62話 戦場の夜
新しくキーボード購入したので本気出しました。
たぶんこれ以上の速さで投降するのは無理だと思います。
1日目の戦闘が終了し、日が暮れた。
結果は一刀達が有利に進める事となった。
袁紹、袁術両軍は日が暮れた事で一度撤退していき、今は自陣に戻っている。
一刀達も自陣に戻り、今日1日奮闘した垢を落とす如く酒を飲み交わしていた。
「お疲れ様、ご主人様!」
「ありがと、桃香」
「どういたしまして♪」
一刀の盃に酒を注ぐ桃香。
一刀も盃を出し、注で貰う。
隣にいる優二も盃を手に酒を呑んでいるのだが、何処か遠い目をしていた。
「どうした優、白蓮が心配か?」
「いや、ちょっとね」
「白蓮は月と詠が見てくれてるから大丈夫だ」
「そ、そうだよね。今は目の前の問題に集中しないとね」
一刀に慰められた優二は盃の酒を一気に飲み干すと、自身に気合を入れた。
優二は今日生き抜いた喜びをもう一人と分かち合おうと、辺りを見渡すが見当たらない。
「それより空君は?」
「そういえば見ないな。どこ行ったんだあいつ?」
今回、目覚ましい活躍を見せたソラは酒を飲みかわす集団の中に見当たらなかった。
それを機に話題がソラの事に変わっていく。
「空君、昔会ったときはただの静かな感じだったのにね」
「そうか?あいつの性格よくわかんないからな」
「まあ変わってるよね。でも口調も僕から俺に変わってるし、以前よりも冷たく鋭くなってるし、武器が自分の体の一部のように動いてる」
「たぶん武器の扱いは変わってないな」
「どうして?」
「ソラの奴、少年兵だったらしいんだ。強さは俺達の比じゃないと思うぞ」
「初耳なんだけど!?」
ソラが少年兵だということを初めて聞いた優二の反応は驚いていた。
戦争と無関係な国だけあって、少年兵はおとぎ話のようなとても遠い話だ。
まさか自分の知り合いが少年兵だとは思はないだろう。
「いや……詳しくは知らないんだけど……ファントムさんに聞くのが一番早いよ」
「えー、あの人怖いんだけどー」
「じゃあ、本人に聞けよもう」
「きっと答えないじゃん」
「なら諦めろよ……」
「教えてくれたっていいじゃん!カズ君のいじわるー」
「お前、酔ってるのか?」
「え?酔ってなんかないよー」
「酔ってるだろ絶対……って、おい!やめろこら!変なとこ触るな!」
酔っている所為なのかやたら一刀に絡む優二。
一刀も必死に振り払おうとすが中々離れない。
朱里と雛里はその光景を見て男×男を想像して顔を赤くしていた。
一方話題の人となっていたソラ本人は自陣のかなり端の場所で、戦っていた時に放り投げてしまっマグプル社のMASADAや、ベレッタ社の90–twoをオーバーホールしながら整備をしている。
端で誰とも関わらないように一人で黙々と作業するソラだが、ソラの考えなど全く通用していなく空気を読まずに近付いて来る。
「ソラ坊?そんなに警戒しても何にもならねぇぜ。酒でも呑んでゆっくりしろよ」
バイパーである。
ソラは近付いて来るバイパーを気にも留めず武器の整備を続けた。
「やる事が無いんだ。それに酒呑めないの知ってるでしょ……」
目の前で酒をちらつかされ、強い酒の匂いにソラはバイパーを睨んだ。
「そんなに睨むなって」
「酒以外に何の用?」
「用がなきゃ来ちゃだめなのか?」
「そうは言ってない」
「そうかっかしても何にもなんねぇぞ。息抜きってのは大事だぞー」
「戦場で息抜きは間違ってると思うけど?」
「固い事言うなって」
「用がないなら帰れ」
「結局そう言うじゃんお前……あー、もう飲む気しねぇわ。大人しく警戒でもしてこよう」
ソラに帰れと言われ、大人しく立ち去ろうとするバイパー。
しかし、ある言雄¥を思い出して立ち止まった。
「あー、それとファントムから伝言な。明日は遊撃だ、そうだ。それじゃな」
本来の目的を果たしたバイパーは今度こそ立ち去って行った。
しかし、まだ何かを感じるソラは警戒を解かずにある一点を見つめた。
「俺に何の用だ?」
「お主も一杯どうだ?と思ってな」
出てきたの星だった。
てっきりローンウルブズの誰かだと思っていたソラは少し驚いた表情で星を見つめた。
