52話 警邏は鬼ごっこに
やはり、5千字近く書くと時間かかるようです(他人事)
彭城の前で集まる数人の姿。
2人は一刀と桃香。
それ以外には空と警邏の兵士達、そして愛紗だ。
空は護衛用に目立つ武装はしておらず、私服の中にベレッタを仕込んでいる以外はリュクサックを持っているが、肩に掛ける程度で背負っては無かった。
それに比べ愛紗は青龍偃月刀を担ぎ、空を明らかに威圧している。
一刀はどうしよとなりながらも空に挨拶をした。
「一応今日はよろしく頼むよ」
「今日はよろしくお願いします!えっと、じぁ……ジャックさん」
「……よろしく。呼び辛いなら空で良い」
「良いんですか?」
「俺のコードネームは飾りみたいなモノだ。あだ名をもじった程度。大した意味なんて無いよ」
桃香が呼び辛そうに空のコードネームを言う為、空は好きに呼ぶように言った。
しかし空は自分のコードネームの事より気になる事が一つあった。
「それより、この人数は何なの?」
空が気になっているのは街の警邏の人数だ。
街を見る一刀と桃香の2人はいないと警邏の意味が無い。
しかし、周りの護衛の人数が異常なのだ。
空はファントムに任務として与えられている為に外せない。
だが、兵士7人+愛紗は多すぎるぐらいだ。
空は1人で十分だと思っているが、愛紗にとっては空自体が危険と思っていた。
「私はご主人様と桃香様の安全を第一に考えておりますので」
無表情の兵士達も愛紗に同意するかのような目で空を見た。
「何かあったら俺はこの2人しか守らないから、自分の命は自分で守ってもらうよ」
空も空で兵士と愛紗に業務連絡のような冷ややかな声音で言う。
ただでさえ護衛など、あまり行わない事をしている空にとって兵士達に注意を向けていられない。
今でさえ興味すら無く、自分のナイフの位置を調節しているぐらいだ。
兵士や愛紗はこんな男に護衛が務まるのか?と疑念を強くしている。
こんな始まり方で護衛が始まったのだが、一刀と桃香の街を進む速度に空は呆れていた。
数メートル進むたびに街の人に声を掛けられるのだ。
「劉備ちゃん、今日も元気だねぇ。劉備ちゃん達が来てから街に活気ってものが出たよ。ありがとう」
「天の御使い様!これ貰って下さい!」
「御使いのお兄ちゃん!遊んでよ」
徐州に来て一週間前後でこれなのだ。
空はこの2人の知名度は何処まで高いのかと思いつつも、進む速度の遅さに嫌気がさした顔をしている。
しかしファントムに与えられた任務な以上、警戒には抜かりは無い。
怪しいそうな人を見れば警戒をするし、怪しげな場所を見つけては警戒している。
兵士達はこの光景に慣れているらしく、動じずに2人が子供達と遊ぶ姿を見守っていた。
愛紗も優しそうな顔で2人を見つめている。
そんな中、やはり空に構いたがる人物はいる訳で、空中からレインが降ってくる。
「ソォォォラァァァァ!」
「…………」
「グホッ‼︎」
空は降って来るレインに無言で蹴りを入れ吹き飛ばした。
地面に叩きつけられたレインは当然のごとく転がり、ズサーっと地面を滑っていく。
蹴られた痛さand地面を滑った痛さで悶絶するレイン。
シュールな絵にその場にいる空以外がなんて反応すべきなのか困った顔だ。
一刀達と遊んでいた子供達なんかはビビって泣きそうだ。
「ちょ……ちょっとは、て、手加減……してよ」
「用は?」
「用は…なんかあったっけ?」
「聞いてるのこっち……」
「あ、そうそう。忘れ物持って来たんだったよ」
さっきの痛みとは何だったのかと言わんばかりの機微な動きで背中から持って来た物を取り出す。
顔中土埃塗れなのに、何故か痛さを感じさせない笑顔を振りまいている。
「はいブレード。イーグルが持って行けって煩いから」
「要らないって言おうと思ったけど。一応貰っておく」
「てか、そのブレードに名前付けなくて良いの?」
