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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第四章 空の記憶退行/黒白の殺し屋
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85話 戦闘の天才

最初に動いたのは空だった。

マチェットナイフを掴み、カームへと突っ込む。

カームもライフルを投げ捨てるとその片手剣程の大きさの剣のみを使い、迎撃態勢を取った。

空の最初の振り下ろし攻撃を、最小限の動きで受け流すカーム。

隙の出来た空に容赦なく蹴りが炸裂する。



その蹴りを態勢を崩した状態のまま受ける空。

吹き飛ばされるかに見えたが、蹴り威力を回収し、自身を一回転させながら速力を溜め、マチェットによる斬撃の攻撃に上乗せする。

見切ったカームはマチェットナイフの刃の腹部分を全力の一撃を加えて、本来狙っていた場所からずした。

鋭い一撃はカームから外れた一本の木に叩き込まれる。

ボゴッと斬撃とは思えない音が愛紗の耳打つ。

カームの蹴りの威力を上乗せした空の一撃は、木を一本なぎ倒す威力をしていた。



化け物のような強さのカームに俊敏さと機転で食らいつく空。

この時代の武将の一騎打ちでさえ、もう少し抑えたような戦いだろう。

しかし目の前の2人は、想像すらして来なかった戦いを繰り広げている。

良く知る天界人と言うのは一刀だけであり、一刀ですらこんな戦い方は絶対にしない。

今、目の前の2人は、攻撃を受け止めるガードなど一切せず、攻撃に攻撃当てて相殺、もしくは受け流した上での急所への反撃、そしてカウンターの3つのみ。

彼等の行動は全て、攻撃に繋げると言う手段でしかなく、防御の二文字は消えていた。

受け流すのはあくまで急所の露出させる手段なのだ。

愛紗であるならガードするような攻撃でさえ、目の前の彼等は、最低限度の回避行動で、傷をつくることを惜しまずに攻撃している。



「流石に速いな」


「何年たったと思っている」


「だな!」



カームは笑いながら飛び上がると空に踵落としを放った。

空の戦う速度すら嘲笑うほどの高速移動からの踵落とし。

空はマチェットでガードを余儀なくされた。

踵落としとは思えない金属音が響く。

カームはそこから更に体重と勢いを踵落としに上乗せする。

次第に押される空。



「ハァァアアアアア───‼︎」



カームはゴリ押しとばかりに更に力を加える。

ガードする空は耐えかねる表情をしていた。

だが、空よりも先にマチェットが悲鳴を上げ、耐えきれずに、刃の半ばから破砕するように砕け散った。



「……ッ⁉︎」



蹴りに耐えきれず、空は後ろに衝撃を分散させながら吹き飛ばされる選択を選んだ。

10メートルも飛ばされれば木が空を受け止めてはくれるが、衝撃までは受け止めずダメージを負う。

カームの一撃は空を吹き飛ばすだけでは飽き足らず、地面すらひっくり返した。

飛び上がる土や岩の塊が辺りを覆い尽くし、空の姿が一瞬見えなくなる。



その土煙りを風圧で吹き飛ばす勢いで、空の創り出したブレード、ダークネス・ゼロの切っ先がカームの目の前に迫った。

その一撃を剣で上方に撥ねとばす。

が、カームは左肩に痛みを感じる。

気付けば、空のカランビットナイフの刃の半分が肩に突き刺さっていた。

カームも黙っておらず、空のガラ空きになった腹部へ掌打を叩き込んだ。

勢いに耐えきれず、地面を転がって行く。

だが、それでも2人は、息すら切らさず立ち上がる。



愛紗の目には目の前の戦いがいかに滅茶苦茶であると理解していた。

一本の武器を極限まで使いなす愛紗や一刀と違い、握った武器全てを使いこなす異常な技量を目の前の2人は持っている。

マチェットから少し大きい剣に持ち替えても速度は落ちるどころか増す一方だ。

そして、片手に小さなナイフすら持っても動きが制限される事もなく使いこなしている。

空と会ってからとその姿は一度も見たことはない。

普段銃を使いながら戦う姿とは全く別物なのに、それでも、鋭さは武将と対峙しても劣るところなど見当たらない。

むしろ、普通に勝ててしまいそうな程である。

だが、それはあの化け物も同じである。

空に剣を蹴り飛ばされると、昨日見せた方法で細身の槍を創り出す。

愛紗ですら苦戦を強いられた、回転を加える一撃を、更に強化したような振り方になっていた。



互いに単純な力の押し合いではなく、速度エネルギーを効率良く攻撃に乗せ、破壊力を増した一撃で相殺し合う。

その度に空気は揺れ、剣圧が愛紗の体に届いてくる。

もはや、間合いなど関係ないように思えてしまう。

だが、それでも間合いを詰めきれない空は若干押され気味だった。



空は何度目なのか分からない突きを放った。

加速によって得られた速度エネルギーと、突き刺す動作を重ね、一点の破壊力のみを強化したその一撃は、回転させた時に得られる速度エネルギーを持った槍の穂先によって完全に相殺される。

