まったり2人旅、忍び寄る影
ヒメナ「忍び寄る影……もしやストーカーというやつデスか!?」
イサ「まさか、そんな」
ヒメナ「やっぱり美しさは罪なんデスねェ」
イサ「……」
ヒメナ「イサ。言いたいことがあるなら、目で言わず、口で言ってクダサイ」
リリィに見送られ、ルニガッセを旅立ってから早2日。
青く澄み切った空の下、今日も俺はヒメナと共に王都ルノオンへ向かって旅を続けている。
好天に恵まれ、旅は順調だと言いたいところだが――。
「イサ。どうかしたんデスか?」
俺の緊張が伝わったのか、隣りを歩くヒメナが俺に声をかける。
「いや、なんでもない。どうやら、気のせいだったようだ」
確実なことがわからないうちは、下手にヒメナを怖がらせないほうがいいだろうと判断してそう答えたが、俺の意識は後方の一方向へと向かう。
――先程から視線を感じる。
一度さり気なく後ろを確認したが、人の姿はなかった。
しかしその後も、視線はずっと俺達について来る。
最初は魔物が獲物を付け狙っているのかとも思ったが、わざと隙をみせても襲って来る気配も視線に殺気を感じることもない。
盗賊かとも思ったが、視線には敵意も悪意も感じられない。
それに気配から、どうやら俺達を見ている相手は単独のようだ。
――いったい何が目的なんだ?
それがわからないことには対策の立てようがない。
そもそも狙いは、俺なのか? ヒメナなのか? あるいは両方なのか?
「ヒメナ。少し休憩しないか?」
傍らのヒメナに声をかける。
相手の狙いがわからないうちは、こちらから下手に動かず相手の出方を待つほうが賢明だ。
それならこうして歩いているよりも、動かずじっとしているほうが相手の位置を掴みやすい。
「そうデスねェ。それじゃあ、あそこの木の下で少し休みまショウか? ヒメナさんもちょうど喉が渇いたなァと思ってたところなんですヨ」
少し先に見える大きな木を指差しながらヒメナがにこっと笑う。
それに同意すると、俺達は大きな木へと向かった。
「ふぅ。生き返りマスねェ」
大きな木にもたれかかるようにして座りこんでいるヒメナが、荷物の中から取り出した水筒の水を一口飲んで堪らないとばかりに声を発する。
「イサもどうデスか? 美味しいですヨ」
「ああ。頂こう」
ヒメナから水筒を受け取ると、俺も喉の渇きを癒やす。
身体の中にすぅっと流れていく冷たい水が俺をより冷静する。
――やはり思った通りだな。
絶えず俺達を追いかけて移動していた視線の主が、まるで俺達の動きに合わせるようにぴたりと止まり、一定の位置から動かない。
――とりあえず、居場所はわかっているし、少し様子をみるか。
さすがにまっすぐ見える場所だと、俺が存在に気づいて警戒していると相手に知らせるようなものなので、相手の居場所が視界の隅に捉えられる程度の角度で腰を下ろした。
もちろん、警戒を怠るつもりはないし、何かあればすぐ行動できるよう身構えている。
俺が水筒を返すと、ヒメナは水筒をリュックに戻して、かわりに一冊の本を取り出した。
「また、それを読むのか?」
ヒメナが取り出した本を見て、俺はげんなりと呟く。
ヒメナが取り出した本は、ルニガッセで俺がヒメナに買ってやった童話だ。
この2日間、ヒメナは暇さえあればこの本を取り出して何度も飽きずに読んでいる。
しかも黙読はできないらしく、必ず声に出して読む。
おかげで、否応なく同じ話を聞かされ続けるというある種の拷問を受けることになった俺は、今ならこの童話を一言一句間違えずに暗誦できる自信がある。
正直、そろそろ勘弁して欲しい。
「ご心配には及びませんヨ。今回は読むつもりで出したんじゃあないですカラ」