「さっきそこで聞いてたなら知ってる筈だよ」
「気付いておりましたか。では聞くが、何故このような旨い物が呑めないのだ?」
隠れていたことが見透かされていた子に詰まらそうな顔をする星。
ソラの酒が飲めないと言う意外な一面がきになったのか星は何故飲めないのか聞いた。
「単に呑めない訳じゃない。一度だけ呑んだ事はある」
「なら何故?」
「町一つが灰になった言えばどうする?多分今呑めば、この国無くなるよ?」
思っていたこと全く違う回答と、原因に何も言えなくなる星。
「俺はアルコールに弱い」
「はて?アルコールとは一体なんでしょうか?」
「その酒に含まれる人を酔わす物質」
「そういえば主も以前そんなことを申しておりましたな。主と言い、お主も少々難しい言葉を知っておりますな」
「そう?これぐらい普通だと思うけど」
「天の世界の普通は変わっておりますな。ふふっ」
天の世界は変わってると笑う星。
時代も違えば価値観も違うかと改めて納得するソラ。
自分が今、非日常な場所にいることも痛感した。
「時代が違ければ価値観もちがうか……」
「なら、その強さも天の世界では普通か?」
「いや、天の世界でも大分逸脱してる、とは思う」
「お主らしい」
そういって星は盃を口へ運ぶ。
味わうように酒を含み、至福の顔をする。
ソラは横で酒を呑む星に諦めた顔をし、90–twoの整備を続けた。
その顔は、言ってもこいつどかなそうだな……と書いてある。
「武器の手入れか?」
「見ればわかる」
「旅をしていたころに見た傭兵とは全く違いますな。あやつらは手入れなど二の次で、いつも酒ばっかりだったぞ」
「こいつが錆びれば俺が死ぬ。これが俺の命綱と言っていい」
「短剣を持っているではないか?」
「手入れをしないと感覚が変わる。たとえナイフが使えたとしても、感覚が違う武器を使い続けたらこっちの感覚が狂う。この武器は剣以上に繊細なんだ」
「ほうほう、中々詳しんだな」
「周りに詳しい奴がゴロゴロいるんだ、嫌でも詳しくなる」
「おっと、酒が切れてしまったか。中々に楽しかったぞ」
満足した星は酒瓶を手に去って行く。
急に現れ去って行く星に、何だったんだ?と空は心の中で言った。
武器の整備もあらかた終わりそろそろ寝るかと思ったソラは立ち上がる。
しかし、また人の気配がすることに気付いた。
「今度は何?何の用なのレイン」
半ば呆れた顔で見知った仲間の名を出す。
が、出てきたのはレインでは無く愛紗だった。
これにはソラも参ったと言う顔をしていた。
「レイン殿じゃなくて悪かったな。今日は助かった、感謝する」
「何にもしてないんだけど?」
さらに愛紗の開口一番に発せられたお礼に空は何が何だか分からなくなっていた。
しかし、愛紗は続ける。
「桃香様から聞いた。ご主人様を守ってくれたらしいな」
「わざわざそんな事の為に来たの?呆れるよ……。助けた理由が知りたいなら答えてあげる。依頼者が勝手に死なれるの迷惑だからだよ。簡単に言うと金の為だ」
ソラはいつもの調子に戻ると憎まれ口をたたいた。
これには愛紗の顔も引きつる。
「幻滅したか?これが傭兵だ。あの能天気な太守と一緒にしてはいけない」
無駄に期待などされたくもないソラは念押しした。
一刀か隊長がいれば、なぜそんなことを言ってしまうと止めに入っただろう。
残念なことにこれを止める者は近くにはいなかった。
それでも愛紗は、ソラに対して思うところがあるらしく食い下がった。
「なぜそのような強い力を持ってもそれを生かそうとしない。ご主人様みたく目的を……」
愛紗も愛紗で、触れてはいけない部分に触れてしまう。
一刀か桃香がいれば止めに入っただろう。
しかし、今近くにはいなかった。
「俺が戦うのは自分の過去の記憶を取り戻すため。誰の為でもない。もう俺は誰かの為に戦うことはない」
答えなければそこで終わった筈なのに真面目に答えてしまうソラ。
ここまで行けば、もう止まることなどない。
「もし、記憶を取り戻したらどうするつもりだ?不知火殿を慕う者は多くいる筈だ」
