64話 持ち込まれた悪意は一瞬にして
爆発が起こる数分前。
「ふぁ〜……やる事無くなってきたな」
戦場からかなり遠く離れたそびえ立つ岩山の頂上では呑気に欠伸をするイーグルがチェイタックを構えていた。
その数メートル横では必死にAX50を構えて狙撃しているストームもいた。
「暇なら、こっち手伝えよ!」
「ノルマは達成した。これ以上やるのはダルいんでな。まっ、頑張れ」
必死に狙撃するストームに対し、暇そうなイーグル。
助けを求めるが簡単に一蹴されてしまう。
そんな二人に無線が飛んできた。
《ハイハ〜イ、イーグルさん。ホーネットで~す》
その無線の主は言うまでもなくホーネットからだ。
なんの声真似なのか、高めにした声音できゃるるんという感じに言ってきた。
その声にイーグルは眉間に皺を寄せた。
「おい、今までどこで何をしていた。場合によってはその頭消し飛ばすぞ。あと、そのしゃべり方止めろ」
《嫌ですねー、ちゃんと仕事はしてますよ。ようやくこちらの工作が先程終わったので、ちょいと手伝って貰おうと思ってまして》
殺意を向けてくるイーグルに今度は真面目に戻るホーネット。
声音もいつも通りに戻った。
「で、何やらせんだ?」
珍しく手伝いを頼んでくるホーネットを怪訝に思うイーグルは怪しいと思いながらも聞き返全て。
《6.8キロの狙撃ってやれますよね?》
「これはまた随分と無理難題を……」
《あなた前回、3.8キロ先の飛んでるヘリのパイロット射抜いたから余裕かと思いましてね。標的は動く事がないので安心下さい。そこなら普通に視界範囲内です。いけますよね?》
無理難題と言いながらも考えるイーグル。
しかも考える必要はなかったようで、3秒程で答えが出た。
「詳細情報を寄越せ」
《では。距離6827メートル、風は南南東に1メートル。標的は敵後陣の兵站運搬部隊の荷車に設置した爆薬。信管は設置済みですのでご安心を。流石に導線を出すわけには行かなかったので、直接信管を狙って下さい。あ、信管は衝撃信管なのでご安心を。標的には分かり易くマーキングしています》
「嘘だろ……あの荷車の何処にマーキングがあるんだよ」
二人のやり取りの一部始終を聞いていたストームは試しにスコープを見てみるがその標的など見えない。
見えないというより点でほとんどなにか分かりにくかった。
しかし、イーグルには些細な事でしかなかったようで、ストームとは違う反応をしていた。
「向かい風の微風……まっ、行けるだろう」
「い、いけるのか?」
「おいおい、こんなもの針に糸通すより楽だろ」
いとも簡単に言うイーグルが信じがたく感じてしまう。
恐ろしい事に、つい口にでた言葉にも軽く返して来きた。
《修正は必要です?》
「はっ、そんなものはお前の頭だけで十分だ」
《では、レディ……》
「待てよ、幾ら何でもスコープ外じ……」
《ファイア》
ホーネットが指示を出した瞬間に一つの張り裂ける音が響いた。
場所は再び前線へ戻る。
突如、近くで起こった爆発に気を取られる中、一人だけは分かっていたかのように気を散らす事なく攻撃を続けた。
「クソッ⁉︎」
爆発に気を取られ隙を突かれた事に毒付くデイヴッド。
双銃で連射を繰り返すソラの攻撃をなんとか避けるがほぼギリギリ。
擦り傷が幾つも出来上がっていく。
「ウラァ‼︎」
射撃が止まると同時に左手に持ったナイフでソラを刺突しようとするが擦りもしない。
逆に刺突で出来た隙を狙うかのように再び連射して来る。
「避けろネ!」
デイヴッドはネロの合図と共に横に避けた。
その瞬間、デイヴッドの影から出来たネロがソラに掌打を叩き込む。
予想外な事にソラは咄嗟に銃をクロスさせガードした。