攻めきれない間合いの差は実際はさほど遠くないのに、物凄く遠く感じた。

間合いの関係ない、カランビットナイフの投擲を足目掛け放つも、上手く槍の石突きで弾き飛ばされた。

そろそろ自分のブレードも悲鳴を上げる頃だろう。

斬撃の撃ち合いによって若干歪み始めていた。



「どうした?このままじゃ攻撃手段を失う」


「…………」


「イマジネーションだ。それを使いこなせ」



そう言ったカームは空のブレードを柄から上を斬りとばす。

空は距離を取るも、完全に攻撃手段を失った状態だった。

刺突する為に加速してくるカームを迎撃する手段はあるにはあるが、外した場合、間違いなく死ぬ。

空はFN57に手を掛ける。

狙いは確実に捉えられる身体の中心部。

狙うは敵の速力を奪う事。失敗は許されない。



「空殿、これを!」



愛紗が自身の得物である青龍偃月刀を投げるが、カームが刺突を届かせる方が早いと理解していた。

空は集中を極限まで高め、狙いを付ける。

1発目は木に向って、2発目はカームの心臓部に向けて。

スローモーションにも感じるこの瞬間を、空は最大限に活かそうと、超速のノーモーション2連射を行なった。

速度のみを強化した弾丸が赤みを帯びた黄色の閃光を背に、狙った場所へと突き進む。

カームの突っ込んでくる速度と弾丸の突き進む速度が、正面から迫り合い、合計した速度はマッハを軽く超えていた。



カームはニヤリと笑うと姿勢を低くすると、更に加速する。

だが、同時に空もニヤリと笑った。

それでもカームは突っ込むが、自身に高速で迫る何かを感じ取った。

それは空が最初に放った弾丸。

木に跳弾したソレは、カームの進路上目掛けて飛んで来ていた。

このまま進めば当たると、カームは槍を地面に突き刺し、無理矢理に止り、バックステップで一度距離を取る。



空の手には愛紗から渡された青龍偃月刀が握られると、回転させながら持ち易い態勢を整えた。

その姿は何度もその武器を握って来たかのように馴染んでいる。

再び突っ込んで来るカームを迎え撃つべく、空は偃月刀の重心らしき場所を掴むと、愛紗の振り方とも、カームの振り方とも全く別の、棒術の構えを取った。

穂先も石突きも攻撃手段に変えた空は、カームの一撃を穂先で受け流すと、直後、石突きで攻撃していた。

偃月刀を手にした空はカームと互角以上に戦いを繰り広げていた。



どちらも一撃を与える事を許さず、また、どちらも攻撃の手を止めようとしない。

隙あらば、確殺を狙う一撃が飛び交う。

その度、木々が薙ぎ倒され、岩が砕け散り、地面が抉れる。

いつしか、撃ち合いは200合を超えた。

互いの顔には若干だが疲労が見えるが、それでも疲労など一切見せまいと、睨み合う。



たった数メートルの距離で睨み合う2人だが、その距離を一瞬でカームは詰め、空に一撃を加えんばかりに振りかぶった。

空の反応が一瞬遅れ、相殺が出来ないと判断した末に、その攻撃を受け止めた。

甲高い金属音が愛紗の鼓膜を殴打する。

強く叩きつけてきた槍を跳ね返そうと空は偃月刀に力を込めた。

2人は殆ど起きなかった鍔迫り合いの状態で押し合う。

表情を変えたカームが押し合う中、空に対して口を開いた。



