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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第三章 戦乱の目覚め
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68話 人の心は恐怖によって試される

明けましておめでとうございますっ!(今頃

パチパチと火が辺りを燃やして行く中、一人の死神は空を見上げた。

青い空に白い雲。

天気がいい日と言えるだろう。

しかし、その死神は空を見て悲しげな顔をした。

足下には大量の肉片と化した人の死体や血の海、空とは全く逆のドス黒さが地面に張り付いていた。

その死神の体には大量の返り血がこびり付いており、(ソラ)がこの状況を作り出したと容易に想像がつく。



「ひぃぃぃぃい‼︎⁉︎」



コツコツとブーツを鳴らし歩く彼に怯え悲鳴を上げる兵士達。

一歩、一歩と歩くその足音は獲物を追うかのように攻め立てた。

恐怖に負け逃げる者は容赦無く狩られ、挑む者は心をへし折られて自殺へと追い込む。

彼が通る道は生きてる者など決して許しはしなかった。

ローンウルブズの黒を基調としたコンバットスーツはボロボロになり、あちこちが破れて死神が纏う外套のような姿に見えなくもない。



「……バケモノッ‼︎」



我に返った兵士の一人は進んでくる彼に恐怖しながらもその手に持つ弓で射抜こうと弦を引きしぼった。

しかし、まるで死神の鎌が首に掛けられたような感覚が走り、その矢を放つ事が出来ない。

今放てば確実に死ぬ。

そう確信した。



「よくもぉっ‼︎」



それでも彼に挑む者は絶えない。

仲間を無惨に殺され仇を討とうとソラに斬りかかった。

ソラは逃げる動作など一切する事無く腕に付けられている現代的手甲で受け流した。

そして握られている武器を至近距離で向ける。

今、ソラは死神鎌(ソウル・ドミネーター)では無く流線形フォルムをしたブルパップライフルを二挺携えている。

空気抵抗を減らすような形をしたソレは彼の手甲に接続されており、あえて言うのであれば人型ロボットに武器を持たせたようだった。



「ファイヤレート変更、250から3000に」



受け流され隙が出来た兵士の頭に銃口を突きつけ、トリガーを引く。

まるでミニガンを撃つかのような発砲音がすると秒間レート50もの弾丸が人ひとりの上半身を軽く吹き飛ばした。



「ば、化け物ッ‼︎」


「うわぁぁ‼︎」



見た事も無い武器に戸惑い恐怖し、その場から逃げようと全力で回れ右して走り去っていく。

一人残される弓を持つ兵士。

逃げようにも足が地面に食い込んだかのように全く動かない。



「モード追跡者(シーカー)。レート変更、250へ」



逃げる兵達に狙いを定めると右目の輝き方を変えた。

ソラの持つ武器からはガチャガチャと中で何かが動く音が聞こえた。

彼の視線には一人動け無い兵士など写ってはいなかった。

獲物は逃げ惑う者のみ。



瞬間加速(クイック)



ソラが足に力を込めた瞬間、まるで弾丸が発射されるような一瞬の加速で逃げる兵達へと迫った。

間を詰めるのに1秒すらかからないその速さで一目散に逃げる兵達を追い抜き去ると、スリップターンで地面をゆうゆうに滑り回転しながら両手に持つライフルのトリガーを引いた。