俺が飽き飽きしているのを感じ取ったのか、ヒメナがのほほ~んと笑う。
そして、最初のページを開いた本を傍らに置くと、その辺に落ちていた小枝を拾い上げ、地面に文章を書き写し始めた。
「何をしているんだ?」
「文章を書く練習デス」
一文字ずつ丁寧に書き写しながら、ヒメナが答える。
「リリィさんに手紙を書く約束をしてるんですヨ。だから、その練習デス」
たしかに、童話なら一文もそれほど長くはないし、文章自体も簡潔でわかりやすいから、良い勉強になるだろう。
しかし――。
「手紙を出すには、相手の住所が必要だが知っているのか? まさか、連絡鳥を使う気ではないだろうな?」
ルニガッセで別れる時、リリィから連絡鳥用の笛を渡されていたが、あれはあくまで緊急連絡用としてだ。
私信で使うのは止めておいたほうがいいと忠告するため、言葉を続けようとした俺にヒメナが顔を上げて口を開く。
「もちろん、普通に郵送しますヨ。リリィさんの家の住所ならちゃんと知っていますカラ」
「なんで知っているんだ?」
「もともと、リリィさんに買ってもらった服とかを一時的に預かってもらう約束をしていましたカラ、その時に聞いたんデスヨ。『この旅が終わって落ち着いたら、いつでも訪ねて来て頂戴』ってリリィさんから教えてもらったんデス」
なるほど。
抜け目がないな。
もっともなヒメナの説明を聞いて納得する。
しかし、たった数日でよくこれだけ親しくなれたものだな。
俺が感心していると、ヒメナが「そういえば……」と何かを思い出したように、持っていた小枝で地面に絵を描き出した。
徐々に形が明らかになっていくそれは、俺がリリィから受け取ったソルの指輪に刻まれた本来の赤緑の医療団の印だった。
しかも、意外と上手い。
「この印って、具体的には何を表しているんでショウか? リリィさんはご先祖様の信念を形にした物だって言ってましたケド」
「そういえば、リリィは明言していなかったな。しかし、ヒントは貰っていただろう?」
「ヒント?」
「赤緑の医療団がどのような目的で作られたのかという話だ」
「……つまりイサはこの印のこと、知ってるんデスね」
「まあ、俺もある意味関係者のようなものだからな」
「そうデスか。知らないのはヒメナさんだけなんですネ」
俯き、自分が描いた赤緑の医療団の印を小枝でつんつんとつつきながらヒメナが大きな独り言を呟く。
「やっぱり何度見ても星にしか見えないんですケドねェ」
ヒメナの大きな独り言を聞き、俺は地面へと目を向ける。
そこには太陽と上部の欠けた横向きの三日月を思わせる簡略化した印ではなく、ヒメナが星と翼だと評した正式な印がかなり正確に描かれていた。
――この印が表している象徴か。
懐かしいような物悲しいような、そんな気持ちを覚えながら、俺はじっと印を見つめた。
ヒメナが星に見えると言った物は、正しくは『光』だ。
暗闇の中、突如として現れた『一片の光』。
そして、ヒメナが翼みたいだと口にした物は、正しくは『両の手』だ。
それは『一片の光』に救いを求めて差し出された手であり、『一片の光』が消えないよう護るための手であり、もし『一片の光』が闇に飲まれそうになったその時は完全に闇に飲みこまれる前に『光』を消し去るための手でもある。
魔王にとって赤緑の医療団は、護りであると同時に監視者であり、裁定者なのだ。
もし、魔王が『力』に飲まれ、この国にとって害にしかならなくなった時は、迷わず止めること。
その初代魔王との盟約を形にした物。
それが赤緑の医療団の印だ。
だからこそ、ここに第三者を巻き込んではいけない。
踏み込ませてはいけないのだ。
