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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第四章 空の記憶退行/黒白の殺し屋
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75話 戻る時も突然に


「なんとも異常がないな」



ソラの体をくまなく調べたファングはズズッとコーヒーを啜った。

とは言っても調べる機械なんてある訳もないので触診である。

対面の椅子に座るソラは自分の怪我した足の裾を下ろし、椅子の上でくつろぎ始めた。



「こう見えても回復力は高いからね」


「そうみてぇだな。そのまま元に戻ってもらえればもっと良いんだがな」


「うーん……そう言われても、こればっかりは僕自身にはどうにも出来ないからね」


「なぁ、お前本当にソラ坊か?俺の知ってるソラってのはもっと、こう無愛想で可愛げの全くない奴なんだが」



コップを机の上に置きながら超が付くほどの失礼な事を聞いて来るが、ソラもくつろいだ状態のまんま気にもせずに答えた。



「本当も何もこれが僕だよ。とは言っても君達の知らないソラという事になるけどね」


「お前は今何歳のつもりだ?」


「そうだね。僕自身まだ11のつもりだけど、この体は15〜20ってところかな」


「正解だな。正確には後数ヶ月後でお前の体は18だ」



ファングにより自身の体の年齢を伝えられ、ソラは興味深そうに自身の体を観察し始める。

「これが18歳の僕の体かぁ」などと言いながら自身の身体のあちこちをペタペタ触るソラにファングは思わず苦笑した。



「言われるまで気にもしてなかったから不思議な気分だよ」


「おいおい、6、7年もズレてりゃ少しはおかしいとか思うだろ」


「前よりも僕の思った通りに動かせるとは分かってたんだけど、周囲の状況変化もあって、それどころじゃなかったかな」


「お前、案外抜けてるとこあるんだな」


「よく言われるよ」



ファングの素直な感想にソラは苦笑いしながら答えた。

だが、人格が変わってもその部分は一緒なことで、同一人物であるという事はファングは理解できた。



「だが、その微妙に抜けた部分はもう1人のお前と全く同じで安心だな。あいつもなんだかんだで戦闘以外は少し抜けてるからな」


「具体的に言うと?」


「そうだな……引くドアを押して開かないとか言ったり、酒を水と間違えて呑んで吐いてたりしたな。道に迷った時なんかは何を間違えたのか、娼婦に道を聞こうとして連れ去られそうになったりと色々やらかしてるな」