二挺の銃から容赦無く弾が吐き出され360度方向全てに向かって飛んで行く。

気付けば逃げる兵達は全員地面に倒れていた。



「ば、化け物ッ‼︎」


「あんなのどうしろってんだ!」


「こんなの御免だ!こんなんで死にたく無い‼︎」


「助けてくれお袋ッ!まだ死にたく無いんだ!」


「助けて、助けて、助けてッ……」


「く、来るなーっ!来るなー‼︎」



彼の化け物具合に袁紹こと麗羽や袁術こと美羽の回りに控える親衛隊は彼の残虐さに恐怖、錯乱し逃げ惑った。

彼等が感じているのは逃げ場が無い恐怖。

それも希望一つ存在しない。

正常な判断すら出来なくなった彼の命は風前の灯火とも思えた。

しかし、美羽の横に控える張勲こと七乃は冷静だった。



「何やってるんですか美羽様をお守りなさい。何の為の近衛ですか‼︎」


「し、しかし!これでは全滅です!」



しかし、生き残る算段もついてなければ守る案など存在し無い。

隊長クラスの士官達はどうする事も出来ずに七乃へと詰め寄った。



「なら自分一人だけでも逃げるおつもりですか?貴方の守るべきお方が誰なのかをお考えなさい!お嬢様を逃す為に私が指揮を取ります。その間にお嬢様を逃して撤退して下さい」


「それでは⁉︎それでは貴女はどうするおつもりですか!」


「お嬢様が生き残れるなら私はどうなったって構いません。しかし、無駄死には御免です。お嬢様の親衛隊なら分かる筈ですよ。敵にせめて一太刀と思いませんか?」



まるで七乃を心配するように言う親衛隊の士官クラスの一人に七乃は毅然として言った。

しかし、いつとの間の伸びた声音ではなく、焦りを感じさせるほど追い詰められていた。

現に敵は単騎で12万近くの味方を容赦無く屠ってる。

そんな化け物に誰が勝てると言うのだろうか?