深淵の闇を見ることになるのだから。
俺は、地面に描かれた盟約の印から視線をヒメナへと移す。
ヒメナはいまだ小枝で印をつんつんと突きながら、口を尖らせて不満げな表情をしている。
おそらくこの先もヒメナが印の意味を知ることはないだろう。
また、その必要もない。
そんなこと、俺がさせない。
そう決意すると、俺はおもむろに立ち上がった。
差し当たり、こそこそ後をつけて来る不審者をどうにかしよう。
「ヒメナ。少しの間、ここにいてくれ。すぐ戻る」
立ち上がった俺を不思議そうに見上げるヒメナにそう告げると、ヒメナは特に理由を問い質すこともなく了承した。
おそらく「ごゆっくりどうぞ~」という言葉から、生理現象か何かだと勘違いしているようだが、わざわざ不審者のことを教えて不安にさせることはないと思い、勘違いさせたままにしておく。
何はともあれ、まずはヒメナと距離をとり、不審者の狙いが俺かヒメナかをはっきりとさせよう。
もし、狙いが俺ならこのまま俺の後をつけて来るだろうし、狙いがヒメナなら現在の位置から動かないはずだ。
道から外れ、さくさくと青草を踏みしめながら歩み始めると、さっきまで同じ場所でじっとしていた気配が動くのを感じた。
どうやら、例の追跡者の目的はヒメナではなく、俺のほうだったらしい。
追跡に気づかない振りをして、少しずつヒメナと距離をあける。
あまり近すぎると、戦闘になった時ヒメナを巻き込むおそれがあるし、逆に遠すぎるとヒメナに何かあった時、間に合わないおそれがある。
その辺を考慮しながら、俺は少しずつヒメナと距離をとり、近すぎず遠すぎない絶妙の位置で歩みを止めた。
俺が足を止めると同時に何者かも動きを止める。
まっすぐに俺を見つめる視線からは、相変わらず殺意や敵意といった嫌な感じはしない。
しかし、一方的に見られているのは気分が悪い。
俺は、すぅと息を吸い込むと茂みに隠れて俺を見ている何者かへ向けて話しかけた。
「そこにいるのはわかっている。いったい俺になんの用だ?」
しばし返答を待つが、沈黙しか返って来ないこと悟り、再度声をかける。
「先程からずっと俺達の後をつけていたな。いいかげん姿を見せろ」
一点を睨みながら言うが、それでも姿を現さない何者かに痺れを切らせた俺は、こちらから仕掛けることにした。
「出て来ないのなら、こちらから行くぞ」
わざと殺気を発して一歩距離を詰めたところで、ようやく観念したのか茂みから謎の追跡者が姿を現す。
その姿を認めた俺は、あまりにも意外な追跡者の正体に思わず、さっきまでの警戒心も薄れて呆気にとられてしまった。
ガサゴソと音を立てて茂みから出て来た追跡者の正体は『人』ではなかった。
全身緑色の鱗に覆われ、背中には翼、頭には立派な角を生やした体長60センチほどの小さな竜が、じっと俺のことを見上げている。
――何故、竜がこんなところに?
疑問に思いながら、目の前の小竜をじっくりと観察する。
体は小さいが、頭の立派な角でこの竜が幼竜ではなく成竜であることがわかる。
おそらくミニ竜といわれる、成長しても体が大きくならない種族の竜なのだろう。
――しかし、こんなところに何故ミニ竜がいるんだ?
基本的に、竜は翼竜だろうがミニ竜だろうが、どの種族でも群れで生活する生き物だ。
中には、はぐれ竜と呼ばれる単独で行動している竜もいるが、そういった竜はどいつも独特の雰囲気を纏っているのですぐにわかる。
だが目の前のミニ竜からは、はぐれ竜独特の雰囲気が感じられない。
群れとはぐれたばかりなのだろうか?
それとも、この近くに仲間がいるのだろうか?
そもそも何故、俺を監視していたんだ?
