60話 戦闘開始
「聞けぇい、敵兵共よ!私は関羽、雲長。劉玄徳様の第一の家臣であり、天の御使い様の忠臣だ!」
両陣営が兵を展開し陣形を整え終えた今、双方は睨みを効かせていた。
その中で、ドスが効いた声で愛紗は名乗った。
袁紹、袁術連合軍の兵士達は敵が反董卓連合の時に活躍した関羽だと分かると、一瞬だがビビる。
しかし、多勢に無勢。
自分達の方が圧倒的な兵力があると分かっているので、自然と余裕の笑みが兵士から溢れ始めている。
しかし、彼等は反董卓連合の時にいたローンウルブズが一刀達に味方しているとは知らないでいた。
「ソラ、準備は良いな?」
「大丈夫、出来てる。」
愛紗の後方で突撃の合図を待つソラとゴーストの2人。
2人の格好は戦争なだけあったローンウルブズの戦闘服である真っ黒のコンバットスーツ。
武器も集団の中で取り回しの効くMP5kと、マチェットナイフ数本、そして対戦車ロケット砲を装備していた。
突撃の合図を待つ2人の姿はまるで獰猛な狼が餌を目の前にした時の殺意ビンビンの状態。
狩る気満々である。
愛紗が先頭に立って何かを言っている間にもファントムからの無線が入ってくる。
《聞こえるか?》
「「聞こえてる」」
《なら問題は無いな。今回、お前達の役割は重要だ。頭の片隅で良いからその事を理解しておけ。……本題に入るが、今回の強襲に容赦は要らない。だだ殺す事だけを考えておけばいい。もちろんお前達なら問題無いと思うが、敵を混乱させる事を忘れるな》
「俺達をなんだと思ってる?あのブラッド・ダイヤモンドだ。そこら辺の奴等と一緒にされたら困るな」
《相変わらずお前は生意気だな、全く……前線を崩した後は敵本陣まで突っ込んで構わん。もし、武器装備が壊れたなら一度離脱しろ、効率が落ちる。この戦争を何日も続ける気は毛頭無い。それこそ時間と金の無駄だ。2日以内に終わらせるぞ。それと空、お前はブラッド・ダイヤモンドの技はあまり使え無いで良いんだな?》
「俺も良く分からない。記憶が曖昧なんだ。思い出そうとしても頭にモヤが掛かって正確に思い出せるかは分からないんだ」
《別に無理に思い出さなくて構わん。むしろ、今のままで結構。お前は切り裂きジャックって言われているぐらいだ。なんとかなる》
「分かった」
ファントムとの連絡を終えた2人は無線は切らず、待機状態にしながら何時でも突っ込める準備を整える。
愛紗が突撃の号令が出た瞬間、誰よりも早く敵陣に突っ込み、敵を速やかに殲滅する。
頭の中で何度もシュミレーションした動きを確認しながら、愛紗の号令を待った。
「__誇りも大義も無い敵に容赦は不要だ!突撃ぃぃ‼︎」
《号令が掛かった。作戦行動を開始しろ》
「「了解」」
愛紗が号令を出すと同時に作戦開始の合図がファントムによって出された。
ソラとゴーストの2人は風のような速さで駆け出すと、愛紗の横を突っ切った。
それが本当の戦闘開始の合図だった。
「お前達も聞いていたな。作戦行動を開始する。イーグル、狙撃を開始しろ。優先目標は前線の将だ」
《はいよ………ズダンッ‼︎》
ファントムの指示によりイーグルは発砲。
無線にチェイタックの発射音が混じる。
また、ワンテンポ遅れてターンッ!と言う発射音が無線機からでは無く、ファントム達の後方から響く。
「ヘルメス、そっちはどうだ?」
《んあ?……ああ、ちょっと工作に時間掛かったが、出来てる。全機械仕掛け軽迫撃砲M224、150連同時発射開始っと。ほら、始まったぞ。暇な兵士諸君、弾を詰めるが良い》
「あいつらには当てるなよ」
《あー、どうせ狙ったって避けるから大丈夫だ》
ヘルメスからの返事が返って来た瞬間、無線機から大音量の爆音が響く。
ファントムの指示は遅かったらしく既に軽迫撃砲による絨毯爆撃が始まった。
ソラとゴーストが前線へと切り込もうと、1人2挺持ったMP5kを構えると、目の前数メートル先で大量の爆発が発生する。
それはヘルメスが放った150連迫撃砲による絨毯爆撃であり、敵を一斉に薙ぎはらう。
ズドドドッ!という轟音と共に爆風が二人を襲うが、二人は怯むことなく突き進んだ。
爆発により、袁紹、袁術軍の兵士はなすすべなく吹き飛ばされ散っていく。
その中でソラとゴースト背中を合わせながらは4つの腕に持つ4つのMP5kのトリガーを引いた。
銃口から吐き出される9mmパラベラム弾は容赦無く敵防具を射抜き、撃ち倒す。
しかし、味方に銃弾は届かない。
愛紗のいる全員の直ぐ足元に流れ弾全てが着弾していた。
味方に当たらない射角を意識しながら、敵を屠る。
まさに超人業だ。
迫撃砲の砲撃とソラ、ゴーストの開幕の突撃によって相手は怯み、成すすべなく屠られていく。
敵も黙ってはいない。
が、下手に攻めても2人の餌食になるだけだった。
リロードする隙を突こうにも、2人は交互にリロードを行い、カバーし合っている。
2人を中心に半径100メートルほど死体の山が出来ていた。
「チッ、弾切れだ」
「こっちも、もう無いよ」
「離脱するぞ。その前にこいつを撃つ」
そう言いながら、ゴーストは背中に担いでいたM72E9を展開すると、騎兵に目掛けてぶっ放した。
続いてソラをロケットランチャーを撃った。
隙を見て後ろから攻撃しようとしていた兵士達は問答無用のバックブラストに吹きと飛ばされ、騎兵隊はロケットランチャーの餌食となった。
「離脱するぞ」
「了解」
敵の前線をはちゃめちゃにした2人はM72E9を投げ捨て、その場を離脱していく。
「彼等に続けぇ!」
『応ォォォォォ‼︎‼︎』
2人が撤退するのを見た愛紗は2人が切り開いた前線を更に押し上げるべく、愛紗は突撃を命じた。
しかし、この愛紗の命はちょっとしたブラフである。
わざと突っ込む事で敵の反撃を誘い、押し返されている振りをしながら、作戦で確認した渓谷まで誘導する。
敵の兵力が圧倒的であり、尚且つ戦力差から油断しているからこそ通じるブラフだ。
しかし、敵は今や混乱している。
愛紗は敵が直ぐに勢いを取り戻すと見越した上で突撃を命じていた。
「我ら天の御使い様が治める土地へ攻めて来た事を後悔させろ!」
『応ォォォォォ!!』
ズタタタッ!ターンッ!ドゴンッ!
