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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第四章 空の記憶退行/黒白の殺し屋
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84話 DarkPassenger《闇の道を進む者》

早朝。

2人はあの砦の前にまで来ていた。

瓦礫だらけの砦の頂上にその者は佇む。



「来ると思っていた、ソラ」



銃と剣を瓦礫に突き刺し、待ちわびたようにその死神カームは待っていた。

空は一歩前に踏み出し



「悪いけど、そこを通させろ」



警戒しながらもカームを睨め付ける。



「断る。俺には俺のやることがある。通りたければ力尽くで通れ」


「………」



予想通りの反応に、空はローブの下に隠していたマチェットとP90を取り出して構える。

カームも空の臨戦態勢に応えるように立ち上がり、重厚なライフルと細身ながら鋭い切っ先を持つ剣を瓦礫の山から抜き放つ。



「思い出したんだろ?俺と殺し合った記憶を」


「ああ……どうしても戦わなければならないのか?」


「これは運命。ソラにはソラの。俺には俺のやるべき事がある」


「待って下さい⁉︎ 何故顔見知りであるのに戦う必要があるのですか⁉︎」



空の迷うな姿を見て愛紗は堪らずカームに叫んだ。

空は目を大きく見開いて愛紗を見る。

カームは呆れたように愛紗に向かう。



「何を言うかと思えば……顔見知りなら戦ってはいけないのか?」


「貴方には貴方の正義がある事は昨日の戦いで分かりました。戦う理由なんて無いではありませんか!今ならきっと分かり合える筈です」


「正義?正義だと?こんな世界に正義なんてあると思ってるのか?……あるのは人間の欲望と願望だけじゃないか」


「なっ⁉︎」



正義と言う言葉を聞いた瞬間、カームから感じるモノが狂気で満ち溢れていく。

全てを狂わせてしまいそうな狂気に愛紗は胸が苦しくなる。

ただ、カームと同質に近い空を除いて。



「結局正義なんてものは自己満足でしかない。だろうソラ?」


「…………」



空は否定しなかった。

愛紗の顔が絶望に染まる。

天界人に正義なんてものはないと言われたも同然だった。



「例え、心優しい人でも、権力を与えれば豹変する。俺とソラはそんな光景を何度も見てきた。このランセと言うものはなるべくして起こった現象だろうが。それを正義の下に立て直す?全ては何もして来なかった民衆のツケだ。それを女が言う天界人に頼ってまで達成しようなんて、他力本願でしかない」


「………確かに民衆の常識がいつも正しいとは限らない。民衆が正義だと叫んでも肯定する事は出来ない。人間はいつも正しい事はないと知っている」



理想を語る一刀や優二とは真逆の現実主義。

人間の闇を見続けて来た2人は理想なんて持ち合わせていない。

ただ、目の前の現実を見据え、最善の判断だけを下す。

空は敵対するから殺す、脅威になるから排除するを繰り返して来た。



「俺は……記憶を失ってから、民衆の言う正義に力を貸してきた。カームの言う通りだった。あるのは権力に服従する人間だったよ。何度も絶望して来た。だからこそ俺は正義なんてモノの為に戦わない」



その言葉に愛紗は泣きそうになった。

一刀と共にするのに、志しは目の前の化け物と似通っている。

薄々気付いてはいたが、裏切られた気持ちだった。

自分の戦う理由を否定され、苦しく辛かった。

今ようやく、この目の前の(ソラ)と分かり合えない理由が分かった。

根本的な部分が真逆で、反発し合うだけなんだ。

一緒にいるだけで苦しくなるだけなら……いなくなってしまえ。



そんな絶望仕切った愛紗の肩を叩き、現実に戻したのは空自身だった。

精悍な顔からは一切の表情は消えているが、何かを思い出し懐かしむような雰囲気を感じた。



「結局、正義と言うものは自己満足でしかないのかもしれない。だけど、人間の欲望と願望を、良識と理性が制するからこそ人間は進化し続けてきた」


「自己犠牲なんて馬鹿馬鹿しい」



カームが空の顔を見て呆れたように言う。

だが、空は決意したように顔つきだった。

P90をその場に置くと、ローブを脱ぎ、艶消しの黒のコンバットスーツが露わになる。



「俺は絶望を何度も味わっても、同じ絶望だけは決して大切な人に味わって欲しくない。たとえ悪だと罵られようが俺は、たった一つの大切なものを守れるのなら、闇の道だろうと進む。守れるのなら死んだって構わないんだ。俺の力の根源なんて結局そんなものだから」


「懐かしいよ、ソラ。君の自己犠牲と、他人に殆ど見せない優しさは相変わらずだ。だけど、ここを通す訳には行かない。たとえソラが時間を稼いでも、女を通す訳には行かないんだ」



空はどうして良いのか分からなくなっている愛紗を後ろに下がらせる。



「すまない。昨日の戦いの決着を奪う形になったが、これは俺の戦いだ。君がカームに色々言ってやりたいのは重々承知している。これが終わったら……君の命令に何でも従う。出て行けと言うならそれに従う。だから大人しくしてて欲しい」



愛紗を頷かせると、カームに向かって、マチェットナイフだけを構える。



「さぁ、女。よく見てその目に焼き付けろ。この戦いは決して誰にも伝わる事もなく、理解もされない戦いだ。俺達は闇に生き、闇を進む。それがどういう事なのか、よく見ておくが良いさ」



そう言って、2人の戦いが始まる。


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