「…少しじゃないね」


「まぁ、戦闘以外はからっきしな奴だよ」



それからファングのソラとの思い出話しを続け、ソラは楽しそうに聞き続けた。

20分ほど続いた会話はドアをノックする音でようやく打ち切られた。

部屋の扉がノックされ、ファングが「どうぞ」と言うと、その扉が開かれる。

心配そうな顔をした一刀が部屋に入るなりソラに駆け寄って来た。



「骨が折れたとか聞いたけど、大丈夫なのか、空?」


「やぁ、お兄さん。この通りに元気さ」



ソラは折れた筈の足を動かし完治した事をアピールする。

一刀は慌てて止めさせようとするが、ソラは「もう完治してるから大丈夫だよ」と笑いながら言った。

一刀がホッと一息つくと、一刀を追って来た桃園三姉妹と優二が入って来る。

人が集まってもソラは嫌な顔一つせずに「やぁ」と挨拶をして来た。

心配していたのは一刀だけではなく、優二も心配そうな顔をしていた。



「足の骨が折れたなんて詠ちゃん達が騒いでたからビックリしたよ」


「随分と大げさだね。その場で治して歩いて帰ったのがそんなに問題だったかな?」


「大問題だ。普通骨折は全治二週間ほどだ。数分で完治なんて聞いた時は耳を疑ったぞ?これが死神の能力って訳か」


「僕たちの中じゃ、あれが普通だったんだけどなぁ」


『そんな普通あるか!』



その場にいた全員は呆れながら突っ込みを入れた。

皆からすればそんなのは普通とは言わない。

ソラはバツの悪そうな顔で「そうかなぁ…」と納得はしてなかった。



「けど、大丈夫そうなら良かった」



一刀や桃香達が安心する中、聞きたい事があった優二はソラの両肩に手を置き問い詰めるかのような形相で迫った。



「今のソラ君に聞きたいんだ。25番目の死神について教えて欲しい!」


「25番目……アレンジタイプの死神だね。けど、どうしてそんな事を知りたいの?」


「僕の…僕と白蓮の街がソイツに襲われたんだ!」



ソラの肩に置く優二の手の力が強くなり、揺さぶられる。

揺さぶられながらソラは優二がやろうとしている事が復讐だと直ぐに気付いた。

さっきまで笑っていたソラから笑みが消え、真面目に答える。



「知ってどうするの?復讐をするつもり?ならやめた方が身の為だよ」


「それは勝てないと言ってるのソラ君⁉︎」


「違うよ。僕は復讐に囚われた人の結末を何度も見て来た。復讐が生むのは新たな復讐者だけ。君がその業を背負えるとは思えない。それに元とは言え、仲間を売る人なんていないよ」


「どうしても無理なんだね」



その瞬間優二の瞳に殺意が湧いた。



「どうしてもじゃないけど、今は無理だよ。君が揺さぶってくれたおかげで眠っていたもう1人が起きたみたいだ。そのせいか…ふぁあ…僕は眠くて……」


「え?」



その一言で湧いた殺意が一瞬で鎮静されたかのような気分になった。

眠そうなソラの顔を見てると殺意なんて自然と収まっていく。



「本当は君にその覚悟があるか確かめたかったんだけど、流石にこの眠さじゃ無理そうなんだ。だから……また、今度………」



そう言ってソラは完全に目を閉じてしまった。

マイペース過ぎるソラに完全に置いてきぼりである。

数秒後、再び瞼を開けるが、瞳にはさっきまでの柔らかさはなく、見るもの全て突き刺すような鋭さが感じられた。



「……体が重い」



ボヤける視界の中、自分の体の重たさに少しばかり嫌気が指すソラ。

次第に視界もクリアになってくる中、ある事を思い出す。

戦場で戦っていた事を。

ソラは目の前で肩に手を置いている優二をすっかり敵だと思い込み、手を掴んで投げた。

突然の事に優二はなされるがまま。

思いっきり床に叩きつけられ「ぐへぇ……」と断末魔を上げた。

その声を聞いてソラはようやく自分が投げたものが敵ではないと理解するが既に遅く、優二は床で伸びていた。



「よう、お目覚めだな」


「最悪の気分だ。まるで変な夢でも見せられたようだ……」


「元通りだな」


「元通り?変だったのか俺は?」


「かなりな」



ソラの言ってる事を聞く限り、「さっきまでの記憶はねぇな」とファングはなんとなくだが分かった。

一つの体に二つの人格。そんな印象を持たされる。

「問題は山積みだな」と思うが、それとは別に、さらなる問題が発生する。

ソラの顔が青ざめていた。



「おい、俺の武器はどこだ?」


「隊長が預かって……て、おい!」



最後まで聞こうとはせずに部屋を出て行こうとするソラ。

あまりに慌て過ぎてるのか引くドアを押していて、開かない事に苛立ちを覚えていた。



「それ、引くな」



ファングの言葉で少しは冷静さを取り戻しはしたのか、ゆっくりと扉を手前側に引き、開けた。

だが、手は震え、顔は青ざめたまんまである。

そのまま部屋を出ていくや、勢い良く走り去っていった。



「……一体」


「なんなんでしょうあれ?」


「さぁ?」


「武器を持ってないから恐怖で震えてるだけだ」



嵐のように去って行ったソラに呆然とする中、ファングが答えた。

だが、聞いた事もないようなものに思わず聞き返した。



『は?』


「いや、あいつは武器を何か一つでも携帯してないと恐怖であんな風になる」



ソラの弱点を突然見せられて、なんて反応して良いか一刀達には分からなかった。

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