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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第四章 空の記憶退行/黒白の殺し屋
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71話 月明かりの下

「いたぞ!こっちだ」


「あいつ屋根の上を走ってやがる!イーグル!」


《狙ってる!クソッ、こっちの居場所と弾の軌道自体を完璧に見切ってやがる》


「嘘だろ……木材で麻酔弾を弾いてるぞ」


「レイン!ゴムスタンだっ!」


「撃ってる!けど、さっきから全部弾くか避けられる!」


「消えたぞ!まだ近くいるはずだ。探せ!」



日がまだ沈まない徐州の街中に喧騒と銃声があちこちから響く。

逃げ回るソラを追うローンウルブズ達の面々は翻弄され、指一本触れずに時間だけが過ぎていた。

こうなったのは数時間に遡る………



「へぇー、初めてみる文化に習慣。面白いな」



窓から飛び出したソラは街を歩き回って探索していた。

自分が初めてみる光景に心躍らせ、目を輝かせた。

その日の夕食前の活気付いた市場や行き交う人々をまじまじと見つめながら、自分自身も人の中へと混じって行く。

行く先々には色々な店が建っており、その活気強さに少し戸惑いを覚えるも人の流れに任せるように街を漂っていた。

そんな中、1人の店主が空を見て声をかける。



「おー、英雄様じゃないか。どうしたんだい?こんな所うろつくなんて珍しいな」


「ほんとうだ!えいゆうさまだー」


「本当だわ!」


「えいゆうさまー?」


「英雄?僕が?」



道行く人が次々に空へと押し寄せて来て空は混乱した。

詰め寄ってくる人々の中には小さい子供だっていた。

それよりも気になる事を言われ首を傾げる。



「何言ってんだい。あんたこの街を何度も守ってくれてるじゃないかい」


「見た事の無いカラクリを持つ相手に単騎で全滅させ、賊討伐に袁術様や袁紹様からこの徐州を守ってくれた。英雄と呼ぶのに相応しいじゃないか!」



まるで自分の事のように人々は空を武功を誇った。

英雄ともてはやしてくる民衆達を前に空は頭痛を覚えた。

何が引っかかるような感覚に頭を押さえる。



「おい、大丈夫か?」


「僕には分からない……僕は人殺しだよ?」



サイファーと呼ばれてきた空は今まで記憶に褒められるような事はして来ていない。

全て生きる為にと人を沢山殺してきた。

時には友を、家族を手にかけた。

組織にいた頃は恐れられ仲間だってあまり近づいてすら来なかった。

そんな化け物を人として、英雄として話し掛けてくる民衆にどう接していいか分からなかった。



「お兄ちゃん。私を助けくれたもん!だから人殺しじゃないもん!」



ふくれっ面をしながら小ちゃな子供が空のパーカーを引っ張り必死に化け物としての空を否定した。

その顔を見てると頭痛すら吹き飛んでしまう。

思わず空は笑うとその子の頭を撫でた。



「ありがとう。でも僕はそんな強い訳じゃないんだ」


「違うよ!お兄ちゃん凄く強いもん!」


「君の心の方がうんと強いよ」


「えへへー、ありがとお兄ちゃん」


「……そう、僕は弱い。だから奪う事しか出来ない」



誰にも聞かれないような大きさで自分を責めるに言い聞かせた。

そんな空の暗い一面は普通の人では気付く事はない。

すぐに元に戻ると笑って子供の頭を撫でて誤魔化す。



「英雄様。これ持ってきな!」



そう言って店主は空に酒瓶を無理やり渡そうとした。



「ありがたいんだけど……呑めないんだ」


「お兄ちゃん子供だー」


「こどもだー」


「そうそう、そんな子供みたいな事を言わずに持ってけ」


「僕達死が……いや、酒を呑むと普段の力が出せなくなるんだ」


「立派だ。さすが英雄様だ!」


