)と呼ばれる急所があるため、自分の体に他者が触ることを極端に嫌う。

 竜が触れることを許すのは、強い絆と信頼で結ばれた相手だけだ。

 逆に言えば、不用意に竜へと触れることは自殺行為にも等しい。

 しかし何故だか、このミニ竜は俺に害を加えないだろうという確かな自信がある。

 おそらく、俺の考えに間違いはないはずだ。


 伸ばした右手がミニ竜の背中に触れる。

 緑色の鱗に覆われた体温を感じないひんやりとした体。

 その背中を頭の方から尻尾の方へゆっくりと撫でる。

 普通なら、こんなことをすれば、まず命はない。

 だが、ミニ竜は戸惑うような眼差しは向けているものの、特に嫌がる素振りは見せない。

 それどころか、撫でていた俺の右手の傷を心配するように、ミニ竜が身を(よじ)って傷口をペロペロと舐める。


「心配ない。ただのかすり傷だ」


 そう言葉をかけると、ミニ竜は舐めるのを止めた。

 しかし、心配そうな視線を俺に向ける。

 俺は再度ミニ竜に話し掛けた。


「大丈夫だ。問題ない」


 それでもまだ向けられた視線には心配の色が(にじ)んでいたが「わかった」とでもいうように、ミニ竜がコクンとひとつ頷く。

 それを見て、俺も同じように頷いた。


「心配をかけたな」


 意思の疎通が図れたことを確認した俺は居住まいを正すと、改めてミニ竜と向き合った。


「おそらく、なかなか戻らない俺の様子を見に来たのだろう?」


 ミニ竜は身じろぎもせず、ただじっと温かい感情を俺へと注ぐ。

 そのまっすぐな視線を感じながら、俺は言葉を続ける。


「本来ならすぐにでも戻らなければならないことは理解しているつもりだ。だが、もう少しだけ猶予をくれないか?」


 俺は魔王城を出てから、ここに至るまでの道のりを語った。

 何を見て、何を感じ、誰と出会い、どんな出来事があったのかを。


「数日前、ルニガッセでソルとリリィに偶然会ったのだが、2人とも俺が変わったと言っていた。雰囲気が柔らかくなったと」


 話すうちにルニガッセでのどうでもいいような日常を思い出し、俺の口元が自然と綻ぶ。

 それを見たミニ竜が目を大きく見開いた。


「俺は何も知らなかった。いや、知ろうともしなかった。だから、気づかなかった。自分がどれだけ狭い世界で生きていたのかを」


 青い空を仰ぎ見る。

 空の向こう。

 彼方まで想いを馳せる。


「たぶん、あのまま魔王城にいたら、俺がこの空の広さを知ることは一生なかっただろう」


 視線を再びミニ竜へと戻す。

 しっかりと目を見据えて、俺は現在の心境を言葉に換えた。


「どんな思惑があったのかは知らないが、お前達には感謝している。世界はこんなにも広大だったのだな」


 自然と自分の表情が柔らかくなるのを感じる。


「本当に感謝している。だからこそ、俺は最後まで自分の足で確かめ、自分の目で見てみたい。いや、空からではわからなかったこの国の本当の姿を、俺は知らなければいけないんだ。だから頼む。もう少しだけ俺に猶予を与えてくれ。必ず今よりも成長して帰ると約束する」


 俺の決意を、ミニ竜は身じろぎもせず聞き入っていた。

 そして、すべてを理解したというように、深く大きく頷く。


「すまない。苦労をかけるな」


 労いの言葉をかけた俺に、ミニ竜が笑ったような気がした。

 その瞬間を見計らっていたかのように、突如としてヒメナが舞い戻ってきた。


「イサ~! ありましたヨ。傷に効く薬草が」


 走り寄って来るヒメナを見ると、高く突き上げた右手に薬草が握られている。


「これでもう安心デスネ」


 にこにこしながら俺の正面にやって来たヒメナが、ふと怪訝な顔つきに変わる。


「イサ。どうしたんデスか、それ」


 ヒメナが俺の左手を指差す。

 それで気がついた。

 俺がミニ竜からもらった薬草を握ったままでいたことに。


「これは……」


 正直に言うべきか迷いながら視線をミニ竜へ向けると、さっきまでそこにいたはずのミニ竜の姿がこつぜんと消えていた。


「……あの辺に生えていた」


 ミニ竜の素早い退場に呆気にとられながら、ヒメナにそうと気づかれないよう適当な茂みを指差す。

 ミニ竜のいないこの状況では、本当のことを話すほうが嘘くさい。


「えっ、そんな近くにあったんデスか!? 盲点デシタ」


 何やら衝撃を受けた様子のヒメナがガックリと肩を落とす。

 しかし、持ち前の前向きさですぐに立ち直ると、俺の傷の手当てに取りかかった。

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