「ぐっ⁉︎」
しかし、威力が高く殺しきれなく飛ばされる事を察知、力を分散させるため空中へと逃げた。
仕留めきれずに舌打ちするネロだが、ある事に気が付いた。
コロンッと言う音と共に地面を転がる丸い物体。
ピンの抜かれたグレネードがネロの前に落とされていた。
「なっ……」
ネロは「いつの間に⁉︎」と驚きはしたものの慌てずそれを蹴り上げた。
ソラとネロの中間あたりで爆発するグレネード。
2人は爆煙に包まれる。
「ッ……」
「グッ…」
ソラは空中でバランスを崩し着地に失敗、グレネードの破片はコンバットスーツのあちこちを引き裂いていた。
ネロも当然傷だらけ、煤だらけになっている。
「今ネ!」
ネロが叫ぶと待ってましたと言わんばかりにデイヴッドの持つHK416が火を噴いた。
ソラはそれに気づくや否や、体勢を整え走り出す。
ギリギリで弾丸はソラを捉える事は出来なかった。
「アレが人間かよ。こっちがお遊びみたいに見えちまうぜ、全くよ」
「余所見する余裕は無いぞ‼︎」
「まっ、ちょっと待て。タバコの一本や二本を吸わせてくれよ」
そう言ってコンバットスーツのポケットから、くしゃくしゃになったタバコを一本取り出す。
ジッポライターを取り出しながら口に咥え、先に火を付けようとした。
しかし、違和感を感じた。
紙が焼ける音が一切しない。
目線を落とすとフィルターより上が綺麗サッパリ無くなっていた。
何事か?と疑問に思うが、今度は目の前を何かが横切る。
その瞬間、嫌な金属音が響き銀色の物体が宙を舞った。
ジッポライターの上半分がソラの射撃により吹き飛んだ。
宙を舞うタバコとジッポライターの破片を見るソラの表情は険しい。
軽蔑するような顔つきだ。
「おいおい、一服させ……」
娯楽を台無しにされ、言い返そうとしたロッタの顔の直ぐ横を再び銃弾が横切った。
「あっぶねーな」
「チッ……殺れ無かったか」
ギリギリで避けたロッタは叫ぶが、ソラは舌打ちをしていた。
これには愛紗も手を出せずに呆然としていた。
ソラはネロとデイヴッドを相手にしながら、ロッタのタバコとライターを正確に飛ばしたのだ。
しかも、走りながら。
「余所見するなネ!」
「こっちだ!」
ソラは銃弾を避けながら再び戦闘へと戻っていく。
「チッ、仕方ねぇ。続きと行こうぜ」
「続きは無いぞ、ロッタ。時間をかけ過ぎだぞ………。あれ程遊ぶなと釘を刺しといた筈だが」
「よし、これからだぜ」と武器を構える直前に突如現れたロイドによって止められてしまう。
予想外の展開にロッタは子供のイタズラがバレた表情になった。
「げっ、社長。もう来たのかよ」
「はぁ……」
「でもよ社長。アイツらがジャックを引きつけてくれてんだぜ、こんな機会無いと思うんだが」
「時間をかけ過ぎだ。さっさと終わらせろ」
ロイドにそう言われロッタは二刀をしまい、レッグホルスターから真っ黒のデザートイーグルを取り出した。
スライドをコッキングすると、その無骨なデザインに合った重々しい金属音が上がる。
初弾が装填され、銃口は愛紗に向けられる。
「だとよ。あばよ嬢ちゃん」
「愛紗!」
「愛紗〜!」
ロッタが引き金を引く直前、ロッタに槍の猛攻が飛んで来た。
槍を躱すが、予想外な増援にロッタは一度距離を取った。
「星!鈴々!」
「待たせたのだ」
「大丈夫か?」
「ああ。しかしあやつ、かなりな腕だ」
星と鈴々が増援として現れた事により形勢は逆転。
流石にヤバいとロイドとロッタはそれぞれL85A2とデザートイーグルを構えた。
「どするよ、社長。やっちまって良いのか?」
「仕方ない。やるぞ」
「俺も加勢するぞ!」
今度はロッタ達の増援が現れた。