「りっぱー、りっぱー」


「だから僕は英雄じゃなくて」



再び褒め出す民衆に空は必死に否定した。

そんな中、騒ぎを聞きつけたローンウルブズのジョーカーが空を見つけた。



「あー、ようやく見つけたっすよ!」


「あ、やばっ」


「やばってなんすかちょっと!」


「ごめん、もう少し見て回りたいから後でね」



空はそう言うや、建物の屋根へと飛び移る。

ジョーカーは慌てて止めようと手を伸ばすがあと少しのとこで届かず逃げられてしまう。

仕方なく無線機に手を伸ばす。



「見つけたっすよ!南西方向に逃走してるっす」


《見つけた。麻酔銃の使用許可を》


《狙撃許可する。避ける場合は足止めして包囲するぞ》


《ラジャ》


《必要ないな。一発で落としてやるよ………なっ⁉︎あいつ掴みとりやがった》


《包囲するぞ》


《ここまで予想通りだな》


《あの時と一緒だな。ゴーストが味方で心強い》


《2人1チームとなって追い込むぞ。かかれ。後、本気で追うな。面倒な事になったら困る》


《ラジャ》



ローンウルブズのメンバー達は2人で1チームとなって空を追い始めたのだが、数時間経っても思うように誘導出来なかった。

まるでどこに誘導しようと分かってるのか途中まで引っかかるフリをして最後で包囲網から抜け出してしまう。

記憶が入れ替わった空を城へ連れ戻す筈が、捕獲へと変わっていた。



「見つけたぞ!」


「流石に弾が残り少ないぞ」


「幸いにもあいつ武器持ってないみたいだからまだ良いのか」


《総員一度撤収しろ。これ以上あいつ1人に時間を割くわけにはいかない。新しく手に入れた奴の事も見なければいけない。そろそろ俺たちも傭兵としての活動を本格的にする準備必要だ」


《ラジャ》



ローンウルブズは空の捜索を諦め、徐州の街の闇へと消えていった。

一方、逃げきった空は街を囲む城壁の上を歩いていた。

日はすっかり落ち、月が昇るほど暗くなっている。

それでも月明かりは明るく暗い街を暖かく包むように照らされている。

空は初めてみる二千年近くも前の月の大きさに興味を持っていた。



「こんなにも月が大きいなんて思わなかった……」


「この世界の月を見るのは初めてのか?空殿?」



城壁の柵に腰掛けて酒を片手に月を見上げるのがもう一人。

星が空に声をかけた。



「趙雲さんだっけ?」


「だっけとは心外だな。これでもお主と話すのは初めてではないのだが。それに空殿には真名も預けたのだから星と呼んでくれても構わないぞ?」


「そんな事言われても今の僕は君達の知る空じゃないと思うよ?それに、真名なんて言われても分からないし」


「はははっ!そう言えばそうだったな。この月を見るのは初めてなのか?」


「こんな大きい月を見るのは初めてだよ」


「満月の月明かりの下、酒を片手に月を肴にする。いいものだ……空殿もどうだ?」


「お酒は呑めないんだ」


「普段の力が出せなくなる、か?」


「聞いてたんだ。僕達死神はナノマシンを色んな場所に入れてるんだ。お酒のアルコールと凄く相性が悪くてね。力を制御出来なくなるんだ」


「ほう、弱くなるのか」


「逆だよ。力の加減が出来なくなって相手だけじゃなくて自分も傷付けるんだ。簡単に言うと暴走するからかな。呑んだ事もないから暴走して街を破壊しても良いなら呑んでもいいよ」


「随分と厄介なのだなその力は」


「でも後悔はしてないんだ。大切な人がくれた力でもあるから」



星は昼間の出来事を思い出した。

大切な人とはゴーストが語ったあの話しに出てくる博士とアリスの事だろう。

寿命すらすり減らすその力を後悔せずにいられるのは凄く強いとも思う。

しかし、空は否定するかのように続きを語る。



「でも、本当に死ぬべきなのは僕なんだ。本当に生き残るべきなのは目標、目的を持った人達なのに。こんな僕は目標も無く奪う事しか出来ない……できる事なら家族を殺された時に僕も死ねたら良かったのにと思うんだ」



