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乙女ゲームの主人公になった?!

作者: みかん

主人公

静里 茜 (しずさと あかね)


 乙女ゲームの主人公。ゲームでは健気で真面目で一生懸命な女の子として紹介されているが…。


攻略対象 1

青山 恭介 (あおやま きょうすけ)


 多数の企業を傘下に持つ青山家の本家の次男。優秀な頭脳。レイヤーが入った短い黒髪、黒い瞳。整った容姿。人当たりの良さが人気。彼に憧れる同級生や上級生、後輩にモテるだけではなく、結婚適齢期ギリギリのかなり年上のお姉さま方にも、ルックス抜きでも『金持ちで次男な優良物件』の意味で狙われている。


攻略対象2

渋谷 公鷹 (しぶや きみたか)



 母は全国に支店を持つエステ業界一位の会社の経営者。父親は入り婿で専務。成績は中の上だが頭の回転は早い。ツーブロックショートの茶髪、茶色い瞳。男として背はあまり高くないが、細マッチョ。幼い時から女性が多い環境だったせいか、女性と自然な接し方が出来てそつがない。


攻略対象3

御厨 克彦 (みくりや かつひこ)


 実家は御厨流の剣道教室。日本ではマイナーだが、明治時代に御厨の一族が海外に進出して教室を開き、世界展開。近年に出来た剣(刀)の大会『B-1』では御厨流の門弟が優勝を重ねて注目をあびている。祖母が北欧出身の為にクォーター。爽やかな短い黒髪、ヘーゼルナッツの瞳。小顔と瞳のみが祖母ゆずり。厳しい雰囲気なので女性が周りにはいないが、隠れファンが多い。主人公の幼なじみ その1。


攻略対象4

笹塚 kei (ささづか けい)


 父親は医師。母親はフランス人看護士。青年海外協力隊で知り合う。実家は代々医師の家系で開業医。頭が良く真面目で優しい。族に跡はを継ぐ事を望まれているが、一方で天使の声と呼ばれる美声を持つ為、ルックス含めて芸能事務所のスカウトが根気よく交渉を続けている。クセ毛でゆるいウェーブのショートな栗色の髪と同じ色の瞳。主人公のひとつ下。


攻略対象5

妙月 恵果 (みょうげつ けいか)


 父親は主人公の家の近所にある大きなお寺の住職。両親は昔から主人公を可愛がり、息子の嫁にならないかと言っている。ラウンドショートの黒髪、黒い瞳、眼鏡。学年主席。あだなは参謀、はらぐろ、鬼畜メガネ(全てのあだなは本人には秘密) 一部の女性に絶大な人気を誇る他、笹塚keiとセットで腐女子からの人気も高い。主人公の幼なじみ その2。


ライバル

水無月 鈴華 (みなづき りんか)


 父親は大手自動車部品メーカー代表取締役。その会社の3社ある子会社のひとつに、主人公の父親が働く工場がある。成績優秀、容姿端麗。性格は悪くは無いが空気は読めない。主人公の周りにたまたま良い男が多いので、主人公を利用して男子達に近づこうとするチャッカリさん。


モブ

田中 耕助 (たなか こうすけ)


 父親は主人公の父親の同僚、普通の会社員。母親は近所のスーパーへパート勤務。黒髪、黒い瞳。成績は中の上。お人好し。地味。存在感が薄い。中学生の弟が1人。園芸部。主人公の幼なじみ その3



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 夫が30代で亡くなった後、必死の子育ての甲斐もあり、二人の娘も無事に成人した。急にやることがなくなって、暇があれば娘に電話をしているうちに娘から怒られた。


「お母さん、私も忙しいんだからそんなに暇ならゲームでもやれば?」

  長女が怒りながら『学園都市 エターナルドリーム』を手渡してきた。


「なにこれ?」

「乙女ゲームと言われる恋愛シュミレーションゲームだよ。お母さんでも出来るから大丈夫」

「この歳でゲームなんて馬鹿みたいじゃないの?」

「そんなことないよ?ゲームを舐めちゃいけないよお母さん。ゲームは老若男女問わず楽しめる上にコミュニケーションツールとしても優秀、海外の人とも国籍を超えて仲良くなれるんだからね!」

 長女が熱く語ると二女も便乗してくる


「そーだよーおかーさん。おかーさんはおっとりしてるから、リアルの男性と知り合ったら絶対に騙されるに決まってるんだからー。私たちが結婚して孫が出来るまで、暇な時はゲームでもしてドキドキを楽しむといーよー」


 ノンビリぼんやりしている下の子に『おっとりしてる』『騙される』といわれると何気にショックだ。私にしてみればアンタの方が心配だよ。しかも私は将来の託児所か!