ミニ竜を見ると、何か物言いたげにじっと俺のことを見上げている。
その爬虫類独特の光彩のない目が、ふとよく見知った誰かと重なった。
その時――。
「ぎぃやぁぁ!」
耳に届いた悲鳴が誰の物か頭で認識するより先に身体が動いていた。
地面を蹴り、急いでヒメナの元へと急ぐ。
「ヒメナっ!?」
休憩していた大きな木の下まで駆け戻った俺の目に飛び込んできた光景は、複数の黒い鳥に襲われているヒメナの姿だった。
ヒメナは自分の身を守るように地面にうずくまり両手で頭を庇いながら、鳥達の攻撃に必死で耐えていた。
「ヒメナ!」
俺はとっさに羽織っていたローブ付きマントを脱ぐと、それをヒメナに襲いかかってくる鳥達に向けて振り回し、追い払おうと試みる。
バサバサと何度か振り回すが、黒い鳥達は意外としつこい。
まるでヒメナを目の敵にでもしているのかと思うほど、執拗に攻撃を仕掛けてくる。
――このままでは埒が明かないな。
追い払うのを諦めて一気に片を付けようと、腰の剣に手を掛ける。
そして、空中を飛び交う黒い鳥達へ視線を向けた瞬間、赤い火柱が目の前を猛スピードで駆け抜けていった。
――え?
とっさに火柱の発生源へと目を走らせた俺が見たものは、黒い鳥達と同じように宙を舞い、なおも火を吐き出そうしているミニ竜の姿だった。
そちらに気を取られていたために、1羽の黒い鳥がその隙を付いてまっすぐ俺の眼球を狙っていることに気づくのが遅れる。
もう完全に回避することは不可能だと一瞬で判断した俺は左腕で両目を庇う体勢をとるが、その一撃が俺に届くことはなかった。
まさに断末魔の叫びというのが相応しい鳴き声が空気を切り裂く。
それからわずかに遅れて、俺の足下にぽとりと黒い消し炭が降ってきた。
警戒しながら、おそるおそる空中の様子を窺うと、ミニ竜が口から赤い炎を吐き、黒い鳥達が狂ったように飛び回っている。
――もしかして、助けてくれたのか?
『いや、そんなはずはない』と頭に浮かんだ考えを即座に否定する。
魔物の中でも長寿で人語さえも解するといわれている竜は、基本的にどの種族であっても人間に対して友好的ではない。
赤緑の医療団は竜と信頼関係を築きともに活動しているが、むしろそちらのほうが例外なのだ。
だから、竜がなんの関係もない人間を助けるなんてことがあるはずない。
そのはずなのだが――。
「イサ」
黒い鳥達の雄叫びにも似た声が天高く飛び交う中、俺を呼ぶ小さな声が下から聞こえた。
「いったい、何がどうなってるんデスか?」
いまだ地面にうずくまったままのヒメナが頭だけ上げて、黒い鳥達が逃げ惑っている空を仰ぎ見る。
「どうして大きなトカゲが火を吐いて、空を飛んでるんデスか!?」
「……あれはトカゲではなく竜だ」
一瞬、この状況で冗談を言っているのかと思ったが、表情が本気だったので一応訂正しておいた。
ついでに、忠告もしておく。
「竜は誇り高い生き物だ。自分の誇りを汚した者をけして許しはしない。命が惜しいのなら、二度とその言葉を口にしないことだな。まだ消し炭にはなりたくないだろう?」
俺が足下に転がるかつて鳥だった黒い塊を目視すると、ヒメナは俺と黒い塊を数回交互に見た後、ようやく俺のいわんとしていることを悟ったらしく、慌てて口を両手で覆い隠した。
「賢明な判断だ」
そう言うと、俺は視線を空へと移した。
どうやら勝負は決したようで、黒い鳥達は這々の体で逃げ出し、それをミニ竜がなおも追いかけている。
「ヒメナ。立てるか?」
とりあえず、周囲から敵の気配が消えたので、うずくまったままのヒメナへ手を差し出す。
「ハイ。ありがとうございマス」
俺の手を取ると、ヒメナがゆっくりと立ち上がった。
「怪我はないか?」
「ハイ。大丈夫デス。もしかしたら、これのおかげかもしれませんネ」
ヒメナが笑って、胸元に光る赤い石をかざしてみせる。
持ち主の身を守ってくれるという『生命の石』が、まるでヒメナの言葉を肯定するようにキラキラと輝く。