今の空は戦闘時の空と比べて凄く弱々しかった。

力をくれた事には後悔していない。

が、奪う事を後悔し、生き残る事を後悔している。

誰よりも優しくあったからこそ後悔しているのだろう。

外面の年齢とは裏腹に入れ替わった空の少年さが子供っぽく星は感じ取れた。



「なら目標を持てば良いではないか」


「目標……でも僕はいつまでいれるか分からないし、もう1人の僕だっている。本当に僕なんかが目標なんか持って良いのかな……」


「目標を持つのは誰だって自由だ。誰かにとやかく言われる筋合いなどないだろう?」


「趙雲さんってお姉さんっぽいや」


「星お姉ちゃんと呼んでも構わないぞ?」



星が冗談混じりに姉のような雰囲気を出しながらそう言うと



「ありがと、星お姉ちゃん」



空はなんのためらいも無くニッコリと笑いそう言った。

まさかそう言われると思ってもみなかった星はあまりの火力の高さに身悶えた。

普段ぶっきらぼうで無表情で話しかけ辛い雰囲気すら放つ空の別の顔は凄く年相応らしく一刀とはまた違うがそれでも人を惹きつける何かを感じ取れた。



「すまない。今のは無しにしてくれ……ちょっと刺激というか、色々強過ぎる……」


「そう?なら星姉様?」


「姉から離れてくれ」


「分かったよ、星。じゃあ、僕の目標は元の僕に戻るまでの間、君達を絶対に守ってあげる」


「ほう、頼もしいではないか。だが、私とてそれなり腕は自信はあるぞ?」


「もし、その相手が僕と同じ死神なら?星なら戦えるかもしれないけど、勝てるとは限らないよ。君達が傷付く事をあのお兄さんは一番嫌ってると思うんだ。それに、死神の対処は死神がするのが一番良いでしょ?」



今の空はまるで弟のような感じだった。

以前の空は感情には流されないような冷静さを持っており、まるで今の空と似ても似つかない。

むしろ何が起きたらあんな冷徹な彼になったのかが星にとって凄く疑問に感じた。

しかし、今の空は冷静冷徹ではない。

むしろ感情を露わにして話し合ってくれる。

星は弟がいたらこんな感じなんだろうか?と一瞬だけ思うが、こんな物騒な弟もどうかとも思った。



「大丈夫、こう見えても負けた事は一度もないんだ」


「いや、そう言う事ではなくてだな。空が傷付いたら誰かが哀しむやも知れんぞ?」


「僕が傷付いても哀しむ人はこの世にいないよ。兄さんだって僕の戦い方を知ってる。それに、人間って遅かれ早かれ死は訪れるんだ」


「私が傷付くと言ったらどうする?」


「……無いね。星は今嘘を付いた。人って嘘を吐く時少しだけ目が泳ぐんだ。多分僕と星はそんな長く一緒にいる訳じゃ無い。だから信頼も厚い訳でも無い。でしょ?」


「なら、今からでも築いても行ける。そうではないか?」


「僕が望んでも、もう1人の僕が望むとも限らないよ?少しだけだけど、もう1人の僕の事が分かるんだ。……関係を築いても本当の自分を見せたら壊れてしまう。だったら最初から孤独でいよう、傷付けてでも遠ざけようって。そんな感情が僕に流れて来るんだ。僕だってずっとこのままじゃない。いずれもう1人に戻る時も来る。だから僕だけの判断でどうこうして良いか分からないんだ」


「本当の姿も何も。裏の姿を見てるのに今頃本当の姿と言われても驚きはしないさ」


「かもね。多分もう一人の僕は僕と同じように見たくないものを見続けてるんだ。だから心が凍り付いちゃってるんだと思うんだ。僕には溶かしてくれる人がいた。後数日もしたら元の僕に戻るはずだから、元の僕に戻ったらその氷をいつか溶かしてあげて。孤独じゃないよって教えてあげて」


「ああ、約束しよう」


「じゃあ、約束」



そう言って空は小指を差し出す。

星は一瞬分からなかったが、自分の主である一刀に教えて貰ったそれを思い出して同じように小指を出して、絡めた。



「知ってたんだ」


「主に教えて貰ったのでな。指切りげんまん、だろ?」


「じゃあ、指切りげんまん」



まだ月が上りきらない夜の城壁で2人の約束は交わされた。

それはまるで姉と弟のような姿だったという。

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