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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第四章 空の記憶退行/黒白の殺し屋
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79話 幽州

生い茂る木々に囲まれた森の中、愛紗は目が覚めた。

静かな森だが、ピリピリとしたような少し痛いぐらいな殺気を感じた。

体を起こすと、そこには毛布をかけられており、一体誰がと思うが、幽州に向かっている人は2人しかいない為、答えは直ぐに出る。

そのもう1人が寝ていた場所を見るが、使われた形跡すらない寝袋が転がっているだけだった。

焚火の火も消え、朝だという事を理解するが、まだ朝靄がかかっており、かなり早い時間帯であるのだろう。



その肝心の片割れの姿はどこにもなかった。

愛紗は立ち上がって辺りを確認するが、空の姿はどこにもなく、空の馬アレイオンが睨むように起きた。



「すまない。起こすつもりは……」



謝る愛紗にアレイオンは顔で空のいる方向を指し、再び眠る為に丸くなった。

このピリピリする殺気も気になり、愛紗はアレイオンが指した方へ足を進めた。



足を進めながら愛紗はここ数日の出来事を思い出していた。

ここ数日かけて幽州へ向かっているが、彼との会話が一切なく今日まで日が経っていた。

行動からも全く彼の考えなど分からず、彼に対する評価が定まらない。

異常に高い戦闘力も持ち、この私ですら手も足も出ない彼は、何の為にその力を振るっているのだろうか?

以前、彼は正義も悪も関係なくその力を振るっていると言っていた。

金を得るならそのどちらでもいいのだろうか?

金の為なら、傍若無人の主にさえ仕えるのだろうか?

空に抱く疑問は尽きない。

産まれた世界も考え方も全く違う彼にとっての闘いとはなんなのだろう?




物思いにふけっていると、森の中でも一際広い場所に出た愛紗はようやく空を見つけた。

旅に出た時に身につけていたローブやコンバットスーツを身につけておらず、体のラインがハッキリと分かる黒のアンダーインナーに、コンバットスーツ下のズボンを身につけており、かなりラフな格好をしていた。

何もせずに立つ彼からピリピリと放たれる殺気から、感じていた殺気の正体が分かるが、賊や敵の姿どころか氣すらも感じられない。

なぜ、空が殺気を放つのか理解出来ずにいると、空が天界の武器であるハンドガンを取り出した。

普段彼が持っている武器とは形が少し違うが、愛紗には何が違うのかがわからない。

空がハンドガンの上部、スライドを引くと、ガチャと音を上げながら後ろへと動く。

その動作で彼は武器を扱おうとしていることだけは分かる。

愛紗は声をかけるのをやめて、木陰へと隠れた。

何故隠れたのだろうか?と思わなくもないが、それよりも今は彼のやろうとしていることに興味が注がれている。

どうやら、彼は愛紗の存在に気付いてはいない様だ。



「録画開始」



空が一言発すると、ピピと電子音が録画を開始した事を知らせた。

空の正面には録画用のカメラが切り株の上に置かれている。

録画が開始された事で空は続けた。



「長らく放置して来た跳弾の訓練を開始する。放置した期間は半年近くなるが、最近の状況により再訓練が必要と判断した。念の為、訓練を録画する事にした。今回、使用するのはFN社のFive-seveN。使用弾は弾速強化型の特殊強装弾。銃口初速は820m/s。エネルギーは580J。1マガジンの弾数は20発。今回、これとP90、M700しか持って来てない為、撮影はこれで行う事にする」



