53話 謎のギャングは倒れるが……
『きゃぁぁぁぁ‼︎』
客が飯店から逃げ去って行く中、ギャング達はトンプソン機関銃を店の中でぶっ放していた。
窓や皿は粉々になり、壁は穴だらけ。
幸いに他の客は逃げれた様だが、空達は取り残されている。
「おいおいおい!隠れて無いで撃ち合おうぜ!」
「ヒャハッー!乱射、乱射!」
「狂ってる……」
空は毒付くとハンドガン、ベレッタ90-twoを取り出してコッキングする。
そして、顔は出さずに応戦を始めた。
隣ではレインが鏡を使って敵の人数を数えていた。
「1、2、3……うわぁー、いっぱいいるよソラ」
「数は?」
「見たくない程」
「武器は?」
「M1トンプソンかな?」
「ここじゃマズイから分散する。3数えたら飛び移って」
「オッケー」
「3…2…1…ゴー」
空の合図に合わせて2人は別の場所へと飛び移った。
2人が動く間にも銃弾は空達の近くを掠めている。
空もレインも別の場所で机を盾代わりにしながら、応戦を開始した。
「カズっち、そこ絶っ対に動かないでね!割とマジで死ねるから」
「ちょ、ちょっと⁉︎」
「ソラ、いつでも良いよ!」
弾切れにより、銃声が一時的に止まったのを合図に2人は立ち上がりハンドガンを構えた。
「「動くな!」」
「ようやく、顔を出してくれたか。待ちくたびれたぜ」
まるで、こうなる事が分かっていたかの様に堂々とした立ち振る舞いをしているギャング達。
空とレインは警戒は緩めずに、ギャング達を睨む。
「俺を呼んでたが、何の用だ」
「お前が切り裂きジャックとはな。随分と少年だな」
「もう一度言う、何の用だ」
次は無いと言わんばかりに語気を強くする空。
ギャングの中でも比較的に偉そうな奴が観念した様子で、やれやれとジェスチャーする。
「簡単さ。俺達の下へ来い。ある人がお前を欲しがっている。俺達はその使いっ走りって訳さ」
「断ったら?」
「無理矢理にでも連れて来いって言われてる。外にはボスと連れで15人はいる。俺達はそんな乱暴にしたくないんでな。出来れば、聞いてくれよ」
「なら、嫌だ」
空は冷めた笑顔で言う。
冷徹な笑みは空間を凍えさせるぐらいの冷たさで、触れば切れる鋭さをしている。
しかし、目の前のギャングにとってはこの程度の事など予想の範疇で、笑い飛ばした。
「そう来ると思ったぜ!」
「自力で捕まえみな」
「良いぜ!ぶっ殺さない程度に痛ぶってやるよ!」
ギャングはトンプソンを仲間から奪い取ると空に目掛けて銃撃を開始する。
空も空で、ベレッタで応戦を始めた。
「はっ、弾が怖くて銃が撃てるっかてんだよ!」
「チッ……」
空は射線を躱しながらベレッタを撃つのに対して、ギャングはその場で動かずにトンプソン機関銃を乱射している。
トンプソン機関銃に取り付けられている80連ドラムマガジンから放たれる弾丸は次々に壁や天井、床に穴を開けて行く。
豪快な撃ちっぷりに空は舌打ちして、身を隠した。
ギャング達がサブマシンガンに対して空とレインはハンドガン。
相手の乱射に対応するのは難しい。
窮地な状況に追撃を掛ける様に今度は店の外から仲間がぞろぞろと入って来た。
「リーダー。外でこいつら捕まえました!」
「おー、良いね良いね。人質ってのは最高っだね!」
ギャング達にトンプソンを突き付けられて入って来たのは一刀達の護衛の兵士7人だった。
手を後ろで縛られ、武器は取り上げられていた。
「よーし、動くな切り裂きジャック!武器を捨てて頭の後ろに手を置け、さもなくば一人づつ頭ぶち抜くぜ」
「………分かった」
空は武器全てを地面に置くと、ギャングの言った通りに手を頭の後ろに置いた。
そしてレインに目配せをすると、レインも銃撃を止めて武器を捨てた。
「物分かり良くて助かるよー」
「…………」
狂気な笑みを浮かべるギャングに対して空は睨むだけ。
何も出来ないと分かっているギャング達は笑いながらトンプソンを突き付ける。
倒れた机の中に隠れていた一刀はもどかしそうに、声を上げようとするが、出せない。
声を出した瞬間、撃たれるかも知れない事と空を気にかける事がぶつかり合って声を発せなかった。
「……顔を絶対にだすな」
そんな一刀に気づいた空はいつもの無表情で一刀へと言った。
「逃げ遅れた客に気を向けるとはカッコイイねー!」
そう言いながらギャングは空を殴り付けた。
殴られた勢いでよろめきながら、地面に倒れる空。
しかし、立ち上がった。
これにはトンプソンを突き付けているギャング達は少し驚いている。
「イカれた…あんたよりはマシだ」
「俺のパンチ喰らってケロっとしてるのって初めて見たぜ」
「その程度でダウンする方があり得ない」
「その丈夫さ褒めてやるよ」
空はギャングを煽ると、ギャングは更に二三撃パンチを喰らわせる。
再び地面に叩きつけられるが、立ち上がる。
捕まっている兵士7人は自分達の所為でと顔を青くしている。
「それより、俺の同士が天の御使いの北郷一刀って奴を探しているらしんだ。この街に居るらしんだが、知ってるか?」