乾いた空気を切り裂く発砲音、狙撃の遅れる銃声、工作によって作られた150連迫撃砲による不自然に重なった爆発音。
これらが音を奏でながら兵を蹂躙している、事に気付いて無いのが本陣にいた。
「七乃、はちみつ水が飲みたいのじゃ」
「美羽様、さっきも飲んでませんでした?あまり飲むとお腹壊してしまいますよ」
「あー、これであの小娘さえ居なければなんと快適だったのかしら」
「ダメですよぉー、麗羽様。ちゃんと協力するって言ったじゃ無いですか」
「私、そんな事は一言も言って無くてよ」
「さっすが姫、その掌返しにあっこがれるぅ」
言わなくても彼女等である。
この音は現代なら一瞬で区別がつくのだが、今は三国時代。
爆発するような兵器は一切無いのだ。
ただ、昔も今も変わらず共通するのは兵士の悲鳴だけである。
それが、自分達の兵士だと気付かないから問題なのだが……
「随分と派手にやっていますわね」
「どうせ、敵の悲鳴だろ?」
「どうなんだろ……本当に敵の悲鳴なのかな?」
「七乃!もう一杯なのじゃ」
「次で最後ですよー」
この緊張感すら感じられない会話は彼女達らしいと言えばらしいだろう。
しかし、この戦場での会話とは思えない何とも気の抜けた茶番である。
「シエルさん、シエルさん」
「はい、こちらに」
麗羽の呼びかけに甲斐甲斐しく応えるシエル。
ボロボロの外套を身に纏って居なければ、執事にも見え無くはない。
「今回の戦、勝てそうなのかしら?」
「はい。もちろんでございます。今回、天の兵は彼等5人だけでは無いのでご安心ください。こちらでも準備をしています」
そう言いながらシエルは手を上に挙げる。
すると、シエルと同じような格好をした者達が複数現れる。
その数、20人。
「彼等はブラッド・ダイヤモンドの兵士達です。死神になれなかった出来損ないと言われてますが、力は普通を遥かに凌駕しています。それにまだ傭兵はこちらで準備しておりますゆえ」
「要するに、どう言う事ですの?」
「要するに、あの5人よりも遥かに強いと言う事です」
「ならよろしいですわ!この麗羽に勝利をもたらしなさい!」
「はい。では、そのように」
「おーほっほっほ!この戦い、勝ったも同然ですわ!」
まるで主人と執事の会話したシエルは麗羽達の元を後にする。
「いいんですか、シエル様?」
ローブを被ったブラッド・ダイヤモンドの兵士の一人はシエルに寄ると、さっきの麗羽達のいた方を胡散臭そうに見つめながら心配そうに尋ねた。
ローブを被っているが、声音から女性だという事が直ぐに分かる。
「ああ言う事でも言って置かないと、この先支障が出るからね。協力関係は大事さ、トゥエルブ」
「なら良いんですが……」
「どうせ僕達で何とかできるさ。君だってソラに会いたいだろ?」
「ええ、まあ」
「なら、僕達から出向けばいい。一応、別で傭兵は準備したけど、今のソラの足元にも及ばない。ただの時間稼ぎでしか無い」
シエルはトゥエルブと言う女性からブラッド・ダイヤモンドの兵士に20人全員が見える様に向き直った。
「良い?目標は一つ。ソラの首にこいつを打ち込む事。そうすればこの世界にはもう用は無くなる。僕達の悲願が果たせる。行こう。歴史を変革する為に」
『貴方の思うがままに』
ワールド・ギアと呼ばれる第三勢力の目論みなど、この戦争をしている者達誰もが知る由もなかった。
そしてこの後、たった1人の死神により袁紹、袁術連合の戦力24万のうち12万を失う事に事になるなど、誰もが予想しなかった。




