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42話 義賊の目覚め

同日、同時間


徐州から数十キロ離れた地下鉱山跡地。人気の感じられない跡地に踏み入る一人の人影。手には死神鎌(デスサイズ)が握られていた。

その人影は地下鉱山跡地の入り口へと入り、消えると……数十秒後、何かを斬る音と共に悲鳴が次々と上がる。

人気が感じられないのに、悲鳴が次々と響く理由。それは住む場所を持たない賊が根城としているからだ。

その賊達がたった一人によって蹂躙され、戦闘を続行出来る者が居なくなるのに十分は掛からなかった。



「千人は居たんだぞ!どうなってんだ⁉︎」


「お前は何者だ‼︎」


「私は死神、魂を狩る者。有力な義賊と言うから期待したけど……期待外れね。でも、あなた達はさっきの者達とは少し違う様ね。少しは楽しめるかしら?」



義賊の問い掛けに、目の前の人物は答えた。地下で暗い中、当てられる松明の光を吸い込む様な漆黒の外套を身に纏い、右肩に死神の鎌のエンブレムが不気味に輝く。



「はん!おら達を舐めるな!」


「行くぞぉ‼︎」


「仲間の仇!」


「お前なんか怖く無いんだぁ!」



残った義賊4人は目の前の死神と名乗る人物へと一斉に斬りかかる。しかし、同時に斬りかかろうとしているにも関わらず、落ち着いた感じで、頭に被ってるフードを取り払う。



「遅いわ」



そして、死神鎌を軽々しく振るい、4人を吹き飛ばした。吹き飛ばされた4人は足を浅く斬りつけられていて、立ち上がろうにも立ち上がれず、苦痛の呻きを挙げた。



「女だと?」



義賊の一人はフードを取った死神を見て、驚く。目の前で軽々しく死神鎌を振っているのは白の長髪で、青い瞳を持った若い少女なのだ。容姿から気付く通り、彼女はアテナと呼ばれる隻眼の死神で、今は魏に属している。



「あら、今頃気づいたの?」


「何故殺さない!」


「貴方達に二択の選択をあげるわ。一つ、私に従う。二つ、この場で私に全員殺される」


「全員だと?」


「貴方達を含めて、1259人は生きてるわよ。どうする?」


「俺には決められない……」


「なら、あなた達のお頭を呼べば良いのかしら?」



アテナは期待した返事が返って来ない事に少し、苛立ちを覚えたが、ぐっと抑える。そもそも、何故アテナがこんな場所にいるのか。それは、アテナが画策しているある計画の為だった。その計画を成す為には人数が必要な為に、義賊と手を組むと言う選択肢を取ったのだ。



「義賊の頭に通達するわ。直ぐに私の目の前に現れなさい!出て来ない場合、貴方のお仲間を全員この場で射殺するわ」



アテナは死神鎌を仕舞うと外套の中からS&W M500を取り出すと、先ほどアテナによって足を斬られた義賊の一人の頭に突き付け、撃鉄を立てる。すると、隠れていた義賊の頭は素直にアテナの前に姿を見せた。



「俺達の負けだ!頼む、乱暴は止してくれ。俺達はこの国を変える為に動いてるだけなんだ!」


「義賊ではあるけど、賊には変わり無い貴方達が乱暴が嫌い?笑わせないでくれる。寝言は寝てから言うものよ。まあ、私の言う事を聞けば何にもしないわ」


「分かった!なんでもする。だから家族を奪わないでくれ!」


「話しが早くて助かるわ」



義賊の頭が承諾した事で、アテナは嬉しそうに返した。



「3日後に、徐州に劉備と天の御使いが州牧として着任するわ。貴方達にやって欲しい事は二つ。一つは天の御使い達が徐州に向かう道中の威力偵察を含めた奇襲。二つ目は、一周間後徐州に攻め入り、これを占拠する事」


「本当にやれってのか?」


「ええ。あなた達がその方法以外で生き残る可能性は皆無よ」


「待ってくれ!俺たちゃあそんな無謀な事!」


「嫌なら、今直ぐ全員をこの場で殺すだけよ」


「くっ……」



あまりの無謀な事に賛同出来ず、堪らずに声を荒げる頭に、アテナは持ち札であるこの場で全員殺すと言うカードを持ち出した。一周間後に死ぬか、今ここで蹂躙されて死ぬかを問われた頭に答えを導き出す事は不可能だった。



「弱者は強者に喰われる。自然界では当たり前の事よ。あなた達は私に負けた。つまり、生かすも殺すも私次第ってわけ。お分り?」


「だが、あいつだけは!」


「あいつ?」



アテナは義賊の頭が言った言葉に疑問を覚えていると……



「はあぁぁ‼︎」


「 ⁉︎ 」



アテナの目の前に烈風の如く槍が飛んで来た。アテナは一瞬驚くが、冷静にその槍を掴み取り、飛んで来た方向に投げ返す。虚空の闇に消えた槍は、数秒後、少女が持って現れる。