「生憎雇われてる身なんでね……名前しか知らない」
「あっ、そう」
詰まらなそうにギャングは言うと、蹴りを空の腹に入れた。
それを何とも無く受ける空に少し苛立ちを覚えている。
机の中から立ち上がる事が出来ずその光景を見ている一刀、桃香、愛紗、レインの4人。
一刀は空を殴っているギャングに怒りを覚えていた。
それを見たレインは一刀を止める。
「ダメだよ。今行くとソラの頑張りが無駄になるよ。関羽ちゃんも今突っ走ったら死ぬからダメだよ」
「……けど」
「待って、もう少しでいつものアレになれるから」
「アレ?」
レインが言った事が分からない一刀はオウム返しで聞き返した。
「俺がローンウルブズに入れた訳はね。この体質なんだよね。アドレナリンが脳を刺激すると、とたんに強くなれる体質なんだよ。自分でも良く分かってないんだけどね。そこにソラの持って来たリュクがあるから取ってくれる?」
「これですか?」
「そう、それそれ」
一刀が少し手を伸ばして地面に落ちてるリュクを取るとレインに手渡した。
レインはそれを受け取ると、チャクを開けて中に入ってるモノを取り出す。
「やっぱりね。ソラは考え過ぎだよ」
そこには折り畳みストックタイプのMP5と、幾つかの予備マガジンがあった。
近くで初めてみた銃をマジマジと見つめる一刀達3人。
「これは?」
「サブマシンガン。よく、アメリカとかのドラマに出てそうなヤツだよ」
銃の種類を分かってない一刀は聞くが、レインは分かりにくい答え方をしていた。
レインはMP5のストックを展開すると、マガジンを差し込み、チャージングハンドルを思いっきり引いた。
ガシャン!と言う音が響き、怪訝に思ったギャングの1人がレイン達の方に近付いて来た。
「よし、カズっち絶っ対動かないでね。ハーイ!」
レインは顔を出すと、薙ぎはらう様にMP5を連射し始めた。
「ちょっ⁉︎ 熱ッ!」
「ウヒョヒョ!」
排莢されたばかりの熱を持った空薬莢を浴びた一刀は熱さにビックリしている。
しかし、レインは銃撃を続けた。
突然の銃撃に近寄って来たギャングから、空や兵士達を見ていたギャング達を撃ち抜いた。
先程まで空を痛めつけていたギャングは素早く身を隠すが、その隙を見逃さずソラは捕まった兵士を蹴り飛ばして脱出した。
「レイン!それ投げて!」
「オッケー!」
空はレインに自分の武器を渡す様に言い、レインがベレッタとブレード、ダークネスゼロに手を伸ばそうとするが、空に投げ渡したのは愛紗だった。
空は一瞬驚くが、それを受け取った。
「今のは先日の貸しの返しだ。感謝などするな」
空はブレードを鞘から抜き、ベレッタと共に構える。
「悪いがこの世から退場してもらう」
「やってみろよ!」
空が地を蹴る瞬間、ギャングはトンプソンを空に向けて撃ち始めた。
しかし空の方が一瞬早く、トンプソン機関銃の銃弾は空を捉える事無く地面を抉る。
「なっ⁉︎」
ギャングは驚きを隠せず銃を乱射するが、空に当たらない。
素早く弧を描く様に走る空は銃弾全てを避けると、ベレッタを2連射し、そのまま離脱する。
肩に弾を受けたギャングはトンプソン機関銃を地面に落としてしまう。
しかし、空の攻撃は終わらない。
丸腰となったギャングの心臓をブレードで貫いた。
速すぎて何が起こったか分かっていないギャングだったが、自分の胸を見て初めて自分が刺されたと気付いた。
「……コフッ⁉︎」
「終わりだ」
空はブレードを引き抜く為にギャングを蹴り飛ばした。
店の外へ蹴り出されたギャングは出血する胸を押さえながら立ち上がる。
「ま、まだ終わって…ないぜ」
「いや、終わりだ」
しぶといギャングに嫌気がさした空はベレッタで頭を数回撃ち抜いた。
街の道のど真ん中で力尽き倒れるギャング。
街の住民は人が死んだ事でパニックになり掛けていた。
しかし、それを鎮める様に1人の拍手が響いた。
「お前さんの才能は素晴らしい。シンカーが欲しがるのも無理はない。だが、そんな無茶な戦い方をしとると早死にしてしまうぞ、少年」
「誰だ!」
空は拍手する人物に気付き、叫んだ。
すると拍手していた人物、初老の男は自分のあごひげを触りながら答える。
「ただの老人だよ。お前さんと戦ったら一瞬で死ぬ程のな、フォフォフォ」
「英国人だな。何故、こんな場所にいる?」
「いや、なに。そいつらを連れて来ただけだ。ワシはお前さんと事を構えようなんて考えはしておらん。彼等はお前さんに挑戦し負けた、それだけ分かれば何の問題もない」
「待て、どこに行くつもりだ」
「いずれまた会おう少年。次は切り裂きジャックとしてか、隻眼の死神として会うのか楽しみしておるぞ」
そう言って初老の男は徐州の街から姿を一瞬で消して行った。
取り残された空は隻眼の死神と言う不可解な単語が頭の隅に引っかかるのを感じ、記憶から探ろうと頭を回転させたが、頭痛に襲われる感覚を感じて考えるのを止めると、事後処理のためにローンウルブズのメンバーを呼ぶのだった。




