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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第四章 空の記憶退行/黒白の殺し屋
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78話 一抹の不安

怪我やら風邪やら正月やらでずるずると引き伸ばしてしまい申し訳ありません。



「えー、今回の講義担当のストームだ。先生って呼んでいいぞ」



徐州、兵士宿舎の一角でローンウルブズによる講義が行われていた。

宿舎の中には簡易的に置かれた黒板に長机など、学ぶのに必要なものが取り揃えられており、学校と呼ぶにはおこがましいが、それらしきものが宿舎内に出来上がっていた。

講師が傭兵、生徒が元義賊という妙な光景である。

講師であるストームは、簡易的な黒板に英語で”ローンウルブズの在りかた”と書き込むと生徒へと向き直った。



「とは言っても、今回の講義が初回という事だが〜、君達は今何故?と思っている事だろう。何故か、それは我々は傭兵だという事を理解するためのものでもある」



いかにも講師らしいことを言いながら、黒板に今度は中国語で書き込んでいく。

意外にも達筆で、字が読める者を脅かしつつ、



「このご時世、剣を振るうだけなら誰でも出来る。それは子供も大人も関係ない。問題なのはそこから先の剣の技術、つまりは戦う技術を磨き、いかに生き残るのかが大事であるという事だ」



ノリノリで授業を進めていく。



「まず、君達は傭兵であり、兵士ではない。これは君達はどこの国家にも属さないという事だ。傭兵と聞けば身の入りは良いと思うだろう?まぁ、実際、普通に兵士やるよりはよっぽど良い。だが、これだけは覚えろ、『生きる為の金だ。金の為に生きるな』」



いきなり名言らしことを言いながら、黒板に絵を描いていく。

武装した人の絵に、国の絵、金の絵など、意外にも上手なその絵は相関図だった。



「えー、傭兵というのは実の入りは良い。だが、国からの保障はない上に、安全は自主管理、装備も自費で、このような宿舎も与えられない。その代わりだが、自由がきく。この図の通りに説明していくと、傭兵とは自身の武力を国に提供し、国は武力を得る代わりに金を提供する。当然その金の中には、日々の生活費や武器防具の調達または整備費などが含まれている。だが、頭の弱い傭兵ってのはこれを酒、女、ギャンブルに溶かしていく。そういった奴ほど生き残ったりもするのだが……、人生をかけてやるようなことでもない。必要なのは、いかに生き残る”確率”を高くするかである!」



簡易的な黒板を叩きながら熱弁するストームに、生徒たちは置き去りだった。

生徒として今この場にいるのだが、その殆どは字の読み書きのできない者達ばかりである。

日常会話に支障をきたさない程度でしか学のない彼等にとって、ストームの言ってることなどさっぱりだった。

もう何を言えばいいかもわからない、そんな状況の中、助け船を出してくれる者がいた。



「心配だから来てみれば……。予想通りで安心だよ、全く」



心底呆れた顔をしながら現れたファングは黒板に書かれたすべてを容赦なく消した。



「おい、何しやがる」


「理解できてないの書いてる必要はねぇだろ?この時代で文字を理解するのは一部だ」



黒板を消されたことに抗議するストームを簡単に言いくるめると、ぽかんとしている生徒達の方へ向く。



「こうして面と向かっては、初めましてかな。ファングだ。こいつの代わりに詳しく、わかりやすーく、かみ砕いて説明するとだな。お前達はこれからローンウルブズ傘下の傭兵だ。俺達の下につくからには簡単に死なない傭兵になってもらう。そのためには先ずは学が必要だから学べよお前等。と、言うことだ」



簡単に自己紹介すると、これまでストームが言いたいことと、この先を簡単にだが説明した。

だが、義賊をやってきた生徒達にとって学べと言われても、何を学べばいいのかわからない。



「安心しろ。教えるのは俺達全員だ。必要なことは全部教える。だが……先ずは文字の読み書きが先だなこりゃ」



生徒の反応で、先にやるべき事が多いなとファングは落胆した。



***



執務室で頭を悩ませるファントムは、全てを投げ出したい気持ちでいっぱいだった。

袁紹、袁術の連合との戦争を終えてからというもの、やる事が多過ぎて、手が足りなく感じる程に忙しかった。

それを空の記憶が一時的に退行したおかげで、余計に手がつけられなくなっている。


ファントムは今まで前線で隊を運用する程度か、単独で戦闘をこなす事しかやって来なかっただけあって、今の、傭兵としてのローンウルブズを運用するのは至難の技と言っていい程だ。