360度の範囲で囲まれているのに全く動じない強さ、攻撃を受けた時の反撃スピード、連続で返り討ちにするその一瞬の思考能力、見た事すら無い未知の武器。

全てが未知で規格外と言うべき化け物だ。

そんな化け物など英雄ですら勝てるか怪しいのだ。

英雄だって部隊を率いている、それで勝てると思えないのだ。

それを統率力などたかが知れた部隊でやり合えるなど到底無理に決まっている。

ならばせめてお嬢様だけでも生かすべきだと必死に逃がす為の算段を模索した。



「人は恐怖に対面した時、自らの魂を試される。何を求め、何をなすべくして生まれてきたか、その本性が明らかになる」



ソラは兵士達を容赦無く屠りながら確実に麗羽や美羽へと近付いて来た。

ソラが呟くその言葉は重く親衛隊達にのしかかる。

彼がまるで何の為に親衛隊になったの?と問いかけるようだった。

ある兵士は生きる為の糧を得る為だ。

ある兵士は家族を守る為だ。

ある兵士は名声を得る為だ。

ある兵士は純粋に国家元首を思っての為だ。

しかしソラの言葉はそんな言葉すら吹ばし、人間の本性を明らかにしていく。

生きたい、逃げたい、会いたい。

本性を明らかにした上で殺すのだ。

無惨に残酷に。



「聞きなさい!重装兵は今すぐ防陣を組みあげ後衛は弓の準備!早くしない!お嬢様を逃がします!」



ここへ来てようやくと言って良いほど兵士達の士気が上がった。

「袁術様の為に!」と口々に出す言葉は兵士全体へと広がっていく。



「あ、あの張勲さん?私は逃がして貰えて?」


「まだいたんですか貴女達?さっさとご自分で何とかなさってはどうです?」


「ムキッ〜!猪々子さん、斗詩さん何とかなさい!」」


「え〜〜無理だって姫様!あんな化け物どうやって倒すんすか⁉︎」


「文ちゃん諦めるの早いよー」



期待を裏切られ、もはや投げやり的に自分の側近とも言うべき2人に押し付けた。

しかしあーだのこーだのと進展が無い。

気付けばソラは重装兵へと迫っていた。



「弓隊、放ちなさい!今のうちに数名はお嬢様を連れて逃げなさい!」



七乃の指示によって重装兵を盾に弓兵がソラに放つと言う無難な策だった。

しかし、それは囮に過ぎず七乃部下数名が美羽を連れて馬で逃げる為の囮作戦。

時間が無いにしてよく振り絞った案だがソラの規格外の前には無力だった。

矢がソラ目掛けて飛ぶが、その全てが空中で叩き落とされたのだ。

弓兵どころか重装兵まで目が真ん丸になった。



ソラは重装兵達にその矢を叩き落としたライフル二挺を向けトリガーを引いた。

しかしプスプスーと銃口から煙りが上がるだけで肝心の弾は発射されなかった。

それが弾切れだとソラが理解すると両手を広げ



「射撃武器をパージ」



ライフル二挺がガシャンッと音を上げ、手甲から外され地面へと捨てられる。

ホッと重装兵が溜息を吐くのもつかの間。



「R.I.P-LSW/PH01」



次の武器がソラの足下へと突き刺さる。

エンジェルが置いていったコンテナからであろうその武器は筒状の発射体に先が尖った杭のようなものがセットされたパイルバンカーに似た武器だった。

ソラはそれを拾うや右手の手甲に接続した。



「この行動が正義か悪か、……それは僕には分からない。第三者が決める事であって僕達が決める事じゃ無い。……ルソーの言葉によると歴史は人生の方面より、悪の方面をいっそう強く描き出すと言う。この行動が悪なら歴史に深く刻まれるだろう。それが第三者の答えだと僕は思う」



ソラは重装兵目掛け駆け出す。

加速し、目に捉えない速度から撃ち出された杭は発射体を離れ重装兵の盾ごと貫通していく。



「でも例え悪だろうが正義だろうが僕は奪う。…僕は生きる為に奪う。君達は何の為に奪う?」



その杭は盾を貫通しながら奥へと突き進み、ついには爆発した。

その爆発力は凄まじく重装兵どころか弓兵を含め全てを吹き飛ばした。

衝撃波だけで馬は死に絶える。

何も残らないその爆発跡をソラは鎌を引きずりながらゆっくりと確実に近づいて来た。



「斗詩!姫様を逃せ。ここはあたいがやる」


「文ちゃんダメ〜!」



確実にやって来る化け物から麗羽と斗詩を守ろうと身の丈はある大剣斬山刀を担ぎ、ソラのいる方に向いた。


「良いからいけ!」



有無を言わさないその迫力に斗詩は麗羽を引っ張った。

2人が逃げて行くのを見ながら猪々子は行っちゃったなーと独り言ちた。

頭の中では馬賊時代の記憶が蘇ってくる。

これが走馬灯なんだな、などと泣きたくなる気持ちを捨て去る。

姫様がいなければあたいはずっと馬賊でいつか捕まったんだろうな。

そしたら死ぬのかな?

この命は姫様が与えてくれた命。

どうせなら姫様の為につかってやろう。

あの中で一番力があるのはあたいなんだと言い聞かせた。



「来い化け物ッ!」



猪々子がソラのいる方に思いっきり叫ぶと、鎖鎌の勢いで死神鎌が飛んできた。

決して遅くは無いが目で捉えられない速度でもない。

斬山刀で自分を覆うようにガードするとガキャンッ!と甲高い金属音と衝撃が走った。

凄く痛い。

でも死ぬよりはマシ!

