86話 白と黒
空達が幽州から脱出してる一方、徐州は謎の集団によって襲撃を受けていた。
その集団は城門を爆破でこじ開けると、城にいる者全てを殺す為に次々と雪崩れ込んで来た。
城の駐在していたローンウルブズのメンバー数人と一刀達は直ぐさま迎撃を開始するが、兵士達が次々と無残に殺され防戦一方を強いられていた。
「クソッ!何人殺れた!」
白衣を着たまのファングは弾倉を変えながら合流したレインに状況を尋ねる。
戦闘によって返り血が白地の白衣を真っ赤に染め、戦闘の剥がしさを物語っていた。
近くには動かなくなった敵の死体がいくつも転がっている。
合流したレインも何回かの戦闘を挟んだ影響か、あちこち切り傷が出来ていた。
「確認したのは18人。多分それ以上出てるよ」
「これ以上は不味いな。奴等、正面から堂々と我々を押してくるとは……」
「どうする隊長?」
「非戦闘員と教育途中の兵士の離脱を優先させる」
『それは結構。今こっちはその離脱をさせている』
無線を意図的に入れていたファントムに反応を示したのはスートムだった。
ファントムは笑うと壁に銃を向け、ありったけの弾を撃ち込んだ。
ドサッ!と、何か柔らかいモノが崩れるような音が壁越しに伝わって来る。
「時代が時代に、壁がまだ柔らかいんだよ」
珍しくファントムは戦闘に興奮したような状態になっていた。
だが、それも直ぐに抑えると、レインに残敵を確認させた。
「レイン!敵の反応は!」
「後はこの階に8。下に11。中庭に2」
レインは目を瞑り、感覚を研ぎ澄まして敵の殺気を感知する。
だが、何かヤバイ気配を感じ取り、冷や汗が頬を伝う。
「中庭の2がソラよりもヤバイの出してる」
「そいつらがボス級だ。何としてでも狩るぞ」
「了解した。このフロアは俺が狩る。隊長達は下を」
ファングが1人ここに残ると宣言。
ファントム達は惜しむ事なく、下に行く為に武器を構える。
「ファットマン、直下で行くぞ!準備しろ」
ファントム指示により、ファットマンは小型のプラスチック爆薬を地面に円形状に貼り付け、信管を突き刺した。
「離れろ。3…2…1…」
カチカチッとスイッチを捻り、床を拭きばす。
直後、下にM84フラッシュバンが投げ込まれる。
瞬く間にフラッシュバンも炸裂し、ファントム、レインの2人が同時に飛び降りて銃撃を開始した。
「「クリア」」
数秒も掛からず、一瞬で制圧した事をファットマンに伝えると、ファントム達に続くべく、ファットマンも飛び降りて行った。
ファングも残ったフロアの残敵を掃討すべく1人行動を開始した。
一方中庭では、罪深き黒と無垢な白の2人が、北郷一刀、久遠優二の2人と戦闘を行なっていた。
「あらあら、どうしまして?これじゃ戦いになりませんわよ」
イノセント・ホワイトが払う鎌に2人は圧倒させられている。
ただ薙ぐとは違う、回転させ速力を貯めてからの一撃は2人の刀のガードを容易く崩してくる。
曹操が降るっていた鎌の振り方とは全く別で、異質な威力、予測不可能な多彩な斬撃に、食らいつこうにも翻弄され、徐々に切り傷が出来ていく。
一刀と優二が挑む直前、星と恋が2人掛りで挑んだが、同じように圧倒され、腕を浅く斬られ槍を持てなくなっていた。
「くッ……何だこの威力」
「手が……痺れる。」
2人は強烈な一撃にガードを崩されてしまう。
刀から伝わってくる尋常ではないぐらいの衝撃が骨身に伝わり、苦悶にも似た感覚が身体中を走り回る。
2対1という優勢な状態な筈なのに、現実は逆だった。
一刀を斬撃で壁まで吹き飛ばすと、優二の足を払って転倒させる。
「ガラ空きですわ」
ニヤリと笑ったホワイトが、隙を晒した優二に上からの振り下ろしで仕留めに掛かってきた。
鎌の加速は止まる事を忘れ、音速まで跳ね上がった鎌の刃は、当たれば体を霧散させるような威力だろう。
万策尽きた優二に出来る事は目を瞑る事だけだった。
それぐらいの絶望。
「諦めるな!」
抗う事を諦めようとした直後、優二に叱咤する男がいた。
銃を握り、優二を仕留めさせまいとイノセント・ホワイトに向かってありたっけの弾が撃ち込まれる。
「コブラさん⁉︎」
「悪い。避難させるのに時間かかったぜ。こっからは援護する。なに、向こうは大丈夫。ヘルメスと鈴々ちゃんに任せて来た」
「聞こえてましてよ。避難している敵を狩りなさい!」
「こっちにも聞こえんだよ!」
ホワイトは、後ろに控える部下達を使って城から退避しているヘルメス達を狩るように命じるが、部下達が動くよりも早く銃弾が部下達をぶち抜いた。