「武器なんて道具。名前なんてペットじゃあるまいし……」
「そう言わずに!ソラは考えそうにないから考え来たよ」
「一応聞くけど、何?」
「名付けて、ダークネスゼロ!どう?カッコいいよね!」
「……レインのネームセンスの無さに安心したよ」
「うへぇ、まあ良いじゃん。無いよりマシマシ」
そう言ってレインは半ば無理矢理空の背中にブレード、ダークネスゼロを掛けさせた。
空がブレードを背負った姿は忍者を感じさせるような姿だ。
「ほら、この方がカッコ良いじゃん。忍者みたいで」
「俺は忍者じゃないぞ」
空とレインが会話していると、一刀達と遊んでいた子供の1人が近付いて来る。
「お兄ちゃん達誰ー?」
「何を隠そう!俺達は天の兵だよ!」
「嘘だ!」
「えっ⁉︎ちょっと、俺の瞳を見て!ほら!青色でしょ!ここら辺には居ないよ!天の兵だよ‼︎」
「だってお兄ちゃん、もう一人のお兄ちゃんに倒されたし強くなーい!」
「うっ……けど、しかし!これ見て!ここには無いよ!」
小さな子供にタメを張るレインは、天の兵だと認めさせようとハンドガンUSP45を2つ取り出した。
けど、子供にはハンドガンが良く分からないらしく首を傾げている。
「それなーに?」
「銃だよ。ここから小さくて威力のある矢を発射するんだよ!」
「良く分からないよ」
ファントムに教えられたような説明をするが、子供には難しいらしく理解して貰えない。
そこでレインはどっから取り出したのか、空き缶を取り出した。
「見てて!」
レインが集中する中、なんだなんだと街の住民達が集まって来て、レインを中心に囲んでいく。
一刀や桃香、愛紗、兵士達が注目する中、空は念のために怪しそうな人に目を送りながら警戒している。
「よし!じゃ、いくよ!」
そう言ってレインは空中に空き缶を投げた。
そしてUSP45 2丁を構えると、素早く何度もトリガーを引いた。
ガンッ!ガンッ!と音を立てながら発射される.45ACP弾は何度も空き缶を貫いていく。
空き缶が地面に落ちる頃には別の鉄の塊へと姿を変えていた。
『おお〜!』
子供も大人も集まった野次馬達は歓声を上げた。
注目された事にレインは得意げな顔しながら手を振っている。
先程まで天の兵なのか疑っていた子供も拍手しながら、レインを褒めていた。
「お兄ちゃんすごっーい!」
「でしょでしょ!……でもね、そこのお兄ちゃんの方が凄いんだよ」
「ほんと⁉︎」
「本当だよ。ねぇソラ…ってあれ?」
ソラに同じ事をさせようとソラの方を向くが………
空は子供達に揉みくちゃにされていた。
一刀や桃香が子供達と遊んでいたの見守っていた空だったのだが、いつの間にか集られていた。
「ねぇ、お兄ちゃんも御使い様の友達なんでしょ。遊んで〜!」
「お、おい⁉︎ や、やめろ!」
「やーだー。遊んでくれるまでやめなーい」
「そうだーそうだー」
空は一刀に助けろと言う目で睨むが、一刀は遊んでやれと言った目で返してしまう。
「わかった。分かったから離せ」
このままでは子供達に押し潰されると思った空は諦めて答えた。
「で、何をすればいい?」
『鬼ごっこ!』
「おっ、俺もやっちゃうよー!」
子供達が口を揃えて一刀に教えて貰ったであろう遊びの名を言う。
すると、さっきまで自分の腕自慢をしていたレインまでもが現れて、参加宣言をする。
「レインは帰れ」
「捕まえられたら帰ってあげるよ」
レインは子供達の手を引きながら逃げていった。
空は一刀にリュクを手渡すと
「3分ぐらい待ってて」
と言い、全力疾走でレインを追って行った。
こうして昼になったのだが、飯屋で空はぐったりとしていた。
隣ではレインが勝ち誇った顔しながら水を飲んでいる。
そんな2人を一刀は呆れた表情で見ていた。
「大丈夫か、空?」
「……放って置いて」
「大丈夫、大丈夫。ソラは1日走ってもピンピンしてるから」
「…元はお前のせいだ」
「フフーン、でも勝ったの俺だしー」