そんなふうに思う自分に少し驚きながら、笑顔のヒメナに話しかける。
「それにしても、どうして鳥達に襲われていたんだ?」
あのヒメナへの執拗な攻撃は、何かあったとしか思えない。
そんな俺の純粋な疑問にヒメナが珍しくキッとまなじりをつり上げて怒りを口にした。
「あいつら、リリィさんから預かった大事な笛を奪おうとしたんデスよ!」
怒り心頭といった様子で襲われた時の詳細をヒメナが説明する。
「イサとリリィさんの話をしていたら、ほんの数日前のことなのに、なんだか酷く懐かしくなりまして、リリィさんから貰った笛を眺めていたんデス。そしたら、1羽の黒い鳥がいきなり笛を奪おうと襲ってきたんですヨ!」
「何故、笛を?」
「わかりません。ただ、あの鳥は光る物を集める習性がありますカラ、そのせいかもしれませんネ」
ヒメナがリリィから貰った笛は銀製だ。
今日は天気もいいし、陽の光が反射して光って見えたのかもしれない。
「しかし、笛を奪おうとしていたのは1羽だけだったのだろう? それなのに何故、ヒメナは鳥の群れに襲われていたんだ?」
「それはデスねェ」
一度言葉を切ったヒメナが、勢い良く続きを話し始める。
「笛を取られまいと鳥を追い払うために必死で腕を振り回していたんですケド、そしたらそれが偶然これ以上ないというぐらい的確に命中しまして、それを近くで見ていたらしい仲間達が一斉にヒメナさんへ襲いかかってきたんデスヨ」
つまり鳥達にとっては仲間の敵討ちというわけだったのか。
どうりで執拗にヒメナを襲っていたわけだ。
「あいつら、絶対に許しませんっ。いつか、焼き鳥にしてやりマス!」
もしかしたら、すでに焼き鳥を通り越して消し炭になっているかもしれないな。
その考えは、心の中にそっと留めておく。
「ともかく、怪我がなくて何よりだ」
さり気なく乱れたヒメナの髪を整えてやる。
すると、突然ヒメナが俺の手首をむんずと掴んだ。
「どうしたんデスか? この傷」
「傷?」
自分の手に視線を落とすと、右手の甲に引っ掻いたような傷がついていた。
少し血が滲んでいるが、もう固まり始めている。
おそらく、鳥達を追い払うため、マントをバサバサと振り回していた時に鈎爪で引っ掻かれでもしたのだろう。
「たいしたことはない。かすり傷だ」
実際、血も止まりかけているし、この程度の傷なら怪我のうちにも入らない。
しかし、ヒメナはそうは思っていないらしく、そのまま傷口を放置しようとした俺を強い口調で叱りつけた。
「ダメですヨ! 小さな傷だからって甘く見てたら、悪化して大変なことになりマス」
「大袈裟だな」
「化膿して手が腐ってから後悔しても遅いんデスよ!」
珍しくヒメナが強硬な態度を崩さない。
しかし、それだけ俺のことを心配してくれているのだろう。
「ちょっと待っててクダサイね。何かあったかもしれません」
ヒメナが地面に置いていた自身の荷物をごそごそと漁り出す。
しばらく「こんなことなら、ルニガッセでリリィさんかソルさんに傷薬を少し分けてもらえば良かったデス」とか独り言を呟いていたが、結局めぼしい物はなかったようで、しょんぼりとうなだれる。
「スミマセン。偉そうなことを言っておきながら、お役に立てず……」
「気にするな。この程度の傷なら舐めておけば治る」
「でも……」
ヒメナが不安そうな目を向ける。
しかし、すぐ何か閃いたというようにヒメナが目を輝かせる。
「そういえば、リリィさんにこの辺で採れる薬草をいくつか教えてもらったんデスよ。その中にたしか傷に効く薬草という物があったはずデス。ヒメナさん、ちょっとその辺、探して来ますネ」
「いや。頼むからおとなしく……」
「大丈夫デス。遠くまで行きませんし、見つからなくても10分。……いえ5分で戻って来マス!」
力強く宣言すると、ヒメナは俺が止める間もなく駆け出し、茂みの向こうへと消えて行った。




