41話 新たなる前進
凄く寒いです。てか雪が酷い
あれから数日
朝廷からの使者が一刀の街へと来て、突然の通達に朝から騒がしくなっていた。
朱里が最初に使者の要件を聞いた時、あまりの事に舌を噛みながら、慌てて増援を呼んだ。しかし、来たのは雛里だけで、2人だけでどうこう出来る訳も無く、一方的に使者が要件と書状を渡して帰って行った。
そして、空達、一匹狼達は大広間に集められていた。朝に何が起きていたか分からない彼等は、ぞろぞろと大広間に入って来る。しかし、眠そうだったり、音楽プレイヤーで何か聞いていたり、銃を向け合って啀み合っていたりと、既にカオス。空も眠そうに大きな欠伸を手で押さえていた。
「……ふぁ……」
「全く、こんな朝から集めてなんなのですか!大した事なかったら、只じゃおかないですぞ!」
そして、陽人の戦い後から加わった恋、音々音の2人も何故呼び出されたか分からず、恋は眠たそうに欠伸を、ネネは一刀へと文句をぶつける。
「それが、結構大事な事なんだよ……」
「おい、テメェ!俺のモンブラン食っただろ!」
「はぁぁ?俺がなんでお前のモンブランなんか食わなきゃいけないんだよ!またコブラに作って貰えよハゲ!」
「誰がハゲだ!髪フッサフサだろうが!それにお前は甘党か?ああ!」
「んだよ、やるのか?」
「ああ、表へ出ろ!ぶっ潰してやる!」
一刀もネネに重要だと伝えようとするが、さっきからいがみ合ってるストームとファングの2人によって遮られた。
「空、やれ」
「…………」
ファントムが見兼ねて空へ指示を出すと、空はゴム弾を装填しているベレッタ90-twoで2人の頭に仲良く一発づつ撃ちこんだ。
2発の銃声と共に華麗にヘッドショットを喰らった2人はゴムスタン弾の威力で吹き飛び、気絶。空は何事も無かったかの様に欠伸をしながらホルスターへとベレッタをしまった。
「良し、始めて下さい」
《うわぁ………》
何事も無かったかの様に進行を促すファントムと仲間を容赦無くゴム弾で撃つ空に、大広間にいる一同は引く。
「……え、ええっと、始めてよろしいのですか?」
「ええ、どうぞ。この2人は気にしなくて結構ですので」
「えっと、えっと、先程、朝廷より使者が参られますた⁉︎ あぅ……」
本当に大丈夫なのか気にしながら喋り始めた朱里だが、案の定舌を噛んで口を押さえる。痛さで少し悶絶した後、気をとりなおした朱里は仕切り直す。
「続けます。内容は、前の董卓連合の功績により劉備さんを徐州の州牧に任命するとの事です」
「へぇ〜、州牧か………」
朱里の説明を聞いて桃香さんはぽつりと呟くが、端切れが悪い。大広間に居る一同はどうした?という顔をして桃香を見つめた。桃香は少し考え込む様にしてから前を向くと
「……州牧って、何?」
と先ず、その単語自体が分からないようで疑問をぶつけた。
『……って、そこから⁉︎ 』
「ねぇ、ソラ。それって何?」
「何かの役職じゃ無いの?」
これには呆れてしまい、全員のツッコミが飛んで来た。
州牧……ここにいるほとんどが知らない言葉だろう。
一匹狼達の一人であるレインも皆んなに聞かれない様に近くにいた空に、こっそりと聞いている。空も空で良く分かっていないらしく、疑問系でレインに返していた。
「以前は刺史と言われていたものですね、霊帝の時代に名前が変更され、刺史、牧よりも権限が強まってます」
「太守みたいなものだと考えて良いかと……」
「太守……私、太守様なんだ。」
太守という言葉に桃香は嬉しそうに表情を和らげる。
実質昇格、出世とも言うべき事に喜ばない人はいないだろう。桃香達は次々に嬉しそうにしていく中、一刀は少し疑問に思ってる事があるらしく、何かを考えていた。そんな一刀にファントムは尋ねた。
「どうかしたか、北郷君?」
「いや、この街はどうなるだろうなと思って」
「おそらく朝廷より後任の方が来られるのかと」