空がこんな風になっているのは、もちろん鬼ごっこだ。
だがこの2人、普通の鬼ごっこなどはしてなかった。
子供をおんぶしたり、抱っこしながら屋根の上で追いかけていたのだ。
もちろん、子供達は大はしゃぎで大喜び。
調子に乗ったレインは更に過激にパルクールで登ったり飛び降りたりするものだから、追いかけた空は完全に疲れ果てていた。
「2人とも凄かったです!」
「徐州だっけ?のトップにそう言って貰えるとは嬉しいね。あっ、そう言えばこうして話すのは初めてか」
「えっ?あ、そうですね!」
「なら、ちゃんとした自己紹介でもするね」
そう言うとレインは席から立ち上がった。
「ローンウルブズの中では新参の方だけど、実力はピカイチ。白兵戦をやらせたら負け無しのレインだよ。よろしくねー」
「宜しくお願いします」
あらかじめ考えていたのか、決めポーズをしながら自己紹介をしたレイン。
しかし、桃香は丁寧に頭を下げて礼をしている。
調子が狂ったレインはもっと面白い反応してくれても良いのにと言った顔で席に座り直した。
「で、隣にいるのはローンウルブズ現最強と名高い孤高の狼。1人でなんでもこなす完璧超人のソラ」
「………人を、人外みたく説明するな」
「まっ、寝とけって」
起き上がろうとした空の頭を押さえ付けて、レインは続ける。
「で、ソラは今まで一匹狼のようだったから。2人には感謝してるよ。2人がいなかったら多分どこかで死んでたからさ。あと、隣の関羽さん?もちゃんと感謝してるよ」
素直に礼を言うレインに三人はポカンとなっていた。
直接な会話は無かったにしろ、レインの性格からするとあり得ない事過ぎたのだ。
「いえいえ!こちらこそ助けてばかりで…」
「俺も空達には助けばかりで申し訳ないな」
「気に入らないが、助け貰った事は感謝している」
今度は空がポカーンとしていた。
いつもの空に対して強気な発言をして来た愛紗があり得なかったのだろう。
押さえ付けられている手を退けようとしていたのが、固まっている。
「別にあれは依頼の条件に反するから助けただけだ」
「またまたー。親友の仲間を殺さたく無かっただけでしょー」
「違う!」
「ね、ソラって嘘つくと耳が動くんだよ」
「なら、レインが嘘を付くと眉が動くのは?」
「えっ、本当⁉︎」
「嘘だ。レインの手は分かりやすい」
「あっ、バレてた」
「バレてるも何も、このやりとり2度目」
「なら、これなら!」
「あっ、コラ。やめろ」
レインは言葉では勝てないと分かると、今度は実力行使。
脇の下をくすぐると言う戦法に入った。
空も必死にガードして、防ぐ事に尽力している。
この2人の行動に三人は自然と笑みをこぼしていた。
「2人って、とっても面白いですね」
「そう?面白いってソラ」
「お前の所為だ」
空はレインにツッコミをいれた。
しかし、レインはもうその事には興味は無いみたく、次の話題に変わった。
「そう言えばいつもの小ちゃい子は……あ、恋と買い物って言ってたっけ。今度、あの子達にもちゃんと自己紹介しない……⁉︎」
「……ッ⁉︎」
レインが最後まで言おうとした時、2人は何かに気付き机を倒してバリケード代わりにすると、一刀、桃香、愛紗の3人をバリケードへと押し込む。
その瞬間、ピュンピュンと頭上を弾丸が通り過ぎる音が響いた。
「ふぅ、危なかった!ソラは大丈夫?」
「なんとか」
「えっ?ええ?」
「隠れて。敵が来てる」
驚いて、何が何だか分かっていない桃香に空は二言で説明した。
「チッ、外したか。ちゃんとサイレンサー付けて隙を見つけて撃ったんだがな」
「サプレッサーじゃ無かったか?」
「まっ、どっちでも良い。出て来い切り裂きジャック!」
そこには黒いスーツを来た一昔前のギャング数人がM1トンプソン機関銃を構えた姿で立っていた。
完全な消音は出来ないので減音のサプレッサーが正しいです