「その時は自らを断つ。もう俺に家族と呼べるのは一人しかいない。2年前に、俺を兄さんと呼び慕う子供たちは皆んな死んだ。だから俺はもう仲間とか、家族とかそういうのは全ていらない」
何か悟ったように言うソラ。
悲しさが混じる声音だが、愛紗に言っているのでは無くどこか遠くに向かって言っているようだった。
気付けばソラも愛紗に質問をしていた。
「お前は大切なものを失ったものがあるか?」
「家族を賊に殺された。兄の死ぬとこも見た……」
「そうか。俺は家族、居場所、名前、全てを失った。親は目の前で殺され、愛した子供たちは、あの組織の後遺症で死んでいった。この不知火 空という名も命の恩人である社長が調べてくれるまではただのソラだった……………そう、本当は名前なんかない。7歳の時に死んだことになってる。だから切り裂きジャックなんてあだ名がある。この意味は名無しの権兵衛。つまりは名無しだ。俺には誇るための名前もなければ、罵られるための名前もない。天の世界じゃそれこそ不明で通ってきた。これで分かっただろ。俺がどう言う存在なのか」
言い切ったソラは愛紗に背を向け歩き出す。
無理に突き放そうとしている感じが否めない。
しかし、ソラはこれ以上仲間として仲良くなることを避けたかった。
「忠告だ。世界に存在していない俺と関わるとろくなことがないぞ。光は闇と一緒になることはないのだから。………だが安心しろ。隊長が依頼達成と見なすまでは最強の矛となり盾となる」
最後に不気味な笑みを浮かべたソラは武器、整備品を持って立ち去ろうとする。
「あ、それと気を付けた方が良い。ここを監視している奴がいるから。」
立ち止まってそう言い残すと、今度こそ去って行った。
北郷軍の陣地から少し離れた場所にキャンプしている集団がいた。
キャンプといってもテントや焚火があるわけではない。
簡素な塹壕に、上から蓋をするように地面と同系色のシートが被されている。
そこでは仮眠を取る者や、一刀達の動きを双眼鏡で監視する者がいた。
巨人の雷槌とカーチス・ランバートだ。
起きてるのはロイド、ネロ、カーチスの三人。
ロッタとデイヴィッドの二人は仮眠を取っている。
「どうだネロ?」
敵陣近くまで偵察に行っていたネロが帰って来るとロイドは状況を聞いた。
「今んとこ動きは無いネ。でもローンウルブズのイーグルがずっとこっちを監視してるし、陣地に近付くとソラの殺気がプンプンしてるネ」
「こりゃ、夜襲は無理だな」
ネロの報告を聞いて夜襲を諦めたロイド。
元々こうなることは予想済みだったのか焦る様子も、考えなおす様子もない。
「今行けば返り討ち確定ネ」
「なら、明日行動に移す。今日はもう仮眠でもとっておけ」
「了解ネ」
ロイドに言われ、寝袋に包まるネロ。
起きているのはロイドとカーチスだけになる。
「一見騒いでるようにしか見えないのだが?」
カーチスは双眼鏡片手に敵陣を機詰めるが張りつめた様子すらない敵に危険が感じられないと疑問に思った。
「あれはワザとだ。ちょっと賢い奴をおびき出す為に無能を演じる罠だ。ああ見えて、ローンウルブズ全員は酒なんか呑んじゃいない。一瞬でも攻めると狙撃と鉛弾のプレゼントと地獄行きのチケットを貰う」
「そりゃすごい。そんな連中初めて聞いたぜ」
「これはフェルカー・モルトと言う人物が無政府ゲリラをおびき出す為に使った汚い罠だ。あそこにヘルメスが設置した対人センサーがある」
「本当だな」
ロイドが指をさした方を見ると握り拳大のセンサーが双眼鏡を通してカーチスの視界に移る。
「近付けばセンサーが反応して地中に埋められたファットマン自家製の爆弾が爆発するだろうな。威力はたぶん抑えていても半径20メートルぐらいは吹き飛ばす。素直に明日まで待った方が確率が高い」
「あんたも随分ぶっ飛んだ人生だな」
「イギリス軍でまっとうな人生送る筈だったんだがなぁ、どこで間違えたらこんなになっちまったのか知りたいぐらいだ」
呆れ半分のカーチスに笑いながら返すロイド。
「さあ、まだ夜明けまでは時間がある。準備を進めよう」
「ああ」
二人はこの後の為にじゅんびを進めた。




