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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第五章 崩れ行く平和
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89話 管理者とS


「申し上げます!各地に展開させた兵の内、損害が規定に達した為中断。成功したのは3ヶ所とのことです」


「どうやら失敗だったのかな?」



報告に来た兵はアドミニストレーターの声にビクッと震えた。

透き通る様な声をしているにも関わらず、耳を通り抜けるその音は魂を奪いに来たと錯覚する程だ。

ただ、アドミニストレーターと向かい合って仮面を付けた男が笑って制止させる。



「いや、十分だと言えよう。君は下がって構わない。次の作戦まで各自待機するように伝えろ」


「えっと……その」


「君は意外と意地悪だね」


「そうか?いや、そうかもな。失礼、第7軍団、軍団長エスだ」


「はっ!」



仮面男が上司だと知るや、最大級の敬礼をしてその部屋を後にする。

部屋のドアが閉まると、アドミニストレーターは面白くなさそうにエスに今回の説明を求めた。



「さて、君は一体何を考え、この作戦を行なったのか。聞かせてくれるかな?」


「この作戦を考えたのは俺ではない。軍師ゼロだ」


「軍師ゼロ?その者の姿を一度も見たことがないのだが、彼は本当に実在するのかい?」



聞きなれない人物の名前にアドミニストレーターは懐疑的な反応を示す。

エスはそれに堂々と答えた。



「答えはYESとNOだ。存在はしている。だが、この今はいない」


「それはどう言う事かな?」



曖昧な答えにアドミニストレーターは意味がわからないと言う顔をした。

エスはそれを解消する為に説明を始めた。



「正史と共にある平行世界の他に、捻れの関係にある外史。時間の概念が正史世界を基準しているとは言え、全て同じ時を流れるとは限らない」


「つまり彼は別の時間軸からわざさわダイレクトメールで指示を出していると言うのかい?」


「その通り、彼は未来から我々に指示を出した、と言う事だ。ここでは時間と言う概念は通用しないと彼は書いている」


「その人物となる存在が、この後にワールドギアに参加すると言う事になるのだが、その人物は全てを知っていると言う事になるね。彼は信用に足る人物なのかい?」



信用しきれないアドミニストレーターはさらなる信用する為の材料を求めると、エスは一冊の紙束を渡す。



「信用するかはこれをみてから決めろ。だが安心しろ、実力は折り紙付きだ。あの世界の軍師が束になっても勝てないぐらいにな」



エスがアドミニストレーターに渡した物には、『現代兵と外史兵における混成部隊の脆弱性について 』と書かれていた。



「これは?」


「彼が書いた論文だよ。読んでみると良い。彼は、敵となる外史の兵と、それに与する我々の同郷の兵を混成することの脆弱性を上げている。戦闘距離と装備の格差から産まれる現代兵の戦闘力の低下、情報鮮度の低さから産まれる情報入手力の限界、戦場における摩擦の大きさの違い、情報差による戦場の霧の濃さの違い。……彼は制限された状況下において、現代兵の戦闘力を保つ為には外史と現代兵を分けるべきだと指摘している」


「摩擦?」


「クラウゼウィッツだよ。戦争論の第2編第7章。机上で計画を練っても、全ては机上での計画でしかない。偶然的なトラブル、人ではコントール不可能の天候的要因。実行する者の心理状態。それらが計画に及ぼす障害の事をクラウゼヴィッツは戦争の摩擦と呼んだ」


「彼は一体?」


「天才だよ。俺と対をなす天才だ。その知は計り知れない」


「と言うと、あの諸葛亮や司馬懿でも勝てないと言うのかい?」


「ああ、同じ兵力、武器、兵器を使っても、恐らくだが圧勝する。彼は戦術書どころか論文まで読み漁るほどだ。そして、彼が考えた今回の騒動は、次の一手によって完成される。彼が目を付けたのは時代の流れ。この外史と言う世界は限りなく正史に近い道筋を必ず通る。そこを利用し、世界中を争わせ、疲弊させる」



そこまで聞いたアドミニストレーターは納得する。

自分のよく知るエスが褒めるほどの人物、姿は無いものの、その能力は高いと直ぐに理解した。

エスはアドミニストレーターの悪くない反応をみてから、更に付け加えていく。



「今回の襲撃は、言わば実力精査といったところだろう。彼等に対する摩擦に対抗する能力の査定することによって、彼等の鉄の意志を調べたのだろう」


「彼は次はどうするべきだと言っているのかな?」


「GPS衛生の打ち上げ。彼は、この世界を落とすために本気を出さなければならないと言っている。我々が100%の力を発揮する為には必要不可欠だそうだ」


「世界中をカバーするのには時間と数がかかりそうだ」



成る程と頷きながらも、それを行う為にはかなりな時間と人手が掛かる。

それを知らないアドミニストレーターなわけではなかった。

それすら見越しているゼロの指示はエスによって伝えられる。



「今回占領出来た三箇所に打ち上げ施設を建設、準備を進めるように指示している。だが、この組織の頭はあんただよ。どうするかは決めろ」


「分かった。君達第7軍団に衛生打ち上げ施設建設までの警備を任せる。後は分かるね?」



そこまで聞けば、エスは立ち上がる。

決定したと言う事だ。



「では行動に移させて貰う。それと、道筋に沿ってしか行動出来ない傀儡の様な彼女等を誘導し、殺し合わせる事など造作も無い。だそうだ」


「素晴らしいね」


「では、失礼する」



そう言ってエスは部屋を出て行った。

1人残されたアドミニストレーターは、エスが渡したその論文をめくるのだった。

ゼロと名乗る存在が果たしてどんな人物なのかを胸に抱きながら。

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