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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第四章 空の記憶退行/黒白の殺し屋
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73話 最強と謳われる存在

徐州での戦闘行動から一週間後の魏領内。

戦争の情報が入って来たが、その結果に急遽軍議が開かれる事となり早朝にも関わらず文武官問わず武将も集められた。

その中には隻眼の死神と呼ばれるオルカとアテナや、数え役萬姉妹の3姉妹、銃を席の隣に置いた迷彩服を着た数人の現代の軍人らしき男が座っていた。



「先ず、緊急の招集に集まってくれた事に感謝する。議題は先日起きた徐州の天の御使いと袁紹連合の戦闘について」



急遽集まってくれた事に華琳は謝辞を述べると目配せでオルカへと合図する。

オルカは頷くと、事の説明を始めた。

袁紹が仲の悪かった袁術と手を組み徐州に攻め入った事、元々仲が悪く連携も上手くいかないような即席の部隊だった事、そして徐州側の天の御使いにより一方的であった事。



「まぁ、勝ったのは華琳が予想していた通り徐州の御使いの方だ。今回、問題なのは即席の部隊にしろ約20万の軍勢をたった1人の手により壊滅させられた事だ」


「20万をたった1人でだと⁉︎」


「あり得ない」


「人間なのかその倒した者は?」



次々と文官、武官達が驚きの声を上げる。

誰だって物語みたいな功績を現実では受け入れらない。

その場にいる武将達ですらソレを聞いて驚いている。

華琳がパァンと手を叩くと騒がしいのは収まった。



「一応人間ではあるが、ヤバい化け物だ。俺達2人の元となった死神で、最強と謳われる存在だ」


「具体的に何がヤバいんや?」



疑問に思った真桜が質問を投げた。



「1人でこの国の精鋭部隊50万の兵力レベル。たった1人でこの国と互角に渡り合えるという事だ。俺達の世界でもたった10人で、小国とはいえど国を滅ぼしている」


「それはあかんな」


「今後、華琳の覇道を支える上で障害となるのは、徐州と袁術から独立し新たに出来上がった江東の小覇王の国の2つだ。だが、今最も障害となるのは徐州にいる死神だ。このまま放置すれば確実にこの国を排除しにくる。そうなればこちらもかなりな痛手、もしくは壊滅的な被害を被ることになる。そこで、徐州の死神をこちらに引き込む事を提案する」



オルカが提案したのは敵として攻撃してくる前に味方へ引き込もうと言う調略のような提案だった。



「しかし、失敗すればこちらが危ないのでは?」


「どのみち敵に回るか味方になるかの賭けなのだ。試しても良い筈だ」


「今すぐにでも徐州の死神を叩くべきだ」


「そうすれば、我々が滅びる可能性だってある」



徐州の死神を味方につけるか敵に回すかで意見が割れる。

皆、オルカの実力を見てきた。

それよりも強いと言う存在が信じられない訳ではない。

まるでお伽話のような、英雄譚のような物語上のような事を現実として実感できないのだ。



「オルカ。その者がどんな人物なのか説明なさい」


「はい、では」


「それは私から説明するわ」



オルカを遮ってアテナが前にでると、彼の代わりにその死神について語り始める。





「なるほど……やはり駄目だったみたいだね」



報告資料に目を落としながらアドミニストレーターはやはりと言った顔をした。

報告に来たワールドギアの構成員は申し訳なさそうに頭を下げた。



「お役に立てずに申し訳ありません」


「君が気に病むことではないよ。充分にやってくれた。……しかし、博士があの場所に残したナノマシンじゃ無理となると、他の手段が必要だね」


「今回、彼は記憶が戻ったものの、現在の記憶を閉ざしていました。これは二つの記憶が統合されない理由が別にあるものだと推測します」


「思い出してはいけない記憶があり、精神を維持する為に記憶を閉ざしている。と、言うことかな?」


「はい、おっしゃる通りです。その記憶を思い出してしまうことにより身体に多大な負荷がかかるが為に、自分自身で記憶を閉ざしていると私は考察いたしました」


「なるほどね。それだと合点がいく。それだと無理矢理にとは行かなそうだ」


「無理に記憶を思い出せば廃人は確定でしょう。今の彼の記憶は不安定であり、数日後以内には元に戻ると演算結果は出ています」



報告を聞き、上手くいったとは言えないが、顔色一つ変える事なくアドミニストレーターは納得したように報告をめくる。



「なるほどね。まぁ、予想通りの展開かな。元々確証は無かったんだ。あの廃棄された施設に残ったサンプルに過ぎない。となると、やはりソラの記憶を二つに分けたのは博士だったか……」


「やはり今回の不安定なものは」


「博士の失敗作だろうね。おおかたソラ自身で思い出せるようにと開発したものだろうが、彼も上手くいってはなさそうだね。他に報告は?」



あった事の報告を聞きながら報告書をめくっていく。

パラパラとめくれる紙の音と、構成員の報告が10分ほど続き、全ての報告を終えるとアドミニストレーターは報告資料を近くのテーブルへ置いた。



「さて、君は博士の捜索を急いで欲しい。彼がいないと進むものも進まない」


「了解しました」



敬礼すると、構成員は部屋を出ていく。

1人になったアドミニストレーターは立ち上がると窓へと近づいていく。

窓から映し出されるのは何もかもが崩壊した世界。

悲しいまで何もなく、残ったのは人が残していった文明の証である残骸。

窓に手を触れ、アドミニストレーターは独りごちる。



「シム博士。あなたはどこまで彼を守ろうとする。所詮は他人でしか無いと言うのに、何がそこまであなたをつき動かすのだろうか?……ブラック、ホワイト」


「「お側に」」



アドミニストレーターが呼ぶと、2人の構成員が現れる。

片方は真っ白の衣装に身を包み、もう片方は漆黒の衣装に身を包んでいる。

顔はフードに隠され見えないが、背中には数種類の武器が背負われている。



「僕がやりたい事は分かるね?」


「ソラ様の回収ですね」


「他は?」


「殺して構わないよ」


「「では」」


そう言うと2人は部屋を後にする。

再び1人になるアドミニストレーターは笑っていた。



「君は多分僕の事を覚えていないだろうが、僕は君の事をよく知っている。君は顔には出さないけど誰よりも仲間を大切にする子だ。多くの仲間がここで待っているよ。さて、次は旧友だよソラ。君が戦うべきはそんな小さな国同士の争いではなく、世界を管理していると自惚れている連中だ。そして、今度こそ世界を………」



変えよう。

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