空が扱う銃のような凄まじい速度の早業に一刀と優二の2人は唖然としてしまう。
だが、同時に部隊名の由来である一匹狼と言うのを思い出して納得する。
空が頭一つ抜き出てるだけで、全員が凄まじいのだと。
「やってくれましたわね」
「それはこっちの台詞だ!休日に何してくれたんだ、おかげで休日出勤じゃねーかよ!折角趣味で作ったケーキをグチャグチャにしやがって。ぶっ殺してやる」
「まぁ!そんな理由で」
激おこな理由を知り、嘘でしょみたいな顔をするホワイト。
だが、そのホワイトが言った一言で余計に火を付けたとは露程も知らない。
見兼ねたブラックが前に出てくる。
「少しは俺にも遊ばせろ。ホワイト、お前は逃げてる奴を追え。少し被害が大き過ぎる。このままでは失敗だ」
「分かりましたわ、お兄……いえ、ブラック」
「逃すかッ!」
追う為に走り去ろうとするホワイト目掛け、構えたMP7の銃口を光らせ、4.6×30mm弾が秒間約16発の勢いで吐き出される。
3秒も経たずに全弾が撃ち尽くされ、ボルトが完全に後退した。
MP7より撃ち出された40発もの銃弾を見向きもせず、ホワイトは自身の得物の大鎌だけで全てを弾き飛ばした。
「何ッ⁉︎」
銃弾を弾くだけではなく、屋根ごと飛び越えて行く身体能力に驚かされる。
弾倉を変え終わったころにはその姿は見えなくなっていた。
「さて、俺と遊んでくれるだろ」
「誰がお前となんか遊ぶかよ」
「俺を殺せれば部下達は撤退すると言っても同じ事を言えるのか?」
「なら遊ぶ暇なく殺してやるよ」
「仁にあふれる国だと聞いていたが、とても思えないな」
「悪いが傭兵なんでな。そう言った理念は、あいにくだが持ち合わせなくてな。殺しの理念ならすぐにでもお見せできるんだがなッ!」
言葉の端々で煽り合い、隙を見て先手を繰り出したのはコブラの投げナイフだった。
ブラックの死角から放たれた、狙いの付けられた鋭い一撃は急所目掛けて直進する。
だが、その隙を狙った一撃は届かずに終わる。
「おっと、危ない。投げナイフとは暗殺者じみた事をしてくれる」
「今だ!」
ブラックがその投げナイフを掴み取ると同時にコブラが叫ぶ。
ブラックへ向けたものでは無く、先程まで押されていた2人への合図。
一刀と優二の2人はブラックを左右から押し潰すように刺突を繰り出した。
「ほう」
だが、驚愕の顔一つ見せずに、掴みとった投げナイフを優二に向かって投げ返し、体勢を崩させると、両手で一刀の刺突を受け止めた。
白刃取りである。
「嘘だろッ⁉︎」
「残念、現実だ。そんな速度では倒せると思うな」
絶望に染まる一刀に足を使って一刀に一撃を叩き込もうとするが、直前でどうにかコブラの援護で助けられる。
ブラックは銃弾を回避しながらコブラから距離を取ろうとするが、立て直した優二の右袈裟斬りがブラックの身体を捉えた。
身体に食い込むように刃が通り、誰しもが斬ったと確信した。
だが、刃が半分まで吸い込まれた時、身体が霧散するかのようにその姿が消えた。
「悪いな。それは残像だ。だが、遊び相手としては上出来だ。久しぶりに退屈を忘れられそうだ」
中庭に埋められた木の天辺に大鎌を担いで佇むブラックは傷一つ負ってなかった。
それでも一刀達をそれなりの相手であると認識しており、先程までなにも持っていなかったその手には鎌が握られている。
「どうした?早くしないと君達の大事な人達が、冷たく変わり果てた姿になってしまう。時間と言うものは残念ながら有限だ。時に急がなければ手遅れになってしまうなんて事、君達なら知っているだろう?」
それを聞いた一刀は少し焦りを覚えた。
いくら空の仲間のヘルメスさんと逃げているとは言え、鈴々達があの化け物の女の人を倒すのは難しい。
星と恋の2人ですら手負いにさせられているのだから。
今すぐ目の前の敵を倒して桃香や鈴々に追いつかなければ手遅れになってしまうと言う恐怖が頭によぎっていた。
それこそがブラックの策略だと気付かず。
ブラックが木から飛び降り、ストンッと軽業師の如く着地するや、一刀目掛け一瞬で距離を詰める。
流石に優二とコブラも反応出来ず、なにが起こったのかさえ理解していない。
一刀の目の前に鎌の刃が尋常ではない速度で迫る。
焦りにより、判断が遅れた一刀に取れる行動は無く、ただ刃が届くのを見つめることしか出来ない。
「ウヒョヒョ。焦り過ぎて目の前の事を見失うのは本末転倒だよね」
一瞬で一刀の目の前に降ってきたその存在は笑いながらその刃をマチェットナイフで受け止めた。