1人で何か向かって喋る空はハンドガンを構える。



「先ずは小手調べだ。幹で跳弾させて目標を狙う」



正面に捉えた的から手前の一本の太い幹を持つ木に狙いを定めて、撃つ。

放たれる弾丸は幹を掠めると、何かに弾かれるように進む角度を変えて的に吸い込まれた。

カンッ!といい感じの金属音が聞こえ、当たった事を知らせる。



「問題ないな。次は二重跳弾を行う」



一度、腰のホルスターにFive-seveNをしまうと、深呼吸をし……

物凄い速さでそれを抜き放ち、立て続けに2回の発砲を行なった。

1発はさっきの気の幹へ、もう1発は真っ直ぐに。

1発目が先程と同じく進路を変え、的に吸い込まれるように飛んでくるが、2発目の弾がそれを阻止するかの如く1発目の弾を弾いた。

2発の銃弾はお互いに進路を変えて切り株に置かれた的を避けた。



「ヒャッ……⁉︎」


「ッ⁉︎ 録画停止」



悲鳴が響き、空は慌てて録画を停止した。



***



「……………」


「……………」



パカパカとアレイオンと一刀の馬の足音だけが響き、2人の間に会話は無い。

空は辺りを警戒して無言なだけだが、愛紗は空を睨んでいた。

あの時、弾かれた弾が愛紗の直ぐ真上を通り過ぎ、後ろの木の幹にナイフで掘られた的にぶち当たっただけで事は済んだが、下手したら軽く死ねるトラウマレベルなものに愛紗は思わず腰を抜かしてしまい、慌てて来た空の肩を借りる事になった。

空は全くなにもしなかったのだが、愛紗にとって良く知る男は一刀なので、ガチ警戒したところ。



「敵はいないぞ?」



と素で返され、愛紗を驚かせた。

この人本気で言ってるのだろうか?と思っていると、空はそそくさと移動準備をする始末。

準備を終えると一応は心配してくるのかと思えば、鼻で笑いながら「大丈夫か?」と馬鹿にしたような聞き方で愛紗を怒らせた。

誰のせいでこうなったのです!と言い返す気力すら奪われた愛紗は、最後の抗議手段として口を閉ざして空を睨むという手段に出て、今に至る。

ただ、元々口数少ない空にそんな手段を取れば、会話など出来るはずも無く、ただ馬の足音だけが耳の鼓膜を打つだけになる。

一刀とは打って変わって、女どころか仲間としてすら見てない事を良く理解した。



肩を貸された時、空の体を触る機会があった。

一刀の体は剣道部という活動をしていただけあって筋肉もそれなりにあったが、空の体はアンダーインナー越しではあるが、その体はしなやかでありながら余計な贅肉(モノ)は付いてはおらず、ただ戦闘に必要な筋肉(モノ)だけがあるような洗練された体付きをしていた。

一刀とはまた違う男の体。


(な、何を考えてるんだ私は⁉︎)


一人余計な事を考え耳を赤くする愛紗を空は見てるはずも無く、コンパス、地図を見ながら幽州の方角を確認していた。

時折、ペンを出しては通った場所にチャックを付けて、幽州までの正確な距離を計りながら着くまでの時間を計算していた。

それを片手間にする余裕があるらしく、地図に目をむけながら辺りを警戒している。



それから数時間。

何事もなく足を進める二人は幽州の目前まで近づいていた。

かつて公孫賛が納めていた幽州は公孫賛から袁紹、そして曹操へと領主を変えている。

現在は袁紹が攻めた際に出た損害の復興途中であり、魏の領内になった今でもまだ戦いの爪痕が濃く残されいる。

そして、幽州に入ってまず空が感じたものは



「妙だ」


「どういうことです?」


「静かすぎる。殺気も感じない」



空の勘がこの静けさに違和感を覚えていた。



「普通、戦いの後には略奪や暴行など犯罪が起きる。その様子が一切感じられない。鎮静化するには早過ぎる」



空はアレイオンを止めさせると、双眼鏡を取り出して幽州の街を見た。

戦闘の後なだけあって街を守る外壁はボロボロで、街の中も瓦礫だらけなのが確認できる。

だが、犯罪行為が起きているようにはとても見えない。



「今、この幽州は誰が治めている?」


「曹操だと思いますが?」


「軍もいないとは……」



空はこの放置されている幽州の現状に呆れた。

だが、空は一度曹操に会っている。

彼女がここを放置するはずがないと思いつつもほかの状況を探るために再度双眼鏡を覗く。

愛紗は抗議目的の為にだんまりを決め込むはずだったのに空の質問にわざわざ答えている自分にようやく気付いた。

なぜ、答えてしまったのだ……と一人情けなく思っていると、自分たち同じように旅人のローブを纏った男性に声をかけられた。



「ようこそジャック様。お待ちしておりました」


「誰だ!」



空が銃を抜き問い詰めると、男性は



「私はホーネット様の部下の働き蜂(ワーカー)です」



と名乗った。

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