斬山刀で死神鎌を弾き飛ばした。



「君は僕を恐れている。けど挑む……何が君をそこまで突き動かす?」


「あたいは馬鹿でこんな事しかできないけどさ、最後くらいカッコイイとこ見せたいしょっ!」



ソラが死神鎌から素早くガッ!ガッ!と2連撃を放つと猪々子の横ギリギリを斬撃の衝撃波が通り過ぎる。

一瞬の出来事に猪々子は攻撃されたと分かるのに少しかかった。



「それは蛮勇と言うべきか虚栄と言うべきか……どちらにしても底が見えた。君への興味はもう無い。失せろ」


「はいそうですかって下がれるかぁあ!」



猪々子は隙だらけのソラに一矢報いようと斬りかかった。

勝てるとは思わないけどこの斬撃でもくらいやがれぇ!と渾身の一撃はソラに命中するかに思えた。

しかし、猪々子の持っていた斬山刀が手から消え去る。

ソラを見れば左手に斬山刀が握られていた。

渾身の一撃すら与えられなかった事、未知の技で自分の武器が奪われたことに絶望した。



「本当は心臓を抜き取る技なんだ。でも素手の一瞬で終わるより君の愛刀で逝く方が通りはいいだろう」



だんだんこの世界の事を理解し始めたソラはまだ名誉が傷付かない方法を提示した。

しかしそれは愛刀を奪われ無惨に破れるという逆に名誉を傷付けるに等しい。

それでも振り上げられた左手は止まる事は無いだろう。

こんなんで終わるのかよちくしょ……と呟く猪々子をよそにソラはその左手でを振り下ろそうとした。

その左手には殺意が籠っている。

その目は確実に斬ると言う目をしていた。



「⁉︎」



ソラは何かに気付き、振り下ろそうとした斬山刀をガードに使った。

ガキャン!と金属音が響くと地面に金属片が転がる。

いきなりの出来事に猪々子は付いて行けてなかった。

何故ならソラの左手を1人の武装した外国人が押さえているのだから。

いつ現れたのかすら検討がつか無い。

それどころか先ほど目の前の化け物が何故ガードしたのかすら分からない。



「そこまでだ空。これ以上はもういいだろう?」


「分かった。そう言うのなら止めよう」


「オーケー、いい子だ。《狙撃終了だ。装備を片付けて撤収せよ》」


《ラジャ》



ソラが素直に言うことを聞いてくれたことに驚きつつもイーグルとストームを撤収させた。

ソラは死神鎌(ソウルドミネーター)や手甲を全て外して地面にほったり投げた。

気付けば右目も元に戻り殺意など微塵も感じさせない雰囲気を放っていた。

しかし、猪々子は恐怖から解放された疲れからか地面にぶっ倒れた。



「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」


「おい、大丈夫か?」


「ハァ……力を使った後遺症だから安心して。それより気になる事が山ほどあるんだ!この世界について僕は色々知りたい。この世界の本も読んでみたいんだ」


「おいおい落ち着け。いつもならクールに『疲れた』とか言って先に帰る男だぞ?」


「随分と愛想がないんだねその人」



目をキラキラさせながら色々と知りたがるソラはまるで子供のようであり、ファントムを別の意味で困らせた。

ファントムの知るソラは冷静で冷徹、そんでもって面倒くさがり。

それがどうしたらこんな言葉が出てきたのだろうか?

自分自身の事を愛想が無いと言っている事に困惑するしか無い。

それともこの世界の事以外に興味が無いだけか?

そう言ってる間にも無線は鳴り響いた。



《袁紹を確保。他は投降。クリア》


《袁術確保っす。こっちもクリア》


《張勲確保。クリア》


《親衛隊が投降。オールクリア》


《了解した。各自撤収開始》


《《《《ラジャ!》》》》



無線を終えるとソラがようやく終わったという顔で待っていた。

ファントムは疲れがどっと溜まったような気がしてならなかった。



「ここは日本じゃ無いよね。でもヨーロッパでも無い。ねえ、ファントムさん。ここは何処の国なの?」


「あー……西暦200年頃の中国って言うべきなのかな?」


「へぇー、それで兵士達がこんな装備してるのか……あ、あれ?体が……」


「お、おい⁉︎」


「ちょっと力を使い過ぎたみたい……僕は少し寝るよ」



ソラが自分の体の異変に気付くが少し遅くファントムの体にもたれかかるようにして意識を失った。

やれやれとファントムはソラを背負うと歩き始めた。



戦いはようやく終わり戦後の後片付けに終われることになるのだが、今回の戦いは中国全土で有名になった。

単騎で敵の勢力の半分を壊滅させた。

それが天から降りきた1人である事、そして真っ黒な格好から黒の御使いと呼ばれ始めるきっかけとなった。

民衆からは世界を救う救世主と言う者もいれば世界を破滅に追いやる破壊神の使いと言う者もいたと言う。

しかし、魏と呉は今回の一件により新たな勢力と黒の御使いを認知する事になり、野放しにはできなくなった。

そしてこの情報はワールドギアにも流れて行く……

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