「おい、馬鹿⁉︎(ひいらぎ)、どうして出てきた!」


「お義父様とお義兄様達から離れなさい!」



出てきた少女に、義賊の頭は慌てて叫ぶ。しかし、柊と言われた少女は、目の前にいるアテナを睨みながら槍を握った。



「へぇ〜、随分と強気ね。けど………」



アテナは興味深そうに柊を見ると、後ろへと一瞬で移動する。



「ダメね。この程度にも反応できないんじゃ、まだまだ役不足だわ」


「えっ⁉︎ 」



そして、蹴りを柊へと放つ。

一瞬で後ろに現れたアテナに驚く柊。どうにか、アテナの蹴りを槍でガードするも、勢いを殺し切れずに後ずさる。



「私の名はアテナ。隻眼の死神、ナンバーは17。貴女の力…見せて貰うわ」



そう言ってアテナはM500をどこかに投げると外套の中から折り畳み式の死神鎌を展開する。その禍々しい雰囲気のアテナに柊は足がすくんだ。



「貴女に本気を出すまでも無いわね。這い蹲りなさい」



死神鎌を構えたアテナは柊に向かって走り始める。死神鎌を持ったとしても速さを失わないアテナはまるでミサイルだ。

柊は自分に喝を入れながら、こっちへと向かってくるアテナに目を据えてカウンターを狙い、槍を構えた。

アテナが槍の間合いに入った瞬間、柊は鎌を弾こうと槍を振るうが、アテナの姿が幻影だと言うかの様に陽炎みたく揺らぐ。それでも、柊は迷わずに一閃する。

しかし、槍は虚空を切り裂いた。



「ふふっ、こっちよ」



声の聞こえた方を見た柊は更に驚いた。アテナが壁を走っていたのだ。あまりの人間離れした行動に動けない4人と頭も口を開けている。

アテナは壁を走る速度更に上げ、加速する。

トップスピードに達したのか、壁を蹴ると柊へと一直線。壁はアテナが蹴った瞬間に大穴が開いた。そして、アテナは空中で死神鎌を大きく振り被る。その姿は死神が一人の命を刈り取る様にも見えた。



柊は目の前に迫っている脅威に反応が出来なかった。

いや違う、槍を動かせばなんとかガードは出来るものの、体が言う事を聞かなかった。それ程までに柊はアテナに恐怖を覚えていた。

千人もいる家族の瞬殺、防戦一方に押し込む戦いの運び、一瞬で別の場所へ移動してしまう速さ。そして、今まさに迫ってくる死と言う恐怖。

これだけでも死と言う恐怖は柊を蝕み、動けなくさせていた。



しかし、アテナの死神鎌が首へと迫って来る筈が、残り数センチで勢いを止めた。



「……ど、どうして?」


「言った筈よ。私の言う事を聞くなら殺さないと。もう貴女の父?は既に降参してるし、殺す理由は無いわ」



既にアテナは戦闘する雰囲気では無く、死神鎌を柊の首から退けると折り畳み始める。



「でも、戦力に不安が残るわね………そうだ!あなた達に面白い物を渡すわ!」



そして、何かを思い出したかの様に外套の中を漁ると、外套の大きさとは見合わない物を取り出して行く。



「これは私達の世界の弓。アサルトライフルよ」


「???」



誇らしげに柊にアサルトライフルのAK-74を見せるが、これが何の用途に使うのか分からない柊は首を傾げる。



「天の世界って言ったら分かる?」


「……え、えぇ、はい!」


「面白いわね貴女。これは貴女達にはとても不思議な物なの。ここを引くだけで、何本もの矢を出す事が出来る」



柊達に分かる様に弓に例えて説明していくアテナ。AK-74を軽く構えて、フルオートで射撃を行い詳細を説明する。



「けど、30本の矢を撃つと止まっちゃうの。そう言う時は、これを別のに取り替えて、ここを引くとまた撃てる様になるわ。貴女達には500個コレを用意したわ。撃ち方はまた後で全員に教えてあげる。怪我した人達の治療したら渡すわ。貴方達も男ならそこでへばって無いで、着いて来なさい」



そう言ってアテナは動けない4人に、喝を入れると、放り投げていたM500を拾い、来た道を戻って行く。

そして、柊や頭、寝転がっていた4人は慌ててアテナの後を追った。






そんな彼等を遠くから見ている2人の影。

闇に溶け込む様な格好をした2人は、左慈とルーラーだった。アテナと義賊のやり取りを影から一部始終見ていた2人は、アテナ達がどこかに行ったのを確認すると、薄暗い闇から出て来る。



「アテナと名乗る役者(ファクター)……かなり例外(イレギュラー)ではありますが、利用させて貰いましょう」


「何か思い付いたようだな」


「ええ、とっても良い案が思い付きましたよ、ルーラー殿」


「ほう、聞かせて貰おうか」


「貴方は既にお気付きかと思ってましたが?」


「ああ。あいつら義賊を使ってソラに過剰な負担を掛けさせ記憶を取り戻させる、だろ?」


「良くお分りで」


「お前の考えそうな事は手に取る様に分かる」



うんざりしたかの様に応えるルーラー。

左慈との間に何があったかはこの二人にしか分からないが、多分良い事では無いのは確かだ。



「それより、どうします?まだ、貴方が考えた案もありますが……」


「俺は完璧主義者だ。この状況を利用しない手は無い。例の奴等を徐州に送り込むのを義賊の鎮圧後3日にしろ」


「良いのです?念入りに計画している物をそんなお粗末に」


「ああ、構わん。あんな計画は唯の時間稼ぎに過ぎ無い。俺があいつを目覚めさせるのには変わりが無い」



ルーラーは自信を持って言い放つ。彼には、それだけ自信を持たせる何かを持っているのだろう。そして、どこからか紙とペンを出すとスラスラと何かを書き始めた。



「新しい計画を伝える。ソラが義賊鎮圧中、俺が両陣営に介入、ソラに過剰な負担を掛けさせ覚醒を促す。コレに必要な物は書いてある。………せいぜいこの手の上で遊んで貰うぞ、ソラ」



紙を左慈に渡し、計画を伝えた後、小さくポツリと呟いたルーラー。この時のルーラーの目には闘志が宿っていた。

そして、アテナの依頼がこの2人によって悲惨な出来事を産む事になるとは、アテナと義賊の誰もが知らなかった。

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