 ガックリと脱力している内に娘2人は用事があるとさっさと帰っていった。


(ゲームねぇ…)


 いい歳をしてゲームをするのがどうしても気が進まなくて、しばらくは放置していたある日の夕方。

 

 赤い夕日が窓を赤々と染める。暗い室内に鮮やかに差し込む赤。何も乗っていないテーブル。テレビから聞こえるワイドショーのニュース。遠くから聞こえる学校のチャイム。友達はいない。必死に子育てをしているうちに学生時代の友人とは自然に疎遠になった。高い金を払ってランチに行く趣味もない。私は1人だ。


 仮に、今この瞬間、心臓発作を起こしても誰も気づかないだろう。

 1人静かに息をひきとり、数日後に娘たちに発見されることだろう。


 気持ちはまだ若い。でも身体はだんだん老いていく。中身だけなら若者と変わらないのに器だけが変わっていく。中身と外側の乖離が、私を戸惑わせる。


 孤独だ。あの時にもっと早く旦那の異常に気づいていれば、もっと早く病院に連れて行けば、今頃は二人で温泉でも楽しめたのかも知れない。じんわりと涙が浮かんだ。


 ふと、娘が置いていったゲームが目に入る。やってみようと思ったのは、そんな心の隙間に囁いた悪魔の声だったのかも知れない。




「きゃ♪克彦クン可愛いわねー」

 あれからすっかり乙女ゲームにハマって、上から順に攻略、エンディングを楽しんだ。イケメンさん達は本当に素敵。


「リアルにこんな子たちがいればいいのに…」

 そう思いながら気になる事があった。どのルートを選んでも必ず主人公を助けるモブキャラのひとりに何となく見覚えがあったのだ。


(何だろう?この既視感は…)


 思い出せない後ろ髪を引かれたまま、ゲームをしたり、家事をしたり、町内会の仕事をしたり。慌ただしい毎日が過ぎていった。




 そのうち娘2人が結婚し、孫の面倒を見た。孫の相手は体力的には疲れるけれど、忙しく幸せな毎日を過ごした。ゲームはそのうちやらなくなったし、やる暇もなくなった。


 孫も大きくなり暇が出来てからは老眼や白内障が進んで、肉体的にゲームは無理になった。


 デイサービスに通い、カラオケや入浴を楽しみ、同年代の話し相手も出来た。





「今夜が峠です」

 医者の静かな声が6畳の和室に厳かに響く。


「おかーさん」

「お母さん」

「「お義母さん」」

「「「おばあちゃん」」」


 家族の姿がぼんやりと見える。


(泣かないで…)


 ずいぶんおばさんになった娘2人の顔が、涙でグチャグチャになっている。いい歳して子供みたいだと可笑しく思った。


 まだまだあなた達を残していくのは心配だけど、そろそろ旦那様のお迎えが来たみたい。後悔は無いとは言えないけれど、幸せだったわ。身体だけは気をつけるのよ?と話しかけたいけれど、もう声も出ない。


(さようなら。元気でね…)


「ご臨終です」


 室内に泣き声と鼻をすする音が聞こえる。




◆ 


 目が覚めると白い天井が見える。これは臨死体験と呼ばれる例のやつかしら?


 ぼーっとしながら左右を眺める。白を基調とした安っぽいインテリア。カラーボックスの上に、クマのぬいぐるみが見えた。


(孫の部屋…?)


 目をこすりながら起き上がる。身体がスムーズに動いてアチコチ痛くない。

 今日はずいぶん体調が良い。身体が軽いせいで気分も良い。

 ふと、肩にかかる黒髪が目に入った。


(黒髪?)


 大きな姿見があるのに気がついた。ベッドから出て近づく。


 鏡にうつったのは、16~17歳の女の子。肩にかかるセミロングの黒髪。身長155cmぐらい。小さくて垂れた目。平凡な顔。


 「だれー?!?!?!」

 寝ぼけた頭が急に覚めて思わず絶叫した。


 ペタペタと顔を触ると鏡の中の少女も顔を触る。

 手を見た。少しお肉がついてえくぼがある、茶色いシミもシワもない白くてふにゅふにゅした手。

 美人ではないが愛嬌がある、人が良さそうな顔。白髪じゃない黒い髪。

 白いモコモコなパジャマ。


(なんか見たことがある顔…)


 誰かと思ったら、生前にやった乙女ゲームの主人公じゃないか。


「茜?何があったの?」

 茜の母がお玉を片手にふすまを開けてノンビリと部屋に入ってきた。


(お母さん。絶叫した私が悪いけどプライバシー無視ですか。そして叫んでから来るの遅いし


「んん。何でもない。夢でも見たみたい」

「そ、何もなけりゃいいわ」

 お母さんは何事も無かったようにお玉フリフリ去っていった。ふすまをしめる事なく!


 お母さんにツワモノな匂いを感じながら、頭を振ってふすまをしめた。


 ベッドへダイブすると、この世界について考えた。


 この顔、そして名前。うーん…あとは攻略対象がいれば間違いなくこの世界は乙女ゲームの世界だ。


(と…言う事は…だ。)


 あの!イケメンさん達が!リアルにいる!目の保養ひゃっほ~!