MARPAT型のウッドランド迷彩に身を包み、手にはMk18Mod1が握られ、レッグホルスターにはM45A1がセットされていた。
海兵隊式の装備をしているのはカーチス・ランバートだ。
「敵を片付けて来たらどうやら凄い事になってるな」
「予想外な展開が多くてな。まぁ良い、こっちも3人だ。各自で撃破してくぞ」
「了解だぜ、社長」
「ああ、こっちもオーケーだ」
「鈴々、行けるか?」
「勿論なのだ!」
「愛紗、あいつを取れ」
「言われなくとも分かっている」
各陣営で話し合いが済み、いざ戦闘へ。
となるところが、またも邪魔が入る。
「ヒャッハー!敵だ!撃ちまくれー!!」
その言葉と共に愛紗達……どころかロイド達すらも狙うようにM60の弾をばら撒く男が一人。
左目にはアイパッチが付けられ、その形相は殺しを楽しんでいるかのように笑っていいる。
し得るが用意した一人が敵味方関係なく暴れ出した。
攻撃を察知した6人はばらばらに散開した。
腰撃ちでばら撒かれる7.62mmNATO弾は誰一人掠ることなく虚空へと消えていく。
『なんだ⁉︎』
「なぁ、さっさとくたばれよー!くたばっちまえよー!アハハハハ!」
その場にいた全員が驚く中、マシンガン男は乱射を続ける。
笑いながら連射して来る姿にもはや恐怖しか湧かない。
全員がぶっ壊れてる……と唖然とするしかなかった。
「ロッタこいつを使え!忘れもんだ」
「サンキュー、カーチス。恩にきるぜ!」
カーチスは思い出したかのようにロッタの武器、AK101サイレントカスタムをロッタに投げた。
ロッタは自身の武器を受け取ると、セーフティを解除、マシンガン男に応戦した。
トリガーを引いたサイレントカスタムのAK101からは発砲音が一切聞こえない。
カシュシュシュと作動音だけが小さく音を奏でるだけだ。
それも見ていなければ何の音なのか判断するのは難しいぐらいの小さい。
真正面から撃ち合い、お互いの弾が交差する。
腰撃ちと狙いを定めて撃つのとでは全く命中率が違い、マシンガン男の右肩に弾丸が深く突き刺さった。
「いってぇーなー!さっさとくたばれよ!雑魚が!」
5.56mmを肩に受けて尚、乱射を続けるマシンガン男。
痛みよりも撃たれた事に対しての怒りの方が強いようだ。
M60の連射によりバレルが赤熱化、装填された弾が熱で自然発火し発砲されるコックオフ現象まで起きている。
止まらない暴走機関銃に6人は物陰へと隠れるしかなかった。
「隠れてんじゃねーぞ!さっさと風穴あけてやるからよ!」
暴走の果てに全弾撃ちきり、空になったM60を放り投げると、今度はミニミ機関銃を取り出す。
その隙をつこうとロイド達は発砲。
銃弾が飛んできても尚コッキングし、再びトリガーを引こうとした。
「アチョ〜!」
もう駄目かと思った時、明らかに相手を舐めたような声でマシンガン男にドロップキックを加えられた。
真っ黒のコンバットスーツに身を包み、マチェットナイフとUSP45を持ったレインだ。
レインはクルクルと空中で回転しながら愛紗達の前に着地した。
クリーンヒットし、マシンガン男は10メートルほど地面を転がって行く。
音が立ち上がろうとする間にレインはUSP45を構えて乱射。
ワザと男に当たらないように撃ち、男を煽った。
「ウヒョヒョ!早くしないと死んじゃうよー」
「雑魚がぁ!でしゃばんなよー!」
レインに乗せられマシンガン男は再びミニミを構えたその瞬間、マシンガン男の頭がはじけた。
何が起きたも分からずに崩れ落ちるマシンガン男。
首から上は消え去っていた。
その直後にズターン!とワンテンポ遅れて響く銃声。
「狙撃にも気を配るべきだったね〜、ウヒョヒョ」