指揮だけしかして来なかっただけに、経営なんて学ばなかったのだから。


ファントム達の飼い主である社長は、身一つで世界と渡り合う程に経営手腕や部隊運用能力が高い。

その社長がいない状況の中、ここまで何とか来れているのは一刀達の下に付いたからであり、決して己の力ではない。

下についたのは傭兵としての活動の地盤を固めるためだったが、地盤すら固まってないのに人数が千人近くも増えたのだ。

1人で運用するには行き詰まるのも無理はなかった。


ファントムの手伝いをこなせる人物を思い浮かべ、出てくるのは、ストーム、ハルトマン、ドッグ、ソラ、ホーネットの5人。

だが、その内のストーム以外全員が現在外に出ている。

ストームも新しく入って来た者達の教育を行なっているために、手伝いが出来るのが実質0人と、なんとも非情な状況である。

さて、どうするか?……と頭を悩ませていると、ノック音と共にドアが開かれた。



「ドアノックから返事も待たないとは……」


「どうせ返事しないだろ」



返事も待たずに入ってきたのは、嬉しい事にドッグこと、ハウンドドッグだった。



「で、その大量の紙束と生気の薄い顔はどうしたと聞いた方がいいか?聞かなくていいなら本題にいくが」



ファントムの顔を見て哀れむ顔をするドッグに、ファントムは「本題で頼む」と一言だけ言うと、直ぐに紙束へと目を向けた。



「俺達が最初にこの世界に来た場所を調査した結果だが……。残念だが、これといった手掛かりは無しだ。空間に穴が空いてる訳でもなけりゃ、タイムマシンの破片すらない。そもそも外史ってのは平行世界なのか、それとも平行世界とは別の異世界であるのかも謎だ。どう言った理屈で存在してるのかも謎だよ」


「SFみたいな話だな」



ドッグの報告を聞くファントムの口から出たのは率直な感想だった。

今の会話を、この世界の人が書いても理解不能なレベルである。

あり得ない事が現に起こっていることにお互い、笑いしか出ない。



「だな。だが、この世界の有名人が女の時点で、俺達の知ってる世界ではなく、タイムパラドックスは起きないのは確かだ」


「 どんなに滅茶苦茶にしようとも俺達の世界にはなんの影響も及ぼさないか」


「ああ。はっきり言って、あの紙に書いてある外史を守れって事も胡散臭い。別に俺達が守らなければ、俺達の住む世界が壊れる事もないが……問題なのは」


「帰る方法が見つからない以上、帰る方法を知っているのは、恐らく手紙を寄越した人物であると言う事」



ファントムが出した答えにドッグは頷き、肯定する。



「そして、いつこの力が使えなくなるのかも分からなければ、自力で帰る事もほぼ不可能」


「言うならば、俺達は人質だ」


「本当に逃げ場は無しか……」



与えられた欲しいものを作り出す能力も、いつ使えなくなるかもわからない状況であり、それが使えなくなればローンウルブズから銃が消える。

白兵戦が弱い訳ではないが、近付かれる分、危険が大きくなる。

銃、物資という身の安全を守る為に必要なものを確保し続けるには、最初に見た手紙に書かれてある通り、この外史と呼ばれる場所を守らなければならない。

この微妙な立場にファントムも、流石に世界そのものを敵に回そうとは思わなかった。



「まるで、飼われた気分だな」


「ああ。飼い主が変わった分、自由が効くのは良いがな。しかも放し飼いだ」


「戻った時、社長になんて言われるか……考えたくないな」



元いた世界を少し懐かしみながらも、元の世界にいる飼い主を思い出して二人で震える。

だが、数秒後にはお互いを見て笑い合っていた。

二人にとっては元の世界の事だの、人質だのは二の次で、このどうしようも無い状況がおかしくてたまらなかった。

十分に笑い合った2人は、ふぅーと一息をつくが、ドッグが机の上に置かれた一枚の紙に気付く。



「新しい依頼か?」


「ああ。だが、胡散臭くてな」


「内容は?」



歯切れの悪いファントムの返しに興味を持ったドッグはその依頼の内容を求めた。



「この街からかなり離れた集落を襲った賊の討伐。依頼者は村長となってる」


「ソレのどこが胡散臭いんだ?」



なんの変哲もない普通の依頼にドッグは首を傾げた。



「一見普通なんだが、普通過ぎて逆に怪しい。俺の勘だが、何か起きるような気がしてならない」


「お前がそういうならビンゴだな。その依頼、俺が受ける。どうせ、他に任せられる奴全員出払ってるだろ」



依頼書を手繰り寄せて、立ち上がるドッグ。

ファントムは任せたと一言だけ送る。



「じゃ、何かあればすぐに戻れるようにしておく」



そう言って部屋を出て行くドッグだが、その依頼は何か起きそうな予感がしてならない。

ドッグなら何か起きても大丈夫だろうと思うが、それでも解消仕切れない予感に一抹の不安を覚えた。

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