一刀の疑問は朱里の詳細な説明により、解決された。
しかし、この街に思い入れがあるのか、一刀達は少し残念そうになる。なかでも雛里は残念な気持ちを口に出していた。
「折角、頑張って内政したのにね……」
雛里が言った事は仕方無い事だろう。実績を積み上げ、改善してきた街を他の人に任せられるのだから。
「そうは言うが、これは大きな前進になる……すぐに徐州に移りましょう。」
「そうだな、この街は皆の頑張りで凄くいい街になった。この経験を活かしてまた頑張ろう。」
「そうですね。こんなところで満足していてはだめですね」
「うん!」
「次もまた頑張れば何とかなるだろうさ」
残念な空気となっている中、愛紗は前向きに考え、皆んなを促した。この事が一刀に決断する勇気を与え、前向きな言葉に朱里、雛里、星も乗っていく。
「うん、そうだね。そうと決まったらお引越し準備しましょ♪」
「お引っ〜越し、お引っ〜越し、さっさとお引っ越しなのだ♪」
皆んなの前向きな意見により、桃香も完全にやる気モード。それに乗っかるかの様に鈴々もウキウキとなっていた。
「良し、皆!徐州に移る為の準備をするか!」
「「「おー」」」
一刀の掛け声と共に一匹狼達以外の皆が高らかに声を上げた。一方が盛り上がる中、一方は冷静に成り行きを見ていた。空も興味無いと言った感じに立ち寝を披露していた。
「じゃあ北郷君、我々も準備があるので先に失礼するよ」
「分かりました」
「お前等、移動準備だ。速やかに自分の荷物を纏め正門に集合、遅れた奴は特別メニューの訓練だ」
『うぃ〜』
「それと、空。お前は北郷君達の手伝いをしろ」
「何故?」
急に別の事をしろと言われた空は嫌そうに聞き返した。
「お前の事だから、どうせ必要な物以外は持って無いだろ。準備なんて数分で終わって暇を持て余すよりは、大切な友達の手伝いでもしてろ」
「……い」
「嫌だとは言わせんぞ。命令だ」
命令とまで言われた空は、流石に断れ無かったらしく、渋々頷いた。しかし、顔を嫌そうにしている。
「じゃ、夕方までに集合でよろしいですか?」
「そうですね」
「空を好きに使って構わない、自由に使ってやってくれ」
講義の目でファントムを見てた空だが、ファントム達が去って行き、流石に諦めて溜め息を吐いた。
ついでに言うと気絶している2人はハルトマンによって引き摺られて行った。
「じゃ、空。執務室の整理手伝ってくれ」
「…………」
一刀を無視しながら空は大広間を出ると、執務室へと向かった。
時が進み夕方もいい頃。
執務室では一刀や空達が必要な物などの整理を終えて、もうこれから徐州に向かう準備をしていた。
「よし、準備完了〜♪」
「お疲れ様、桃香」
「ご主人様、兵の準備も完了しました」
「鈴々も準備終わったのだ!」
「愛紗も鈴々もお疲れ様」
「えっと……こちらも準備出来ました」
「こっちも準備出来ましたぞ」
「首里も星もお疲れ様。でも、なんでここに集まるんだ?」
それぞれに労いの言葉を掛ける一刀だが、何故か愛紗や星など、いちいち殆ど片付いてスッキリした執務室へ居なくても良いのに集まっている事を疑問に思った。しかし、愛紗達は少し恥ずかしそうに一刀から目を逸らす。空を見た一刀は表情を綻ばせるが、隣で空はジト目を一刀へ向けた。
「和むのは良いけど、早くしてくれる?夕方までもう殆ど時間無いんだけど」
「ああ、そうだったな。この街とは今日でさよならだけど、これは一歩の前進だ。今まで学んだ事を生かして次に活かそう!よし、出発だ!」
『おぉー‼︎』
一刀の言葉で士気は一気に上がり、愛紗達は高く手を挙げる。喝の入った叫びは執務室の外へと聞こえる大きさで、これからの期待や楽しみが感じられる。しかし、空はファントムへと準備を出来た事の趣旨を伝えたりして、その場の空気に乗っかろうとはしなかった。こうして、広いとは言えないが、街の管理人は終了を告げ、新たなる新天地へと場所へと動く。