イーグルによる一撃必殺の狙撃が、一瞬にして目標を撃ち抜いた。
レインはマシンガン男が死んだ事を確認すると、ロッタ達の前に立ち塞がる。
「はーい、初めまして。俺はローンウルブズのレインデース」
「「「なんだ、餓鬼か」」」
軽い雰囲気の自己紹介にロッタ達はハモっていた。
全く同じ思いを抱くほどレインは幼く感じてしまう。
これにはレインも黙っていない。
「餓鬼とはなんだよ!もう19の立派な大人なんだ」
「十分餓鬼じゃねぇーか!」
ロッタの鋭い突っ込みが響く。
レインは餓鬼餓鬼言われ、少し拗ねていた。
「どいつもこいつも餓鬼、餓鬼って。これでもローンウルブズにローンウルブズに選ばれた一人だよ…………と、拗ねるのはここぐらいにしとかないとね。じゃ、血の雨ってモノを見せてや」
「……助けに来た」
「ちょっと、最後まで言わせてよ恋!」
援軍として来たのはレインだけでは無く、恋やドッグ、ファットマン、ファングと遊撃組が次々に顔を出して来た。
「おーい、あまりはしゃぐなよー。怪我しても知んねーぞ」
「扱いが子供⁉︎」
ドッグ達は馬に乗って現れるが、レインは子供が親に心配されるような言い方に心外だ!と叫んでいた。
ドッグは馬から降りると臨戦態勢のロイド達へと目を向けた。
ドッグ達が見やるや否や、そこには懐かしい顔が1人。
「こりゃまた随分と懐かしい顔がいるな。久しぶだなルーキー」
「はっ、ルーキー?とっくにくたばったんじゃ……マジで本物だ。久しぶりだな」
「ちょっと見ない間に成長しやがって」
「ねぇ、ルーキーって誰?知らないんだけど!」
まるで近所に挨拶するかのような軽い感じにロイドは頭を押さえた。
「あまりその名で呼んで欲しく無いんだがな。今は目を瞑ろう」
「知り合いって事はあいつらが?」
横にいたカーチスはドッグ達がとても歴戦の兵士とは感じられなかった。
感じるのは旧友に再会した人のような感じである。
「ああ、ローンウルブズだ。気を抜くな、一瞬でも気を抜くと持ってかれるぞ。ああ見えて油断を誘ってる」
「アレでなのか……」
カーチスはニコニコしてるドッグ達を見て、信じられないと思った。
ドッグはロイドが話し掛けているカーチスの装備をみるや、眉が吊り上がった。
「見ない間にジャーヘッドと絡むようになったとはな。レイン、ソラ坊を呼べ」
「りょーかい!」
レインは頷くとネロ、デイヴッドとソラの中間辺りにRPG-7を撃ち込んだ。
ソラはいち早く反応し空中へ回避、ネロはデイヴッドの首元を掴むと後ろに放り投げ、RPGの弾頭目掛けてグレネードを放り投げた。
グレネードの爆発を利用しRPGの弾頭を破壊。
両者共に無傷で回避しきった。
空中サマーソルトでアクロバティックに戻ってくるソラと、かなりな速度で走って戻って来るネロとデイヴッド。
3人の服はボロボロ、顔は煤だらけになっていた。
「ボロボロだなソラ坊」
「そう?怪我はしてないと思うけど?」
「2対1でよくやる。まだまだいけるな?」
「問題は無い。俺の武器は?」
「ほら、受け取れ」
ドッグは新しく持って来たソラのメインウェポン、マグプルMASADAを渡した。
ソラはMASADAを受け取るや、ドットサイトを素手で破壊しアイアンサイトを展開させた。
「いいのか付けなくて?」
「こんなもの邪魔。無くても当たる」
ファングは困った顔で心配するが、その心配は杞憂だった。
鹵獲され無いように壊したドットサイトを更に足で踏み潰してグシャグシャにしてしまう。
「行けソラ坊。ジャーヘッドを仕留めろ」
「人をペットみたいに扱うの止めてくれる?癪に障るんだけど」
ドッグに文句を言いながらもソラはカーチスへと突っ込んだ。