「このまま話を聞け」



真面目な雰囲気に空は何も言わず小さく頷く。

先程の戦いとは打って変わったようだった。



「俺はソラ達の味方だ。俺の知ってるソラだと確信出来た」


「味方だと?」


「ああ。ここを通す前に話す必要があった。だから今こうしている。だが、今、後ろの女に勘付かれるのはマズイ。このまま打ち合え。あの時の戦いを思い出したな?」


「ああ。だが……ッ⁉︎」



容赦無く振られる槍を空は偃月刀で受け流す。



「今、この世界についてどのくらい知っている?」


「殆ど知らない」


「だろうな。この世界は外史と呼ばれる。俺達の世界である正史世界ともパラレルワールドとも別の世界。今、この世界で起きている事は一言じゃ語れないが、それでも省略して言うのなら、世界の命運をかけて争っている」



いきなりそんな事を言われても付いてはいけない。

ただ、愛紗にこの会話を聞かれないように死闘を演じるのに必死なこの状況で、世界の命運と言われてもさっぱりだった。



「それを止めるためにソラ。お前を探していた」


「待て!それは俺と何の関係、がッ⁉︎」


「お前の叔父だよ。俺達を戦うだけ戦わせたあの組織の黒幕。あいつがこの世界を使って何かを企んでいる。それを止めなければならないんだ」


「……分からない」


「お前なら分かるはず。このままいけば俺やソラのような奴が沢山出る事になる。俺達が戦ってきたのは」


「苦しむ他の子を出さないため……ぐっ……頭がッ……」



空の頭の中を引っ掻き回すような痛みが襲うと同時、過去のぼんやりとした記憶がフラッシュバックする。

悲しい記憶の数々は空の心を抉りながら、脳へと補完される。

カームとの死闘の末に殺せなかった記憶から、少し後のカームとは別の、大切な家族を初めて殺した記憶。

手を真っ赤に染め、おびただしい憎悪が渦巻く記憶。

これ以上、思い出したら自分自身が分からなくなりそうだと空は思った。

それでも攻撃の手は緩めてくれないカームの攻撃を次々に受け流す。



「一週間後、詳しい事を全て話す。徐州の城門に来い。覚悟があるならその記憶も全て戻す事が出来る」


「まて、話しはまだ」


「これ以上は女に気付かれる。俺に一撃を与えて離脱しろ。それと、徐州にいるのは俺達の仲間じゃない、気を付けろ」



そう言ってカームはわざと攻撃の手を緩めた。

空は言われた通りにカームの胴に下斜めから斬り上げの一撃を与える。

空も殺すつもりはなかったその一撃は、傷は浅くも大量の鮮血を地面に撒き散らす。



「くっ……やってくれる。見事だ、ソラ。お望み通り行けよ」


「行くぞ、関羽」



愛紗へと偃月刀を返すと、幽州の砦から2人は脱出した。

それを見送ったカームは死神のローブを剥ぎ取る。

空の一撃によって破かれた輸血パックを剥ぎ取るとその場に捨て去る。



「見事だよ、ホント。俺がコレを隠してるのを理解するんだから。そして、済まないな。あの死んだ男は少し勘付きつつあったからな。こうする他なかった」

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