 ウヒョウヒョいいながらベッドで飛び跳ねていると、目の前のふすまが再び開く。半目の母がそこにいた。


「ベッドの上で跳ねるな!壊れる!壊したら自分の稼いだ金で払って貰うからね!」

「ハイ!」

 ジーッと母が見つめる。私は蛇に睨まれた蛙のように、身体から油が出るような気分になった。


「 」

「 」

「 」

「 」

「 」

 無言の見つめ合いの中、黙ってふすまは閉められた。階段を登る音すら気づかなかった。間違いない、母が一番のボスだ。ガクブル。ラスボスだ…学生時代にやったRPGゲームが記憶のすみを通り過ぎて消える。



 さて、これからどうしよう…今後のことを少し考えた。頭を冷やす為に窓を開ける。


「おーい茜」

 声の方向に目をやる。この部屋は二階だったようだ。眼下には小顔で背が高く、モデルって言われても違和感を感じない美しい姿勢の男が手を振っていた。あれは御厨克彦ではないか。リアル乙女ゲーム確定したな。


「はーい」

 朝からいいもの見たなぁ。目の保養だウヒョヒョと内心小躍りしながら、ひらひらと手を振り返す。


「何してるのー?」

「耕助に朝練を付き合って貰ってんだ」


(…耕助?)


 全く視界に入ってなかった男の子が目に入った。薄い存在感。でも、その弱々しい笑顔に…笑顔に…あれ?見覚えが…んん?


(旦那だ…。顔は記憶と少し違って少し合ってるけど、あの笑い方。旦那に間違いない。ダンナ~)


 自然とダーッと涙が流れる。2人の少年は慌てふためいた。そりゃそうだ。今まで普通に話していた幼なじみがいきなり泣き出したのだ。そりゃあ驚く。


「まて、お 落ち着け」

「うわーん」


 泣き止まないと分かってからの克彦は早かった。庭を乗り越えてベランダに周り


「おばさん」

「あら克ちゃん。どうしたの?」

「ちょっと失礼します」

 靴を脱ぎ捨てて居間を突っ切り、勝手知ったる隣の家の二階に駆け上がる。ガラッとふすまを開けると、窓の外を向いて泣いている幼なじみの肩を掴んでグイッと引き寄せ抱きしめた。


「泣くな」


(は?)


 汗臭い胴着に強制的に顔をうずめさせられた私は呆然とした。いやあの旦那が見ているのですが。ジタバタ逃れようとする私に気づく事なく克彦は強い力で抱きしめている。

 窓の外では泣きやんだらしい事を察した耕助がホッとした顔で佇んでいた。


「お前の泣き顔は苦手なんだよ」

 上を向かされて囁かれる。近い近い!顔!やイケメンだけど、目の保養だけど、そんなんじゃなくて!ヤダー ナニカノ『フラグ』タテタンデスカー?!


 こんなシーン、ゲームでは知らない知らない。旦那へるぷみー


 泣き止んだ私の顔の至近距離で、ニコッと殺人レベルの爽やかな笑顔を振りまく克彦。いつもキリッとした表情ばかりの人の笑顔の破壊力は凄かった。


 ひえ~後光が差しとります。ありがたや~。思わず拝みたくなったのは秘密。


 克彦は頭をポンポンすると爽やかに立ち去った。


「おばさんお邪魔しましたー」

「あらあら、もう帰るの?朝ご飯食べていったら?」

「いえ、母も朝食を用意していると思うので帰ります」

「そぉー?今度またゆっくりいらっしゃい」

「ありがとうございます!」

 階下から克彦の良い声が聞こえる。んー。ザ・スポーツマンだなー。ぼんやりと克彦と母のやり取りを聞きながらボ~ッとする。


(!じゃなくって旦那)


 窓に飛びつくと、克彦と耕助が肩を並べて隣の家に入る姿が、隣の庭の木々に隠れる所であった。


(ああ~…)


 ガックリと崩れた私であった。





 その後、何をしても攻略キャラ達とのフラグが立つか、私をダシにライバルキャラに連れまわされるか、彼等のファンに囲まれて逃げ出すかで、耕助と2人っきりで話す機会は訪れず。


 それどころか耕助が攻略キャラとの間を取り持つように見える行動まで取り始める。


(マジで血涙出そうです。涙目です。そりゃあモブとのフラグは立たないようになってるのかも知れないけれど、よりによって死んだ旦那様よ?少しぐらいフラグ立っても良いじゃない)


 ジタバタジタバタしながら思い通りにならない世界に文句をつぶやく。


 もしも時が戻るなら、旦那を病院に連れて行くのにと何度となく思った。

 そしてこの世界で旦那に再会した時は、神様が旦那との関係をもう一度やり直しさせてくれるのかと思った。


(なのに…)




 ファーストフードの店内で、飲み終わったジュースのストローの端をガジガジ噛みながら窓の外を眺めた。


 と、目の前の歩道を耕助が通り過ぎた。しかも1人だ。


(あ!)


 もしかしたらこれが最後のチャンスかも知れない。慌ててゴミ箱にゴミを突っ込んで店を出る。耕助の姿を探すと、横断歩道を渡ろうとしていた。


「耕助!待って!」


 大声で呼びかけると、耕助が振り向いた。私の姿を目にすると、笑った。



 




 あの、見慣れた弱々しい笑顔で。





















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